スティンガーから極めるゴルフ――HS64を叩き出す無自覚少女、風を切り裂く低弾道でゴルフ界を無双する 作:スティンガー
東京・新橋。
ビジネスパーソンたちが行き交う賑やかな路地裏の片隅に、知る人ぞ知るホルモン焼きの名店『豪打』がある。
店内は、七輪から立ち上る濃厚な脂の煙で白く霞み、タレの焦げる香ばしい匂いが充満していた。この店の特徴は、とにかく肉のカットが常識外れに分厚いこと、そして客の九割近くが、腕回りが丸太のように太い大男たちで占められていることだ。
それもそのはず、ここは
「――フン、どいつもこいつも、数字の表面しか見えてねえな。これだからスコアの箱庭に住む、自称・有識者どもは救えねえんだ」
店の最奥、冷房の風が辛うじて届くボックス席で、地鳴りのような低い声を漏らしたのは、
身長188センチ、体重105キロ。かつて日本ドラコン選手権を三連覇し、通称ミスター400ヤードと呼ばれたレジェンドである。現在は一線を退き、シニア部門に参戦しながら解説や若手の育成に携わっているが、その丸刈りの頭と、ポロシャツの袖がはち切れそうな二頭筋の威圧感は健在だった。
大河内が睨みつけているのは、テーブルの上に置かれたスマートフォンだ。
画面に表示されているのは、とある大手ネット掲示板のゴルフ板。
スレッドのタイトルは『【悲報】HS64の女子中学生・如月由依さん、公式戦で105の大叩きwww』。
「まあまあ、大河内さん。落ち着いてホルモン食ってくださいよ。ネットの、ヘッドスピード64の女子中学生なんて眉唾物の数字を真に受けて熱くなるだけ損ですって。どうせ測定器のバグか、動画の編集で作られたフェイクですよ。リザルトの105って数字だけ見たら、そりゃ一般のゴルフファンがほら見ろ、って笑いたくもなりますよ」
そう言って、トングで器用にシマチョウをひっくり返したのは、現役のトップドラコンプロである
最新のバイオメカニクスを信奉し、トラックマンのデータを緻密に分析する理論派として知られているが、彼もまた、最高飛距離412ヤードを誇る歴とした飛距離の怪物である。
「笑わせるな、速水」
大河内はジョッキの生ビールを煽ると、ふんっと鼻を鳴らした。
「俺が怒っているのは、この掲示板のニワカどもに対してじゃない。この如月由依という素材が、普通の競技ゴルフという狭苦しい枠組みの中で、無理解な大人たちにただの大叩きとして片付けられ、シュンとしているかもしれないという現状に対してだ!」
「いや、彼女がシュンとしてるかどうかは僕らには分かりませんけど……」
「シュンとしてるに決まってるだろ!」
バン、とテーブルを叩いて会話に割り込んできたのは、三人目の男、
彼はドラコン専用クラブメーカーの社長兼チーフデザイナーであり、独自のチタン鍛造技術で数々のドラコン王者を支えてきた高名なギアオタクである。
「聞いてくれよ大河内さん、速水。俺、あのヤマハCUPの初日、実際に葛城の1番ホールに足を運んで、彼女のティーショットをこの目で見たんだよ」
米田は興奮のあまり、焼き網の上で煙をあげる肉のことも忘れ、身を乗り出した。
「公式戦だからさ、ギャラリーが張り付いて見られるのはスタートホールくらいなもんだろ? だから俺は1番ホールのティグラウンド横を陣取った。当日は最高気温34度を超える猛暑、しかも正面からは遠州のからっ風が遮るものなく吹き荒れる強烈なアゲインストだ。初めての公式戦に出た中学一年の女の子だ、緊張と爆風のプレッシャーでまともに当たらないのが普通だろ。だがな……彼女がバッグから抜いたドライバーを見て度肝を抜かれた」
米田のただならぬ熱量に、速水がわずかに眉をひそめる。ネットの釣りネタだと切り捨てていた速水の脳内に、小さな疑問符が浮かび上がる。
「普通の女子ジュニアが使うような、軽量の市販品じゃなかったんですか?」
