星の病と呪いの理〜記憶を持たない転生者たちの新たな戦い〜   作:いくと

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不可視の毒と、打破する閃き

「シャァァァァッ!!」

 

暗闇から飛び出してきた異形のバケモノは、天井の鉄骨から逆さにぶら下がり、人間と蜘蛛を掛け合わせたような複数の腕を蠢かせていた。その表面を覆う赤黒いタール状の物質からは、鼻が曲がるような生臭い異臭が放たれている。

 

虎杖「なんだアイツ、呪霊……なのか!? でも、呪力の感じが全然しねぇ!」

 

虎杖悠仁が叫びながらも、瞬時に床を蹴って跳躍する。彼の拳に青い呪力の光が収束し、バケモノの顔面にあたる部位へと重い一撃を叩き込んだ。

ドゴォッ!という鈍い音が響く。しかし――。

 

虎杖「……うおっ!?」

 

逕庭拳の二重の衝撃が、バケモノを覆うタールのような粘液に波紋を作り、そのままズブズブと吸収されてしまったのだ。反動で体勢を崩した虎杖に向かって、鋭い刃のような腕が容赦なく振り下ろされる。

 

伏黒「虎杖! 『鵺』!」

 

間一髪、伏黒の影から飛び出した怪鳥『鵺』が電撃を纏って突進し、バケモノの腕を弾き飛ばした。虎杖が着地するのと同時に、後方から釘崎の鋭い声が飛ぶ。

 

釘崎「あんたたち、退きなさい! 邪魔よ!」

 

釘崎野薔薇が呪力を込めた釘を三本、ハンマーで正確に打ち出す。釘はバケモノの胴体に深々と突き刺さった。

 

釘崎「『簪(かんざし)』!」

 

突き刺さった釘から呪力が爆発する。しかし、土煙が晴れた後に見えたのは、タール状の物質を少し波立たせただけで、ほとんど無傷のバケモノの姿だった。

 

釘崎「はぁ!? 私の呪力が通ってない!? なんなのよあのドロドロ!」

 

伏黒「……単なる装甲じゃない。あいつを覆っている『毒』のような物質が、俺たちの呪力を分解するか、干渉を拒絶しているんだ」

 

一年ズの三人に、焦りの色が滲む。呪力で戦う彼らにとって、呪力が通じない相手というのは天敵に等しい。

だが、その混戦から一歩引いた位置で、ノクティスは冷静にバケモノの動きを追っていた。

 

(……呪力が通じない? いや、違うな)

 

ノクティスは特有の高い観察力を働かせていた。

ただ闇雲に剣を振るうのではなく、眼前の事象を細かく分析する。バケモノが天井の鉄骨を移動する際、タール状の物質が赤錆の浮いた鉄に触れた瞬間、微かに「ジュッ」と音を立てて蒸発しているのを見逃さなかった。

 

(あいつの装甲は、呪力には異常な耐性があるが、物理的な熱や環境変化には弱い。問題の本質は『攻撃力』の不足じゃない。攻撃の『性質』だ)

 

戦況における課題発見力が、彼に明確な答えを導き出す。

前世の記憶はなくとも、彼の魂には「異なる力」を扱う術が刻まれている。呪力が駄目なら、物理現象としての『魔法』をぶつければいい。

 

ノクティス「プロンプト! いつもの銃弾じゃ抜けない。お前、あれ撃てるか!」

 

ノクティスが叫ぶと同時に、自身の中にある呪力を剣の顕現ではなく、手のひらに極限まで圧縮し始めた。熱を持ったエネルギーが、ひとつの球体――『結晶石(マジックボトル)』として精製される。

 

プロンプト「あれって……魔法!? うん、ノクトがパスしてくれるなら、絶対当てる!」

 

プロンプトが無骨な銃器を構え、銃口をバケモノへと向ける。

ノクティスが精製した炎の結晶石を、バケモノの頭上めがけて力強く放り投げた。

 

ノクティス「伏黒! 虎杖たちを下げろ!」

 

伏黒「! 全員、伏せろ!!」

 

伏黒が咄嗟に虎杖と釘崎の襟首を掴んで後方へ跳んだ瞬間、プロンプトの放った銃弾が、空中の結晶石を正確に撃ち抜いた。

 

ドゴォォォォォォンッ!!!

 

廃工場を揺るがすほどの、すさまじい爆発。それは呪力による疑似的な炎ではなく、結晶石から引き出された純粋な『物理現象としての爆炎』だった。

灼熱の業火がバケモノを包み込み、呪力を弾いていた赤黒いタールが、悲鳴を上げるように一瞬にして蒸発し、焼け焦げていく。

 

バケモノ「ギィィィィヤァァァァァッ!!」

 

ノクティス「装甲が剥がれた。……今なら呪力も通るはずだ! 行くぞ、虎杖!」

 

虎杖「おっしゃあ!! 合わせるぜ、ノクト!!」

 

防御を失い、もがき苦しむバケモノの懐へ、ノクティスと虎杖が左右から同時に踏み込む。

ノクティスが顕現させた重厚な大剣が、バケモノの右半身を深く抉り裂く。それに完璧なタイミングで同調した虎杖の逕庭拳が、左半身の急所を的確に打ち砕いた。

 

パキンッ、と。

バケモノの核が砕け散る乾いた音が響き、異形の巨体は黒い塵となって完全に霧散した。

 

プロンプト「ふぅーっ! やったね、大成功!」

 

プロンプトが銃を肩に担ぎ、満面の笑みでノクティスに駆け寄る。

ノクティスは小さく息を吐きながら剣を消散させ、静かに己の手のひらを握り込んだ。バケモノを討伐したことで、自分の中の呪力総量が底上げされる「レベルアップ」の感覚が、確かに身体中を駆け巡っている。

 

釘崎「ちょっと……あんたたち、今の何よ。呪術じゃないわよね? 手榴弾でも投げたの!?」

 

伏黒「いや……あれは純粋な熱量による破壊だ。お前たち、あの一瞬で敵の装甲の性質を見抜いて、戦術を切り替えたのか」

 

驚きを隠せない伏黒の言葉に、ノクティスは頭を掻きながら答える。

 

ノクティス「まあな。力押しでダメなら、弱点を突くしかねえだろ。……お前らが最初に注意を引いてくれたおかげで、あいつの動きを観察する余裕ができた。サンキューな」

 

虎杖「へへっ! なんだよ、お前らめっちゃ頭キレるじゃん! 連携もバッチリだったし、すっげー頼りになるな!」

 

虎杖が満面の笑みでノクティスの肩をバンバンと叩く。

記憶も基礎知識もない。だが、戦場を見極める確かな「眼」と、窮地を打破する「閃き」、そして仲間との無意識の連携。

五条悟が少し離れた場所から、目隠しの下で満足げに笑みを深めていることにも気づかぬまま、彼らは呪術師としての初めての勝利を分かち合っていた。




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