【完結】 『大切な人を救うために死に戻る能力』 作:破れ綴じ
⇒独白は多ければ多い方がいいと思っている。
⇒必然的に考える量が増える主人公になる。
⇒できるだけ論理的な内容にしようと思うようになる。
⇒主人公が勝手に頭良さげ寄りの設定になる。
次回作以降の差別化ができるかどうか不安です……(´;ω;`)
どうして。
どうして、こんなことになってしまったのか。
「うぇ、瀬尾少年~……水ぅ……」
「なんでこんなになるまで飲んだんですか……」
今日は店が設備点検で臨時休業だった。
華金で、しかも結構な人数の手が空いているからと、店長がバイトを引き連れ夕食に誘ってくれた……そこまでは良かったんだ。そこまではいつも通りだし、店長含め二十歳を過ぎている人達が少しずつ酒を飲み始めたのも普段と変わらない光景だった。そのはずだった。
なのに、店長の愚痴が始まるや否や、空気は変わってしまった。
愚痴の内容は……「婚活に苦戦している」だったか。本人の家事能力が壊滅的なのと、思うように時間が取れない仕事の忙しさが最悪のマッチングを果たし、全敗なのだと。
店長の愚痴の中でも定番のネタの一つだったし、僕もよく聞かされていた。
しかし、今日のそれはいつもと激しさが一段違っていた。
特段酷いフラれかたでもしたのか、普段の尊敬できる大人としての威厳は早々に崩れ去り、店長の酒癖の悪さを知る他の面子は嫌な予感がしたのか次々に撤退。
最終的に残ったのは、酒を飲んだことが無いから基準が分からず、なおかつ「瀬尾少年は私を置いて行かないよね?」と圧をかけられて、仕方なく同席した僕だけ……。
それでも別に良かった。
愚痴の最中に逃げるというのも不義理だと思っていたし、もう18歳だから青少年保護育成条例の対象外だし。母さんにも「今日は遅くなるから先に寝ていて」と連絡済み。
二十歳になっていない僕に酒を無理に飲ませようとする人でもないし、明日は休みなんだからせっかくだしここで存分に鬱憤を晴らしてもらおうと思って。
思って……。
それで、行きついた先が……。
「ぶはっ……瀬尾少年とラブホとか……ウケる……」
「笑い事じゃないでしょう……」
「けっ……どいつもこいつもさぁ……『家庭的な人がいい』だってさぁ……」
……よりにもよって、ラブホテルとは。
「どうして今日に限って住所が分かるものを持ってないんですか」
「飲みだから運転はしないし……時代は電子決済でしょうがよ~」
「だからって、財布ぐらい持って出るでしょう」
「……瀬尾少年は今の私見て、財布落とさないと思ってんだ?」
絶対落とすと思う。
しまった論破されてしまった。
でも「自力で帰れますよね?」と聞いて、「ん? 帰れないよ? 何言ってんの?」と返された時の絶望を店長にも理解してほしい。相手の男性のお眼鏡に適わなかったことは同情するが、ここまで潰れるとなると話は別だ。
住所が曖昧になるほど酔っているなら事前に言ってほしかったし、こんな様子じゃタクシーで送ってもらうことすらできない。先に帰った薄情者達に連絡入れても、「潰れた時いつもは店の事務所で寝かせてる」「家については知らない」「ごめんね瀬尾くん!」とか言われるし……今日は店が閉まってるんだって。
もし無事に家に帰れたとしても、この泥酔っぷりで一人にさせるというのも不安が残るし……誰か見守る人が必要だ。こういう介抱が大変になるから他の人は逃げたのだとよく分かる。
とはいえ、僕はこの人を尊敬しているんだ。
僕に倫理観や正義を説き、人間として成長させてくれたのが母さんだとすれば……そこに礼節やらマナーやらを叩き込んでくれたのは店長だった。母さんがシングルマザーで、CKDのこともあって苦労していることを知ってからか、この人は甲斐甲斐しく世話を焼いてくれた。
