スティンガーから極めるゴルフ――HS64を叩き出す無自覚少女、風を切り裂く低弾道でゴルフ界を無双する   作:スティンガー

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第2話 規格外の初スイングと、驚愕のダフリ

「ねえ、折角だから、ちょっとやってみない?」

 

 しばらく話し込んだ後、凹んだ地元のミカンジュースの缶を申し訳なさそうに見つめていた葵ちゃんが、ポンと手を叩いてそんな提案をしてきた。

 

「え? 私が、ゴルフを?」

 

 思わず自分の胸に指を当てて聞き返してしまった。

 

「そう! これだけ綺麗にジュースを溢れさせちゃったんだもん。弁償だけじゃ私の気が済まないっていうか……ね? これも何かの縁だし、ちょっと触ってみるだけでも楽しいよ!」

 

 葵ちゃんは、まるで秘密の宝物を共有するような、悪戯っぽくも爛々とした瞳で私を見つめていた。網に囲まれた練習スペース――彼女が鳥カゴと呼んだその場所は、さっきまで私にとって、お父さんがテレビの前で一喜一憂しているだけのおじさんの退屈な娯楽が行われる空間でしかなかった。けれど、同世代の、しかもこんなに快活で格好いい女の子に真っ直ぐ誘われると、不思議と胸の奥が小さく高鳴るのを感じた。

 

「でも私、ゴルフなんて一回もやったことないよ? 東京にいた頃も、ずうっと文化部だったし。運動らしい運動なんて、学校の体育の授業くらいで……」

「大丈夫、大丈夫! 誰だって最初は初めてなんだから。ちょっと待っててね」

 

 葵ちゃんは私の心配を笑い飛ばすと、鳥カゴの奥に置かれていた、青いスタンド付きのキャディバッグへと小走りで向かった。何本も差し込まれている鉄の棒の中から、慣れた手つきで一本のクラブを引き抜いてくる。

 

「はい、これ。私のクラブだけど、軽いスチールシャフトが挿さってるから、由依ちゃんでも振りやすいと思う」

 

 手渡されたのは、先端に鈍く光る銀色の金属塊がついた、細長い鉄の棒だった。

 受け取ってみると、ひんやりとした黒いゴムのグリップが手のひらに吸い付くように馴染む。お父さんがリビングでよく磨いている、あの仰々しいクラブに比べるとずいぶんスマートに見えた。金属の塊なのだからそれなりの重量はあるはずなのに、私の手には不思議なほどしっくりと収まり、大した重さは感じられなかった。

 

「これが……ゴルフクラブ」

 

「正確には7番アイアンね。アイアンっていう種類の中で、一番基本になる、練習にはもってこいのクラブだよ。シャフトにはね、NSプロっていう軽量のスチールが挿さってて、ジュニアや女性でもしっかり振れるようになってるんだ」

 

 葵ちゃんはそう言いながら、隙間の空いた防球ネットの穴を応急処置で手早く塞いだ。

 

「ななばんあいあん……」

 

 クラブの裏側を見ると、確かに7という数字が刻まれている。

 私が物珍しそうにそれを眺めていると、戻ってきた葵ちゃんは、嬉しそうに私の前に回り込んできた。

 

「じゃあ、まずは握り方、グリップから教えるね。左手からいくよ。ここの人差し指と親指の間にできる線の向きを――」

 

 葵ちゃんは、私の手を取って親切に位置を合わせてくれた。東京のお嬢様学校の先生たちよりもずっと熱心で、分かりやすい教え方だった。私は言われるがまま、素直にその指の形を作っていく。左手を握り、右手の小指を左手の人差し指に絡める。インターロッキング、という握り方らしい。

 

「あ、すごい。一発で綺麗な形になった。じゃあ次は構え方ね。アドレスって言うんだけど、まずは足を肩幅くらいに開いてみて」

「こう?」

「そうそう。そしたら、お辞儀をするみたいに、股関節から上体を前に傾けるの。背中を丸めないで、ピンと伸ばしたままね。で、最後に膝をほんの少しだけ、お餅をクッションにするみたいに柔らかく曲げる。腕は肩からだらんと真下に垂らすイメージで」

