スティンガーから極めるゴルフ――HS64を叩き出す無自覚少女、風を切り裂く低弾道でゴルフ界を無双する 作:スティンガー
お父さんの栄転という、どこか物々しくて誇らしげな大義名分のもと、私たちの引っ越しは驚くほどあっさりと、そして慌ただしく行われた。
それまで私――如月由依が生まれ育ち、暮らしてきた東京は、窓を開ければ洗練された高層ビル群が立ち並び、夜になれば途切れることのない車のヘッドライトが光の川のように流れる街。
表参道や渋谷のキャットストリートは私の日常的な散歩コースであり、週末になれば小学校からの友人たちと、新しくオープンしたばかりのパンケーキ屋やアパレルショップに並ぶのが当たり前の生活だった。
コンクリートとガラスに囲まれた、どこか冷たくて、けれどこの上なく便利で刺激的な世界。それが私の知るすべてだった。
都心から車に揺られて数時間。新居として私たちが辿り着いたのは、東京の喧騒から遠く離れた、自然豊かで静謐な街――静岡県御殿場市だった。
「うわあ……大きい……」
車のドアを開けて最初に口から漏れ出たのは、そんな間抜けた感嘆の声だった。
見上げる空が、とにかく広い。東京のように、ビルの隙間から申し訳程度に覗く青空ではない。視界を遮るものが何一つない、圧倒的なスケールの天空がそこには広がっていた。そして、なによりも私を圧倒したのは、街のどこに目を向けても必ず視界に入ってくる、富士山の尋常ではない存在感だった。
東京にいた頃、お父さんの書斎の窓から遠くに見えていた富士山は、親指の先で隠れてしまうほどの小さな、白い三角形に過ぎなかった。けれど、ここから見る富士山は違った。まるで世界の中心に居座っているかのように巨大で、雄大で、山の斜面に刻まれた細かな凹凸までがくっきりと目視できる。あまりのサイズ感に、最初は誰かが街の背景に巨大な書き割りの絵を置いたのではないかと本気で疑ってしまったほどだ。
流れ込んでくる空気の匂いも、東京のそれとは全く違っていた。排気ガスの匂いは希薄で、代わりに鼻腔をくすぐるのは、青々とした草木の薫りと、湿り気を含んだ豊かな土の匂い。息を吸い込むだけで、肺の隅々までが美しく洗浄されていくような、冷涼で澄んだ空気。
「由依、ぼうっとしてないで、自分の部屋の荷物だけでも運んでおきなさい」
ワンボックスカーのトランクから、お気に入りのブランドのキャリーケースを下ろしながら、お母さん――佳乃が苦笑混じりに私を促した。
新しい家は、東京のマンションとは比較にならないほど広い一戸建てだった。広々とした庭には手入れの行き届いた芝生が広がり、生け垣の向こうからは鳥のさえずりが聞こえてくる。間取りも中学生の私には持て余すほど広かったけれど、だからこそ、家の中に一歩足を踏み入れると、静けさがより強調されるようだった。
それから数時間、引っ越し業者の人たちが慌ただしく行き交い、リビングや廊下はまたたく間に茶色い段ボールの山で埋め尽くされていった。お父さん――達也は新しいプロジェクトの総責任者としての挨拶回りや、東京の仕事仲間への連絡で朝から電話にかじりつき、お母さんはエプロン姿でキッチン周りの荷解きに追われている。
「……よし。ちょっと、近所を散歩してくるね」
段ボールの森と化したリビングで、自分の役割を見失ってしまった私は、二人にそう声をかけた。
お母さんが「ちょっと、由依……もう、迷子にならないようにね。まだこの辺りの地理は分からないんだから」と手を止めずに答える。お父さんはパソコンの画面を睨みつけながら「車には気をつけるんだぞ」と片手を挙げた。
私は、お気に入りの白いブラウスの袖を軽く整え、新しく下ろしたばかりの真っ白なスニーカーの紐をきゅっと結び直して外へ出た。
まずは、これから私が通うことになるこの街が、どんな場所なのか。自分の足で歩き、五感で触れて、この手触りのない不思議な環境に身体を慣らしておきたかったのだ。
新居の門を出て、なだらかな坂道をのんびりと下り始める。