面倒見の良い人で、そんな恩ある人を路肩に放置したまま帰るなんて僕にはできない。
……だからこそ、尊敬している大人の女性の、こんな姿は見たくなかったが。
女性って、フラれるのはそこまでのショックなのだろうか。それとも、店長という立場がそこまでストレスの溜まるものなのだろうか。とはいえ、この現状を擁護する気にはなれないが。
「瀬尾少年~、ここの使い方分かる~?」
「当たり前でしょう。それ以上はセクハラになりますよ」
「へぇ~知ってんだ~……遂に彼女とかできた?」
「いません。作る時には、許可を取らなければならない相手ができたので」
「なにそれ重……」
……しかし、考えてみると、ラブホテルというのは案外合理的だ。
用途は常識として当然知っているが、どう使うか決めるのは利用者。別に、用途の通りに使わなければ即追い出されるという訳でもないだろう。
18歳以上であれば利用に何の問題も無いし、法律的にもセーフ。ベッドも水も、いざとなればものを流す設備だって万全に整っていて、おまけに料金も安く、遅い時間からでも入れると来た。
……こんな形で初めて利用することになるとは思わなかったが。
明日店長の目が覚めたら、コンビニで買ってきた味噌汁と頭痛薬を渡して……その後にお説教だ。これからはもう少しお酒を控えましょうと釘を刺しておき、店長が住所を思い出せたら、それをメモに書き留めてタクシーで帰らせる。
次同じことをするようなら……まあ、結局同じ対応をしてしまうだろうが。
僕の言葉を無視した訳だし、僕からの店長に対する好感度は少し下がるだろうな。
この人をフった男性も同じような気持ちだったんだろうか。
おお、だんだん同情できなくなってきた……。
「ほら、横を向いてください。吐いた時に喉に詰まると危ないので」
「……瀬尾少年は、やっさしいねぇ……」
「貴女だからここまでするんですよ。ほら、横になれますか?」
「ん~……」
強いて問題を挙げるなら、ここに出入りするところを知り合いに見られた場合だ。
事情を知らない人間が見れば、誤解されても仕方のない場所ではある。
だが、入ったのは夜の11時過ぎ、駅裏の路地だ。知り合いと鉢合わせる確率は限りなく低い。出る時も、朝早いうちに済ませてしまえばいい。知り合いの家は……近くにあったかもしれないが。
まあ、何とかなるだろう。
*
──「ほら店長! ふらふらしないでください。まだお説教してほしいんですか」
──「店長店長店長って……名前で呼べよ名前で~。店の外なら仕事じゃないんだし、私には葛城カエデって立派な名前が……」
──「カエデさん。これでいいですか、店長」
──「そういうところだぞ瀬尾少年」
「……あれ~? あれってお気に入りちゃん?」
「……と、どこのどなたさんかな~? えっちホテルから出てきてるけど……」
「お気に入りちゃん、おイタはいけないね~。ちゃんと説明しなきゃだよ~……」
*
「マコトさん?」
「マコっち?」
「マコトくん!」
「……マコト」
どうして。
どうして、こんなことになってしまったのか。
さっきまで、僕はただ店長をタクシーで家まで送りだして、さあ帰ろうというところだったはずだ。あまり眠れてもいないし、いくら連絡しているとはいえ母さんもアラタも心配しているだろうから早く帰ろうと。
なのに、セイラから連絡が来て、「行きつけのカラオケに、今すぐ来て」なんて言われてしまって。緊急の用事かと思って、急いで指定された部屋に入って……。
……そしたら、部屋の中にノドカとミオとカリンとセイラがいて。
なんか拘束されて。
入口塞がれて。
……どういうこと?