 

 見よう見まねで、葵ちゃんの言葉通りに自分の体を動かしてみる。

 

 その瞬間だった。私の体の中で、何かがカチリと完璧な音を立てて噛み合うような、奇妙な感覚が走った。

 

 これまで意識したこともなかった自分の骨の並び、筋肉の付き方、重心の位置が、このアドレスという型をとった瞬間に、揺るぎない美しい軸として一本に繋がったのだ。足の裏が地面に吸い付き、まるで地球の重力を最も効率よく受け止めているかのような、圧倒的な安定感。

 

 ほんの少し姿勢を変えただけなのに、自分の体が、最初からこの鉄の棒を振り回すために設計されていたのではないかと錯覚するほど、心地よくて自然な構えが完成してしまった。

 

「……え?」

 

 指導していた葵ちゃんの声が、不意に小さく裏返った。

 彼女は私が作った構えを見て、丸い目をさらに丸くして凝視している。

 

「あ、あの……葵ちゃん? どこか間違ってる?」

「いや、間違ってない……っていうか、何これ、めちゃくちゃ綺麗なんだけど……。本当に初めて? 背線の角度も、手の位置も、重心のバランスも、非の打ち所がないよ。まるでプロのお手本を見てるみたい……」

「そうかな? 葵ちゃんの指示が分かりやすかったからだよ」

 

 私は気恥ずかしさを隠すように、へへ、と笑った。都会の友人たちからは、よく「由依っていつも姿勢が良いよね」と言われていたけれど、まさかゴルフの構えでここまで驚かれるとは思わなかった。

 

「う、うん。まあ、形が良いのは素晴らしいことだしね!」

 

 葵ちゃんは自分の頭を小さく振って、驚きを振り払うように快活に笑った。

 

「じゃあ、いよいよ振ってみようか! 目の前にある、マットの上の白いボールを狙ってね。最初は当たらないのが当たり前だから、空振りしても気にしなくていいよ。とにかく、気持ちよく、思いっきりぶん回してみて!」

「思いっきり、だね。わかった、やってみる」

 

 私は小さく深呼吸をして、目の前にある直径4センチほどの白い球を見つめた。表面にはディンプルと呼ばれる小さなくぼみがたくさん刻まれている。その球が乗っているのは、地面に敷かれた、緑色の人工芝が植えられた頑丈な四角いゴムのマット――ショットマットだ。

 

 東京の文化部でのんびり過ごしていた私の日常が、御殿場の澄んだ空気の中で、急速にアスリートのようなそれへと切り替わっていくのを感じた。

 

「よし――」

 

 私はゆっくりとクラブを後ろに引き上げた。バックスイングだ。

 

 葵ちゃんがさっき見せてくれた、凛々しくて美しい残像を頭の中で巻き戻す。腕だけで上げるんじゃない。足の裏で地面を掴み、股関節をねじり、背中を大きく反転させる。

 

 驚くほど滑らかに、私の体は動いた。関節という関節が、何の抵抗もなく理想的な軌道を描いていく。

 

 そして、クラブが天高く掲げられたトップの、一瞬の静寂。

 私の脳内で、葵ちゃんの「思いっきりぶん回してみて!」という言葉がリフレインした。

 その瞬間、私の無意識の領域にあったスイッチが、カチリと最大出力へと切り替わった。

 

 ――天性の加速力が、初手からフルスロットルで解き放たれる。

 

 それは、恐ろしいほどの肉体の連動性だった。

 

 左足の踏み込みから始まったエネルギーが、一瞬で腰の鋭い回転へと変換され、それに引っ張られるようにして胸が、肩が、猛烈な速度で回り始める。遅れてやってきた両腕が、まるで極限まで絞られた弓が弾けるように、あるいは強靭な鞭がしなるように、圧倒的な質量を伴って一気に振り下ろされた。

 

