星の病と呪いの理〜記憶を持たない転生者たちの新たな戦い〜 作:いくと
花御の巨躯が完全に姿を現すと同時に、フィールドの各所から、無数の小さな影が湧き出し始めた。低位から中位の呪霊――シガイと呼ばれる異形の群れだ。その数は、討伐レースで相手にしてきた疑似呪霊とは比較にならないほど多かった。
伏黒「――来たか。数が多い……!」
伏黒恵が舌打ちしながら印を組む。地面から玉犬と鵺が同時に這い出し、押し寄せる群れへと立ち向かう。
伏黒「(……このペースじゃ、式神の消耗も馬鹿にならない。長期戦は避けたいところだが)」
冷静に計算しながらも、伏黒の額には、じわりと汗が滲んでいた。
だが、異変はそれだけではなかった。討伐したはずのシガイの残骸が、再び蠢き始めたのだ。まるで、目に見えない糸で操られているかのように。
伏黒「――待て、今、倒したはずの奴が……!」
イグニス「――なんだ、これは」
イグニスが眉をひそめる。彼の観察眼が、フィールドの上空、黒いタール状の輪が幾つも連なった異形の存在を捉えた。それは、まるで神経網のように、周囲のシガイたちを繋ぎ合わせている。
イグニス「あれが、司令塔か。……あの輪を落とさない限り、いくら数を減らしても意味がない」
グラディオラス「なら、話は早い。あれを叩き落とせばいいだけだろ!」
グラディオラスが大剣を担ぎ、群体――蝕環と呼ばれるその中枢へ向かって突撃しようとする。だが、彼の前に、幾体ものシガイが壁のように立ちはだかった。
グラディオラス「――邪魔だ!」
大剣の一閃が、数体のシガイを同時に薙ぎ払う。だが、倒れたそばから、蝕環の触手が新たなシガイを生み出し、瞬く間に穴を埋めていく。
釘崎「――キリがないじゃない、これ!」
釘崎が藁人形に釘を打ち込みながら叫んだ。彼女の隣で、西宮が箒を旋回させ、上空からの一撃を繰り出す。
西宮「あんた、さっきは敵だったのに、今は隣で戦ってるの、なんか変な感じね!」
釘崎「そんなこと言ってる場合? さっさと片付けるわよ!」
軽口を叩き合いながらも、二人の連携は思いのほか噛み合っていた。西宮が上空から群れを散らし、釘崎がそれを地上で刈り取る――先の対戦で培われた即席の呼吸が、ここでも活きていた。
加茂もまた、赤い刃を振るいながら群れを切り裂いていた。
加茂「――これほどの数の呪霊が、統率されて動いている。尋常ではない事態だ」
加茂は赤い刃を構え直しながら、周囲を油断なく見渡した。
加茂「(――この規模の呪霊操作、只の呪霊の仕業とは思えない。何者かの明確な意図が働いている)」
彼の脳裏に、楽巌寺から下された密命のことがふと過ぎる。虎杖を排除せよという命令と、この異常事態――両者が無関係だとは、到底思えなかった。だが今は、目の前の脅威に対処することが先決だ。加茂はその考えを一旦振り払い、再び戦闘へと意識を集中させた。
三輪は刀を構えながら、震える声で周囲に呼びかけた。
三輪「み、皆さん……! あの輪の周りに、集中攻撃を……! 私が、隙を作りますから……!」
そう言うが早いか、三輪は抜刀術の一閃で、蝕環を守るシガイの一角を斬り裂いた。彼女の剣筋は繊細ながらも的確で、僅かながら包囲網に穴を開けることに成功する。
三輪「(――怖い。でも、今は、私にできることをしないと……)」
震える手を叱咤するように、彼女はもう一度、刀を構え直した。生真面目な性格ゆえに、自分の恐怖よりも、今この場で果たすべき役目を優先する――それが三輪霞という少女だった。
東堂「――ハッ! いいぞ、霞! その調子だ!」
東堂が咆哮とともに拳を振るい、開いた穴を更に押し広げた。虎杖もまた、その隙を逃さず前進する。