「空気の読めない発言をして悪いんだが、母さんに連絡だけ入れていいか」
「読めてないですね。構いませんが」
「はいどーぞ。何言うの? 辞世の句?」
「いや、ただ帰りが少し遅くなると」
「へー。少しで済むと思ってるんだ!」
辞世の句。
辞世の句って。
せっかくのカラオケボックスだというのに、誰もマイクを持っていないし、曲を入れてすらいない。何故だか分からないが、ノドカとミオとカリンは相当ご立腹みたいだ。
ただの伝言を遺言代わりか何かだと思い込んでいるあたり、一瞬でも、僕を生きて帰さないところまで考えかけたのだろうか。能力の都合上セイラがそれを容認するはずが無いが……そこまでの失態をした心当たりは無い。
というか、セイラが落ち着いた様子なのも正直謎だ。
連絡をしたのは彼女だし、だからこそ異常事態だと思って僕も急いだのに。何か気になること自体はあるものの、他三人と違ってそれに怒っている様子を見せている訳でもない……。
……じゃあ、つまりあれか? セイラはこの三人に頼まれて、僕を迅速に召喚するために連絡したのか? 全員の様子から見るに、おそらく怒っている内容は共有のもので……。
……何だ?
僕は何をした?
1. 勉強会の日を間違えた。
次の勉強会はまだ先だ。今日ではない。
2. 誰かの誕生日を忘れていた。
四人とも誕生日は把握している。今日は誰の誕生日でもない。
3. WPPOからの招集があったが無視をした。
そんな訳がない。それならどうしてミオとカリンも怒っているのか。
4. 家庭教師を無断でサボった。
そんな訳がない。それならどうしてノドカとミオも怒っているのか。
5. 勝手に恋人を作った。
そんな訳がない。それならどうしてノドカとカリンも怒っているのか。
……そもそも僕にそんな感情を向けているのはミオだけだ。放っておいても勝手に恋人ができることはあり得ない。
……何も思い当たらない。
この三人が激怒し、セイラは怒らないにしても詳細を知りたがるような……そんな共通のトピックなんて。
「被告人、マコトくん」
「はい」
「今朝、有力な協力者からタレコミがあったんだケド」
「きょ、協力者」
「はい。それが無視できない内容だったということで」
「そんな、僕は間違ったことなんて何も……」
「美人な大人のお姉さんと、さ」
「マコトさんに、下の名前で呼ばれながら……」
「全身ぴーったりくっつけて!」
「ラブホテルから出てきた……でしょ、マコト?」
……え?
「ま、待ってくれ。どうしてそれを知ってるんだ」
「否定しないんだ……やっぱり!」
「……っ! いや、その……」
「ふーん。マコっちはもっと大人っぽい方が好みなんだ」
「名前呼びって、結構すぐに解禁されるんですね……」
な、なるほど。
分かった、分かってしまった……一部だけではあるが。
確かに、誤解されやすそうな状況ではあった。ラブホテルに入ってしまった時点で、知り合いに見られたらマズい状況ではあると理解してはいたんだ。
しかし、まさかここまでとは。
今列挙された情報も、よくよく考えてみればそうだ。僕は最悪、見られてしまっても事情を説明すれば何とかなるかと思っていたが……冷静に俯瞰すれば相当危険な状況だった。
店長は美人だ。内面に目を瞑れば、誰が見てもそう思うだろう。
体をぴったりくっつけていたのは、ふらついていたのを支えていたからだ。
名前を呼んだのは、店の外ならそう呼べと冗談めいて言われたからだ。
ラブホテルから出てきたのは……緊急の処置だった。
全て合っている。しかし、やましい意図は何一つない。
しかし、これらが全て重なれば……事情を知らない人が見れば間違いなく勘違いされる。というか、どうしようもなく最悪の方向へと勘違いされてしまう。
