星の病と呪いの理〜記憶を持たない転生者たちの新たな戦い〜   作:いくと

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盾の誓いと、新たなる布陣の模索

高専本校を襲ったシガイの群れとの死闘から、数日が経過した。

特級術師たちの事後処理によって被害の隠蔽が行われ、学内は表向きの静寂を取り戻していたが、戦いの爪痕は彼らの肉体と精神に確かな重みを残していた。

 

静かな昼下がり。医務室のベッドに腰掛けるグラディオラスの左腕を、ルナフレーナが両手で優しく包み込んでいた。

 

ルナフレーナ「……痛みは、ありませんか?」

グラディオラス「おう、もう痛みはねぇよ。ただ……なんつーか、時々腕の奥がピリッと熱くなるような、変な幻肢痛みたいなのが残っててな。こうしてルナに浄化してもらうと、スーッと楽になるんだ」

 

ルナフレーナの掌から放たれる淡い純白の光が、グラディオラスの屈強な筋肉の奥に僅かに残存していたシガイの冷たい残滓を、温かい日差しのように溶かしていく。

 

グラディオラス「……情けねぇ話だ。俺はノクトたちの『盾』として前線を張るためにここに来たってのに。あんな得体の知れない毒一つで、守るべきお前に命を救われるなんてよ」

 

グラディオラスは、己の太い右腕で顔を覆い、深く息を吐き出した。

彼らには前世の記憶がない。王の盾であったという確かな歴史も、ルナフレーナが世界を救うために命を捧げた神凪であったことも知らない。

だが、魂に刻み込まれた「誓い」だけが、彼の中で強烈な責任感となって燻っていた。

 

ルナフレーナ「情けなくなどありません。グラディオラスさんが一番前で傷を負ってくださったからこそ、ノクトも、他のみんなも無事だったのです。……それに、私にも皆さんのために戦える力があるのだと知ることができて、少しだけ嬉しかったのです」

 

ルナフレーナが優しく微笑むと、グラディオラスは顔を上げ、その透き通るような瞳を真っ直ぐに見つめ返した。

 

グラディオラス「……違ぇよ、ルナ。俺たちは、お前を戦わせるために高専に連れてきたんじゃない。だが、お前のその力は間違いなく、俺たちの命綱になった」

 

グラディオラスはベッドから立ち上がり、己の左腕を強く握りしめた。

 

グラディオラス「もう二度と、お前にあんな無茶な真似はさせねぇ。どんな毒だろうが、どんな理不尽な化け物だろうが、俺の肉体が全部弾き返せるように……極限まで鍛え直すだけだ。俺が、最強の盾になる」

 

彼の言葉には、呪力という概念を超えた、純粋な戦士としてのストイックな決意が込められていた。

 

同じ頃、高専の教室では、重苦しい空気が漂う中で戦術会議が行われていた。

黒板の前に立つのは、伏黒恵とイグニスである。

黒板には、前回の防衛戦における陣形の配置図と、シガイの特性が細かく書き殴られていた。

 

イグニス「結論から言おう。我々の現状の陣形は、致命的な欠陥を抱えている。それは『反転術式による自己治癒が不可能である』という大前提だ」

 

イグニスが中指で眼鏡を押し上げ、鋭い視線で教室に座るノクティス、プロンプト、虎杖、釘崎を見回した。

 

伏黒「シガイの毒は呪力を分解する。一度でも被弾すれば、家入先生の治療すら通じなくなり、ルナフレーナの神凪の力に頼るしかなくなる。だが、彼女を前線に出すことは死を意味する。つまり……」

釘崎「これからの戦闘は、被弾率ゼロを前提に立ち回らなきゃいけないってことね。無茶苦茶言うわね、あんたたち」

虎杖「でもさ、それってどうやんの? あの化け物ども、戦ってる途中でどんどん硬くなるし、動きも学習してくるんだぞ?」

 

虎杖が頭を抱えながら呻く。

その時、沈黙を守っていたノクティスが、ゆっくりと口を開いた。

 

ノクティス「……動きを学習される前に、一撃で核を潰せばいい。だが、俺の『魔法石』は呪力の燃費が悪すぎる。乱発はできない」

 

ノクティスは特有の高い観察力を働かせ、前回の戦闘の記憶を脳内で巻き戻していた。

シガイが装甲を硬質化させるタイミング。味方の連携の間に生じる、ほんのコンマ数秒の隙。彼の課題発見力が、現状のパズルのピースの歪みを正確に見抜いていく。

 

ノクティス「イグニス、伏黒。俺たちの連携……無意識にできている連携だけど、あれは俺たち同士だから成立してるだけで、呪術師の戦い方とは噛み合ってない瞬間があった」

イグニス「ほう。具体的には?」

ノクティス「俺が空間跳躍(シフト)で飛び込む時、プロンプトの銃撃やグラディオの斬撃には自然に合わせられる。でも、伏黒の『玉犬』や釘崎の『簪』のタイミングとは、僅かにテンポがズレてた。シガイはその『ズレ』を突いて適応してきたんだ」

 

ノクティスの的確な分析に、伏黒がハッと目を見開く。

 

伏黒「……なるほど。俺たちは『ノクティスたちの連携』と『俺たちの式神や呪術』を、別々のラインで動かしていた。それを完全に一つのシステムとして統合する必要がある」

イグニス「見事な観察眼だ、ノクト。ならば、陣形をこう再構築しよう。私が炎による属性付与で敵の装甲を熱で脆くし、伏黒君の『鵺』や『蝦蟇』で視界と機動力を奪う。そこを起点に……」

 

教室に響くのは、異なる世界で培われた異能と、現代呪術のロジックが緻密に融合していく音。

記憶なき王と仲間たちは、次なる絶望を打ち砕くための強靭な刃を、知恵と絆によって静かに研ぎ澄ませていた。

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