歩き始めてすぐに、私は東京との決定的な違いに気がついた。道が広いのに、歩いている人がほとんどいないのだ。通り過ぎるのと言えば、時折エンジン音を響かせて走り去る地元の軽自動車やトラックくらい。すれ違う歩行者がいない散歩なんて、東京では経験したことがなかった。すれ違うのは、等間隔に植えられた青々とした街路樹と、名前も知らない色鮮やかな野花だけ。
けれど、それが不思議と不快ではなかった。むしろ、アスファルトを踏みしめる自分の足音だけが規則正しく響くのが、妙に心地よく感じられた。スニーカーの底を通じて伝わってくる地面の感触が、東京の固いコンクリートよりもどこか柔らかいような気がする。
歩きながら、私は自分の頭の中にある、この街のある一面について思いを馳せていた。
ここへ引っ越してくることが決まった時、お父さんは仕事の栄転と同じくらい、いや、それ以上に妙なテンションで喜んでいたのを覚えている。
「御殿場か! あそこはゴルフ環境が最高なんだ。名門コースがいくつもあるし、練習場も広い。由依、パパは向こうに行ったら、週末はゴルフ三昧かもしれないぞ!」
そう言って、自分の書斎にあるゴルフクラブのコレクションを愛おしそうに磨いていたお父さんの姿。
私にとって、ゴルフというスポーツは、その時も、そして今この瞬間も、ひどく遠くて退屈な世界の出来事だった。
休日、私がリビングでテレビのチャンネルを回していると、お父さんが必ずと言っていいほどスポーツチャンネルに固定する。そこに映し出されるのは、果てしなく続く緑色の芝生と、そこを黙々と歩くポロシャツ姿のおじさんたちの姿。
実況のアナウンサーはなぜか常にひそひそ声で話し、解説のおじさんが難しそうな専門用語を並べる。球がカップに入ると、周囲のギャラリーが、パチパチパチ……と、これまた上品で控えめな拍手を送る。サッカーやバスケットボールのような激しいぶつかり合いもなければ、野球のような派手なホームランの歓声もない。
いわば、おじさんがテレビの前で一喜一憂するための、おじさんによる、おじさんのための退屈な娯楽。それが、12歳の私の頭の中にあるゴルフの、偽らざるすべてだった。
朝、東京の駅前で見かける、大きくて重そうなゴルフバッグを肩に担ぎ、眠たそうな顔で満員電車に乗り込んでいくおじさんたちの姿も、その偏見を補強するのに十分だった。どうしてわざわざ休日に、あんなに重いものを運んでまで遠くまで行くんだろうと、私は不思議で仕方がなかったのだ。
私には一生、関係のないスポーツ。私がゴルフクラブなんていう鉄の棒を握る日は、地球がひっくり返っても訪れない。
のどかな木漏れ日を浴びながら、そんな生意気な偏見を頭の中で転がしていた。
◇
坂道を下りきると、道は少し開けた、のどかな住宅街の境界へと繋がっていた。遠くに見える富士山が、また少しだけその輪郭を大きくしたような気がした。心地よい風が私のブラウスを揺らし、新緑の匂いを再び運んでくる。
見上げる空は、遮る高層ビルが一つもないせいで、恐ろしいほどに広かった。どこまで歩いても、視界の端にはあの圧倒的な存在感を放つ富士山が鎮座している。
東京の一等地で暮らしていた頃は、富士山なんて冬の晴れた日にビルの隙間から白く小さく見えるだけの、ただの記号のような存在だった。それが今や、私の世界の背景のすべてを支配している。お父さんの栄転に伴う御殿場への引っ越しは、私にとって、まるで別の惑星に放り出されたかのような強烈な環境のギャップをもたらしていた。
「でも、空気はすごく美味しいな……」
胸いっぱいに吸い込んだ風はひんやりと冷たくて、胸の奥が洗われるように澄んでいた。荷解きの手伝いから逃げ出してきた小さな罪悪感も、この広大な景色の前では、すうっと霧のように消えていく。
のんびりと坂道を下り、住宅街の少し開けたエリアへと足を踏み入れたときだった。規則的な、けれどどこか聞き慣れない不思議な音が、静かな空気を震わせて耳に届いた。
――シュッ、……パン。
――シュッ、……パン。