だからだ。
カリンは、自分の家庭教師が不埒な行為をしているのではないかと憤慨し。
ノドカは、名前呼びという特権を簡単に手に入れられるのではと悔しがり。
セイラは、唯一の協力者が一体何をしているのか、と少しだけ興味を持ち。
ミオは、その……僕のことが、好き、だから、ちょっと嫌な気分になった。
そういうこと……だったんだ。
僕は、もし知り合いがその状況を見ていればきっと話しかけてくるだろうと……そして、誰にも話しかけられなかったから何も問題は無かったと、一旦はそう理解していた。
しかし、何故だか全員がこのことを知っている。
この反応だと、実際に現場を見ればいてもたってもいられず僕に突っかかって来るはず……それをしなかったということは、この全員に共通する知り合いが、意図的にこの話を言いふらしたということ。
……つまり、おそらく。
「三好ルナに、見られていたのか」
「ふーん。そこまで分かってるんだ」
「……当たりみたいだな」
今思い返せば、確かあの辺りは……三好ルナの家の近くだった。
三好ルナは僕に「三人に手を出すな」と圧をかけている立場だ。
僕に話しかければ即座に真相を理解できただろうが、「すっごく勘違いされやすそうな行動をしてたけど、別にお気に入りちゃんは悪くないから皆には黙っておくね~」なんて温情をかける義理も無い。
だから知り合いであるセイラ、ミオ、ノドカの三人にこの目撃情報を送りつけ、三人に詰めてもらうことにした。どうせ嘘を吐けば三好ルナの能力で後々バレるし、彼女は余計な労力を挟むことなく真相を全員に共有しようとしたんだ。カリンがここにいるのは、セイラ伝手にその情報を知ったからだろう。
それに、情報源が三好ルナだとすれば他の謎にも説明がつく。
セイラは昔「緊急時に連絡できないのは面倒だからバイト先を教えろ」と、ミオはただ単純に遊びにくる目的で、そしてノドカは鳩を捕まえるためにそれぞれ店を訪れていた。もしあの光景を見ていたなら、相手は行きずりの誰かではなく知り合いの店長であると即座に理解できていたはずだ。
しかし、今は「美人な大人のお姉さん」と呼称した。何故か?
それは、目撃者の三好ルナがお金持ちで、あの店に来たことが無いからだ。
だから、隣にいた人物を「事情のありそうな知り合い」ではなく、「見たことのない謎の女性」と判断して、報告した。そして、「美人な大人のお姉さん」の情報しか受け取らなかった三名は、それぞれ「そういうこと」だと誤解するに至ったんだ。
「お姉ちゃんというものがありながら! マコトくん! 浮気だよこれ!」
「不埒です! そんな、大学生になってすぐハメを外すような人だったなんて……」
「マコっちさぁ……もしかして誰とでもすぐホテル行く人? ウチびっくりしたんだけど」
「待ってくれ、最初から説明させてくれ」
「いいよマコト。ほら、言ってみて?」
「あ、ありがとうセイラ。他の皆も、いいな?」
つまり、ここの面子はあの場にいたもう一人が店長だということを知らない。
もしあれが知り合いだと分かれば、まず敵意が少し和らぐはずだ。まるで知らない赤の他人なら弁解の余地は無いが、知り合いだったなら「事情があったのかも」と考える余裕が生まれる。
その後、昨日のグループの会話履歴を見せればいい。そうすれば店長が泥酔していたこと、家の場所が分からなかったこと、僕以外対応できる人間がいなかったことを証明できる。
そうなれば、あの日の行為に問題は無かったと、証明できる。
誤解されたままだなんて、そんなの御免だ。
行くぞ瀬尾マコト。油断するなよ。
皆と良好な関係を保つため、僕は絶対に発言を間違えてはいけない!
