星の病と呪いの理〜記憶を持たない転生者たちの新たな戦い〜   作:いくと

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花に喰われる大地

花御の巨躯が、フィールドの大地を割るようにして前進を始めた。木の枝を思わせる無数の腕が、まるで鞭のようにしなり、周囲の生徒たちへと襲いかかる。フィールド全体に、割れんばかりの轟音と土煙が広がっていく。

 

虎杖「――くっ……! でかい……!」

 

虎杖悠仁が咄嗟に飛び退き、腕の一撃を紙一重で回避する。だが、着弾した地面が抉れ、砂塵が舞い上がった。周囲に立ち込める土煙の向こうから、花御の枝が更に追撃してくる。

 

虎杖「(――一人じゃ、荷が重い……!)」

 

土埃にまみれながらも、虎杖は歯を食いしばって次の一撃に備えた。この化け物の圧力は、これまで対峙してきたどの相手とも桁違いだった。

 

東堂「――虎杖、俺と組め!」

 

東堂葵が、虎杖の隣に並び立つ。その巨躯から立ち上る闘気は、恐怖よりも高揚を纏っていた。

 

東堂「あの化け物、動きは大きいが、その分隙も大きい! 息を合わせろ!」

 

虎杖「――ああ、分かった!」

 

二人は互いに視線を交わすことなく、それでも息を合わせるように動き出した。東堂が花御の注意を引きつけ、虎杖がその隙に懐へと潜り込む。

 

戦いの合間、フィールドの端では、他の生徒たちもそれぞれの持ち場で奮闘を続けていた。誰もが泥にまみれ、息を切らしながらも、決して足を止めることはなかった。この交流会が、単なる余興ではなく、命を賭した戦場であるという事実が、全員の胸に重くのしかかっていた。

 

東堂「ハッ! こっちだ、化け物め!」

 

咆哮とともに、東堂の拳が花御の枝の一本を粉砕する。だが、花御は怯むことなく、別の腕を東堂へと振り下ろした。

 

東堂「――くっ……!」

 

その一撃を、東堂は正面から受け止める。巨体が軋み、地面に亀裂が走った。踏ん張った足元の地面が抉れ、彼の額に脂汗が浮かぶ。

 

虎杖「東堂さん!」

 

虎杖が叫びながら、花御の本体――中枢と思しき花の部分めがけて拳を叩き込む。だが、分厚い花弁に阻まれ、決定打には至らない。

 

虎杖「――くそ、硬すぎる……!」

 

そこへ、大剣を担いだ巨躯が、地を蹴って駆けつけた。

 

グラディオラス「――待たせたな!」

 

グラディオラスが咆哮とともに、花御の腕の一本を大剣で薙ぎ払う。轟音とともに、太い枝が宙を舞った。

 

東堂「――ほう、いい太刀筋だ! お前とはいつか、心ゆくまで拳を交えたいと思っていた!」

 

グラディオラス「そりゃ光栄だな。だが今は、目の前の化け物を片付けるのが先だ!」

 

三人の連携が、次第に噛み合い始める。虎杖が隙を作り、東堂が力でこじ開け、グラディオラスが決定打を狙う――誰に指示されたわけでもない、即興の連携だった。

 

花御は苛立つように咆哮を上げ、腕の数を増やして三人を同時に襲おうとする。無数の枝が、まるで刃の雨のように降り注いだ。

 

虎杖「――くそ、キリがねぇ!」

 

グラディオラス「気を抜くな! 花御の本体は、あの中心の花にある! そこを狙え!」

 

東堂もまた、荒い息を吐きながらも、視線だけは決して花御から逸らさなかった。

 

東堂「――ハッ、面白い。この程度の強敵、望むところだ!」

 

グラディオラスの視線が、花御の中枢――巨大な蕾のような部分を捉えた。だが、その周囲は無数の枝によって幾重にも守られている。

 

東堂「――なら、俺たちで道を作ってやろうじゃないか!」

 

東堂が咆哮とともに、正面から花御へと突進した。彼の拳が、次々と枝を打ち砕いていく。

 

虎杖もまた、東堂の背中を追うように前進する。

 

虎杖「――東堂さん、無茶しすぎだろ!」

 

東堂「無茶を承知でやるのが、俺の生き様だ! 来い、虎杖! この道の先まで、共に征くぞ!」

 

その豪快な笑い声に、虎杖の胸の奥で、何かが呼応するように熱くなった。彼自身、まだ言葉にできない何かが、東堂の生き様に強く惹きつけられていた。

 

虎杖「(――この人、本当に楽しそうに戦ってる。……こんな戦い方、俺も知らなかった)」

 

胸中に芽生えた微かな憧れを押し隠しながら、虎杖は再び拳を握り直した。

 

虎杖「――ああ、分かった!」

 

二人が並んで花御の懐へと踏み込んでいく。グラディオラスもまた、大剣を構え直し、その後を追った。

 

花御の枝が、三人を押し潰そうと一斉に振り下ろされる。だが、その瞬間、三人の動きが、まるで最初から示し合わせていたかのように噛み合った。東堂が受け、虎杖が潜り、グラディオラスが断つ。

 

グラディオラス「――そこだ!」

 

大剣の一閃が、花御の中枢を守る枝の一角を切り裂いた。僅かに開いた隙間――そこへ、虎杖の拳が突き刺さる。

 

虎杖「――うおおおおお!」

 

花御の巨躯が、初めて明確な悲鳴を上げた。フィールド全体が震動し、紫の靄が一瞬揺らぐ。周囲で戦っていた他の生徒たちも、その震動に気づき、僅かに視線をこちらへ向けた。

 

だが、致命傷には至らない。花御は怯みながらも、新たな枝を伸ばし、体勢を立て直そうとしていた。荒い呼吸を整えながら、三人はそれぞれ、まだ終わっていない戦いの手応えを噛み締めていた。

 

東堂「――まだまだこれからだ! なあ、虎杖!」

 

虎杖「ああ! まだやれる!」

 

グラディオラス「二人とも、無理はするなよ。長期戦になりそうだ」

 

冷静に周囲を見渡しながら、グラディオラスは呼吸を整える。花御の再生力は、彼らの想像を超えていた。だが、それでも三人の連携が着実に手応えを積み重ねていることも、また事実だった。

 

東堂「(――こいつら、初めて組む相手だってのに、まるで長年の戦友のようだ。これが、あの『魂の熱量』というやつか)」

 

内心で唸りながら、東堂は改めてグラディオラスへと視線を向けた。この巨躯の男の剣筋には、確かな「守る意志」が宿っている。それは、東堂が長年追い求めてきた「本物」の輝きに、限りなく近いものだった。

 

グラディオラスもまた、東堂の拳の重みを受け止めながら、確かな手応えを感じていた。

 

グラディオラス「(――この男、口は悪くねぇが、拳には一切の嘘がねぇな。悪くない)」

 

互いに言葉を交わさずとも、二人の間には、既に戦士としての奇妙な信頼関係が芽生え始めていた。

 

三人の戦いは、なおも続いていた。フィールドの各所で繰り広げられる他の攻防と共鳴するように、この場所でも、両校の垣根を超えた共闘が、確かな成果を上げ始めていた。

 

土煙と怒号の中、三つの意志が一つの目的――目の前の脅威を打ち倒すという一点に、確かに収束しつつあった。誰一人として、諦めの色を浮かべる者はいなかった。傷つき、疲れ果てながらも、三人の瞳には、まだ消えぬ闘志の炎が確かに灯り続けていた。

 

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