『大切な人を救うために死に戻る能力』   作:破れ綴じ

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[17:09] 金曜日の焼きそば

「さっきの粉物発言はそういうことだったのか……」

 

「アンタが言ったんだけど」

 

 覚えてないんだって。

 文句は前の僕とやらに言ってくれないか。

 2ヶ月ぶりに接触して第一声がそれということに違和感を持て。

 

 だが、事情は理解したぞ。

 1. おそらく妹の病気が能力発動のトリガーでセカンドオピニオンの必要があり。

 2. 前の周の僕は、死に戻りの直前で「小麦が原因だ」という結論に辿り着き。

 3. そして何故か金曜のタイムリミットが水曜──つまり今日に前倒しになった。

 その他諸々の事情や試行、最後の瞬間についての情報の説明。昼休みが残り短いにもかかわらずよくぞここまで。おかげで次の小テストのことが何も考えられない。

 

「前にもこういった病気によるループはあったのか」

 

「一応……でも、感染経路とか前兆が分かりやすくて対処しやすかった」

 

「じゃあこういった前倒しの経験は?」

 

「ない。16回って意外と多くないし、私でもこの能力のことはよく分からない」

 

 そうか、時間もないしテキパキいくぞ。

 本来金曜日に確定するはずだった「死の要因」が水曜日に確定した。

 前例がない以上ひとまずはそう考えるのが自然、ということでいいな? 

 

 つまり、辻カリンが患っている「何か」は既に潜伏していて、何かしらのきっかけが原因でいつでも「不可逆な段階へ移行する」ことが可能な状態になっている。抵抗力が落ちたことによって、金曜日に初めて感染するという訳ではないということだ。

 辻セイラの話によれば──8周目で僕は辻カリンにたこ焼きを奢った。それを食べている最中に能力が発動、電話越しに破裂音が聞こえた。だから、前の僕は食物に原因があると考え、そこから逆算して「小麦」に辿り着いた……らしい。

 

「7周目の金曜の夕食、何だったか覚えているか」

 

「焼きそば……そういえば、カリンは味見してた」

 

 それだ。

 とりあえず「原因が小麦」で、思い当たるのは小麦アレルギーだ。

 

 7周目……というかそれまでの全ての周ではタイムリミットが金曜の夜。

 おそらく能力の発動は夕食時。その瞬間に死因が確定したとすれば、夕食が原因の可能性が高い。

 焼きそばなら確かに小麦が含まれている。

 たこ焼きとも共通している点は小麦、あるいはソースあたりか。状況証拠としてはかなり強い。

 

「じゃあ、確かに小麦アレルギーの可能性が高いかも。後天的な発症だってあり得るし」

 

「アレルギーならアナフィラキシーショックで死に至ることもあるからな」

 

 アレルギーは体内の蓄積で発生する。つまり今は、重症化する前ということだ。あと少しアレルゲンを摂取すると危険という、いつ重症化してもおかしくない状態。

 辻カリンはその状態のまま金曜日に焼きそばを食べて重症化し、その後アナフィラキシーショックを引き起こして死亡する。これが今回のループが発動した起点になるのか。

 

 後天性のアレルギーは突然なるもの。平気だったものが急に駄目になるのも納得できる。

 後から悪化することも珍しくない。ループの前々から軽めの反応が出ていたのも分かる。

 反応が出るらしい木曜日は、給食にパンが出る。給食で週に一回、主食が米からパンや麺に変わるのは一般的なことだ。違和感はない。

 確かにこれなら筋は通る。

 

 ……だが、納得できない点が一つも残ってない訳じゃない。

 

「じゃあ、食事中ではなく部活中にも反応が出る理由はどうしてだ?」

 

「……分からない。給食から部活までは2、3時間の間隔があるのに」

 

 そうだ、一番の謎はそこだ。

 どうして、給食のパンを食べた時点では反応が出なかった? 

 そしてどうして、一切食事をとっていない、水泳活動中に反応が出ていた? 

