星の病と呪いの理〜記憶を持たない転生者たちの新たな戦い〜   作:いくと

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回想の教室と、異端の自己分析

ルナフレーナとの穏やかな東京散策から数日が過ぎた。

地下施設での悍ましい実験の痕跡がもたらした重苦しい空気は、高専の結界内に流れる平穏な日常と、仲間たちの他愛のない笑い声によって少しずつ中和されつつあった。

 

ある日の午後。

ノクティスは学生寮の共有スペースのソファに深く腰を沈め、イグニスが淹れたコーヒーの香りを楽しみながら、ふと窓の外の青空を見上げていた。

 

ノクティス「(……思えば、随分遠くまで来たもんだな)」

 

呪い。シガイ。領域。術式。

今でこそ当たり前のように口にし、命懸けの戦いに身を投じているが、ほんの数ヶ月前まで、彼らはただの「普通の高校生(あるいはカフェの店員)」に過ぎなかった。

前世の記憶を持たない彼らが、この狂気と血に塗れた世界で生き残れているのは、魂に刻まれた力と、あの日の「授業」があったからかもしれない。

 

ノクティスの脳裏に、高専に編入して間もない頃の、ある一日の記憶が蘇る。

 

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(回想)入学直後・東京都立呪術高等専門学校 教室

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五条「はーい、注目! 今日はね、いきなり呪術の世界に放り込まれちゃった可哀想な迷える子羊たちのために、グレートティーチャー五条が『呪術の基礎』を特別にレクチャーしちゃいまーす!」

 

黒板の前に立ち、チョークを片手に上機嫌で声を張り上げる五条悟。

その前の席には、編入したてのノクティスとプロンプト、そして保護者として同席させられている大人組のグラディオラスとイグニスが並んで座っていた。少し離れた席では、伏黒、釘崎、そして虎杖が呆れたような顔で頬杖をついている。

 

プロンプト「えっと……呪術って、要するに魔法みたいなものなんだよね?」

 

五条「ブッブー! 魔法なんてファンタジーなものと一緒にしないでよね。呪力っていうのは、人間の負の感情……辛い、悲しい、ムカつく!っていうストレスから漏れ出すエネルギーのこと。電気みたいなもんだね」

 

五条は黒板に、下手くそな電池と家電の絵を描き殴った。

 

五条「で、その『呪力(電気)』を流して作動させる『術式(家電)』。これが呪術の基本! ちなみに悠仁は術式がないから、ただ電気を纏って殴るだけの脳筋ゴリラだよ」

 

虎杖「ゴリラって言うな! 先生の絵よりはマシだろ!」

 

五条「あはは。で、ノクト君たちの使ってる力なんだけど……正直、僕の六眼で見ても『呪術』の枠組みには全然当てはまらないんだよね」

 

その言葉に、教室の空気が少しだけ真面目なものに変わる。

五条は目隠しの下で、ノクティスたちの発する特異な波長を観察していた。

 

五条「君たちの力は、負の感情から絞り出すものじゃない。もっとこう……魂の奥底にある『記憶』とか『形』そのものを、強制的に現実に引きずり出してる感じ? 倒せば倒すほど総量が上がるのも、RPGみたいで面白いけど、呪術界の常識からすれば完全なバグだね」

 

ノクティスは腕を組み、五条の下手な図解と、伏黒や釘崎から微かに漏れ出ている呪力の揺らぎをじっと見つめていた。

彼は、自身の強みである特有の『観察力』を極限まで働かせていた。伏黒たちが呪力を練る際、腹の底からドロドロとした重いものを引き上げているのに対し、自分たちが武器を顕現させる時は、胸の奥で何かが「カチッ」と噛み合うような、もっとクリアで直線的な感覚がある。

 

ノクティス「(……電気と家電、か。俺たちの力は、外部からコンセントを引いてるんじゃなくて、自分自身が発電機ごと武器に変わるような感覚に近い……)」

 

さらに、彼の鋭い『課題発見力』が、五条の説明を聞きながら、自分たちの能力が抱える決定的な欠陥を浮き彫りにしていった。

 

