【完結】 『大切な人を救うために死に戻る能力』   作:破れ綴じ

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この世界は何らかの能力の影響で、運勢のバランスが取れていることになっていて
・意味もなく幸運が連続して訪れることは一般的ではない
・意味もなく不幸が連続して訪れることは一般的ではない
んですね。
『幸運になる能力』の能力者でもないのに運のいいことばっかり起こったりはしない、みたいな認識です。幸運ゲージと不幸ゲージでバランスが取れているというか。

セイラさんは自分や身内の「不幸」を(傍から見ると何故か)何度も連続で回避できているので、不幸ゲージが解消されず、次の不幸が起こりやすい=死に戻りが頻発しやすい。
逆におばあちゃんが死亡した際はきちんと不幸が起こったので、次の死に戻りまでかなりスパンが開いた……。



……っていうカス能力の悪辣さを再認識できる裏設定があったんですけど、他全員に適用できてるか分からないし、そもそもどこで開示すればいいか分からなかったので没にしてしまいました。
供養のためここに記しておきます(´・ω・`)


辻セイラと瀬尾マコト

 [17:00]

 

 ……上手くいった。

 

 まさか、こんなにスムーズに手駒を手に入れられるなんて。

 協力者がいればと思ったことはあるけど、それでここまで楽になるなんて予想外だった。

 

 ずっと、一人で四苦八苦するのは苦痛だったし、寂しかった。

 まあ、あの男にその寂しさが埋められるとは思ってないけど。

 

 ──「よし。協力しよう」

 

 ──「『筋が通っていれば助ける』。そういう話だったはずだ。そして筋は通っていた」

 

 ──「僕の知らない記憶がある。つまりはそういうことだろう」

 

「……」

 

 瀬尾マコト。うちのクラスの委員長。

 私が教室を飛び出す度に追いかけてきて、廊下でも屋上でもルールを守れって喚く、学校で一番鬱陶しい男。事あるごとに私の見た目を校則違反だの、素行がルールに反してるだの、周囲の迷惑を考えたことがあるかだの……邪魔臭いことこの上無かったのに、いざ協力を申し込んだらこうもあっさり聞き入れるんだから。

 完全に余計なお世話。私の恰好はミオに合わせて勉強したものだし、素行は能力の都合だから事情も知らないのに口出してほしくないし、周りがどれだけ迷惑になろうが『大切な人』が無事ならどうだっていい。本当に、本当に、本当に……面倒な人間。

 

 だけど、あそこまで頭の回転が速いだなんて。

 

 死に戻りなんて話、普通は鼻で笑って終わりだと思ってたし……毎周説明から始まるのは手間だけど、事情を理解すればすぐ動けるのは流石に委員長ってところか。

 ちょっとキモいところも多いし、ルールがどうこうってなった瞬間動けなくなるのは弱点だけど……それでも、感情を抜きにしてすぐ飲み込んでくれるのは悪くない。

 今までずっと一人でやってきたけど、あの男がいればこれからのループ攻略も少しはマシになるはず。少なくとも、相談相手ができるだけで気持ち的には楽になれそう。

 よりにもよって、唯一の協力者に「あの男」を選ぶのは自分でも血迷った気がするけど。あの時はもう他に手段が無かったし、結果的に使えるんだからプラマイゼロってことで。

 

 それに、何より。

 私はあんな奴のこと大嫌いだから、いい。

 どれだけ関わっても、瀬尾が『大切な人』になることは無い。私を心配して「大丈夫?」って声をかけてきたルナやミオと違って第一印象は最悪も最悪。

 あの男に何があっても私の頭は割れない。一番気を遣わなくていい。いつでも、それこそ嫌になったらその瞬間に意味なく切ることだってできる。

 

 そう思うと、脅しが成功したのは良い気味かも。

 法律法律って言いながら、結局は捕まるのにビビってる臆病者だって知れたし。あの男の狼狽える顔を見れただけで、溜飲が下がるっていうか。

 

 それに、『あの秘密』だって押し通せたのはすごい収穫だった。

 ノーコストでこんな駒が手に入ったんだから、私にはメリットしかない。

 

 逃げられたら困るし、仲良くなったらもっと困る。

 でも脅した側と脅された側なら間違っても友達になんかならない。

 この周のことは覚えてるんだから次のループは問答無用で連れて行けばいいし、もし言うこと聞かなかったら無理やり痛めつけるなりして黙らせればいい。

 体格差もあるけどどうせ大丈夫でしょ。あの男もただの人間なんだし、男の弱点なんてとっくに分かってる。

 

「嫌い」

 

「大嫌い」

 

「鳥肌が立つ」

 

「反吐が出そう」

 

「生理的に受け付けない」

 

 でも、使える。それだけで十分。

 大丈夫。私はちゃんとあの男が嫌い。あの男が、ミオやルナと同じなんてあり得ない。

 

 あー……。

 早く帰って、ママの声が聴きたい。

 

 

 

 

 

 *

 

 

 

 

 

 [18:00]

 

「ねぇお姉ちゃん、さっきのホント? マコトくんが覗きしてたって」

 

「ホント。カリンのこと、ちゃんと見てたよ」

 

「えー、やっぱりマコトくん私に興味あるのかなー」

 

 無い無い。

 あの馬鹿真面目にそんな度胸ある訳ない。

 

 ……ま、これで下準備も終わり。

 ママもパパもすっかりあの男を気に入ったし、カリンに至ってはこの懐きっぷり。次に何かあっても「セイラの友達の瀬尾君」で家に呼べるし、あの男に援護射撃させるだけでこっちの要求を通しやすくできる。わざわざ嫌悪感をこらえて三日も泊めた甲斐はあった。