衣服が擦れるような鋭い風切り音の直後に、何かが強く弾かれるような小気味いい音が続く。リズムを刻むその音に誘われるようにして、私は細い路地へと引き寄せられていった。
角を曲がると、そこにそれはあった。
住宅の一角、少し広めの敷地に、頑丈そうな緑色の網が四方を囲むようにして張り巡らされている。
地元の人が鳥カゴと呼ぶような、個人が敷地内に作った小さな屋外練習スペースだった。ネットはところどころ日焼けして色褪せ、支柱の鉄パイプには薄く錆が浮いている。その手作り感溢れる空間の真ん中に、一人の女の子が立っていた。
私と同じくらい、中学一年生くらいに見える女の子だった。
彼女は短めのジャージの袖から引き締まった腕をのぞかせ、手にした金属の棒――ゴルフクラブを、じっと足元の白い小さな球に向けて構えていた。
ストレートボブの黒髪が、御殿場の涼しい風に揺れている。
その横顔は、驚くほど真剣だった。
彼女が小さく息を吐いたかと思うと、次の瞬間、その華奢な体からは想像もつけないほどのスピードでクラブが振り上げられた。美しい弧を描いた銀色の軌跡が、トップの位置で一瞬だけ静止する。そこから、全身のバネをしならせるような滑らかな連動で、一気に振り下ろされた。
――シュッ!
空気を鋭く切り裂く強烈な風切り音。そして、
――パシィィン!
白球が肉厚な音を立てて弾き飛ばされ、数メートル先の厚布の的へと一直線に突き刺さった。バサササッ、と激しく厚布と網が波打つ。球は勢いを失って足元へと転がり落ちていくが、女の子の姿勢は完璧な形のまま、しばらくピタリと止まっていた。
その姿があまりにも格好良くて、私は息を呑み、歩道に立ち尽くしたまま目を奪われてしまった。
私の中でのゴルフのイメージといえば、休日にお父さんがテレビの前で気だるそうに眺めている、いわばおじさんのための退屈なスポーツだった。おじさんたちが大きくて重そうなバッグを肩に担ぎ、満員電車の中で邪魔そうにしている姿。それが、これまでの私のゴルフに対するすべての偏見だった。
けれど、目の前で繰り広げられているそれは、私の知る泥臭いイメージとは180度違っていた。無駄のない洗練された動き、張り詰めた緊張感、そして何より、弾かれた球が描く一直線の軌跡。それはまるで、鍛え上げられた武道の型や、美しいダンスのステップを見ているかのようだった。同世代の女の子が、これほどまでに凛々しく、圧倒的な熱量を持ってスポーツに向き合っている姿を、私は初めて目にしたのだ。
しばらくの間、私は言葉を忘れてその光景に見入っていた。彼女は網の中に転がった球を器用に足で引き寄せると、再び同じアドレスに入り、寸分の狂いもないスイングを繰り返していく。その一挙手一投足に、職人のような迷いのなさが宿っていた。
やがて、彼女は何かを思いついたように、少しだけ構えを変えた。今度は大きく振りかぶるのではなく、体を少し低く沈め、クラブのヘッドを小さく、リズミカルに動かすような構えをとる。球を遠くへ飛ばすのではなく、近くの標的に向かってふわっと浮かせるようなアプローチ練習のようだった。
彼女が優しくクラブを引いて、ボールの下をすくい上げるようにして短く振り抜く。狙い通り、白球はポーンと綺麗な放物線を描いて、空中に優しく浮き上がった。
――けれど、運悪く、その軌道はネットの上部にあった。
経年劣化のせいだろうか、何年も風雨に晒されてきた緑色のネットの端に、ほんのわずかな網目の綻び、隙間ができていたのだ。ふわっと浮き上がった白球は、まるで意志を持っているかのようにその小さな隙間へと吸い込まれ、網の外――つまり、私が立っている歩道側へと飛び出してしまった。
「あ――っ!? 危ないっ!」
網の中から、彼女の焦った悲鳴のような声が響いた。
その声と同時に、私の手元にカツン、と硬く鋭い衝撃が走った。
私が数分前、散歩の途中に見つけた自動販売機で買ったばかりの、地元の特産だというミカンジュースのアルミ缶。それを、飛び出してきた白球がピンポイントで、正確無比に直撃したのだ。
ベコッ!!!