 

 軽微な反応が出ていた時点で、あの頃から既に辻カリンの肉体に前兆はあったんだ。

 しかしそれが食事中や食事後でなく、少しした後の運動中に起こった意味が分からない。

 

 そもそも、たこ焼きや焼きそばを食べた時点で何も起こらなかったことも意味不明だ。

 普通、アレルギーは時間が経ってから反応が出るのかもしれないが……木曜日に反応が出たのは数時間後だぞ。

 重症化に伴ってアレルギーの性質が変化した? そんなことがあり得るのか? 原因は食事からの時間か? その瞬間の体感温度か? それとも摂取量か? 

 第一、医者に診せた時には異常無しと言われたんだろう。小麦アレルギーという分かりやすいものを見逃してしまうのか。

 

 これはもっと、複雑なものが原因なんじゃないのか。

 

「ループの発動が『発症による死亡』であれば病名も断言できるんだが」

 

 例えば、初めて実際にその病気の症状が出た瞬間から3時間のループだとか。

 そういったループなら十分対処可能──それどころか今よりずっと簡単に解決できてしまう。具体的に辻カリンがどういう経緯で発症したかをしっかり把握できるのだから。

 前回のループだってそうだ。3時間前に戻るなら電話一本で解決するのに、実際には事故が起こった瞬間から15分前という高難易度仕様。

 こっち側に都合の悪いループばかり起こってる。だから辻セイラも行き詰っているのだろうが。

 

「私の能力は『死亡する瞬間』じゃなくて『死の要因が確定した瞬間』でも発動するから。現に今はこうなってるし、過去の病気ループでも発動タイミングは同じだった」

 

「……意地悪くないか、その能力」

 

「意地悪いでしょ、このカス能力」

 

 ……つまりこういうことか。

 この能力は「発症しても治療すれば助かるかどうか」等の外部からの介入可能性を一切考慮しない。正直メカニズムは完全に分からないが、『このまま放っておけば将来死ぬ未来が存在する状態になった』──それが能力にとっての確定と判断されている。能力側の匙加減が全てになっているんだ。

 もし辻カリンが小麦アレルギーを患っていたとして。アナフィラキシーショックを起こした際に原因が分かっていない状態だと大幅に判断が遅れてしまう。エピペンが都合よく近くに存在するとも限らないし、未診断の状態では実際には治療されない蓋然性が高い。

 周囲に人のいない状況で準備が遅れて辻カリンが将来的に死亡する……そんな状況も十分起こり得るだろう。治療を受ければ助かるが、原因が分からない状態で放置されれば次の発症で死ぬ——能力はその『放置された未来』を見ている。

 

 だから「放っておけば死ぬ」が確定要素。

 今の状況で言えば、辻カリンが未診断のまま=能力的には「確定」。

 逆に言えば診断を受けて対処されれば「放っておかれない」状態になる。それが解除条件だ。だから辻セイラもセカンドオピニオンを重要視している。

 もう本当に嫌な能力だ。人格があるのなら普通に性悪の部類に当たる。

 

「じゃあ反応時、あるいは能力発動のきっかけになった瞬間に共通していたことは何だ。それが分かれば詰められるかもしれない」

 

「呼吸とか……?」

 

「それなら木曜日は部活中じゃなくて食事中に反応するはずだろう」

 

「なら……動き回ってた、とか」

 

 動き回っていた……。

 

 能力発動のトリガーになった、水曜日のたこ焼き。おそらく買い食いだ、食べながら少し歩くことがあったかもしれない。

 能力発動には至らないが軽い反応が出た、木曜日のパン。数時間後とはいえ、運動を行っている。動き回るに相当する。

 能力発動のトリガーになった、金曜日の焼きそば。味見をしたと伝えに来たのだから、姉の部屋まで移動したんだろう。

 一応、差こそあるがどれも該当する。

 

 でもそれじゃあ、小麦を食べた後に動くと何かが起きる、ということだよな。

 意味が分からないぞ。なんだそれ。本当にそんな病気があるのか? 