 私の不都合より、いかに皆を守れるか。

 協力者作戦は思ったより上手くいってる。

 

 相変わらず話が早いし、イヤイヤ言いつつも理が私にあるって分かれば渋々だけどなんだってしてくれる。

 家にも泊まってくれるし、カラオケだってキャンセルするし、覗きにも付き合ってくれるし、カリンにも筋は通そうとするし、ママパパにも礼儀正しくしてる。

 実際今回はかなり短いループで終われたし、理由を言えば協力するってのは想像以上に真実で、あの拾い物もとい拾い男は予想より遥かに役に立った。

 ……ビビりながらだけど、カリンが来ないよう扉を押さえてくれたのも、助かった。

 

 でも、それ以上に生意気。せっかく人がお礼にカラオケ付き合ってあげるって言ったのに、「ちゃんとした友達と行く」って何。私はちゃんとしてないってこと? そもそも友達じゃないけど。

 別に行きたかった訳じゃない。カリンが楽しそうだったから言っただけなのに。それをあんな即答で。

 腹立つ。ノンデリ。馬鹿男。カリンを救ってくれた恩なんて一瞬で忘れちゃった。

 まだまだ嫌いになれそうで安心安心あー安心。

 

「ねぇお姉ちゃん、次いつマコトくん来るの?」

 

「……知らない。来なくていい」

 

「えー、またカラオケ行きたいのにー」

 

 ……むしろ心配なのは、こっちかも。

 デート行ってあげてもいいとか言い出して、別れ際まで大声で名前呼んで。あんなルールの塊みたいな男に、可愛い可愛いカリンが懐いてどうするの。カリンがその気になれば男なんてコロっと絆されちゃうんだから。

 もし気に入られでもしたらどうしよう。あんな男にカリンを渡す訳にはいかないし、外堀を埋めるのは大事だけど埋めすぎるのも注意しなきゃ。

 

 いくら約束守ってくれるって言われても、私の『大切な人』を誑かされるのは嫌。

 良い感じに線引きはしておかなきゃ。

 

「カリン。あの男には、あんまり近づきすぎないこと」

 

「ん? なんで? なんでかなー? んー?」

 

「カリンがあの男と話してると鳥肌が立ちそうになるの」

 

「……信頼できる友達なんだよね?」

 

 だから、腹いせ。

 あの男は自分から、カリンと約束したから絶対話すって言ったんだから。

 本人が覚えてる覚えてないとかどうでもいい。

 私が代わりにやってあげただけ。むしろ感謝してくれないと。

 

 だって、そうでしょ。

 約束は守らなきゃね、委員長? 

 

 

 

 

 

 *

 

 

 

 

 

 [19:00]

 

 ムカつく。

 ほんっとにムカつく。

 

 何あれ。何が「なんだってーっ」。

 初めは素直に教えてあげようと思ったのに、何が「聞こえない」なの。なんか急に腹が立って50って言っちゃったけど、今回のループも色々考慮すれば私に非はないはず。

 あの男は今頃、真面目な顔して私の嫌いなところでも数えてるんだろうな。そうしてくれた方がお互いにとっても都合はいい。

 ……いいはずなのに、全然すっきりしない。

 

 分かってる。働きは、悪くなかった。

 百人分のリスト渡されて、文句言いながら上から順に頭に叩き込んで、初対面の集団に突っ込んで、アサヒ君を帰らせて。見た瞬間じゃなくて直後に死ぬのはおかしいって、私が何周も気づかなかったところをすぐに突いてきた。ミオを自由にしてみようって言われた時は本気で殴ろうかと思ったけど、あれが無かったら原因まで辿り着けなかった。

 死ぬ直前まで、「次の僕に伝えろ! きっと協力する! 一人で背負い込むなよ!」とか叫んで……。

 

 でも……。

 

 ──「なにちょっと好きになってんだ君は!」

 

 何なのアイツ。欲しい情報だけ素直に言えばいいのに、一言余計なんだけど。死にかけてる人間の頭の上を、いちいち実況しないでくれる? 

 数字ばっかり気にして、問題文しか読めないロボットじゃないんだからもっと柔軟にやってくれればいいのに。そこまでして私の好感度下げたかった? なら大正解。

 

 それに、一番最悪なのが……ミオ。

 

 原因の原因が、ループが始まる前に全部終わってた。どこから手を付ければいいのかも分からなくて、私はもう何周か死ぬつもりでいた。あのカスみたいなループを、最後の一周でアンタが抜けさせた。

 それは、本当に感謝してる。してるけど。

 

 何あの解決方法。

 最悪なんだけど。

 よりにもよって『大切な人』を誑かして。

 本人は無自覚だなんて。

 

 別の恋で上書きなんてしたら、どうなるかなんて考えた? 