「バカ言え! あの独特の波打つような凹凸と戦闘機みたいなフォルム……間違いなくクランクのドラコンヘッド『Formula FIRE』だった。おまけに、挿さっているのは恐らくベンタスブラックの8TX。軽量の市販品なんかじゃない、俺たちドラコン界の人間が振り回すような超兵器だ。……そして、それを中一の女の子が、あの爆風の中で――マン振りしたんだ」
大河内はゴクリと唾を読み込んだ。米田は更に熱のこもった声で続ける。
「インパクトの音は、バシィィン!! って、空気が大爆発したような音だ。放たれた白球は、高さ数メートルという信じられないような超低空のレーザービームとなって、正面からの爆風を真っ向から破壊して突き進んだ。風に押し戻されるどころか、風を切り裂いて、弾道が一切ブレない。そして――そのままフェアウェイのど真ん中へ綺麗に突き刺さったんだ!」
大河内の目が、ギラリと怪しく光った。
「……スティンガー、か。それも、ただのコントロールショットじゃない。圧倒的な初速と質量で風をねじ伏せる、超弩級のライナーだな」
「そう! アゲインストの爆風を正面から喰らいながら、キャリー300ヤード、トータルで320ヤード先のフェアウェイまでぶっ飛ばした。中一の、それも女子がだぞ!?」
米田は自分のスマートフォンを取り出すと、画面を二人に突きつけた。
「これを見ろ! 彼女たちがSNSにアップしている練習動画なんだが、トラックマンの数値が堂々と画面に載ってやがる。ヘッドスピード、驚異の64.2m/s。ボール初速は96.3m/s超え。そして何より異常なのがこれだ。ミート率が常に1.5前後を維持している。ほぼすべてのショットで物理的な最大効率を叩き出しているんだ! 競技ゴルフの連中は、OB連発で105叩いた荒削りの一発屋と切り捨てているが、俺たちドラコン界の人間から見れば、これは神からのギフト以外の何物でもない!」
ボックス席に、一瞬の静寂が訪れた。
網の上で脂が弾ける音だけが、パチパチと響く。
速水は、提示された数値を凝視したまま、言葉を失っていた。
「ヘッドスピード、64……。しかもそのスピードで、ミート率が1.5……? 僕が死に物狂いでトレーニングして、シャフトを限界までしならせて、ようやく出すような数字ですよ? それを、御殿場の中学一年生が、当たり前のように叩き出しているっていうんですか……?」
「トラックマンのデータは、おためごかしのスコアカードと違って、嘘を吐かない」
米田はフライドポテトを口に放り込み、熱っぽく語る。
「普通のゴルフ界は、スコアという数字だけで人間を品定めする。105を叩けば下手くそと呼び、70台で回れば優秀と崇める。だが、そんなものは後からどうとでもなる技術の話だ。ショートゲームの距離感やコースマネジメントなんてものは、経験を積めばいくらでも縮められる」
大河内巌が、重々しく頷いた。
「その通りだ。だが、ヘッドスピード64m/s、ミート率1.5という物理的な事実は、努力だけで手に入るものじゃない。骨格、筋腱の柔軟性、インパクトの瞬間にすべてのパワーを球に伝える天才的な
大河内は太い腕を組み、不敵な笑みを浮かべた。
「おい、米田、速水。……これは、千載一遇のチャンスだと思わないか?」
「チャンス、ですか?」
速水が首を傾げると、大河内は身を乗り出し、声を潜めて言った。
「普通のゴルフ界が彼女を大砲(笑)、ハリボテの一発屋、と笑って冷遇している今こそ、我々ドラコン界が彼女を最高の手厚さで迎え入れ、囲い込む絶好の機会だろうが! 彼女が競技ゴルフというちまちました箱庭に閉じ込められるのは国家的な損失だ。彼女が行くべきは、400ヤードの地平線の彼方、
「おおお……!」
米田社長の目が輝いた。
「確かにそうだ! ドラコン界の若き天才女王として、日本プロドラコン協会が総力を挙げてバックアップする。素晴らしい! これぞ秘密のスカウト会議だな!」
