星の病と呪いの理〜記憶を持たない転生者たちの新たな戦い〜   作:いくと

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箒の少女と、鉄扇の啖呵

釘崎野薔薇は、五寸釘を構えたまま眉を吊り上げた。

 

釘崎「――はぁ? なによあんた、いきなり空から降ってきて」

 

目の前の空中に浮かんでいるのは、古びた箒に跨がった少女――背には呪骨で編まれた翼を広げ、余裕たっぷりの笑みを浮かべている。京都校三年、西宮桃。手には扇――両端に鋭い呪具を仕込んだ鉄扇を携え、上空からの奇襲を得意とする戦闘スタイルで知られる術師だった。風を纏うたびに、呪骨の翼がバサリと大きく羽ばたき、周囲の空気を掻き乱す。

 

西宮「あんたこそ、地面這いつくばって何してんの? 東京の一年って、みんなそんな地味な戦い方すんの?」

 

釘崎が吐き捨てるように言い返した。

 

釘崎「地味で悪かったわね! こっちは芻霊呪法、しっかり地に足つけてナンボの術式なのよ!」

 

懐から取り出した藁人形と五寸釘を握りしめる。彼女の周囲には既に数体の呪霊の骸が転がっていた。討伐レースの得点は、この時点で釘崎が優勢に稼いでいる。

 

西宮が箒を旋回させながら、からかうように言った。

 

西宮「へー。でもさ、その人形、あたしのターゲットだった奴じゃない? 横取り、良い趣味してるじゃん」

 

釘崎「早い者勝ちでしょ、これ討伐レースなんだから。文句あるなら、あんたも地面降りて取り合えばいいじゃない」

 

西宮「あたしは空から見てた方が性に合ってんの。地べたで泥まみれになるあんたらと違ってね」

 

釘崎「泥まみれ上等よ。少なくともあたしは、自分の足で立って戦ってるっつーの。箒でふらふら浮いてるだけの奴に言われたくないわ」

 

売り言葉に買い言葉。二人の視線がバチバチと火花を散らす。だが、それは単なる罵り合いではなく、互いの実力を測り合う挑発でもあった。

 

西宮「――そこまで言うなら、見せてもらおうかな。あんたの芻霊呪法とやら」

 

西宮が箒を翻し、上空から急降下してくる。呪骨の翼が羽ばたくたびに、鋭い風の刃が幾重にも放たれた。

 

釘崎「甘く見んじゃないわよ!」

 

釘崎は藁人形に五寸釘を打ち込み、共鳴りの術式を発動させる。標的――近くにいた低位呪霊の骸に打ち込まれた人形と連動し、風の刃を強引に逸らして受け流した。

 

西宮が口笛を吹く真似をした。

 

西宮「へえ、やるじゃん」

 

鉄扇を一閃させる。扇の先端から放たれた圧縮された風の刃が、地を這うように釘崎へ迫った。

 

釘崎はそれを紙一重で避けながら、地面に転がる呪霊の骸を素早く回収し、次の人形へ打ち替える。討伐レースは点数の奪い合いでもある――純粋な戦闘力だけでなく、いかに効率よく「討伐」を積み重ねるかも重要な要素だった。

 

釘崎「あんたさ、ずっと空からちょっかい出してばっかで、自分じゃ全然稼いでないじゃない。あたしの方がもう五体は多いわよ」

 

西宮「……はぁ? 数えてたの? 暇じゃん」

 

釘崎「暇じゃなくて戦略よ、戦略! あんたみたいに空でふわふわしてるだけの脳筋女と違って、こっちは頭も使ってんの」

 

西宮「脳筋はどっちよ。藁人形にクギ刺してるだけの原始的な術式のくせに、よく言うわね」

 

釘崎「原始的で悪かったわね! これでも呪霊への浸透力はピカイチなんだから!」

 

二人の啖呵は止まらない。だが、言葉の応酬と並行して、両者の攻撃は着実に洗練されていった。西宮の風撃が地形を利用して死角から迫れば、釘崎は共鳴りの術式で人形に蓄積したダメージを一気に敵へ転嫁し、逆襲に転じる。

 

近くの茂みから新たな呪霊の群れが姿を現した。三体、いずれも中位に届くかどうかという程度の力量だが、数がまとまれば厄介な相手だ。

 

西宮「――あれ、あたしが先に見つけたやつじゃん!」

 

西宮が箒を加速させ、真っ先に急降下する。鉄扇から放たれた風の刃が、先頭の呪霊の首を刎ねた。

 

釘崎「はぁ!? 空から先制すんの反則でしょ!」

 

