星の病と呪いの理〜記憶を持たない転生者たちの新たな戦い〜 作:いくと
初陣の幕開けと、境界を隔てる漆黒の帳
澄み渡る青空の下、高専を出発したファーストチームを乗せた車は、都心から少し離れた山間の廃工場へと向かっていた。出撃準備をしていたグラウンドのピリついた空気とは打って変わり、車内は同世代ならではの少し気の抜けた時間が流れている。
虎杖「そういやさ、ノクトたちの武器ってどうやって出してんの? なんか青い光がシュバッ! って集まるの、すっげえカッコイイよな!」
助手席から身を乗り出す虎杖悠仁の瞳は、純粋な好奇心でキラキラと輝いていた。その後部座席で、プロンプトは少し照れくさそうに頭を掻く。
プロンプト「えへへ、カッコイイでしょ? でも俺たちも詳しい理屈は分かんないんだよね。頭の中で『出ろ!』って念じると、自分の中の呪力がカチッとハマる感覚があってさ」
釘崎「あんたたち、本当に術式の基礎も何にも知らない素人ってわけね……。まあ、あのバカ目隠しが引率なんだから、とりあえず死にはしないでしょ」
五条「ちょっと野薔薇ちゃん、先生泣いちゃうよ?」
運転席の伊地知が冷や汗を流しながらハンドルを握る横で、五条悟は目隠し越しに楽しそうな笑みを浮かべていた。
和やかな空気が流れる中、ノクティスは窓の外を流れる景色を眺めながら、自らの手のひらをじっと見つめていた。
(……基礎も何もない、か。確かにその通りだ)
前世の記憶などない。だが、新宿でのあの夜、特級呪霊の巨大な腕が迫った瞬間に感じた圧倒的な死の恐怖と、魂の奥底で弾けた理屈のない覚悟。それらが引き金となって得たこの力は、あまりにも自分の手に馴染みすぎている。まるで、長年使い込んだ相棒のように。
ルナフレーナを高専の結界内に残してきた不安は、胸の奥に燻っている。非術師である彼女を、こんな血生臭い世界に巻き込んでしまったという罪悪感。だが同時に、この手で彼女を確実に守るための実戦経験が積めることに、密かな高揚感すら覚えていた。
伏黒「……着きましたね」
伏黒恵の低く落ち着いた声で、車内の空気が一変する。
鬱蒼とした木々に囲まれた廃工場。かつては精密機械を作っていたというその場所は、今は赤錆と無機質なコンクリートの残骸に成り果てていた。敷地の前に立つだけで、肌にまとわりつくような重く不快な空気が漂ってくる。
ノクティス「……なんか、息苦しいっていうか。嫌な空気が張り付いてるな」
プロンプト「うわー、マジで出そう……。ゲームなら絶対、この扉の前にセーブポイントがある場所だよこれ……」
五条「はい、みんなストーップ。ここから先は僕たち呪術師のお仕事だ。伊地知、帳(とばり)をよろしく」
伊地知「はい。……『闇より出でて闇より黒く、その穢れを禊ぎ祓え』」
伊地知が呪詞を唱えた瞬間、廃工場の周囲をドーム状に覆うように、空から漆黒のベールが流れ落ちてきた。見慣れた昼の空が文字通り遮断され、周囲は擬似的な夜に包まれる。世界が反転したかのような錯覚。
ノクティス「空が……黒くなった。なんだこれ」
五条「これが『帳』。非術師から僕たちの戦いを隠し、同時に呪いを外に逃がさないための結界さ。さあ、ノクティス君、プロンプト君。これが君たちの初めての正式な任務だ。僕の可愛い生徒たちの連携、たっぷり見せてもらおうかな」
五条の軽いトーンとは裏腹に、その言葉には指導者としての鋭い観察眼が光っていた。
重い鉄扉を押し開け、五人は暗い工場内へと足を踏み入れる。埃とカビ、そして鉄が酸化した血のような錆の匂いが鼻を突いた。
伏黒「玉犬(ぎょくけん)」
伏黒が両手で影絵の犬を作ると、床の影が泥のように蠢き、白と黒の二匹の犬が姿を現した。
プロンプト「うわっ!? 犬が影から出てきた!?」
伏黒「俺の術式、『十種影法術』だ。こいつらの嗅覚で呪いの位置を探る。……前を俺と虎杖、中央に釘崎、後衛をノクティスとプロンプトで固める。いいな?」
ノクティス「ああ、了解だ」
伏黒の的確な指示に、ノクティスたちは自然と陣形を組む。前世の記憶はなくても、チームで連動して動くことへの無意識の理解が、彼らの身体には染み付いていた。
しかし、先行して暗闇の奥へと鼻を鳴らしていた白の玉犬が、突如として足を止め、低く唸り声を上げた。その毛が逆立ち、明確な恐怖を示して後ずさる。
虎杖「伏黒、どうした? 呪霊がいたのか?」
伏黒「いや……おかしい。玉犬が怯えている。それにこの匂い……呪霊特有の『残穢』じゃない。もっと異質な……」
ノクティス「……生臭いような、鼻の奥がツンとする匂い」
昨夜、高専の外れで大人組のグラディオラスたちが感じたものと全く同じ、純粋な悪意と生命を拒絶する毒の気配。高専側がまだ誰もその名称を知らない未知の異物が、闇の奥で静かに蠢動を始めていた。
プロンプト「ノクト……なんか、来る!」
ノクティス「……ツッ!」
空間の歪みから漏れ出すような粘着質な音。ノクティスが虚空に向かって手を伸ばすと、青白い光の粒子が収束し、重厚な片手剣が顕現した。
その眩い光が、暗闇の中から這い出てくる『異形のバケモノ』の姿を照らし出す。それは呪力から生まれる呪霊とは明らかに違う、呪術界の常識が通用しない星の病を宿した存在だった。