星の病と呪いの理〜記憶を持たない転生者たちの新たな戦い〜   作:いくと

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chapter.06
帳の内側、孤立する若獅子たち


花御の咆哮が響き渡った直後、フィールド全体を覆っていた結界が、内側から不可視の壁を新たに生み出した。それは五条や夜蛾たちが立つ外周を、生徒たちのいる中央から切り離すように屹立する、異様な「帳」だった。

 

五条「――ちょ、これ」

 

五条悟が反射的に結界へ手を伸ばすが、指先が触れる前に、見えない力がそれを阻んだ。掌に走った痺れるような感触に、彼は僅かに眉をひそめる。

 

五条「入れない……? いや、正確には『弾かれてる』な。これ、誰かが意図的に張った帳だ」

 

夜蛾「くそ……! この状況で、大人だけを締め出す気か!」

 

夜蛾正道が拳を握り締める。彼の視線の先、帳の向こうでは、フィールドに取り残された生徒たちが、突如として現れた特級呪霊・花御と対峙していた。

 

夜蛾「五条、お前の無下限呪術でも破れないのか」

 

五条「破れない、とは言ってない。ただ、時間がかかりそうだって話。この帳、術式そのものが特殊でさ……普通の結界術とは、根本の作りが違う気がする」

 

彼の指先が、見えない壁の表面をなぞるように動く。その奥に感じる違和感――どこか、この呪術界の理から外れた気配に、五条は思わず舌打ちした。

 

アーデンは、少し離れた場所でその光景を見つめながら、内心で静かに歯を食いしばっていた。

 

アーデン「(――やはり、こうなったか)」

 

自らが仕込んだ綻びが、想定よりも大きく育っていた。羂索の「データ収集」という名目の裏に、もっと悪辣な意図が隠されていたのではないか――そんな疑念が、彼の胸中を過ぎる。だが今、この場で己の正体を明かすわけにはいかない。歯痒さを押し殺しながら、アーデンは表向き、動揺した教師の一人を演じ続けた。

 

アーデン「――夜蛾学長、五条君。これは非常にまずい状況だ。中の生徒たちだけで、あの特級を凌げるとは思えない」

 

五条「分かってるよ。……でも、この帳、簡単には破れそうにない。僕の無下限呪術でも、干渉するのに時間がかかりそうだ」

 

夜蛾「時間を稼ぐしかない、ということか」

 

三人の大人たちが焦燥を滲ませる中、帳の内側では、突如として一変した状況に、生徒たちが困惑の声を上げていた。

 

虎杖「――おい、なんだよこれ! 急に空気変わったぞ!」

 

伏黒「落ち着け、虎杖。……状況を見ろ。俺たちは今、あの化け物と、この帳の中に閉じ込められた」

 

伏黒恵が冷静に周囲を見渡す。フィールドの各所に散っていた生徒たちが、次第に中央へと集まりつつあった。京都校、東京校――両校の垣根を超えて、誰もが一様に緊張の面持ちを浮かべている。

 

釘崎「ちょっと、これマジな話? 大人たち、外から助けに来てくれないの?」

 

釘崎野薔薇が、帳の外を見やりながら声を上げた。だが、その視線の先には、確かに五条たちの姿が見えるのに、まるで一枚のガラス越しに眺めているかのように、彼らの声も、動きも、どこか遠く感じられた。

 

釘崎「――こんなの、詐欺じゃない! 助けてくれる保証があるから、みんな交流会になんて参加したんでしょ!」

 

彼女の悪態にも、しかし答える者はいなかった。誰もが、目の前の現実――孤立無援での特級討伐という重い事実に、言葉を失っていたからだ。

 

プロンプト「――なあ、これ、俺たちだけでどうにかしろってことか?」

 

プロンプトが銃を構えながら、ノクティスへと視線を向けた。ノクティスは既に剣を顕現させ、フィールドの中央――紫の靄の奥で蠢く巨影を見据えていた。

 

ノクティス「(……こいつが、特級ってやつか。今までの呪霊とは、格が違う)」

 

グラディオラスもまた、大剣を肩に担ぎながら、油断なく周囲を見回していた。

 

グラディオラス「――イグニス、状況は」

 

イグニス「良くはないな。この帳が意図的なものだとすれば、我々を孤立させることそのものが、誰かの目的だということになる」

 

冷静に分析するイグニスの言葉に、周囲の生徒たちが息を呑む。

 