「よし、話が早い」
大河内は満足そうに頷き、すぐさま実務的な作戦の立案に入った。
「まず、彼女に接触するためのルートだ。速水、お前はそういうネットの情報に強いだろ。連絡先は分かるか?」
速水は自分のスマートフォンを操作した。
「彼女たちが運用している中学ゴルフ部の公式SNSアカウントのプロフィール欄に、外部対応用に作ったと思われる公式の共有メールアドレスが載っています」
「よし、そこへ我がドラコン界の熱いパッションを叩き込むぞ!」
米田社長が鼻息を荒くして叫んだ。
「まずは、うちの会社が総力を挙げて開発中の、ドラコン専用プロトタイプヘッド『レヴァイアサン・ゼロ』と、48インチの超軽量高弾性シャフトを組んだ特注ドライバーを、挨拶代わりに御殿場へ送りつけるというのはどうだ!?」
「米田さん、落ち着いてください」
理論派の速水がすかさず突っ込みを入れる。
「彼女はまだ中学一年生の女の子です。いくらHS64あるからって、いきなりそんな48インチのガチの大人用ドラコン大砲を渡したら、スイングバランスが崩れて体を壊しますよ。まずは46.5インチの、ややマイルドなしなりを感じられる特注シャフトから試してもらうべきです」
「バカ言え、速水! 彼女のポテンシャルを舐めるな!」
米田が反論する。
「あの葛城の爆風を、あの若さでぶち抜いたんだぞ!? シャフトの長さによる遠心力に負けるようなタマじゃない。むしろ47.5インチにして、限界までヘッド重量を軽くした超高速仕様にすれば、今すぐにでもヘッドスピードは68を超える!」
「いや、だから、まずは怪我をさせないことが最優先でしょう! スカウトの基本は、安心と安全の信頼関係ですよ。年間一千万円規模のトレーニング環境の保証と、アメリカのドラコン遠征への全額支援プランを提示する方が先です!」
「スコアなんて知るか! 飛距離こそがロマンであり、彼女を守る盾だ! 道具が先だ!」
大男二人が、ホルモン屋の煙の中で、47.5インチか、46.5インチかという、一般人には完全にどうでもいい変態的なギア論争で胸ぐらを掴み合わんばかりに熱弁を振るい始めた。
「――静かにしろ、お前たち」
レジェンド・大河内の一喝が、場を鎮めた。
二人がバッと大河内を見ると、彼は腕を組んだまま、静かにスマートフォンを見つめていた。
「揉めている場合ではない。我々がやるべきことは一つだ。まずは、その公式アドレスへ、我々の全肯定の意志を届けることだ。速水、お前が文章を書け。ドラコン界を代表して、最上級の敬意と、最高条件の提案を盛り込んだ正式なオファーメールを作成するんだ」
「分かりました」
速水は深く頷くと、スマホで入力を始めた。ドラコンプロでありながら、大学でスポーツマネジメントを学んだ彼の文章力は確かだった。
『件名:【未来の世界王者へ】如月由依様、及び御殿場中学ゴルフ部公式窓口様。我々はあなたの直線を全肯定します。年間一千万円規模のスポンサードおよび専用ギア共同開発のご提案』
『本文:突然のご連絡、失礼いたします。私たちは、日本プロドラコン協会に所属する、あなたの一撃に魂を揺さぶられた者たちです。
先日のヤマハCUPでのリザルトを拝見いたしました。世間の近視眼的なメディアや競技ゴルフ界は、スコアの数字だけを見て、あなたの才能を測りかねているようですが、私たちは違います。
あの1番ホールであなたが放った、ヘッドスピード64m/s、ミート率1.5のスティンガーショット。あれこそは、世界の頂点を撃ち抜く破壊の直線です。
スコアなどというちっぽけな概念に縛られる必要はありません。あなたには、誰も到達したことのない400ヤードの彼方へ、白球を解き放つ権利があります。
つきましては、私たちの総力を挙げて、以下の条件を提示したく――』
「よし、完璧だ。送信しろ!」
