帝国地上軍第433歩兵師団の兵士達は酸性雨に打たれながら、バクテリアだらけの塹壕で敵と対峙していた。緑色のヘルメットやアーマーは塗装が剥がれ、支給されたライフルは動作不良が頻繁するほどガタがきている。忌々しい惑星シールドのせいで、空からの補給は僅かであり、陸からの支援も各地に潜伏するパルチザンによって途絶えがちだ。帝国とその支持者達は確実に敵を追い込んではいるものの、そうとは思えないほど前線は疲弊していた。
ここにストームトルーパーが一個大隊でもいて、AT-STやAT-ATが揃っていれば状況は違っていただろうが、生憎この戦場には哀れな地上軍トルーパーと惑星政府軍の兵士や民兵しかいない。毎日の様に重砲の砲撃が大地を揺らし、突撃隊が塹壕から飛び出して敵陣に向かっていくが、大した効果はなかった。塹壕に戻ってくる兵士の数は出ていった時よりも明らかに少なく、その表情は悲惨そのものだった。
攻撃が失敗に終わると、おぞましい雄叫びと共にエイリアン達が突撃してくる。ブラスター・ボルトの激しい弾幕が地を這うように進み、砲撃の至近弾で巻き上げられた土が兵士達のヘルメットに降り注ぐ。
攻撃に失敗し、守勢に回り、陣地を守りきり、攻撃する。両軍はこのサイクルで疲弊し、前線は膠着状態であった。帝国が帝国の日に動員する戦力の一部でも回してくれたら、この紛争はとっくに終わっている。
脚や腕を失った同志たちに混じって、クラリオは塹壕に戻ってきた。突撃は後続が出撃するまでもない完全な失敗だった。敵陣に辿り着く前に仲間達は弾幕にやられ、砲撃や地雷で吹き飛んだ。退却を支援する煙幕砲撃が始まるまで、クラリオは砲弾穴に籠り、制圧射撃に圧倒されていた。
地獄から戻ったクラリオは疲弊しきった体に糧食を突っ込み、次に備えて体を休めた。敵が攻めてくるときには必ず予兆がある。今頃、敵は砲兵に砲撃を準備させ、第一線の塹壕に攻撃部隊を集結させているだろう。それを乗り切れば今日は終わりだ。最初の砲撃が始まるまで地面に座り込んでいてもバチは当たらないだろう。
三十人の小隊は十人ほど、八人いた分隊は三人しか残ってない。随分と頭数が減ったものだ。クラリオの分隊で生き残っているのはミーゴ、ヤスル、ソフィア。射撃が上手いヘンリケは砲撃でミンチになり、ルーキーのカースとロンは実戦をろくに経験しないまま後方送りになった。よほどの悪運の持ち主でない限り、そのままコアワールドの故郷に戻されるだろう。
「昨日の勝利がこれでパァだ」
ミーゴはクラリオの隣にへたり込む。無精髭のこの男はクラリオの腹心の部下で、ミンバン戦線の経験者だ。
「ひでぇもんです。一体いつまでこんな事続けるんでしょう?」
「さぁな」
「ヘンリケも死んじまって、ルーキーもバクタ送り。やってられませんよ。ずっと塹壕にこもってりゃいいのに。そうすりゃ、敵さんから突っ込んできてくれる。わざわざこっちから出る必要なんてないですよ。そうじゃないです?」
「将軍に言えよ」クラリオは空になったパッケージを投げ捨てた。「お前の意見なら喜んで聞いてくれるさ」
鼻で笑うミーゴ。
砲撃が大地を揺らし始めた。敵の反撃が近い。
クラリオはプラズマセルをライフルに装填し、立ち上がる。
「ヤスルとソフィアを呼んでこい」
「……りょーかい」
「配置につけ」
兵士達は塹壕に張り付き、ライフルを構える。先ほどまでのけたたましい砲撃音は嘘みたいに静まり返り、戦場は不気味なほど静かだった。
兵員輸送ビークルから降りたばかりの新兵コレバンは、所属する部隊がどこにいるのか分からぬまま防衛戦に駆り出されていた。その装備は新品で、ライフルもアーマーもピカピカしている。
一体我々は何を待ち構えているのか? こんなに静かなのに攻撃など本当にあるのだろうか?
その疑問は直ぐに吹き飛んだ。
雄叫びと共に敵の大群が突撃してきたのだ。
獣の咆哮とも、機械の警報とも違う。喉の奥から無理やり絞り出したような、不快で耳障りな叫びが戦場全体に響き渡る。
砲撃でえぐられた無人地帯の奥から、無数の影が現れる。
トカゲのような顔と鱗。それが対峙している敵の姿だ。
「来たぞ!」
誰かが叫んだ。
「撃てッ!」
次の瞬間、帝国軍の防衛線が一斉に火を吹いた。
赤いブラスター・ボルトが雨を切り裂く。
先頭を走っていたエイリアンが吹き飛んだ。
胸部を撃ち抜かれた個体が泥の中へ倒れ込み、その後ろの仲間が踏み越えていく。
殺到する敵。
コレバンはブラスターを乱射した。
一発。
二発。
三発。
当たっているかは分からない。
「おいルーキー。地面に当たってるぞ。よく狙って撃て」
コレバンのヘルメットを叩く長身の男。その男は照準器を覗き込み、敵を次々に葬っている。
ルーキーは言われた通りに照準器を覗き込み、よく狙う。
当たった。と感じたが、命中したと思った相手はそのまま前進し、膝をついて数発撃ってきた。
照準器の調整をし、また覗き込む。
「早く撃て、新米」
先ほどとは逆側から声がした。
「とりあえず撃ちまくるんだ」
銃身が焼き切れるのではないかというほど、ライフルを乱射する無精髭の兵士。彼はセルの残りを撃ち尽くした後、デトネーターを投げ込んだ。
デトネーターは砲弾穴に入り、中にいた敵を焼き尽くした。
「ざまぁねぇな」
男は自分が予備の弾薬を持っていないことに気がつくと、コレバンの弾倉ポーチからセルを抜き取った。
「借りるぞ」
コレバンの言葉を聞く前に、彼はライフルにセルを装填し「クソったれのエイリアン共!!」と弾幕を張った。
敵の突撃は塹壕からの激しい弾幕によって粉砕され、勢いを失った敵は砲弾穴や仲間の死体の陰に隠れている。そして敵に動きがなくなったとき、帝国軍の砲兵隊による効力射が始まった。
塹壕の中にまで到達していた者もいたが、砲撃が本格化し、部隊が壊滅すると、敵は背中を帝国軍兵士に見せ、自陣へと逃げ帰っていく。
戦闘が終わる頃には両軍の間の無人地帯にできた砲弾穴は増え、その場に倒れ込む死体の数も多くなっていた。