 ミオが本気でアイツに入れ込んだら、間接的に私はミオを守るため瀬尾を守らないといけなくなる。

 脅して使って、要らなくなったら捨てればいいだけの駒だったのに、あの男が余計な方法で解決しちゃったせいで、自由に切れなくなっちゃう。

 今からアイツの悪口吹き込めば、まだ間に合う? できるかな……。

 

 ……あと。

 そんなに、気にしてる訳じゃないけど。

 

 ここまでしてくれるんだから、なんだかんだ少しくらいは気に入られてるんだと思ってたのに。

 死にかけた私を見て焦って、ふらついた私を支えて、あんな必死になって。だから、向こうもちょっとは、って。

 だって、本気で嫌いな人間ならここまでする訳ないって。

 その、はずなのに。

 

「……-50」

 

 最初から最後まで。

 一切変化無く、ずっと嫌われてた。

 

 馬鹿みたい。

 大嫌いだから選んだのに、勝手に緩んでたのはこっち。

 瀬尾は最初からちゃんと私のこと嫌いでいてくれてた。協力者としては満点。私が悪い。

 分かってる。分かってるけど。

 

 ……なんで、私が負けてるみたいになってんの。

 ムカつく。ほんとムカつく。絶対、-50より下げてやる。

 

 

 

 

 

 *

 

 

 

 

 

 [20:00]

 

 あー、まだ髪濡れてる。

 制服もびしょびしょだし、最悪。地面に飛び込んだんだから当たり前だけど。

 

 ……まあでも、あれで正解だった。

 今回は6秒とかいういつにもまして馬鹿みたいなループだったし。

 

 助けたのは損をしないため。大切だからじゃない。

 木から離れなきゃいけないのは私もあの男も同じで、あの男を引っ張れば、私も一緒に木から離れられる。押し倒すのが一番早かった、ただそれだけ。

 あの男が側撃雷を受けなきゃ私だって死ぬことは無いし、そもそもあそこで意味もなくアイツを死なせてもメリットが無い。

 瀬尾は私の『大切な人』じゃないから死んでも死に戻りは起きない。あの雨の中で、ただ死んで終わり。

 

 そうなったら次のループからまた一人になっちゃう。

 夏休みだってすぐそこだっていうのに。

 

「うっわ。お姉ちゃん……傘ささなかったの?」

 

「あっカリン。今なら冷えてるからハグしても暑苦しくないよ~」

 

「いやだ濡れるじゃんもー。お風呂入ってきたらー」

 

「えー……」

 

 つらい。

 カリンも大きくなって前みたいに甘えても応えてくれなくなった。

 

 でも、だからこそ。

 この笑顔を守るための理解の早い駒を、傘一本のついでに失うなんて馬鹿らしい。

 

 別に、いつだって切れることは変わらない。「もう来なくていい」って言えばそれで終わり。あの男は筋さえ通ってれば素直に引き下がる……はず。今切る理由が無いだけで。

 説明は一回で済むし、頼めば来るし、変なところで役に立つ。損得で考えたら手元に置いとく方が得だし、意味もなく捨てるほど私は馬鹿じゃない。

 

 それに、ミオのこともある。

 最近のミオは学校でスマホ出さなくなったし、二、三週に一回は瀬尾と勉強会してるとか。それとなく何の話をしてるのか探ろうとしたら、聞いてもないのにすっごい嬉しそうに話してくる。

 ミオの中で、あの男の置き場所がどんどん大きくなってる。すごく良くない。

 でも、それが原因で手放せないのも事実。

 

 協力者ってのも、案外うまくいかないのかも。

 次は初心に戻って、もう少し独力でやってみようか。

 

「……あ、傘」

 

 そういえば傘預かったままだった。

 なんかプリントがどうとかぶつぶつ言ってて完全に忘れてた。

 うーわ。明日返しに行かないとじゃん。「アンタは『大切な人』じゃないんだけど」なんてことまで言ったのに。気まず。

 どうしよ。借りができちゃった。

 

 ……お礼、言っておくべきなのかな。

 連絡先もあるし、傘のこともあるから、一応。

 

 ──『傘ありがと。あと送ってくれて』

 

 ……。

 

 いや、これ駄目だな。

 

 これ送ったら、借りを作ったのを自分から認めることになるし……律儀にお礼なんかして好印象持たれたらどうするの。せっかく今日、メンテナンスの話までしたのに。

 そもそも命を救ったのはこっちなんだから、傘と送り迎えくらいじゃ全然釣り合わない。むしろ向こうがお礼しに来るべき。傘ぐらい自分で取りにくればいいんじゃない。

 

 私達の関係なんてこんなものでいいの。

 削除削除。これもメンテナンス。

 

 

 

 

 

 *

 

 

 

 

 

 [21:00]

 

「瀬尾君には本当に感謝しないとね。警察の人も、彼がいなかったら危なかったって」

 

「……うん」

 

「母さんもさっきから電話で大騒ぎでね。カリンなんか、お礼に行くって聞かないんだ」

 

「………………ぅん」

 

「何故そんな嫌そうな表情を……?」

 

 だって全部知ってる、そういう計画だったから。

 あの男をスケープゴートにして、私に注意が向かないようにヒーローになってもらう。私が手を汚すことなく、ループの原因の始末を押し付ける……最初から最後まで、全部私の思い通りのはず。

 

 ただ、アイツはヒーローになんかなりたがってないみたいだし。

 それでカリンもママもパパもあの男を持て囃してるのがなんか癪ってだけ。

 カリンからは「マコトくんすごい!」「お姉ちゃん無事!?」「マコトくんにお礼したい!」って交互に十件以上来てるし、ママからは「瀬尾君のお家の住所分かる?」まで来てる。

 家族に馴染ませておけば楽だと思って仕込んだのは私だけど……ループ解決に役立つからそうしてるだけで、別に一切抵抗が無い訳でもないのに。

 

「勇気のある子だよ。刃物を持った相手に、自分から向かっていったんだろう?」

 

「まぁ……そうだよ」

 