ノクティス「……なぁ、五条先生。負の感情がエネルギーなら、怪我を治す時はどうすんだ? マイナスの力じゃ、傷は塞がらないだろ」

 

五条は「おっ」と感心したように口角を上げた。

 

五条「良い質問だねえ、ノクト君。マイナスとマイナスを掛け合わせて、プラスのエネルギーを作る。それが『反転術式』。でも、これがめちゃくちゃ難しくてさ。高専でも硝子くらいしか他人を治癒できないんだ」

 

イグニス「……なるほど。我々の力が呪力というシステムに依存していない異質なものである以上、その『反転術式』とやらを我々が習得できる可能性は極めて低い、ということか」

 

イグニスが眼鏡を押し上げながら、冷徹な事実を言語化する。

 

グラディオラス「おいおい、冗談じゃねえぞ。敵を倒せば力は底上げされるが、受けた傷自体は治らねえ。回復手段を持たないまま命のやり取りをするってのは、盾役(タンク)の俺からすりゃあ自殺行為に近いぜ」

 

プロンプト「ええっ!? じゃあ俺たち、一度でもデカい攻撃食らったら終わりってこと!? 無理無理無理!」

 

頭を抱えるプロンプト。

だが、ノクティスは焦るどころか、どこか納得したように静かに息を吐いた。

課題が明確になれば、あとはそれをどう解決するかを探るだけだ。

 

ノクティス「……だから、陣形が必要なんだ。俺たちだけで突っ走るんじゃなくて、伏黒たちの術式と組み合わせて、被弾そのものをゼロにする立ち回りが」

 

伏黒「……その通りだ。お前たちの力は強力だが、単独で完結する魔法じゃない。お互いの死角をカバーし合う連携が必須になる」

 

伏黒が静かに同意し、ノクティスの自己分析能力の高さに微かな信頼の眼差しを向けた。

記憶を持たない転生者たちが、現代の呪術というルールを学び、自分たちの「異端性」と「弱点」を正確に把握した瞬間だった。

 

五条「ま、そういうこと! 君たちは最強の矛になれるけど、回復の要がいない。……だからこそ、ルナフレーナちゃんが鍵になるかもしれないってこと」

 

五条が楽しげに指を鳴らしたあの日の教室。

彼らは自分たちの限界を知り、だからこそ仲間との絆を強く結び合わせる必要性を魂で理解したのだ。

 

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(現在)

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プロンプト「……ノクト? どうしたの、コーヒー冷めちゃうよ?」

 

プロンプトの声で、ノクティスは意識を現在へと引き戻された。

隣では、ルナフレーナがふわりと微笑みながら、お茶請けのクッキーをテーブルに並べている。

 

ルナフレーナ「ノクト、少しお疲れですか? もしよければ、少し肩を揉みましょうか?」

 

彼女の透き通るような青い瞳。

あの日の授業で浮き彫りになった「欠陥」を埋めるただ一つの光であり、地下施設でグラディオラスの命を救った、彼らにとっての絶対的な希望。

 

ノクティス「……いや、なんでもねえ。ちょっと昔のことを思い出してただけだ」

 

ノクティスはコーヒーを一口飲み、その温かさに目を細めた。

 

虎杖「おっ! クッキーじゃん! ルナフレーナさん、俺も食っていい!?」

 

釘崎「ちょっと虎杖! あんたさっきお昼ご飯三人前も平らげたでしょ! 私の分まで食べたらぶっ飛ばすわよ!」

 

伏黒「……騒がしいな。少しは静かに食えないのか、お前らは」

 

ドタバタとリビングになだれ込んできた一年ズの騒騒しさに、グラディオラスが豪快に笑い、イグニスが呆れながらも新しいカップを用意する。

戦いの合間に訪れる、この下らなくて、でも最高に愛おしい日常。

自分の強みと弱さを知り、互いを補い合うことで成立しているこの完璧な陣形(パーティー)は、どんな理不尽な悪意が襲いかかってこようとも、決して崩れることはない。

 

ノクティス「(……この日常を、絶対に手放したりしねえ)」

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