虎杖「――今だ!」
だが、蝕環はその動きを察知したかのように、瞬時に新たなシガイを生み出し、再び壁を作り上げた。
西宮「――しつこいわね、この輪っか!」
西宮が上空から鉄扇を振るい、風の刃で数体のシガイを薙ぎ払う。だが、崩したそばから、蝕環の触手が新たな個体を紡ぎ出していく様は、まるで底なしの泥沼のようだった。
釘崎「――キリがないってレベルじゃないでしょ、これ! いい加減、根っこから断ちなさいよ!」
釘崎もまた、藁人形を次々と展開し、群れを刈り取り続ける。彼女の額にも、既に疲労の汗が滲んでいた。
イグニス「――厄介だな。あれは、単純な物量では突破できない」
冷静に分析するイグニスの視線が、フィールドの隅、ルナフレーナが控える方角へと向けられた。彼女の力があれば、あるいは――そんな考えが過ぎるが、非術師の彼女を最前線に立たせるわけにはいかない。イグニスはその考えを一旦胸の内に留めた。
ノクティスは、群れの合間を縫いながら剣を振るい続けていた。
ノクティス「(――キリがねぇ。でも、あの輪を落とさなきゃ、この状況は変わらない)」
彼の脳裏に、いくつもの可能性がよぎる。だが、燃費の悪さを見抜かれたばかりの今、無闇に力を使うわけにはいかない。慎重に、しかし確実に、彼は蝕環への道筋を探っていた。
プロンプトと伏黒もまた、標を刻む連携で群れを効率よく討伐していく。
プロンプト「――伏黒、あの輪っかみたいなやつ、明らかにボスっぽいよな!」
伏黒「ああ。だが、周りのシガイが壁になっていて、近づけない」
プロンプト「なら、俺が撃ち込んで隙を作るから、恵の式神で押し込んでくれ!」
伏黒「――お前、俺の名前……」
プロンプト「今はそれどころじゃないだろ! いくぞ!」
軽口を挟む余裕もそこそこに、プロンプトが立て続けに弾を放つ。着弾のたびに刻まれる標が、シガイの群れの動きを僅かに乱していく。
伏黒「(――こいつと組むと、思考する前に体が動く。妙な感覚だ)」
内心で困惑しながらも、伏黒は次々と式神を展開し、蝕環へと迫る道筋を切り開こうとしていた。だが、蝕環の再生速度は、彼らの想像を上回っていた。倒しても倒しても、新たなシガイが際限なく湧き出てくる。
プロンプト「――キリねぇな、マジで!」
伏黒「焦るな。……必ず、隙はある」
冷静に言い聞かせながらも、伏黒の額にも、確かな焦燥の色が滲んでいた。
戦況は、一進一退の攻防を続けていた。両校の生徒たちが、それぞれの持ち味を活かしながら、着実にシガイの数を減らしていく。だが、蝕環という司令塔が健在である限り、真の勝機は見えてこない。誰もが、この膠着状態をどう打ち破るか、答えを探しあぐねていた。
伏黒「――このままじゃ、消耗戦になる。誰か、あの輪への突破口を」
伏黒は歯を食いしばりながら、なおも式神を展開し続けた。だが、蝕環の再生速度に対し、着実な打開策を見出せずにいることに、焦りが募っていく。
伏黒「(――誰か、突破口を切り開いてくれ……。このままじゃ、埒が明かない)」
グラディオラス「――なら、俺が力尽くで道を開けてやる」
グラディオラスが大剣を担ぎ直し、蝕環へ向けて突撃の姿勢を取る。周囲の仲間たちも、彼の意図を察し、援護の構えを取り始めた。誰に言われずとも、この一撃に賭けるべき瞬間だと、全員が理解していた。だが、彼が動き出すより早く、フィールドの奥、花御の巨躯が動き始めた。木々を思わせる無数の腕が、獲物を求めるように蠢き出す。
虎杖「――来るぞ! あいつが動く!」
戦場に、新たな緊張が走った。誰もが息を呑み、迫りくる巨躯へと視線を集中させる。この場に立つ全員が、次の瞬間から始まる、より苛烈な戦いの予感に、身構えていた。