 向かっていったっていうより、私が時間と場所を指定して呼びつけただけなんだけど……あの時の瀬尾を見て思ったけど、いつも通りの考えじゃいられないのかも。

 すぐ法律で日和るし、基本勉強ばっかしてるだけの、それこそ、いざとなってもどうにでもできるような相手程度に考えてたのに。

 

 アイツは今回のループで、法律的に言い訳が効くなら一切迷いを見せずに突っ込んでくるって分かった。

 

 私が人殺してるって分かった瞬間、全部投げ出してこっち追いかけて来るし。

 ちょっとヒントが欲しいだけなのに少ない情報からぐいぐい推理してきて。

 正当防衛が成立するって分かってからは普通に容赦なく傷害だってできる。

 すぐビビる男だと思ってたけど……ちょっと違うような。ルールさえ守れれば些事はどうでもよくて、スイッチかかった瞬間とんでもない行動力を発揮するっていうか。

 

 男の弱点なんてとっくに分かってる、不意を突けば勝てる……って思ってたけど、体格差があって案外力もあるし、ちゃんと男の子って感じで、加えて他の男と違って刃物にだって怯まない。

 だから、あんまり下に見過ぎるのは良くないのかも。

 

 ……ただそれでも、やっぱり癪なものは癪。

 何、「僕が自分の意思で救ったのは君だけ」って。

 ミオもそうやって口説いたんだ。

 無自覚ってこわ。

 

「……眠いのかい、セイラ」

 

「……うん」

 

「そうか。旅行帰りなのに災難だったし、今日はもうゆっくりすればいいよ」

 

「ありがと、パパ……」

 

 もっと頼れ? 余計なお世話。

 本格的に協力するのは私が要求したときだけでいいのに、無理に主導権握ろうとして来て鳥肌が立ちそう。

 次ループが起こったら、情報収集の時アンタがいたら邪魔とか言ってわざとお払い箱にしてやろ。せめてもの腹いせ。

 

 だって、「相談する周は」すぐ言う、でしょ。

 嘘ついてないし、私。

 

 

 

 

 

 *

 

 

 

 

 

 [22:00]

 

 ……ねむい。

 頭ん中痛いし……口の中ずっとコーヒーの味するし……。

 

「お姉ちゃーん、マコトくんが『お邪魔しました』だってー!」

 

「……はいはい、勝手に帰らせといて」

 

 それでなんでアイツは普通の顔して学校行ける訳……。

 そういやループ中も「僕と君は徹夜した後、そのまま普通に学校だぞ」とか言ってたっけ。馬鹿じゃないの。

 

 だって今回のループは……本当に最悪だった。

 前触れも無いし、対象も原因も分からないし、情報収集ぐらい自分でしようと思ってたのに結局あの男に頼る羽目になって。

 そしたら仕掛けたカメラのこと自分からミオに白状するし。駅前じゃ変に喧嘩ふっかけてルナのモニター投げ捨てるし、アレ相手に説教始めるし、パパとママには土下座で夜更かしの許可取ろうとするし。

 独断で好き勝手やって、全部変な方向に転がして、それでなんでかちょっとずつ前に進むのが余計に腹立つ。

 

 最後の周なんか、私がいくつアカウント作ったと思ってんの。

 時間ずらして目撃談投げて、宵坂ヨミにファンのフリして絡んで、ミオとルナに無理に頼み込んで、夜はカリンの見張り。

 なのにアイツは途中で寝落ち。あーもう、また疲れてきた。

 今回で、唯一良かったことなんて……。

 

 アイツが、まだ私の『大切な人』になってないこと、ぐらいか。

 

 駅前でアイツが切られちゃったとき、私の頭は破裂しなかった。その後すぐ私も殺されたけど、あれはアレにやられただけで、死に戻りじゃない。

 つまり、あの男が死んでもなんとも思わない程度には、まだ私は距離感を維持できてる。

 殺される直前は、「助けて」なんて言っちゃった気もするけど……あれだって、咄嗟に頼れるのが瀬尾しかいなかっただけで、あの男に縋りたくなって出た言葉って訳でもないんだし。

 あの化け物に追いかけられたのも、変に目をつけられたのも、そもそも駅前で待つことになったのだって瀬尾のせいなんだから、アイツのこと大切に思うはずがない。

 

 それが分かったことだけが収穫、かな。

 まだまだ理想的な協力者関係を続けられてるみたいで、安心っていうか。

 

 ……安心したら、また眠くなってきちゃった。

 

「あれ。お姉ちゃん、学校行かなくていーの?」

 

「カリン、今ベッド近づいたらお姉ちゃんに取り込まれると思っといて」

 

「きゃーっ!」

 

 もう……今はカリンの声だけが癒し。

 あんな怯えた表情なんて全く見せてないし、あの男の歓迎会を楽しんでたし、今もこうして私を気にかけてくれて……。

 多分、カリンの声の波長には癒しの効果とかあるんだろうな。

 これも、あの男のおか……。

 

 ……。

 

 やめやめ。考えるのやめ。

 せっかく『大切な人』を助けられたのに……その結果が、あの男で頭ん中いっぱいにするなんて。ここまで頑張った私に対する仕打ちとしては最悪も最悪。

 

 ……っていうか、そもそも何この枕。

 なんか良い匂いすると思ったら……これ瀬尾の匂いじゃん。

 寝させるんじゃなかった。

 それに気づかない私も疲れすぎだけど。

 

「……はぁ」

 

 ……後で枕カバー洗お。

 今は無理。寝る。

 

 

 

 

 

 *

 

 