釘崎も負けじと地を駆け、藁人形を残る二体に叩き込む。五寸釘が打ち込まれるたびに、共鳴りの痛みが呪霊の肉体を内側から蝕んでいく。断末魔の声を上げる間もなく、二体は同時に地に伏した。

 

釘崎が息を切らしながらも、勝ち誇ったように腰に手を当てる。

 

釘崎「――ふん。三対二で、あたしの勝ちね」

 

西宮「はぁ? 今ので勝ち負け決めんの? まだレース終わってないんですけど」

 

釘崎「うっさい、今この瞬間の話よ! いちいち屁理屈こねないでよね」

 

西宮「屁理屈言ってんのはどっちよ……」

 

西宮が箒の高度を落とし、釘崎の目の前、地上すれすれの位置で停止する。互いの顔がすぐ近くまで迫った。

 

釘崎が不敵に笑った。

 

釘崎「――ちょっと、あんた本当にいい性格してるわね。少しは可愛げ持ちなさいよ」

 

西宮も同じように笑い返した。

 

西宮「それ、あんたにだけは言われたくないんですけど。あたしよりよっぽど口悪いじゃん」

 

二人とも息は上がっているが、目の輝きは戦いを心から楽しんでいるものだった。

 

再び上空へ舞い戻った西宮が、鉄扇を構え直す。

 

西宮「――次、本気でいくから。覚悟しときなよ」

 

釘崎「望むところよ。ビビって逃げ出すんじゃないわよ」

 

風が唸りを上げ、扇の刃が幾筋も放たれる。釘崎はそれを見切り、地面を蹴って回避しながら、藁人形をさらに二体展開した。共鳴りの範囲が広がり、周囲の呪霊の反応を同時に拾えるようになる。

 

西宮が舌打ち混じりに呟いた。

 

西宮「――器用ね、そういうところは認めてあげる」

 

風の刃をすべて躱され、次の一手を模索する彼女の視界に、釘崎が新たな五寸釘を構える姿が映る。

 

釘崎「褒め言葉として受け取っとくわ」

 

釘崎が地面を蹴り、跳躍と同時に人形を投げつけた。それは西宮の箒すれすれをかすめ、背後にいた呪霊の一体に突き刺さる。

 

西宮「――っ、危ないじゃん!」

 

釘崎「狙ったのはそっちじゃないっつーの! 過剰反応しすぎ」

 

西宮「はぁ? 今絶対あたし狙ったでしょ!」

 

釘崎「勘違いも大概にしなさいよ!」

 

言い合いながらも、二人の連係――というより、互いの動きを利用し合う形の連携は、次第に息が合い始めていた。西宮が上空から獲物を追い立て、釘崎がそれを地上で仕留める。役割分担というほど意識されたものではなかったが、結果として討伐効率は着実に上がっていった。

 

西宮が箒の高度を少し上げ、間合いを取り直しながら言った。

 

西宮「――ま、認めてあげる。あんたの藁人形、思ったよりしぶといわ」

 

釘崎も肩で息をしながら応じた。

 

釘崎「そりゃどうも。あんたの扇も、伊達に振り回してるわけじゃないってのは分かったわ」

 

京都女子勢との対決――そう聞いた時、正直身構えていた部分があった。だが実際にぶつかってみれば、性格の悪さも毒舌っぷりも、驚くほど自分と似通っている。皮肉なことに、それが妙な連帯感めいたものを生んでいた。

 

西宮「――で、結局あんたの得点、あたしに何体差つけられてんの?」

 

釘崎「うっさい、数えてないっつってんでしょ! いいから、さっさと次いくわよ!」

 

釘崎が藁人形を新たに構え直し、まだフィールドの奥に潜んでいる呪霊の気配へ視線を向ける。

 

西宮「はいはい、望むところ」

 

西宮も箒を旋回させ、次の獲物を探して上空を舞い始める。二人の視線が一瞬だけ交差し、どちらからともなく、獰猛な笑みがこぼれた。

 

女同士のプライドを賭けた戦いは、まだ終わらない。だが、フィールドの喧騒の中で交わされる啖呵の応酬は、憎しみからではなく、互いを認め合うが故の火花だということを、両者とも――決して口には出さないが――理解していた。

 

釘崎が新たな獲物に向かって駆け出しながら叫んだ。

 

釘崎「――言っとくけど、次会う時はもっと差つけて勝つから」

 

西宮「上等じゃん、返り討ちにしてやるわよ!」

 

西宮も箒を加速させ、フィールドの奥へと飛び去っていった。討伐レースの喧騒は、まだまだ続いていく。

 

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