 

 簡単にまとめればこういうことだろう。

 1. 食べただけでは出ない。食べた後に運動した時だけ発症する。

 2. 通常の検査では引っかからない。

 3. 後天的に突然発症する。

 4. 状況により症状に差があり。

 5. しかも致死性がある。

 都合が良すぎる。

 

「条件としてあり得なくはないが、『辻カリンが小麦を食べた後に運動すると将来急死する能力』の方がよほど説明として自然に聞こえるんだが」

 

「私も思った。本当にそんな病気あるの?」

 

「……後で情報教室の使用を申請しよう。放課後、二人でそんな病気が実際に存在するのか調べるんだ」

 

 もしこれが能力由来だとしたら手の打ちようがない。

 能力者が誰なのか、本当に発動条件がこれで合っているのか、3日の間で無効化できる内容なのか、どれも分かりっこない。地球の裏側にいる可能性だってあるんだ。

 だから今の僕達にできることは、そんな可能性の低い病気の存在に望みをかけて調べものをするくらいになってしまう。

 

 2ヶ月ぶりで初めて行うループの対処法がこれ。なんとも頼りない上に先が見えない。

 ああ、僕は集中して小テストに臨めるのだろうか……。

 

 

 

 

 

 *

 

 

 

 

 

「瀬尾、これ……」

 

「……食物依存性運動誘発アナフィラキシー?」

 

 あったんだが。

 めちゃくちゃ普通に見つかったんだが。

 えっ本当にあるのかこんな病気。

 アレルギーって食べた時に起こるんじゃないのか。

 

 

 

 

 

 能力じゃなかった。本当に病気だった。

 しかも名前がちゃんとある。略称まである。僕達が想像していた「そんな都合のいい病気あるのか」が、医学的に認知された疾患として存在している。

 複数ページにこのことが載っているし、これについて解説してる公式サイトまで存在している。偽サイトに一つだけあったガセ情報という訳でもなさそうだ。

 ……検索して30分もかかっていないぞ。こんなに簡単に見つかるものなのか。

 

「……いや、まだ確定した訳じゃない。一旦読もう」

 

「うん」

 

 確信に至るにはあの数々の条件を満たす必要がある。偶然それっぽいものが見つかったからといって安易に安心するわけにはいかない。

 信頼できるソースをじっくり検証していくべきだ。

 

 ──食物依存性運動誘発アナフィラキシー(FDEIA)。

 ──特定の食物を摂取した後に運動することでアナフィラキシーが誘発される。

 

 これはまあ、そうだな。その通りだ。

 

 食物単体でも運動単体でも発症しない。辻カリンはパンを食べただけでは何も起きないし、泳いでいるだけでも何も起きない。だが、パンを食べた後に泳ぐと起きる。反応のタイミングが違ったのはそういうことだ。

 水曜日と金曜日の能力発動は本格的にアレルギーが悪化したタイミングで……木曜日は反応こそ出るが悪化にまでは至らないほどだった? 

 

 ──食後30分〜4時間以内の運動が危険、特に1時間以内が高リスク。

 ──コファクター:体温上昇、疲労、睡眠不足等が重症化を促進する。

 

 これもまあ……そうだな。その通りか。

 

 コファクターというのは……なるほど、補助因子。発症を助長する要素のことだな。

 能力が発動した──「たこ焼きや焼きそばを食べた直後」は歩き回ろうとしていたのだろう。それなら食後1時間どころの話じゃない、ほぼ食べながらだ。高リスクの条件を満たしている。

 それに体温上昇や疲労がコファクター。さっき聞いた話では辻カリンは暑がりらしいし、日常的に運動しているだろうから、慢性的な疲労もある。それが補助因子として働き、閾値が下がりやすい状態だった。

 

 一方で、木曜日の部活はどうだ。

 給食は昼、部活は放課後。間に2〜3時間空いているなら、高リスクの1時間以内は過ぎている。30分〜4時間の範囲には入っているが、リスクは下がっている。

 それに普通の学校プールの水温は大体28℃ほど。水に浸かっている間は体温上昇が抑制される。時間経過に加えて、プールの水温で体温上昇も抑えられているという訳だ。

 だから致死に至らず軽い症状、倦怠感やだるさ程度で済んでいたし──木曜日は能力発動のトリガーになるほどの反応に至らなかったのか。

 