派手な音を立てて、私の右手にあった缶が大きく凹む。その衝撃で、プルタブを開けたばかりの鮮やかなオレンジ色の液体が、勢いよく空中へと溢れ出した。
「わわっ!?」
慌てて手を離したけれど、時すでに遅し。ジュースは私の右手と、下ろしたての白いスニーカーの先、そして乾いたアスファルトの上に、派手な水飛沫を上げて広がっていった。缶は地面をカラカラと虚しく転がり、中身をすべて吐き出してしまう。
「ご、ごめんなさい! 大丈夫ですかっ!?」
網の出入り口にある簡易的なファスナーをバタバタと引き開けて、女の子が顔を真っ赤にして飛び出してきた。彼女は手にしたクラブを地面に放り出すようにして置き、パニックに陥った様子で私の元へと駆け寄ってくる。
「本当にごめんなさい! ネットが破れてるの気づかなくて……! けが、けがは無いですか!? どこか痛いところは!?」
涙目になりながら、何度も頭を下げて平謝りする彼女。自分の服のポケットをガサゴソと探り、クシャクシャになったポケットティッシュを取り出して、私の汚れた手を拭こうと必死になっている。その必死すぎる姿を見て、私は怒るどころか、胸の奥から湧き上がるどうしようもないほどの好奇心と興奮を、抑えきれなくなっていた。
ジュースが溢れたことも、お気に入りの靴が少し汚れたことも、今の私の頭からは完全に消し飛んでいた。
「全然平気! 服には全然かかってないし、手も洗えばいいだけだから!」
私は自分の手を後ろに引き、ティッシュを受け取る代わりに、彼女の顔をのぞき込むようにして一歩詰め寄った。保持していた退屈な偏見のすべてが吹き飛び、両目をらんらんと輝かせながら、弾んだ声で叫んだ。
「それより今の、どうやったの!?」
「……え?」
あまりに予想外の言葉を投げかけられた女の子は、差し出したティッシュを持ったまま、呆然と動きを止めた。キョトンとした顔で私を見つめ、思考が完全に停止しているのがわかる。
「今の! 魔法みたいに球がふわって浮いたやつ! ネットの隙間を通ったのは偶然かもしれないけど、球の上がり方がすっごく綺麗でびっくりしちゃった! どん、って打っただけなのに、どうしてあんなに優しく浮くの!?」
興奮のあまり、私は彼女の両肩を掴みかねない勢いでまくしたてた。
東京の学校にいた頃から、私は思ったことをすぐに口にしてしまう、少し天然だと周りから言われるような性格だった。お嬢様ぶるつもりなんて毛頭ないし、怒るという選択肢自体、最初から私の頭には存在していなかった。ただただ、目の前で見せられた不思議な技術への純粋な感動が、私の心を支配していたのだ。
私のその尋常ではない熱量に圧倒されたのか、女の子はしばらくパチパチと瞬きを繰り返していた。けれど、私が本当に怒っていないこと、それどころか自分のゴルフを心から褒めてくれているのだと理解すると、気さくな私の態度に彼女の張り詰めていた肩の力が一気に抜けたようだった。
「あ……あはは、怒って、ないんだ……」
彼女はへなへなと安堵の笑みを漏らし、胸に手を当てて深く息を吐き出した。
「よかったぁ……。生きた心地がしなかったよ。あ、でも、本当にジュースはごめんなさい! すぐそこにある自販機で、新しいの買って弁償するから!」
「いいよいいよ、そんなの気にしないで。私が勝手に見てただけだし」