「昨日、店長がバイトを何人か夕食に誘ってくれたんだ」
「……それが何なんですかね」
「だが、店長が泥酔し、他の皆も帰って残ったのは僕一人だけになった」
「……へー! 二人きりだったんだね!」
「い、色々あって店長の家が分からず、一人にする訳にもいかなくて」
「……ふゥん? それでそれで?」
「近くて、安くて、空いている、あのホテルなら……面倒を見られるだろう、と」
「……」
「え、何今の? 何の証明になったの?」
えっ。
「ね。それっぽい言い訳って感じー」
ちょっ。
「一番気になる部分の説明が無いんですが」
そんな。
か、会話履歴を見せる隙すら……。
「ふふ。だって、マコト。何て説明するの?」
逆に何で君はそこまで余裕なんだよ。
「そもそも、私とマコトさんであればそういうホテルに行くこともあり得ますが、今のマコトさんには警戒心というものが足りていなくてですね──」
……ん?
「えっ?」
「へっ?」
「はっ?」
「……あ、あれ。私……変なこと言いましたか?」
「いや……おかしいだろう。何で君と僕なら、あり得ると?」
「……? マコトさんが指示を受けて現地調査に行く場合は私も護衛として──」
「──守秘義務ッ!」
「きゃん!?」
ななななな何言ってるんだこのポンコツは!
勢いに任せてとんでもないこと言おうとしてなかったか!?
確かに、僕はWPPOの非常勤の協力員だ。
指示を受ければ少し離れたところへ移動して、調査を行うことがあるかもしれない。その場合、予定が空いているなら専属の護衛であるノドカが付いてくるだろう。
ホテルまで同じ部屋になるかどうかは分からないが、同じホテルに泊まることはおそらく事実だ。
だが、それを今言うか!?
ラブホテルと任務で滞在するホテルは全くの別物だろう。今の会話に何も繋がっていないし、それを主張したところで何になるって言うんだ。確かに、護衛対象が知らない相手とホテルに泊まっている状況は危険かもしれないが、だからといって堂々とWPPOのことを話そうとしては本末転倒だろう。
僕を責めるために何か言おうと思ったのは分かるが、どうしてよりにもよって一番喋ってはいけない内容を口にした。変な対抗意識でも芽生えたのか?
「だ、だって私の方がマコトさんに近……あっこれは喋ってはいけない内容でした!」
「……喋っちゃダメって何? 何の話?」
「マコトくん? 何か秘密にしてるの?」
「……マコト?」
「……ぐっ!」
まずい。
これは、本当にまずい。
ノドカ、頼むからもう何も言わないでくれ。
君は今、「喋ってはいけない内容」があると自分の口で宣言したんだぞ。ここで慌てて「いえ、大したことでは」なんて付け足せば、大したことだと白状するのと変わらない。
かといって、僕が代わりに上手く取り繕えるかと言えば……今からではもう無理だ。「バイトの話だ」は嘘になる。「ノドカの冗談だ」も嘘になる。「何も無い」は論外だ。WPPOに触れず、それでいて嘘にもならない言い方を探しているのに、一つも出てこない。母さんのことなら何時間でも喋れるのに、どうしてこういう時に限って何も出てこな……。
……いや、待て。
そもそも、三人の耳に今のはどう聞こえた?
ホテルの話の真っ最中に、僕とノドカの間にだけ、人に言えない何かがあると分かった。
……それは、どう考えても「そういう」秘密に聞こえるんじゃないか。
店長の件は何一つ片付いていない。なのに、相手がもう一人増えたことになっている。
しかも今度は、この部屋にいる本人だ。
そういう意味では、WPPOについては何も勘付かれずに済んだということなのでは。
代わりに、誤解が一つ増えたことになりはするが……。
……じゃあどっちにしろ駄目じゃないか!
「……さてはマコトくん、ノドカちゃんとエッ──」
「してない、してないぞ」
「へー? 否定が早かったね。本当かな~……?」
「流石に君がマセすぎているだけだ」
「……マコっち」
「ウチ、告白までしたのに……そうなんだ。約束、破っちゃうんだ」
……ん?
