星の病と呪いの理〜記憶を持たない転生者たちの新たな戦い〜 作:いくと
翌朝。東京都立呪術高等専門学校の奥深くに位置する、薄暗い一室。
ノクティスとプロンプトは、五条悟に連れられてその部屋の前に立っていた。
五条「はーい、着いたよ。ここが夜蛾学長の部屋。昨日も言ったけど、学長面談をパスしないと正式な入学は認められないからね。気合入れていきなよー」
プロンプト「え、五条先生は一緒に入ってくれないの!?」
五条「僕はここで応援してるからさ。ほら、行って行って」
五条に背中を押され、二人は恐る恐る重厚な木の扉を開けた。
部屋の中は奇妙な光景だった。
薄暗い照明の下、筋骨隆々でサングラスをかけた強面の男――夜蛾正道が、胡坐をかいて黙々と可愛らしいフェルトのぬいぐるみを作っているのだ。そのギャップに、ノクティスもプロンプトも思わず立ち尽くしてしまう。
夜蛾「遅い。……そこへ座れ」
ノクティス「……あんたが学長?」
夜蛾「そうだ。単刀直入に聞く。お前たちは何故、呪術高専に来た?」
夜蛾の太い指がフェルトを縫う手を止め、サングラス越しの鋭い眼光が二人を射抜いた。その瞬間、部屋の空気がビリッと張り詰める。ただの質問ではない。魂の底を値踏みされているような重圧だった。
プロンプト「えっ、何故って……俺たち、いきなり変なバケモノに襲われて、なんか謎の力が出せるようになって……それでアーデン先生に誘われたから……」
正直に答えたプロンプトだったが、次の瞬間、視界の端で何かが動いた。
夜蛾の隣にあった可愛らしいクマのぬいぐるみが、突如としてスプリングのように跳ね上がり、プロンプトの顔面に強烈な右ストレートを叩き込んだのだ。
プロンプト「ぶふぉっ!?」
ノクティス「プロンプト!?」
吹き飛ばされ、床を転がるプロンプト。クマのぬいぐるみはファイティングポーズを取りながら、ギリギリと不気味な音を立てている。
夜蛾「……不合格だ。それはただの成り行きだろう。受動的な理由で呪いと向き合えるほど、この世界は甘くない」
プロンプト「い、ってぇ……なんだよこれ、生きてるのか!?」
夜蛾「呪骸(じゅがい)だ。呪術師は常に死と隣り合わせ。己の中に確固たる『核』がなければ、いずれ呪いや恐怖に呑まれて死ぬ。成り行きで命を懸けられるほど、お前は自分を安売りするつもりか?」
厳しい夜蛾の言葉に、プロンプトは言葉に詰まる。
夜蛾の指が微かに動くと、今度は別の呪骸――ゴリラのような大きなぬいぐるみが、ノクティスへと歩み寄った。
夜蛾「お前はどうだ、ノクティス。何故ここへ来た?」
ノクティスは、飛びかかってくるかもしれない呪骸の拳を警戒しながらも、まっすぐに夜蛾の目を見据えた。
アーデンに誘われたから。自分たちが特別な力を持っているから。
いや、違う。彼がこの不条理な世界に足を踏み入れた一番の理由は――。
ノクティス「……俺の傍には、ルナがいる。あいつは非術師だ。俺は、あいつを守る力が欲しい」
夜蛾「……愛する者を守るため、か。立派な理由だが、それではいつか限界が来る」
夜蛾の低い声が響く。
夜蛾「もし彼女が死ねば、お前は呪術師を辞めるのか? 彼女が安全な場所にいれば、お前は他人が呪いに殺されても見て見ぬふりをするのか? 己の命を懸ける理由としては、あまりにも脆く、弱いな」
ゴリラの呪骸が大きく拳を振り上げた。直撃すれば骨が砕けかねない一撃。
だが、ノクティスはその拳から目を逸らさなかった。一歩も引かず、ただ静かに、自身の内側から湧き上がる熱に身を委ねていた。
彼の魂の奥底で、かつて世界を救うために命を懸けた「王」の記憶の残滓が、静かに熱を帯びる。
ノクティス「……それだけじゃねぇよ」
夜蛾「なに?」
ノクティス「俺たちが覚醒させたこの力……そして、あのバケモノ(特級呪霊)と戦った時に感じたんだ。俺たちには、俺たちにしかできないことがあるって。理屈じゃねぇ……『魂』が、そうしろって言ってるんだ」
言葉を持たない使命感。前世の記憶を持たない彼が、ただ直感だけで語った覚悟。
誰かに言われたからではない。愛する者を守るだけでもない。理不尽に命を奪う脅威に対し、自らが盾となり剣となること。それが彼の魂に刻まれた「王たる者の宿命」だった。
その言葉の奥にある底知れぬ「重み」と「覚悟」を、夜蛾ははっきりと感じ取っていた。
ゴリラの呪骸の拳が、ノクティスの鼻先数ミリのところでピタリと止まる。
そして、ゆっくりと腕を下ろし、元の愛らしいぬいぐるみに戻って床に転がった。
夜蛾「……言葉とは裏腹に、お前の魂は重いものを背負っているようだな。プロンプト、お前はどうだ?」
立ち上がったプロンプトが、口元の血を拭いながらノクティスの隣に並び立つ。
プロンプト「俺は……ノクトが背負うって言うなら、俺も一緒に背負うよ。親友を一人で戦わせるなんて、俺の『魂』も許してくれないみたいなんでね」
夜蛾「……よかろう。二人とも、合格だ」
夜蛾はサングラスの奥の目を少しだけ細め、小さく頷いた。
夜蛾「ようこそ、呪術高専へ。今日からお前たちは、正式にこの学校の生徒だ」
プロンプト「よ、よっしゃー……! 受かった……」
ノクティス「……ったく、変な汗かいたぜ」
扉の隙間からその様子を覗き見ていた五条が、「ほらね、僕の目に狂いはないでしょ?」と満足げに笑って部屋に入ってきた。
五条「おめでとー二人とも! これで晴れて呪術師の仲間入りだね。さあ、次はルナフレーナちゃんのお迎えに行こっか!」
五条の言葉に、ノクティスの顔がパッと明るくなる。
学長の洗礼を乗り越え、彼らはついに、呪術師としての本当の第一歩を踏み出したのだった。