 ──重篤例ではアナフィラキシーショックにより死に至ることも。

 ──通常のアレルギー検査、一般IgEで陰性になることがある。

 ──専門施設での運動負荷試験やω-5グリアジン特異的IgE検査が必要。

 

 ……そうだ、その通りだな。

 

 この通りなら、病院では「異常なし」と出てもおかしくない、通常の検査項目じゃ拾えないから。このω-5グリアジン特異的IgE検査……とかいう、この特殊な検査でないと検出できない。

 そもそも食事と運動、どちらか片方だけでは条件を満たさないから、通常のアレルギー検査で引っかからないんだ。検査の時は「食べた直後に運動する」なんて過程を普通はしないからな。

 つまり検査を行った医者が見逃した訳じゃない。一般的な検査をして一般的な結果を返しただけ。この病気を疑わなければ、この検査を指示する理由がない。

 

 そして……致死。

 未診断のまま発症すれば、原因が分からないまま対処が遅れる。エピペンの処方も受けていない。周囲に人がいなければ、あるいはいても原因が分からなければ──死ぬ。

 辻セイラの能力が「放っておけば死ぬ」と判定するには十分だ。

 

「これ見て、『原因食物は小麦が最多で60〜70%』」

 

 その通りだ。

 

「『10代、中学生から高校生の発症が多い』」

 

 その通りだ。

 

「『原則、後天的に発症する』」

 

 その通りだ。

 ……全部合ってる。

 

「全部だ。一つも矛盾がない」

 

 こんなに綺麗に当てはまることがあるのか。逆に怖いくらいだ。

 でもこれは能力じゃない、病気だ。医学的に認知された、対処可能な疾患。

 

 つまり──ループを解除できる。

 

 小麦を食べた後に運動すると症状が出る、そう伝えれば医者もFDEIAを疑う。疑いが出れば検査と指導が入るはずだ。

 ω-5グリアジン特異的IgE検査を指示してもらえれば確定診断がつく。確定すれば治療方針が出る。原因さえ分かれば、食後の運動を避けるだけで発症しない。診断を受けてエピペンを処方してもらえば万が一の保険にもなる。

 それで辻カリンの「放っておけば死ぬ」状態が解除される。

 能力が「確定」と判定しなくなる。

 

「辻セイラ、この情報に賭けてみよう」

 

「そう……だね。セカンドオピニオンは、アレルギー科にすればいい」

 

「前と違うのは行き先だけか。なら後は実行するだけだ」

 

「……うん。今回は、いける気がする」

 

 ちょっとぎこちないのは、今回のループが難題すぎて唐突な希望の光を信じきれていないからか。

 

 気持ちは分かる。8周して原因を特定した君の苦労まで分かるとは言えないが、ほんの数分前まで一切手掛かりなしの状態からここまで進展したとなれば疑ってしまうのも無理はない。

 だが、その声に──さっきまでのような迷いはない。

 

「よし、決めた。今夜もうちに来て、親の説得を手伝って。説得の手順は把握してるから」

 

「……本当に行くことになるんだな、僕は」

 

「今回は1日で終わるかもしれないし、いいでしょ」

 

 ……確かにそうか。

 そうだよな、もう僕が否定する理由はない。

 

 前の周で辻セイラは一度、親を説得して病院に連れて行くことに成功している。あの時は結果が「異常なし」で終わったが、段取り自体は完成している。今回はそれを再現すればいい。

 しかも今回は具体的な方針がある。何を診てもらうべきか、どこに行くべきか、何を伝えるべきか。全部分かっている。致死性があるとなれば家族への説得にも緊急性が出るし、状況証拠も揃っている。

 結果が出なかった「何の病気か分からないままとりあえず診てもらう」ではない。「小麦を食べた後の運動で症状が出る」──この一文を医者に伝えるだけでいい。

 

「君と一つ屋根の下なんて鳥肌が立ちそうだが……辻カリンを救うためだ。承知した」

 

「生意気ね。うちのご飯あんなに美味しい美味しいって食べてたくせに」

 

「そろそろ授業だし話は……えっそうなのか?」

 

「今回も週末のカラオケはキャンセルして。いざというときにアンタの手が必要になるし」

 

「えっ」

 

 なんでカラオケのことを……いや前の僕が教えたのかもしれないが。

 なんて非情なことを言うんだ。

 前の周の僕はもしかして結構辻家に馴染んでいたのか。

 本当に大丈夫か前の僕は。この女に絆されたりしていないよな? 