 

 

 

 [23:00]

 

「ルナ。借りてたグッズ、返すね」

 

「あれ? セイちゃん、トロメラ面白いって言ってなかった?」

 

「ううん。なんか冷めちゃった」

 

「………………そっか。じゃあ、あんまりトロメラの話しない方がいっか」

 

「ごめんね、ルナ」

 

「別にいいのに~。セイちゃんったら律儀なんだから~」

 

 

 

 

 

 *

 

 

 

 

 

 [24:00]

 

 瀬尾が来ない。

 防具が来ない。

 連絡が来ない。

 

 ……影中が、来ない。

 

「何やってんのよアイツ……!」

 

 21時、24分。

 

 いや、影中がまだ来ないのは分からなくもないけど。

 アイツ、ある程度現れる時間に誤差はあったし、思った通りの時刻に来なかったからハイ安心って訳にもいかない。

 でも、だからこそ瀬尾に万全の準備を持たせてこっちに向かわせてる訳で……。

 

 ……その瀬尾が電話に一切出ないのは、何? クリスマスだから? 

 私の指示を無視して今頃誰かと楽しくやってるの? ルナの命が危ないっていうのに? 

 

 防刃チョッキも懐中電灯もコンビニで受け取ってここまで持ってくるだけなのに、何に対しても15分前に着いてるあの男がどうして約束の時間をとっくに過ぎても来ないのか、意味分かんない。

 今どこで何してるの、あの真面目馬鹿。影中が来なかった時のためじゃなくて、来た時のために頼んだ荷物なのに、来ないのは荷物の方ってどういうこと。刃物だって、わざわざ長さが法律に引っかからないもの選んだんだから、受け取り拒否する理由にもならないはずだし。

 扱いにくいところはあるけれど、それでも筋が通ってれば指示には従ってくれるし、法律馬鹿だから動きが分かりやすくて……それこそ、今みたいな無実の人間が殺されるなんて状況には間違いなく本気で立ち向かってくれる。だからアンタを信頼してたのに。

 

 どうして? 指示を聞いてくれなくなった非協力的な瀬尾マコトなんて、いくら擁護しようとしても何処にもメリットが無いんだけど? 

 私だってアンタのこと切りたくないのに、何考えて……。

 

「……いや、ダメ。あんまり悪い方向に考えすぎちゃ……」

 

 もしかしたら、ちょっと電波が悪いだけとか、道に迷ったとか、それだけの可能性だってある。ルナの家に来るのは、今の周では初めてのはずだし。

 それに影中だって。今来てるのかもしれないけど……逆に言えば、やり方を変えたとか、延期したとか、通報が当たって身動きが取れなくなったとか、他にも色々考えようはある。

 時間が過ぎたくらいで安心できないのは事実ではあるけれど、確かにこの周では何かが変わった。もし失敗したとしても、一応収穫にはなるはず。

 

 そう思ったら、今の状況って……いつも私が瀬尾にしてるのと、同じなんだ。

 情報を小出しにして、都合の悪いものは隠して、何が起こってるか分からないまま。私には次があるけど、瀬尾は失敗したら消えるって中、これを毎回やってた訳で……。

 ……やっぱりあの男、なんか変。

 

「はぁ……」

 

 イラついても意味ないし、今影中が来たらと思うと怖くて仕方ないけど……。

 待ってるしか……ないか。

 

 でもせめて、ここまで不安にさせたんだから、何か一つぐらい朗報を持って来てほしい。

 何でもいい、ただ装備を持って来たとかだけじゃなくて……「影中を見つけた」とか、「影中が逃げていった」とか、「念のため追加の準備をしておいた」とか。

 そういうのが一つでもあれば、今日の失態は無かったことにしてあげるし、瀬尾のこともっと見直してあげるから……。

 

 ──プルルルッ

 

「っ! 瀬尾! もう、やっと来……」

 

 ……。

 ……あ、あれ? 

 

 ミオ……? 

 

 

 

 

 

 *

 

 

 

 

 

 [25:00]

 

「いい子だったねぇ、九条さん」

 

「……うん。ちょっと変わってるけど」

 

「セイラが言うのかい……?」

 

 九条さん、だって。

 そんなに顔馴染みないはずなのに、ちゃんと名前で呼んでる。

 今のおばあちゃんは、まだ私のおばあちゃんのままなんだ。

 ほんとやめてほしい。すぐ泣きそうになっちゃう。

 5回目の終わりの方なんて、私の顔見ても「どちらさん?」……だった、の、に。

 ………………。

 

 ……でも、また、声が細くなった気がする。

 昨日はもう少し笑い声が大きかった気がするのに。

 あんまり、気づきたくないな、こういうの。

 

 あの九条……ノドカだって。

 名前聞き返されたのに怒りもしないで「嬉しいです」とか言うし。

 あんな顔されたら、今まで反射で突っぱねてた私が何やってたんだって話になるじゃん。

 友達作れって言われて実際に作ったのなんて……多分これが人生で初めてだし。

 しかも言い出したのが瀬尾って。

 

 瀬尾って。

 ふふ。

 

「この前うちにいた男の子も、セイラのお友達かい」

 

「っ……そこ、覚えてるんだ」

 

「覚えてるよ。何喋ったかは覚えてないけどねぇ」

 

 そっか……。

 ぼんやりしてる時に知らない男が家にいたんだから、絶対怖かったでしょ。なのに真っ先に聞くのがそれなの、おばあちゃんらしいけど。

 

 でも、友達、か。

 ……友達……かな? 