大河内のゴーサインが出て、速水は送信ボタンをタップした。
「ふぅ……これで、未来の女王への第一歩は踏み出せたな」
米田社長が満足そうにビールを飲み干した。
「今頃、御殿場の部室かどこかで、これを見た奴らが腰を抜かしているに違いないぞ。大変だよ! ドラコン界から凄いオファーが来ちゃった! ってな、ハハハ!」
「間違いないですね。普通のゴルフ界から冷たくされている時期だからこそ、この全肯定は彼女たちの心に刺さるはずです」
速水も自信ありげに微笑んだ。
大男たちは、自分たちの熱いパッションが、傷ついた少女たちの救いになると信じて疑わなかった。
---
――同じ頃。
静岡県御殿場市、如月由依の自宅の部屋。
「あ、紡ちゃん。なんか……スマホに凄く熱苦しいタイトルのメールが届いてるよ?」
パターを脇に抱えた由依が、手元のスマートフォンの画面を見つめたまま、不思議そうに小首を傾げた。共有アドレスの通知機能で、彼女の端末にも件名だけが表示されたらしい。
「ん? ちょっと待って」
ベッドの端に座っていた紡が自身の端末から新着メールを開く。画面に表示されたのは、異様な熱量を放つ長文のテキストだった。
『件名:【未来の世界王者へ】如月由依様、及び御殿場中学ゴルフ部公式窓口様。我々はあなたの直線を全肯定します。年間一千万円規模のスポンサードおよび専用ギア共同開発のご提案』
「うわ……何これ」
紡は思わず眉をひそめ、内容をすばやくスクロールした。 文面にはヘッドスピード64m/sのスティンガーだの、47.5インチのレヴァイアサンだの、脳筋染みたゴルフ用語がこれでもかと書き連ねられている。
ただ、マネージャーとしての紡の目が捉えたのは、それが単なるイタズラではないという事実だった。年間一千万円規模のスポンサード、アメリカ遠征の全額支援といった、数字の面だけを見れば、ガチの公式オファーとしての具体的な条件が、大真面目に記載されているのだ。
「内容は一応ちゃんとしてるっぽいけど……スコアなどというちっぽけな概念に縛られる必要はありませんって、ウチらが今必死にやってる普通のゴルフを全否定じゃん」
紡は小さくため息をついた。 普通のゴルフで大叩きして、悔しくて、それを克服するために前を向いて必死に未熟な自分と戦おうとしている由依の姿を、紡は一番近くで見ている。
スコアなんて知るか! うちに来て毎日筋肉を鍛えて球をしばき倒そう! などという大人の勝手な誘いは、今の由依にとって有害なノイズでしかなかった。
「ねえ紡ちゃん、それって……?」
不安そうに覗き込んでくる由依に対し、紡はパッといつもの快活な笑顔を作ってスマホを胸元に隠した。
「うん、中身は一応ちゃんとしたビジネスオファーなんだけどね。でも、由依が今一番やりたいこととは、ぜんっぜん方向性が違う、ドラコン関係のやつ! だから、ウチが完璧に処理しておくからさ。由依は何も気にしないで、ゴルフの練習に集中しなよ!」
「ふふ、そっか。ありがとう、紡ちゃん」
由依は全幅の信頼を寄せるように嬉しそうに微笑むと、再びパターマットへと向き直り、球を転がし始めた。
そのひたむきな背中を見つめながら、紡は冷徹に画面をスワイプする。由依の意志を尊重するマネージャーとして、怪しい大人の雑音に親友の心をかき乱させるわけにはいかない。
「いくら条件がまともでも、中身がこれじゃただの有害ノイズだし! はい、この熱苦しいドラコンメールは……とりあえず隔離フォルダにポイ、だし!」
ピコン、という軽い電子音と共に届いた、新橋の大男たちが魂を込めて作成した最高条件のスカウトメールは、由依の心を一切乱すことなく、有能な女子中学生マネージャーの手によって静かに隔離フォルダへと仕分けされていくのだった。
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再び、新橋のホルモン焼き屋『豪打』。