私がへらりと笑うと、彼女もつられるようにして、人懐っこくて快活な笑顔を咲かせた。
「私は風間葵。この裏の家に住んでるんだ。えっと……あなたは? 見慣れない顔だけど、最近引っ越してきたの?」
「うん! 如月由依。お父さんの仕事の都合で、ついさっき東京からこっちに来たばかりなんだ。まだ段ボールだらけだから、街を知るために散歩してたの」
「そっか、東京から! 都会のお嬢様かぁ。通りでなんか、雰囲気が綺麗だと思った」
葵ちゃんは納得したように頷き、地面に落ちていた空き缶を拾い上げてくれた。
「でも、驚いたな、ゴルフを見てそんなに目を輝かせるなんて。都会の人って、みんなゴルフなんて興味ないと思ってた」
「だって、本当にびっくりしたんだもん。私、ゴルフってあんなに格好良くて、綺麗に球が飛ぶなんて知らなかった。お父さんがリビングのテレビで時々見てる、おじさんのための退屈なスポーツだと思ってたから」
私のその素直な言葉を聞いた瞬間、葵ちゃんの表情がガラリと変わった。それまでの申し訳なさそうな、あるいは安堵したような表情が消え去り、頬をきゅっと膨らませて、内に秘めた強い情熱をのぞかせるような、そんな真剣な顔つきになったのだ。
「そんなことないよ!」
葵ちゃんは顔を少し赤くしながら、身振り手振りを交えて熱弁を始めた。
「おじさんのスポーツだなんて、絶対に違うから! 今はね、私みたいに小さい子や、同世代の女の子でも本気でやってる人、たくさんいるんだから。私も9歳からお父さんに叩き込まれて、ずっと毎日練習してるんだよ? ここは土地が広いからみんな身近だけど、都会だと場所がないから馴染みがないだけなんだって」
彼女の言葉には、自分の愛する競技に対する、絶対的なプライドと深い愛情が満ち満ちていた。
「ゴルフってね、ただ球を遠くに飛ばすだけのゲームじゃないの。風の強さを読んで、地形の傾斜を計算して、何百種類もある打ち方の中から、その瞬間の正解を自分で導き出す……すっごく奥が深くて、スリリングなスポーツなんだから。特にこの御殿場はね、富士山からの強い風が吹くから、世界中のプロでも苦戦するくらい難しい場所なの。だからこそ、ここで思い通りの球が打てたときの気持ちよさは、他の何にも代えられないんだよ!」
一度スイッチが入ってしまった葵ちゃんのトークは、まさにマシンガンのようだった。専門的な用語がいくつか混ざっていたけれど、彼女の語る言葉の一つ一つが、キラキラとした輝きを持って私の胸に響いてくる。都会では周りに合わせて無難に過ごすことが多かった私にとって、これほどまでに一つのことに熱狂し、誇りを持って語れる葵ちゃんの姿は、ひどく眩しくて、そして心底魅力的に思えた。
「風を読んだり、地形を計算したり……。ゴルフって、そんなにすごいスポーツだったんだね」
私が感心して溜息をつくと、葵ちゃんは少し得意気に胸を張った。
「そうだよ! だから、由依ちゃんもおじさんのスポーツだなんて言わずに、もっとゴルフのすごさを知ってほしいな!」
ジュースのハプニングという、最悪とも言える形で始まった私たちの出会い。けれど、汚れたアスファルトの上で熱く語り合ううちに、私たちの間にある心の距離は、まるでもう何年も前からの友人であるかのように、急速に縮まっていった。御殿場の広い空の下、爽やかな風が、私たちの未来を祝福するように優しく吹き抜けていた。