「……?」
「えっ?」
「はっ?」
「ちが、違う、ミオ。何を……」
「ウチのこと抱いて寝た癖に……他の女の子にも手ぇ出しちゃうんだ。男の子として好きって言ったのに、すぐこれなんだ。許可なく恋人作らないでって……約束、したのに……」
「待って待って待ってミオちゃん!?」
「きっ、桐島さん! それはどういう……!」
な、なんか状況がさらにカオスなことになっているような。
ノドカがとんでもない情報を暴露したかと思ったら、ミオがそれを上回るカミングアウトをぶちまけて……おかげでWPPOのことからは意識を逸らせそうなのが幸いだが。
確かに、僕はソウルでミオを抱いて寝た。凄く語弊のある言い方だが。
そして、告白を受け、「ミオの許可なく恋人を作らない」というお願いを引き受けた。
実際に店長とは何も無かったし、もし恋人関係になりそうであれば真夜中であったとしてもミオに電話していただろう。そして、ミオが拒否することも承知して、絶対に手を出さずにいたはずだ。
だから、ミオとの約束を破った訳ではない。
しかし、ミオがどう思うか。
僕がどう勘違いさせてしまったか。
これは、約束を破った破ってないに関係しない。
軽い気持ちで誰かと付き合わないことを信じて、許可の約束だけで待つと決めた彼女に対し……僕は他の女性とラブホテルに行っていた。
「ミオ、すまない。謝らせてくれ。誤解させるような真似をして申し訳なかった」
「マコっち……うぅん、ウチも、なんか、つい感情的になっちゃって……」
「本当に、してないんだ。でも、君が悲しむのを見るのは辛い。ごめん」
「マコっち……♡」
良かった、ミオは少しだけ落ち着いてくれた。
やはり誠実に謝ったのが……いや、自惚れるな。これは惚れた相手だからちょっと基準が緩くなってしまっているだけだ。なんかそっちの方が自惚れてる気がするが。
ただ何より、僕は、僕のことを想ってくれているミオに対し、配慮が足りていなかった。
こんな僕を、そ、その、す……好きで、いてくれていると、いうのに。なのに、僕は誤解されるような言動を取ったんだ。それを謝らないで済ませていい訳が無い。
誰にも何にも言わずホテルや家で休ませるというのは駄目だ。あの時僕がすべきだったのは酒を控えるように店長に進言すること、そして二人きりになった時点でミオに報告をすることだったんだ。
あれ? それって既に付き合ってる人間の関係性では……。
「待ってください? なんで二人で良い感じの雰囲気になってるんですか?」
「お姉ちゃんヤバいよ? なんか知らない間にミオちゃんめっちゃ進んでるよ?」
「う、うん。ちょっと私もびっくりしたかも……」
……あ、あれ。
ミオは収まったが……なんか、余計にややこしいことに。
僕としては、ミオを不安にさせたことへの謝罪のつもりだった。だが、ミオの「抱いて寝た」という語弊のある言い方を一切否定せず謝罪した……それを聞いた直後の皆には、どう聞こえた?
……ミオに対して、謝らなければいけない立場の男。つまり、ミオとはもうそういう仲で、その上で他の女性に手を出したことを詫びている男に聞こえたんじゃないか。
店長とラブホテルから出てきた。
ノドカとは二人だけの言えない秘密がある。
そして、ミオとは同じベッドで寝た上で、謝らなければいけない関係にある。
……誤解が三重になってないか?
かといって、どれも訂正のしようが無い。
ノドカとのことは、WPPOに触れずには説明できない。
ミオとのことは、ミオが自分で話したこと以上を、僕が付け足していいはずがない。
ソウルの夜のことを僕の口から細かく話すなんて、それこそミオに対して最低だ。
それにカリンがいる。未成年の教え子の前で、これ以上何をどう話せと……。
「まあでも、マコトは何もやましいことしてないんでしょ。ね?」
……ん?