「よーし! 見ろよ、メールを送信してから十分、まだエラーで返ってきてねえ! ということは、向こうに無事届いたってことだ!」
米田社長が、すでに由依をスカウトできたかのように上機嫌でジョッキを掲げた。
「ふっ……僕の書いた完璧な条件のプレゼンだ。いくら意固地な競技ゴルフ派の周囲が引き留めようとも、中学生の彼女たちの心を動かすには十分でしょう」
速水も、スマートにウーロン茶を口にする。
だが――さっきまで「送信しろ!」と誰よりもノリノリで吠えていたはずの大河内は、メールが実際に送信されたのを見届けた瞬間、まるで熱された鉄が冷水に浸けられたかのように、その場の悪ノリから急にトーンダウンしていた。さっきまでの喧騒が嘘のようにふっといつもの険しい顔に戻ると、重々しく腕を組んだまま、静かに網の上のホルモンを見つめ始める。
「……いや、だがそう簡単にいくかは分からんぞ」
「え? 大河内さん、弱気ですか?」
速水がその急激な温度差に意外そうな顔をすると、大河内はふっと目を細め、スマートフォンに映し出された公式アカウントの普段の練習動画に視線を落とした。そこには、黙々と、寸分の狂いもないストイックなスイングを繰り返す由依の姿があった。
「弱気なわけがあるか。……米田、お前から聞いた1番ホールの話、そしてこの練習動画での一挙手一投足を見ての、俺の勝手な想像だがな」
大河内は画面の中で鋭い打球を放つ少女をじっと見つめる。
「初めての公式戦、ツアープロでも音を上げる葛城の爆風。普通のジュニアなら風にビビって置きにいくか、曲がるのを怖がってスイングが縮こまる。だが、彼女は風なんかハナから無視して、あのイカついクランクのドライバーを迷わずマン振りした。要するに、風ごときに自分の直線をねじ曲げられるのが我慢ならなかったのさ。……105という大叩きはな、小細工を一切拒否して、己の弾道を貫き通した誇り高き爆死の跡だ!」
「いや、大河内さん……それはさすがに都合よく解釈しすぎというか、ただ単にマネジメント不足でトラブルショットを連発しただけじゃ……」
理論派の速水が苦笑しながらツッコミを入れるが、大河内の暴走するロマンチシズムは止まらない。
「バカ言え! あのスイングのどこに迷いがある!? 彼女は名門コースの罠にボコボコに叩きのめされながらも、普通のゴルフという枠組みの中で、自分の大砲がどこまで通用するかを冷徹に試していたんだ。世間にどれだけ大叩きと笑われようが、あの直線だけは絶対に捨てねえ……だとすれば、本物の怪物の卵だ」
大河内はジョッキをテーブルに置くと、不敵に笑った。
「あの105という数字に絶望するどころか、むしろ面白いとばかりに、我々のドラコンへの誘いを一蹴して普通のゴルフにしがみつき、牙を研ぐことを選ぶというのなら――それもまた、最高にゾクゾクするじゃねえか。世間が彼女をどう評価しようと、あのヘッドスピード64m/s、ミート率1.5という物理的事実がある限り、彼女は俺たちの光だ。彼女がこれからどれだけ苦悩しようが、あるいはいつか世界の頂点に立とうが、俺たちドラコン界は、一貫してあの直線の大砲を全肯定し、応援し続けるだけの話よ!」
「……まあ、確かに。あの年齢で8TXを完璧にしならせる時点で、理屈じゃない領域にいますからね。スコアなんて知るか! 彼女の飛距離こそが、僕たちのロマンだ!」
速水も結局その熱量に押し切られて目を輝かせ、米田がジョッキを叩きつける。
「おい、大将! 肉だ! 一番分厚いハラミを持ってきてくれ! 未来の世界王者の、これからの進化に乾杯するぞぉ!!」
新橋の煙る夜の片隅で、丸太のような腕を持つ大男たちは、自分たちの熱いプロポーズが女子中学生マネージャーに熱苦しい、の一言でスルーされていることなど露知らず、まだ見ぬ怪物の未来に胸を躍らせ、むさ苦しくも純粋な歓声を爆発させ続けるのだった。