 

 違う、とは思うけど。

 でも、じゃあ何って聞かれたら、今の私は何て答えるつもりなの。協力者? 

 おばあちゃんにそれ言ってどうするの。

 でも……「嫌いな人」って答えるのも……なんかなぁ。うーん……。

 

「……困ってる時に、一緒に考えてくれる人、かな」

 

「そうかい」

 

 そう、なんだよね、ほんとに。

 多分これが一番しっくりくる。友達でも、『大切な人』でもなくて、本当は嫌いって言いたいけど言えないから仕方なく呼ぶとして……うん、困ってる時に一緒に考えてくれる人。何も間違ってない。

 

 おばあちゃんにとっては1か月ちょっとでも、私にとっては1年で……その間ずっと、瀬尾は瀬尾のままだった。

 何も覚えてないくせに、会うたびに「大丈夫か」とか「役に立てるか」とか「気負い過ぎるな」とか……あれで好感度-50なんだから笑っちゃう。

 多分アイツ、他の誰にだってあんな感じなんだよ。

 今ならミオの気持ちも、分かる気がする。

 

 おじいちゃんの時に、瀬尾みたいなのが一人でもいたら……。

 ……そしたら、あんなこと言わずに済んだのかな。

 

 ……いや、今それ考えるのはやめよ。

 おばあちゃんの前でおじいちゃんの話したら、絶対しんみりさせちゃう。

 

「セイラが困ったって言える相手がいるなら、おばあちゃんも安心だよ」

 

「言える、っていうか……」

 

「その子にも、ありがとうって言っておいてね」

 

「……うん」

 

 ……そっか。

 おばあちゃん、安心できたんだ。

 

 もう、私は、戻れないけれど。

 おばあちゃんと会えるのは、これが最後の周だけど。

 でも、そう、そうなんだ。

 私、おばあちゃんのこと、嫌わずに済んだんだ。

 

 そっか。

 良かった。

 良かっ、た。

 

 じゃあ。

 マコトに、お礼、言わなきゃ、だね。

 

 

 

 

 

 *

 

 

 

 

 

 [26:00]

 

「『何か』問題は起きていないか?」

 

 あ……。

 

「起きてないよ。ていうか、夏はそれどころじゃなかったでしょ」

 

「それとこれとは別だ。夏休み中に突然ループした前例がある以上、時期を理由に確認を怠ることはできない」

 

「分かってる。いつもありがと。大丈夫だよ」

 

 月一の定例でこれを聞かれるの、ちょっと久しぶりかも。

 6月の時なんて、こっちから「今月は言ってくれないの?」って催促するまで本人は聞き忘れてることにも気づいてなかったし。

 話しかけても返事が一拍遅れるし、いつもみたいに細かい屁理屈で言い返してくることもなかったのに、全くキレがない反応ばっかりで……。

 あの時は正直、ループより先にマコトの方が壊れるんじゃないかと思ってたくらい。

 

 それが今は、聞いてもいないのに「前例がある以上」とか言い出すんだから、すっかり元通りって感じ。

 そう思うとなんか力抜けちゃうな、こっちだけずっと心配してたのに、本人はけろっとしてるのがちょっとフェアじゃないっていうか。

 まあ、心配してたのは本当なんだけどさ。

 

「お母さんは?」

 

「先週の検査で、透析は当面必要ないと言われた。最近は夕食も母さんが作ってくれている」

 

「そっか。良かったじゃん」

 

 良かった。本当に。

 だって、あれは私のループで掴んだものでもあるんだから。

 

 死に戻りなんて、今までは起きたら耐えて、原因を探して、終わるまで走り回るだけのものだった。私しか覚えてないし、私しか痛くないし、どれだけ頑張っても終われば何も残らない。それを誰かのために使おうなんて考えたことも無かったし、使えるとも思ってなかった。

 でも今回は違う。前の周のマコトが調べたことを次の周のマコトに渡すことができたから、毎周すぐ電話して、「アンタのお父さん」について教えて、パパの事故のことも並行して調べて……正直かなり大変だったけど、周を重ねるごとにマコトの手札が増えていって、最後にはちゃんとお母さんを助けるところまで辿り着いた。

 

 私の能力が、初めて誰かを救うために役に立った。

 それも、いつも私を助けてばっかりのこの男を。なんか、すっごい達成感。

 マコトがいつも通りになってくれたのが、こんなに嬉しいなんて。

 私の能力を役立てる初めての相手が、マコトで良かった。

 

 あの時、「手を貸してくれるか」って言われたのも、ちょっと嬉しかったんだよね。

 今まで頼るのはずっと私の方で、マコトはいつも「一人で背負い込むな」って言う側だったから。そのマコトが、自分の家のことで私を頼ってくれるんだって。

 

 ……おばあちゃんの分も、少しは返せたかな。

 個人的にはまだまだ返し足りないくらいだけど。

 

「そういやさ」

 

「うん?」

 

「お父さんは、結局どうしたの?」

 

「殺したぞ。きっちり」

 

「そっか。私の方とは真逆だね」

 

 即答じゃん。

 お母さんには絶対そんな言い方してないくせに。嘘にならない言い回しを探すのは得意技でしょ? なのに、私に対しては選びもしないんだ。

 お母さんを守るためなら、それぐらい当然だって思ってるんだね。

 パパを助けるためにループしてた私が言うのもなんだけどさ。

 

 カッコいいよ、マコト。

 

 

 

 

 

 *

 

 

 

 

 

 [27:00]

 

 おかしい。

 

「生き、て……る」

 

 生きてる、生きてる。マコト、ちゃんと、生きて……。

 これは、展望台? ノドカも……いる。アサヒ君と宮野は……どうでもいい。

 

 なん、で。

 どうして、ループが。

 

「……違う」

 

 今回はノドカ、ノドカのループ、だったはず。

 マコトじゃない。マコトは『大切な人』じゃない。マコトのせいでこうなったはずがない。だって、だって、ループは解決して、ノドカは生きてて、だからマコトは違う。

 私は、間違ってない。

 ミオとルナみたいなことにはならない。マコトは、違う、違うはず。

 

 だって、死に戻りが起こったのは、ノドカが原因で。

 あの周も、ノドカが助かって、その後、ノドカに何かあった。そう。きっとそう。

 でも……何かって? 