「……?」
「えっ?」
「へっ?」
「この中じゃ私が一番マコトといるんだし、マコトが嘘つけないこととか、困ってる人を無視できないこととか……鈍くてデリカシーが無いこととか、分かってるから」
「……セイラ」
「なに? 違った?」
「いや……違わない」
……そうだ、何も違わない。
僕は嘘をつきたいと思ってもつけないし、「人のこと助けなきゃ気が済まないでしょ」と尋ねられてその通りと返した人間だ。デリカシーが無いことも、ミオとの旅行や今日の一件を経てこれでもかと突き付けられた。
そして、セイラも2年以上にわたる協力関係で、それを深く理解した。
僕がルールには厳格なことも、ルールの上では柔軟なことも、何を差し置いても母さんを優先することだって嫌というほど思い知ったはずだ。だからこそ、僕がそういったことをする人間ではないと信じ、こうして庇ってくれた……。
「皆も、本当は分かってるでしょ? マコトが嘘ついてまでエッチしたこと誤魔化したりしないって。本当に人助けだけが目的なんだって」
「……うん。マコっちが、嘘つかないのは、知ってる」
「わ、私も、それは存じてます……」
「でも、女の子としてちょっと傷ついたから、事情を聞いた後でも文句言いたくなったんでしょ?」
「えっいや私はそういうのではなくてマコトさんの身の安全を守りたくて──」
「はいはい素直になれないノドカちゃんは黙ってようねー」
……そう、だったのか。
皆、初めに僕が事情を説明した時点で、薄々事情を理解はしてくれていたんだ。
ただ、やはりそれぞれショックではあった。カリンはそういったことを不埒だと思っていたし、ノドカは護衛としての不安が残っていたし、ミオは……僕のことが、好きだから、嫌な気持ちになった。
その不満をぶつけるうちに、お互いどんどん自分の秘密を暴露していって状況が混乱していったんだ。
そして、初めから怒っていなくて事情を知りたいだけだったセイラは、その混乱を見かねて助け船を出し、事態の収拾に努めてくれた。彼女は、全員がもう僕のことを疑っていないと理解していて、全員が言い争って関係が壊れていくのを防ぐために、寸前でストップをかけてくれたんだ。
……ならもう少し早いところでストップをかけてくれても良かった気がするが。
いやまあ助けてもらっておいてそこまで言うのは欲張りすぎだな。
「……じゃ、じゃあ約束して! 今後、女の人と二人でご飯行くときは必ずウチに連絡して! で、行ったらその分ウチともまたデートすること! いい!?」
「でしたら私も! 夜遅くなる時は、ご自宅まで私が付き添います! 昨日みたいに、マコトさんがお一人で何とかしようとするのは危ないですから!」
「ああ。今回の件は僕の失態だ。それで済むなら、いくらでも」
……そうだな。
これも甘んじて受け入れるべきだ。
今日は、僕の軽率な判断で三人を不安にさせてしまった。
結果的に何も無かったから良かったとはいえ、次も同じようなことが起こったとして、「前回大丈夫だったんだから今後も大丈夫」なんて思える訳がない。自戒の意味を込めても、僕に何かしらの制約を課すのは当然のことだろう。
もっとも、僕を好いてくれているミオはまだしも、ただ家庭教師と教え子の関係であるカリンや、必ずしも常に護衛する訳ではないノドカがミオと同じような対応をするのは過剰な気もするが……。
……違うな。そういうところがデリカシーが無いと言われるんだ。相手からの厚意を「やりすぎでは」と軽視して、その上で自分が軽率な真似をしてこんな事態を引き起こしたのだし……。
「(や、やった! どさくさに紛れてもっといっぱいデートできる約束取り付けちゃった! やった!)」
「(……あ、あれ。今気づきましたが、これ、マコトさんと何度も夜を共にすることになるのでは……)」
「……ありがとう、セイラ」