 自分の細い体のどこに、これほどの爆発力が眠っていたのだろう。

 

 東京にいた頃、クラスの男子たちが顔を真っ赤にして苦戦していた固いビンの蓋や、ペットボトルのキャップを、私が「はいどうぞ」と涼しい顔で簡単に開けて驚かれていた、あの野生的なフィジカルの根源。見た目は線が細い普通の女の子なのに、なぜか秘められていたその異常なまでの純動力が、ゴルフのスイングという完璧な型と出会ったことで、初めて逃げ道のない一つの焦点へと集約されていく。

 

 ヘッドスピードが、物理の法則を無視したような放物線を描いて跳ね上がった。

 空気を切り裂く音が、通常のビュッ、という風切り音ではない。空気が圧縮され、悲鳴を上げるような、ゴォッ!! という、低く地を這うような猛獣の唸りに変わる。

 

 スイングが生み出した異様なまでの風圧が、すぐ隣で見守っていた葵ちゃんの短い髪を激しくなびかせ、彼女のジャージの裾を大きく揺らした。

 

「え――っ!?」

 

 葵ちゃんが絶望的なまでの何かを察知し、驚愕の声を上げる暇さえ、私の肉体は与えなかった。

 

 私の握る7番アイアンの鉄のヘッドは、目視できないほどの銀色の光帯となり、白いボールのわずか数センチ手前――緑色のショットマット目掛けて、時速にして男子プロをも置き去りにするような凶悪な速度のまま、猛然と突き刺さった。

 

 ――ドンッッッ!!!!!

 

 それは、ゴルフ練習スペースという空間で、決して鳴り響いていい音ではなかった。

 

 地響きを伴うような、あるいは至近距離で雷撃が炸裂したかのような、鼓膜を激しく震わせる重低音の爆鳴が鳥カゴの中に轟き渡った。

 

 鉄の塊が、地面の土の上に敷かれた頑丈なゴム製のマットへと、その全エネルギーを伴って無慈悲に衝突する。凄まじい衝撃波がシャフトを伝って私の両手に跳ね返ってきたが、私の天性の骨格と体幹はその衝撃を完璧に受け止め、ビクリともブレずにいなしてしまった。

 

 しかし、逃げ場のなくなった凄まじい物理エネルギーは、目の前の空間に圧倒的な破壊力として現れた。

 

「キャッ!?」

 

 あまりの爆音に、葵ちゃんが悲鳴を上げて思わず耳を塞ぎ、その場にしゃがみ込む。

 次の瞬間、彼女の目の前で、ゴルフの常識を根底から覆すような奇跡(あるいはバグ)が巻き起こった。

 

 私が叩きつけた鉄のヘッドの威力によって、土が爆発したように飛び散り、地面にしっかりと固定されていたはずの、重くて分厚い四角いショットマットが、ペロリと剥がれるようにして、前方へと激しく吹き飛んだのだ。

 

 緑色の四角い巨体が、まるで巨大なフリスビーか、あるいは手裏剣のように猛烈な勢いで宙を舞う。

 そのまま、3メートルほど前方に張り巡らされていた鳥カゴの頑丈な防球ネットへと、時速数十キロはあろうかという速度で真っ直ぐ突っ込んでいった。

 

 バサァァァン!!!!!

 

 重量のあるゴムマットがダイレクトに叩きつけられ、特注の防球ネットが引きちぎれんばかりに大きく歪み、ガシャガシャと激しい金属音を立てて波打つ。ネットがこれほど大きな悲鳴を上げるのを、この練習場が作られて以来、誰も見たことがないはずだった。

 

 一方、肝心の白いゴルフボールはというと。

 

 マットが根こそぎ吹き飛んだ際の風圧と衝撃の余波によって、ぽて、ぽて、と頼りなく前方に2メートルほど転がり、砂利の上で力なく静止した。

 

 ゴルフの用語で言うところの、これ以上ないほどの完全なる大ダフリ、そしてチョロであった。

 

 鳥カゴの中に、急激な静寂が訪れた。

 防球ネットがいまだに、重いマットの重みで不自然にぐにゃりと歪み、小さく揺れている。

 