 

 

 

 

 

 *

 

 

 

 

 

「──FDEIAの可能性が高いですね」

 

 

 

 

 

「えーっ!」

 

「検査結果は後日ですが、疑わしいので小麦か、小麦を食べた後の運動は避けてください」

 

「まぁ……本当だったなんて」

 

「確定診断には食物と運動負荷試験が必要ですけども、それは後日改めて予約しましょう」

 

「じゃ、じゃあママ! 私パンも麺も粉物も食べられないの?」

 

「仕方ないでしょ。教えてくれたセイラと瀬尾君には感謝しないとね……」

 

 

 

 

 

 *

 

 

 

 

 

 にぎやかで暖かな辻家のお世話になることになって早二日。

 想像以上に親しみやすかった辻家の面々と信頼関係を構築し、木曜日に辻セイラの説得に下調べした情報を伴った援護射撃を行って、無事アレルギー科への診察に誘導成功。

 辻セイラ曰く、前までの周は「少々グレーな方法」で証拠を集めていたらしいが、十分な説得材料が存在する今回はパスすることになったらしい。何だったんだろうか。

 

 そして、結果は──小麦と運動に注意する指導と、後日の特別検査が確定。

 ループ解除条件はこれで満たされた……はず。

 

 何はともあれ、今は金曜日の夜。

 ……審判の瞬間。

 

「ソースの匂いズル~。私も焼きそば食べたかったのにー……」

 

「我慢してカリン。万が一のことがあったらダメだから」

 

「過保護! マコトくんも何か言ってやっ……なんでブルーシート持ってるの?」

 

「いざという時に辻セイラの頭を包み込むためだ」

 

「……友達なんだよね?」

 

 友達だ友達。

 君の命を救うための今夜限定ズッ友だ。

 あの優しい御母堂が君のための別メニューを準備してくれているから今夜はそれで我慢してほしい。

 危険を承知で「運動しないから」と言ってもきっと辻セイラが阻止するだろうから、もう諦めるほかないぞ。

 

「瀬尾君も、教えてくれてありがとう。まさかカリンに小麦アレルギーがあったなんて」

 

「……身内に病弱な人がいて。それで気になっただけです」

 

「それでも感謝してるよ。カリンに何かあったらきっと僕達も後悔していた。ところでそのブルーシートは?」

 

「それなら良かったです。お世話になったお礼になれば」

 

「えっブルーシートは?」

 

 黙秘権を行使させてもらおう。

 

 とはいえ、これで医者の判断が間違っていないと断言する訳にもいかない。

 知識のある人がこう言っていたから絶対安心だ、と断言できるほど僕達は全ての情報を把握できている訳でもないし。未だに標的が妹でない可能性も、妹の病気が「そういう能力によるもの」の可能性も否定できない。

 

 そのためのブルーシートだ。

 もし今回が失敗なら、僕は辻セイラの尊厳を守るためにこれを顔に被せる。そして辻セイラは深い絶望を以て次の周に挑むことになる。目の前で初めて人の死を見届けることになる訳だが、ショッキングなのは家族も同じ。失敗する訳にはいかない。

 辻セイラの話によれば、このループのタイムリミットはあと十数秒にまで迫っている。

 

 この瞬間を超えられるのか、否か。

 果たして結果はどちらなのか。

 

「どうなのお姉ちゃん。今日もママのご飯は美味しいですかー?」

 

 

 

 

 

「……うん。美味しい。美味しい……ママの焼きそば久しぶり……!」

 

「あれ、そうだっけ。1週間ぐらい前に食べなかったっけ」

 

 ……ああ、大丈夫そうだな。

 良かった。ブルーシートは畳んでもよさそうだ。

 

 

 

 

 

「美味しい、美味しいよぉカリン……」

 

「えっ泣いてる。ちょっなになになに」




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