 ノドカは、元気で、繋がりましたーって、あんなに叫んで……。

 じゃあ、私の知らない何かが。まだ、きっとあって。

 だって、そうじゃなきゃ。マコトのせいな訳がない。

 

 マコトは、大嫌いだから選んだ協力者なのに。

 私は、ずっと大嫌いなはず、だったのに。

 

 二人で化け物に殺された時は、発動しなかった。

 だから、マコトのせいな訳がないのに。

 

 今回も、ノドカが生き残ったから、ループは解決した。

 マコトも生きてるけど、きっとノドカが原因。マコトは死んでも。

 

 ……死んでも……。

 

「……ぅ、ぅぅ……」

 

 違う、そんな、そんな訳がない。

 私が、一人で何周もして、それでだめなのに、マコトは、1周で解決して……でも、そんな、でもそんな訳が。

 

 違う、嫌いなら問題無い。

 大丈夫。嫌いになればいい。嫌いなら、『大切な人』じゃない。前は、ちゃんと言えた。

 

 嫌い。

 大嫌い。

 鳥肌が立つ。

 反吐が出そう。

 生理的に受け付けない。

 

 大丈夫。できる。

 マコトは大切な人なんかじゃない。

 こんな写真見ても何も安心しない。

 いつも鬱陶しい法律系真面目馬鹿。

 マコトの声なんて聴きたくない。耳が腐る。

 -50なんて、馬鹿。本当に馬鹿。-50なんて。

 おばあちゃんを救ったぐらいで良い気にならないで。

 

 できる。

 できる。

 私は、マコトが、嫌い。

 

 嫌い、嫌い、嫌い嫌い嫌い。

 

 ……。

 

「………………き、ら……」

 

 ……。

 

 マコトは、鈍い。

 泣いてたら、すぐ気づくけど。

 

 マコトは、うるさい。

 一人で背負い込むなって、そればっかり。

 

 マコトは、デリカシーがない。

 ……でも、あったかかった。

 

 なんで? 

 ノーコストの駒なのに、ノドカを守るための駒なのに、私にできないことを一人でできる駒なのに……。

 本当に、嫌いだった。

 カッコいいなんて思ったこと一度も無いし、匂いだけでも吐きそうになる、はず。

 

 じゃあ、嫌いの、一言が、どうして。

 いうだけなのに、きらいって、いえば、みとめなくてすむのに。

 

 私は、私は、マコトが、マコトは、私の、マコト。

 

 ……マコト。

 

 ……。

 

 ……。

 

 ……。

 

 ……。

 

 ……。

 

「……カリンに、伝言、頼まな、きゃ」

 

 また、一人だ。

 

 初めから、私は……。

 

 

 

 

 

 *

 

 

 

 

 

 [28:00]

 

 思えば、マコトとの思い出も、かなり沢山できたかもしれない。

 

 ──「『筋が通っていれば助ける』。そういう話だったはずだ。そして筋は通っていた」

 

 ──「は? 嫌だが? おおっとそんな目で睨むんじゃない」

 

 ──「いや、今日の不法侵入が辻カリンにバレていた」

 

 ──「な、なあ待ってくれ! 僕は何をしたんだ、教えてくれ! おーい!」

 

 ──「君は自分の能力のことを忘れたのか。改善するのは方針だけにしろ」

 

 ──「-2! なにちょっと好きになってんだ君は!」

 

 ──「そういえば、僕から君への好感度は、結局どれぐらいだったんだ?」

 

 ──「命の恩人じゃなかったら正座させてるぞ君」

 

 ──「君を通報すればいいか?」

 

 ──「おい! こっちを見ろ、差別主義者──正当防衛だッ!!」

 

 ──「変で結構。僕が自分の意思で救ったのは君だけだ」

 

 ──「ミオはカメラのこと知った上で許してくれたからな」

 

 ──「何って、なんだ! こんなのどう見ても口裂け女だろう!」

 

 ──「今夜、娘さんお二人と、夜更かしすることを許可してもらえないでしょうか!」

 

 ──「君の『大切な人』の枠に、その、紙とインクの存在が……実在しないのに?」

 

 ──「暗号としては優秀だったぞ。おかげで僕以外には何一つ伝わっていない」

 

 ──「反省してるのか。それならいいぞ」

 

 ──「だからって二人でボックスに入る必要は無いんじゃないか」

 

 ──「は、おい。何を……は!? 何やってる君!? 何で抱き着いてるんだ!?」

 

 ──「分かってる。今は泣けばいい。僕の胸ぐらいいくらでも貸すから」

 

 ──「じゃあ、最後に、友人ができたと、伝えてみないか」

 

 ──「『何か』問題は起きていないか?」

 