 私はと言えば、頭の後ろまで綺麗に振り抜いたフォロースルーの姿勢のまま、ピタリと固まっていた。手のひらには、地面を叩いた時のじわじわとした熱い感触と、独特の痺れが心地よく残っている。

 

「あ、あれ……?」

 

 私はゆっくりとクラブを下ろし、足元を見た。そこには、あるはずの緑色のマットがなく、穴の開いた土の地面が剥き出しになっていた。そして視線を前方に移すと、ネットの根元に力なく転がっている白い球と、ネットに引っかかったままのショットマットが目に入る。

 

 やってしまった。

 

 初めて体験させてもらったスポーツで、私は友達の大切なクラブや、地元の練習場の設備をめちゃくちゃに壊してしまったのかもしれない。東京の学校でも、うっかり力を入れすぎてシャープペンの芯を何度もノートごと突き破ったり、掃除の時間に雑巾を絞りすぎてボロ布にしたりして先生に苦笑いされていたけれど、まさかゴルフでもその悪癖が出てしまうなんて。

 

「ご、ごめんなさい葵ちゃん……! 私、下手くそすぎて、ボールの手前を思いっきり叩いちゃった……! あの、この鉄の棒……クラブ、壊れてない!? 曲がったりしてない!?」

 

 私は顔を真っ青にしながら、慌てて借りた7番アイアンを両手で差し出した。 言った直後、自分の手元を見て、私はさらに血の気が引いた。

 

 ――曲がっている。

 

 シルバーに輝く頑丈そうな鉄の棒が、ヘッドの付け根(ネック)のあたりで、まるであめ細工のように不自然な角度でグニャリと歪んでしまっていたのだ。

 

「う、嘘……完全に曲がっちゃった……! どうしよう……!」

 

 シャフトが歪んでしまった恐怖で、私の心臓はバクバクと音を立てている。恐る恐る、足元にしゃがみ込んでいる葵ちゃんの顔を覗き込んだ。

 けれど、葵ちゃんからの返事はなかった。

 

 葵ちゃんは、両手で耳を塞いだ姿勢のまま、口を半開きにして、ネットの向こうで哀れに揺れているショットマットを凝視していた。完全にフリーズしている。その瞳は限界まで見開かれ、信じられないものを見たかのように小刻みに震えていた。

 

「葵、ちゃん……? 本当にごめんなさい、弁償するから、お父さんにお願いして新しいの買ってきてもらうから……!」

 

 声をかけても、彼女はピクリとも動かない。まるで彼女の時間だけが完全に停止してしまったかのようだった。

 

 数秒の、気の遠くなるような沈黙。

 

 やがて、葵ちゃんはギギギ、と錆びついたロボットのようなぎこちない動きで、ゆっくりと私の方へ首を巡らせた。その顔からは完全に血の気が引いており、額には大粒の冷や汗がにじんでいる。

 

「……由依、ちゃん」

「は、はいっ!」

 

 怒られる、と思って私は思わず肩をすくめて直立不動になった。

 

 だが、葵ちゃんの口から飛び出したのは、怒声でも、涙ながらの抗議でもなかった。魂がどこか遠くへ抜けていってしまったかのような、掠れた、掠れた呟きだった。

 

「マットって……あんなに飛ぶものじゃない、から……」

「えっ……? そうなの? でも、飛んでいっちゃったよ……?」

「そうだよ!!! あんなに飛ぶわけないでしょ!!!!」

 

 葵ちゃんが突然、我に返ったように爆発的な大声を張り上げた。

 弾かれたように立ち上がると、私の両肩をガシッと掴み、前後に激しく揺さぶる。

 

「普通の人間はね! どんなに筋力がある大人が、どんなに全力で地面を叩いたって、ショットマットをあんな風にフリスビーみたいに飛ばせないの! あれ、ゴムと人工芝が詰まってて重いんだよ!? 大人が何度もスイングしても、簡単には動かないように作られてるの! それを、あなたみたいな細い中1の女の子が、アイアン一本でネットまで吹き飛ばすなんて、物理の法則が死んでるよ! 世界がバグってる!!」

