星の病と呪いの理〜記憶を持たない転生者たちの新たな戦い〜   作:いくと

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Chapter.04
魂の深淵で嗤う呪いの王と、交ざり合う異物


果てしなく広がる暗闇の中、足元には生温かい血の池が波立ち、天に向かって無数の骸骨が積み上げられている。

ここは虎杖悠仁の精神の奥底に存在する生得領域。

死と呪いの澱みが結晶化したかのような禍々しい空間の中心、その最も高い骸の玉座にて、両面宿儺は退屈そうに頬杖をついていた。

 

宿儺「……クックック。実に、実に不愉快で、そそられるものを見せてくれるではないか、小僧」

 

深い眠りに落ちている虎杖の意識の底で、呪いの王は独り、凄惨な笑みを深める。

彼の脳裏に焼き付いているのは、数時間前、虎杖の視覚を通して見た一つの「光」だった。

未知の毒に侵され、家入硝子の反転術式すらも拒絶されて死の淵にあった大男。その腕に触れた非術師の少女、ルナフレーナから放たれた純白の輝き。

 

呪術の頂点に君臨する宿儺の眼から見ても、あの光の理は完全に異質であった。

呪力とは、人間の負の感情から漏れ出すエネルギーである。そして反転術式とは、その負のエネルギー同士を掛け合わせることで生まれる正のエネルギーだ。どちらも根源は「呪い」に他ならない。

しかし、あの少女が放った光には、呪いの残滓が微塵も含まれていなかった。

純粋な祈り。一切の不浄を許さない、ただひたすらに命を慈しみ、世界を癒やそうとする絶対的な生の波動。

 

宿儺「アレは呪術ではない。神仏の類が持つ奇跡か、あるいは星そのものの息吹か。……いずれにせよ、我ら呪いという存在を根本から否定する、悍ましくも清らかなる異物よ」

 

宿儺は自身の鋭い爪で、玉座の骸骨をカリカリと削りながら目を細めた。

千年の時を生きた呪いの王にとって、自らの理解の範疇を超える存在は久しぶりだった。

あの透き通るような青い瞳。呪力などという矮小な力を持たずとも、魂の奥底で確固たる使命を抱き、真っ直ぐに他者を救おうとする愚かで美しい姿。

 

宿儺「(あの穢れを知らぬ純白が、絶望に染まり、自らの無力さに泣き叫ぶ時……果たしてどのような味の呪いが滴るのか。あの忌々しい小僧の絶望と共に、じっくりと嬲り、味わい尽くしてくれよう)」

 

宿儺の全身から、ねっとりとした呪悪な気配が血の池に波紋を広げる。

彼の興味は今、伏黒恵への執着とは全く別のベクトルで、ルナフレーナという「神凪」の魂をどう汚し、どう壊すかという嗜虐心へと向かい始めていた。

 

一方、その頃。

東京の地下深くに広がる、廃棄された巨大な下水道施設。

特級術師たちを分断し、高専本校を襲撃するという大規模な陽動実験を終えた不知(羂索)は、静かにアジトへと帰還していた。

薄暗い空間には、いくつもの巨大な培養槽が並び、その中では赤黒いタール状のシガイウイルスが不気味に脈打っている。

 

真人「あははっ! おかえり、不知! なになに、今日の実験は面白かった?」

 

無邪気な足音と共に暗がりから現れたのは、継ぎ接ぎだらけの顔を持つ特級呪霊、真人だった。その後ろからは、単眼で頭部が火山のようになっている漏瑚が、忌々しそうに舌打ちをしながら歩いてくる。

 

漏瑚「ふん。わざわざ我々を待機させておいて、テメェの手駒だけで派手にやりおって。それに……この地下に漂う匂いは気に食わん。我々呪いの誇りである『呪力』を真っ向から否定するような、ひどく生臭い悪意だ」

不知「そう怒るな、漏瑚。君たちにはもっと相応しい大舞台を用意しているとも。今日はあくまで、私の可愛い『被検体』たちのデータ収集さ」

 

不知は額の縫い目を指で軽く撫でながら、培養槽の一つを見上げた。

 

不知「呪霊の肉体に、この別次元のエネルギーである『星の病』を接合する。そうして生まれたシガイウイルスは、呪力という自己再生の源を分解し、全く新しい生命の形へと強制的に進化させる。……真人、君の『無為転変』は魂の形を変えるが、このシガイは魂の『性質』そのものを書き換えてしまうんだよ」

真人「へえ……! それ、すっごく面白いね! 俺の術式は魂に直接触れて形をこねるけど、君のそのウイルスは、魂の設計図自体に別のインクをこぼしてバグらせるみたいな感じかぁ。俺もそのウイルス、ちょっといじってみたいなぁ!」

 

真人は目を輝かせ、無邪気な残酷さを滲ませながら培養槽のガラスにへばりつく。

魂の構造を弄る真人にとって、不知が持ち込んだシガイという未知の異物は、極上の玩具にしか見えていなかった。

 

不知「焦らなくてもいい。データは十分に集まった。五条悟の理不尽な力、夏油傑の呪霊操術の応用、そして……高専に匿われているという『回復役』の少女。盤面は、私の予想を超えて面白く転がり始めている」

 

不知は闇の中で、ぞっとするほど冷酷な笑みを浮かべた。

呪いの王の渇望、そして黒幕の狂気的な探求心。

交ざり合う異物たちが、記憶を持たない転生者たちを底なしの深淵へと引きずり込もうと、静かにその顎を開いていた。

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