東堂「――ハッ! 面白い!」

 

そんな緊張の中、東堂葵だけが、むしろ好戦的な笑みを浮かべていた。

 

東堂「大人の手を借りずに、俺たちだけであの化け物を倒す。上等じゃないか! これぞ、真の実力試しというものだ!」

 

加茂「不謹慎なことを言うな、東堂。これは命の危険が伴う事態だ」

 

加茂憲紀が苦々しい表情で東堂を睨む。だが、東堂は意に介さず、拳を打ち鳴らした。

 

東堂「命の危険があるからこそ、燃えるんじゃないか! なあ、虎杖!」

 

虎杖「――え、俺? いや、今はそれどころじゃ……」

 

戸惑う虎杖をよそに、東堂は既にフィールド中央――花御へと視線を向けていた。その巨躯に漲る闘気が、周囲の空気を震わせる。

 

三輪は刀の柄を握りしめながら、震える声で周囲に呼びかけた。

 

三輪「み、皆さん……! ひとまず、落ち着いて、状況を整理しましょう……! 何か、作戦を立てないと……」

 

西宮「あんたの言う通りね。……で、あんたたち東京の子ら。何か手はあるの?」

 

西宮桃が箒に跨がったまま、伏黒たちへと視線を向けた。

 

伏黒「……ある。だが、みんなの協力が必要だ」

 

伏黒が静かに口を開く。

 

伏黒「あの呪霊は、見た限りでは原初の呪いに連なる特級だ。木々を操り、毒を撒き散らす。単独で挑めば、確実に消耗戦になる。だが――」

 

彼の視線が、フィールドの各所に散らばる生徒たちを見渡した。

 

伏黒「両校が手を組めば、話は変わる」

 

その言葉に、京都校の面々の間に、一瞬の沈黙が落ちた。楽巌寺から下された密命――虎杖の排除――の記憶が、彼らの脳裏を過ぎったのだ。だが、目の前に迫る圧倒的な脅威を前に、そんな事情はもはや些末なものに思えた。

 

加茂「……この状況下で、私情を挟んでいる場合ではないな」

 

加茂が静かに頷く。

 

加茂「京都校も、協力しよう。――生き残ることが、まず先決だ」

 

その言葉を皮切りに、両校の生徒たちの間に、奇妙な連帯感が芽生え始めた。誰からともなく、互いの位置取りを確認し合い、即席の連携が組み上がっていく。

 

ノクティスは、その光景を見ながら、静かに剣を構え直した。

 

ノクティス「(――やるしかねぇ。ルナを、皆を、守るために)」

 

彼の脳裏に、帳の外――家入に庇われながらも、こちらを見つめるルナフレーナの姿が浮かぶ。その不安げな瞳を、絶対に絶望に染めさせはしない。そう誓いながら、ノクティスは花御へと視線を戻した。

 

プロンプト「――ノクト、覚悟決まった顔してるな」

 

ノクティス「当たり前だろ。今更、怖気づくわけにはいかねぇ」

 

グラディオラスもまた、頷きながら大剣を握り直した。

 

グラディオラス「四人で組めば、大抵のことは何とかなる。今日もそうだ」

 

イグニス「同感だ。……ただし、無茶だけはするなよ、ノクト」

 

イグニスの言葉に、ノクティスは小さく苦笑した。誰よりも、彼自身が己の力の限界――燃費の悪さを、痛いほど自覚していたからだ。

 

紫の靄が、いよいよ濃さを増していく。フィールドの中央で、花御の巨躯がゆっくりとその全貌を現し始めていた。

 

伏黒「――全員、持ち場につけ! これより、両校合同での迎撃を開始する!」

 

伏黒の号令が、帳の中に響き渡った。誰一人として、その声に逆らう者はいなかった。京都、東京――出自の違いも、密命の存在も、今この瞬間だけは、生き延びるという一点の前に、等しく些末なものと化していた。

 

家入は、帳の外からその光景を見つめながら、拳を握りしめていた。

 

家入「(――ルナちゃんを、ここに残しておいて良かったのかしら……。いや、今更悩んでも仕方ない。あの子たちを信じるしかない)」

 

不安を押し殺しながら、彼女はルナフレーナを庇うように、より一層近くへと引き寄せた。フィールドの中では、両校の生徒たちが、それぞれの持ち場へと散っていく。誰の顔にも、緊張と、しかし確かな決意が浮かんでいた。

 

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