星の病と呪いの理〜記憶を持たない転生者たちの新たな戦い〜 作:いくと
帰還
地下施設から戻った夜。
東京校には、いつもの静けさが戻っていた。
……とはいっても。
完全に、ではない。
校舎の一部はまだ修復途中。
結界も応急処置が施された状態。
数日前まで、ここは未知の特級呪霊――シガイによる襲撃を受けた場所だった。
グラウンドにはまだ戦闘の跡が残っている。
誰かがそこに立っていた証拠。
そして。
守った証拠でもあった。
「……終わったんですね」
七海は報告書を閉じながら、小さく息を吐いた。
目の前には五条、夏油、そして東京校の生徒達。
そして。
ノクティス達。
五条は椅子に深く座りながら、資料を眺める。
五条「うん。シガイ自体はね」
夏油「ですが、問題はそこではない」
夏油が静かに続ける。
夏油「誰かが意図的に作った存在だった」
部屋の空気が少し重くなる。
虎杖「……人間を使って?」
七海「可能性は高いです」
七海は淡々と言う。
しかし。
その声には僅かな怒りが混じっていた。
七海「人間、呪霊、そしてシガイ」
「それらを組み合わせ、何かを生み出そうとしていた」
伏黒「目的は?」
七海「そこまでは分かりません」
「ですが、少なくとも単純な兵器開発ではないでしょう」
伏黒は黙る。
あの施設。
あそこには、戦うためだけではない何かがあった。
実験。
観察。
変化。
まるで。
命そのものを研究対象として見ているような場所。
その時。
五条が軽く手を叩いた。
五条「はいはい、難しい顔は禁止」
全員が五条を見る。
五条「今考えても分からないことは分からない」
「でもさ」
五条はノクト達を見る。
「君達はちゃんと帰ってきた」
「それが一番大事でしょ」
ノクトは少し目を伏せる。
五条の言葉に、少しだけ違和感があった。
この世界に来てから。
自分達を疑う人間は多かった。
呪術師。
上層部。
京都校。
でも。
この男だけは違う。
最初から。
ノクト達を「戦力」ではなく。
「仲間」として見ていた。
グラディオ「……随分甘いな」
五条「そう?」
グラディオ「普通なら、正体不明の力を持った連中を警戒する」
五条は笑う。
五条「もちろん警戒してるよ」
「でも」
五条はノクトを見る。
「疑うだけじゃ、何も分からないからね」
その言葉に。
ノクトは少しだけ驚く。
グラディオも。
プロンプトも。
イグニスも。
五条という人間を少し理解した。
その後。
報告会が終わり。
廊下。
イグニスは一人、資料を整理していた。
そこへ七海が通りかかる。
七海「まだ確認を?」
イグニス「はい」
「今回の施設について、少しでも情報を整理しておきたかったので」
七海「真面目ですね」
イグニス「あなたも同じでしょう」
七海は少し黙る。
七海「……そう見えますか」
イグニス「ええ」
「あなたは戦う前に、どうすれば全員が生き残れるかを考えている」
七海はイグニスを見る。
七海「よく見ていますね」
イグニス「仲間を守る立場なら、それくらいは必要です」
少しの沈黙。
七海「あなた達は不思議ですね」
イグニス「?」
七海「力を持っている」
「ですが、それを誇示しようとはしない」
七海「普通なら、あれだけの力があれば自分が中心になろうとする」
イグニス「……」
七海「でもあなた達は違う」
「誰かが前に出るなら、誰かが支える」
イグニスは少し笑う。
イグニス「それが仲間ですから」
七海はその言葉を聞いて。
少しだけ昔を思い出した。
廊下の先。
そこにはノクト達がいた。
プロンプトが何か楽しそうに話している。
グラディオが呆れた顔をしている。
ノクトはそれを見ながら静かに笑っている。
七海「……なるほど」
イグニス「何がです?」
七海「あなた達が強い理由です」
「術式でも、武器でもない」
七海はノクト達を見る。
「信頼なんですね」
イグニスは答えなかった。
でも。
否定もしなかった。
その夜。
ノクトは屋上にいた。
夜空を見る。
この世界に来てから。
多くのことが変わった。
知らない力。
知らない敵。
知らない未来。
しかし。
一つだけ分かる。
ノクト「……守る」
小さく呟く。
かつて王として背負ったもの。
今度は。
仲間として背負う。
その頃。
誰も知らない場所。
一冊の記録が閉じられる。
そこに書かれていた文字。
『シガイ実験』
『第一段階終了』
そして。
その下。
『次段階へ』
まだ誰も知らない。
地下施設で起きた事件が。
これから始まる大きな計画の。
ほんの一部でしかなかったことを。