 

「え、ええ〜……? でも、現に飛んでいっちゃったし……」

 

 私は葵ちゃんの剣幕に圧倒されながらも、頬をポリポリとかき、困ったように答えるしかなかった。

 

「私、昔からちょっとだけ、力が強いみたいなんだよね。東京にいた頃も、クラスの男子たちが全員で交代しながら、硬いって騒いでたビンの蓋とか、ペットボトルのキャップとかよく、由依、これ開けて! って頼まれてたし。お母さんにも、あなたは無自覚な怪力なんだから、お友達の家では大人しくしてなさいって、耳にタコができるくらい怒られてたの。だから、今回もそのせいで……。あ、でも、ボールは全然飛ばなかったね。ぽてぽてって2メートルくらい。やっぱりゴルフって、真っ直ぐ当てるのが難しいんだね。全然上手くできなくてごめんね」

 

 私は砂利の上に寂しく転がった2メートルのチョロを見つめた。球を遠くに飛ばすスポーツなのに、これじゃあ完全な不合格だ。お父さんがテレビの前で「あぁーっ!」って頭を抱えている理由が、少しだけ分かった気がする。

 

 だが、私の肩を掴む葵ちゃんの目は、一切笑っていなかった。

 

 彼女の視線は、私の白くて細い手首や、しなやかな腕、そして何よりも、先ほどまで完璧な型を維持し、激しい衝撃を受けても微動だにしなかった私の立ち姿を、まるで未知の化け物か宇宙人でも見るような、強烈な戦慄を孕んだ目で見つめていた。

 

「力の問題……? いや、それだけじゃない……。今のスイング、信じられないスピードだった。音が……風の音が、うちのお父さんや、練習場のシングルのおじさんたちのガチのショットとも全然違った。空気が爆発したみたいな音がした……。ダフってエネルギーが全部地面とマットに逃げたからよかったものの、もし……もし今のスイングのまま、ヘッドの芯がちゃんと球に当たっていたら、一体どうなってたの……?」

 

 葵ちゃんはゴクリと、乾いた喉を鳴らして激しく唾を飲み込んだ。

 

 そこへ、彼女の視線が、遅まきながら私の差し出している7番アイアンへと移った。歪んだスチールシャフトを目にした瞬間、葵ちゃんの顔がさらに引きつる。

 

「……嘘。マットを飛ばしただけじゃなくて、スチールのシャフトを一撃で曲げたの……!? あり得ない、どんなパワーと手首の強さをしてるの……」

 

「あ、やっぱりこれ壊しちゃったよね!? ごめんなさい! 本当にごめんなさい!」

 

「ううん、弁償なんていいから! それより今の由依ちゃんのパワーで普通のクラブをこれ以上振ったら、次は本当にポッキリ折れてヘッドが凶器になって飛んでいって大怪我する! ちょっと待ってて!」

 

 葵ちゃんは私の言葉を遮ると、血相を変えて鳥カゴの奥にあるプレハブの作業小屋へと走っていった。

 そしてすぐに、一本の、見るからにゴツくて重そうなアイアンを抱えて戻ってきた。金属のヘッドは傷だらけで、シャフトには金色と黒の、古びたラベルが貼られている。

 

「これを使って。私のパパが昔使ってた、ダイナミックゴールドのX100っていう、めちゃくちゃ重くて硬い、男子プロ仕様の鉄の棒。お父さんが工房でリシャフト(シャフト交換)の予備用に置いてた古いやつだから、これなら由依ちゃんがどれだけ力任せに地面を叩いても絶対に折れない!」

 

 ずしり、と手渡された7番アイアンは、さっきのクラブとは比べ物にならないほど重かった。まるで本物の鉄塊を握らされているかのような威圧感がある。けれど、不思議と私の手のひらや腕の骨格には、この鉄の重みがしっくりと馴染むような感覚があった。

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