「いいの。いつも助けてくれてるし、お返し」
今日、セイラがいなかったらどうなっていたことか。
僕だけではどんどんヒートアップしていくこの場を……とてもじゃないが収められなかっただろう。最悪、全員との関係が崩壊し、この2年間で築き上げてきたものを一瞬にして全て失うところだった。店長を助けた判断を間違っていたとは思わないが、次同じようなことになった時に行動に迷いが出てしまうかもしれない。
ノドカとミオも暴走して、皆の関係に亀裂が入るかもしれないところだったが……そこで皆の意識を元の問題に戻し、穏便に解決まで誘導したのは全てセイラだ。
……彼女には感謝してもしきれない。
後で、改めてちゃんと礼を言おう。
今日のことは、たぶん一生忘れない。忘れられる訳が無い。
何はともあれ、これで一件落着……。
「……お姉ちゃん、いいの?」
「なぁに、カリン?」
「お姉ちゃん、何もマコトくんと約束しなくていいの? このままじゃ取られちゃうよ? マコトくんがうちに来てくれなかったら、お姉ちゃん、絶対ダメになっちゃうよ?」
「大丈夫だって、カリン」
「……もういいよ。お姉ちゃん日和ってばっかり。こうなったら私がマコトくんを……」
「マコトは、一生私と一緒にいてくれるから。だから、大丈夫」
……ん?
「……?」
「えっ?」
「へっ?」
「……そういや、店長さんの話は終わったけど、こっちは決着ついてなかったか」
「……ミ、ミオ?」
「(そう、だったんですね。私と同じ気持ちの人は、いっぱい、いたんですね)」
「ノドカ? なあ、ノドカ?」
「マコトくん、先帰ってていいよ。ここからは……女の子のお話になりそうだし」
「カリン? その、急にそんなこと言われても……」
「マコト、大丈夫。皆と争う気はないし、ちゃんと分かってもらうから」
「っ、セイラ──」
「──今日は来てくれてありがと。またね、私のマコト」
「あっハイ」
*
な……何だったんだ。
最後の発言以降、周りの空気が一気にピリついたような……。
追い出されてしまった今となってはもう何の確認のしようも無いが……どうしてセイラは自分で決着させた話の流れを、再燃させるような発言をしたんだ。
そりゃ勿論、僕は一生セイラの協力者として働きかけるつもりだが……あの場であんな発言をして、ミオが黙っているはずがないだろうに。
……じゃあどうしてノドカとカリンも反応を?
「まあ……もう僕にどうにかできる話ではないか」
店長の件については誤解が解けた。それがファイナルアンサーだ。
最後の会話の意味を理解できていない時点で、僕はあの場に混ざり議論を続ける資格が無かったということなのだろう。ただそれだけのこと。
一応、後で全員に結果がどうなったのかだけ話は聞いておかないと。
追加で店長にも。無事家に帰れたのかどうかと、今後はもっと酒を控えましょうと再度忠言をしておこう。もうこんな目には遭いたくないし。
後は……三好ルナにも連絡を入れておくべきだな。
情報源は彼女なのだし、それでセイラ、ミオ、ノドカ、カリンが反応するに至ったんだ。この一件が誤解だったことと、僕が今も約束を破っていないことを「心から」証明しなくては。
……まあ、彼女がこの情報を広めるメリットも無いし、急ぐ意味は無いんだが。
「……っと、噂をすれば」
電話だ。
三好ルナからだろうか。
『マコト! 風の噂で聞いたんだけど、君、女の人とえっちするホテルに行ってたって!』
「……」
『マコト! マコト? 僕だよ、君の親友のハルキだよ?』
……ど、どうして?
感想やご意見をお待ちしていますのでよろしければ……(´・ω・`)
お気に入り・評価・ここすき等も、可能であればぜひお願いします。大喜びします。
最後の1話はおまけみたいな……後日談ではない別視点のお話にする予定です(´・ω・`)