 ──「伝言、ありがとう。その……手を貸してくれるか」

 

 ──「あの男を追い詰めるために──証拠捏造のノウハウを教えてくれないか?」

 

 ──「えっもう九条ノドカが『大切な人』入りしたのか!?」

 

 ──「分かってる。僕だって母さんを泣かせるのはごめんだ」

 

 ──「辻セイラ? 何かあったんだな? そう捉えていいな?」

 

 ──「自殺を繰り返せる人間が、自分を『大切な人』だと認識できるのか!!」

 

 ──「おはよう。寝起きで申し訳ないが君のベッドは1m先だぞ」

 

 ──「当然だ、僕達は『共犯者』なのだから。君とそう約束した、だろう?」

 

 ……ふふ。

 思い出すだけで、何だか口角が上がってきちゃう気がする。

 まあ、マコトが覚えてないのもいっぱいあるんだろうけど。

 

 今思えば、どのマコトもカッコよかったな。

 鳥肌とか、吐き気とか、生理的に無理とか、どの口で言ってたんだろう。

 

「なあ、セイラ……本当に昨日は大丈夫だったのか?」

 

「何が?」

 

「いや、あのカラオケだ。上手く収拾がついたかどうかが気になって……」

 

「大丈夫。心配してくれてありがと」

 

 ほら、今もこうしてマコトは私のことを心配してくれる。

 確かに、あれはマコトが鈍いから起こっちゃったトラブルだけど……きっと皆そのうち理解してくれるから、大丈夫。

 別に、マコトが誰かと付き合ったり結婚したりしても、私と一生一緒にいてくれるのは変わらないんだし、そこまで気にすることでもないんじゃない。

 

 あーマコト。

 あー良い匂い。

 体格差っていいよね。

 全身預けてもビクともしないの、ドキッとする。

 

 初めは……ここまでの関係になるとは思ってなかったけど。

 でも、今思うとこうなるのは必然だったのかも。

 私ってマコトと相当相性がいいし、マコトに釣り合うだけの行動力もあると思う。

 この面倒なカス能力に向き合っていくうえで、マコト以上のパートナーはあり得ないっていうか。早めに家族に紹介して良かったっていうか。

 

 ……まあ、でも一個だけ。

 ずっと内緒にしてた『あの秘密』だけは、まだ清算できてないけれど。

 

「セイラ」

 

「……え? なに?」

 

「どうかしたか。何か悩んでいそうな表情だったから」

 

「あー……まあ、ちょっとだけ、ね」

 

 私は、あと一つだけ、マコトに言えてない秘密がある。

 初めは喋る気なんか一度も無かったし、マコトが『大切な人』になってからはなお一層、これを失えば私達の関係も終わるんじゃないかって怖くなって、絶対言わないって決め込んでた。

 これだけが私とマコトを結ぶ唯一の楔で、もし扱い方を間違えればマコトにどう思われるか分からないからって。

 あの時は、それだけ不安だったし、自信も無かった。

 

 ……でも、今なら? 

 もしかしたら、今なら、言えるんじゃないかな。

 

 今のマコトは、私と一緒にいるって約束してくれてる。

 お母さんも回復したのに、それを放置するなんて無いと思うし。

 今の順風満帆さを考えても、無茶な行動には出ないはず。

 何より、私が許してって言ったら、許してくれそうな気がする。

 

 どうかな。

 どうなのかな。

 

「……マコト」

 

「何だ」

 

「もし、今から私が、一つ凄いことを言うとして」

 

「ああ」

 

「『絶対怒らない』『もう終わったことだ』って言ってくれる?」

 

「……ふむ。内容次第ではあるが、言ってもいいぞ」

 

 ……そっか。

 

 そうなんだ。

 その言い方だと、「明らかにマズいネタがあるって分かってるけど、セイラ相手だから許してもいいかもしれない」って受け取っちゃうけど。

 でも、初めのころに比べれば、大きな進歩か。

 2年前なら「そんなに勿体ぶるとは……通報すべきか?」とか言ってきそうだし。

 

 うん。

 なら、大丈夫。

 喋ってもいい気がする。

 マコトなら、きっと受け入れてくれる。

 

「分かった。マコト」

 

「……」

 

「実は、マコトに隠してたことがあって」

 

 変な形から始まった私達だけど、今では私の一番大切なマコト。

 あの秘密が通った時点で、きっと私達は一生一緒になる運命だった。

 だからこそ悔いは残したくないし、すっきりさせておきたい。

 もう二度と一人にはなりたくないから。

 

 大丈夫。

 マコトは怒ったりしない。

 急にいなくなったりしない。

 この関係をゼロにしたりしない。

 

 私は、マコトのことを信じてる。

 いつも通り、よく分からないこと言って返してくれるはず。

 

「あれは、マコトを引き込みたくて、咄嗟についた、でっちあげだったの」

 

 

 

 

 

「虚偽通報の録音なんて──初めから、無かったんだ」

 

「……セイラ」

 

 

 

 

 

 ……ほら。

 

 

 

 

 

「偽計業務妨害罪の時効は3年だぞ。1年言うのが早かったんじゃないか」




これで後日談終わりです。
後日談じゃねーだろって不満は私が受け止めます。セイラさん視点書きたかっただけなんです。
感想や意見や評価やここすきや誤字報告をして応援してくださった皆々様には多大なる感謝を。

2026/11/03~05に、設定集みたいなおまけを投稿して完全に終わろうと思います。
長くなりましたが、ここまで読んで頂きありがとうございました(´・ω・`)
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