『大切な人を救うために死に戻る能力』   作:破れ綴じ

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遅くなりました。申し訳ありません……。
なんとか毎日投稿は守れたので許してください……(´;ω;`)


[18:09] -20ぐらいどうにでもなる!

「今回は一段とまた厄介なループだな」

 

「ね……ホント……」

 

 ……それにしてもいやに疲れているな。

 過去2回のループでもここまで疲弊していなかったと思うが……それも仕方ない。辻セイラ曰く、「今回は初めから状況が詰んでいる」と言うんだから。

 

 しかし、とんでもない状況だぞ。

 せっかくの休み時間を邪魔された恨み言の一つでも吐いてやろうかと思ったのに。今の君の顔を見たら、とても文句を言える状況じゃない。

 

 1. 桐島ミオは今朝5時、能力の発動直後にスマホの写真で日高アサヒや友人達の数字を確かめた。普段の自分の態度が、周りの好感度を下げているんじゃないか……という懸念の答え合わせをする絶好の機会だとして。

 それの結果により、彼女は朝の時点で「その懸念が事実である」と判断を下してしまった。実際には繊細な人間の思い込みなのだろうが、死に戻りは一般常識を軸に判定を緩めてはくれない。

 

 2. それは辻セイラの巻き戻り先──午前5時半より、前。どうやっても間に合わない。

 タイムリミットは「『桐島ミオの将来的な死』という条件が確定する瞬間」だというのに、死に戻りの開始時刻は「『条件の確定』が確定した瞬間」より後になってしまっている。

 なぜこれほどまでに融通が利かないのか。戻る時間を任意で決められないとはいえ、この結果はあまりにも辻セイラに不利すぎる。

 

 3. 念のため、今朝合流した後、辻セイラが写真のことをそれとなく聞いたそうだが……桐島ミオ曰く「確かに数字が見えるようになってすぐ写真を確認した」とのこと。

 本人は「実は気になってて!」など説明してくれたらしい。辻セイラのことを信用し、真実を話してくれたんだろうが……おかげで「5時~5時半の間は眠っている」という希望は見事に打ち砕かれた。

 

 つまり、桐島ミオは既に心の致命傷を負ってしまっている。

 4時半には数字が見えなくなって、桐島ミオに「自分の態度は周りに迷惑なのかも」という今日の認識が固定されてしまい、将来的な孤独死に繋がる人間不信の種が出来上がってしまう。

 タイムリミットの4時半までに元の精神状態に戻さねば──数字への不信感、友人達への不安、失恋のダメージをカバーできなければ、また死に戻りが発生してしまうということだ。

 

「なんだこれは。ふざけているのか」

 

「……ごめん、面倒なループで」

 

「いや、君が悪いんじゃない。そんな態度になられるとこっちが困る。というか……」

 

 

 

 

 

「それならどうして──朝じゃなくて、昼休みに相談に来たんだ」

 

 

 

 

 

「これ以上、アンタに頼りすぎると……取り返しがつかない気がした」

 

「お、おお。そうか……」

 

「ただ……やっぱり、一人だと良い案が思いつかなくて」

 

「そうだろうな」

 

 まあ、正直想定内だ。今朝の電話のあの様子で、どうにかなるとは僕も思わない。

 しかし、取り返しがつかないっていうのはどういうことだ。情報共有が遅れてしまって、助けが間に合わなくなる方が致命的ではないか。

 いや、詮索はしないぞ。今の精神状態の君にそこまでしつこく質問して責め立てる勇気はない。いくら嫌いな相手でも、「もっと弱ってほしい」と思っている訳ではないのだから。

 

 しかしどうしたものか。

 辻セイラは桐島ミオに対して好感度が高い。周囲の好感度に敏感になっている人間が、一人高い人間に慰められたところで「気を遣われている」とはすぐ分かる。むしろ、励ますために嘘で慰められていると考える可能性もある。それでは不安は拭えない。

 既に先手を打たれてしまっている以上、辻セイラから何かアクションを起こすことは難しい訳だ。

 

「写真を消させる、というのは……もう見た後だよな」

 

「……」

 

「今から好印象な人物に見えるよう噂を流布……無理がある」

 

「……」

 

「その想い人とやらの日高アサヒに何か言わせ──駄目だ忘れてくれ。原因は彼じゃない、桐島ミオの認識の問題だ」

 

「……だよね」

 

「すまない……」

 

 駄目だ。

 案があるかどうかじゃなくて、なくてはいけないんだが……下手に行動を打ってもこの周を無駄に潰すだけ。辻セイラが苦しむだけでしかない。

 それはいけない。いけないんだが……僕の頭から何も出てこない。

 

「……分かった。この周は、捨てる。もう何周か、情報収集フェーズに入る」

 

「は? 何を、調べるっていうんだ。当てはあるのか」

 

「…………」

 

「おい」

 

「……分かんない。それも含めて、考えないと……」

 

 おい、本当に無理をしているだろう。

 なんだそのあやふやな計画は。何を調べるのも決まってないのに、もう何度か死ぬことも致し方ないっていうのか。

 それとも、一人で悩んでいた時はずっとそうしていたのか。

 良い案が思いつかなくなったらもう一回考え直し。難易度の高いループを解決できるまで、それこそ死ぬ気で努力し続ける。自分の身も顧みずに、と。

 

 でも、僕に何ができる? 

 見て見ぬふりをすれば僕の平穏な昼休みは戻ってくるが、知ってしまった以上、もう戻れない。ここで手を引いて手に入る『悔いのない高校生活』など、定義からして矛盾している。

 しかし、それを覆せる案をこちらが提示できない。今の辻セイラには一分一秒だって惜しいはずなのに、微かな希望を求めて僕を頼り、僕はその期待を裏切ったんだ。僕に彼女を引き留める資格はない。

 

 ……行ってしまったあの背中を見つめながら、ただ唸ることしかできないだなんて。

 

「……ああ、もう!」

 

 この昼休みが終われば、次は五限~六限の間の休憩時間と放課後だけ。それだけしか接触するタイミングはない。

 放課後は自分のクラスに戻るそうだが、五限~六限の休憩時間はどこへ行くのか、そこまで聞けていない。まず探すところから始まってしまう。

 しかしその限られた時間の中で解決策を見つけ出せなければ、このループは終わらない。

 

 ここまで追い詰められた状況で、僕には奇を衒うことも、策を弄することも、名案を思いつく事もできない。

 しかし、今の彼女にこの状況を打破する案は出せないだろう。もう動けるのは僕だけだ。

 

 なら、残っている手は一つだ。

 情報収集も周到な作戦も要らない、最短の正面突破。

 

「僕が、桐島ミオを直接説得するしかない……!」

 

 もうとにかく面と向かって話し合いだ。授業時間中に作戦を立てよう。

 人命のため、嘘でもハッタリでもデタラメでもいいから彼女の考えをひっくり返すしかない。僕が直接接触した周は無いらしいから、結果は未知数だが……逆に言えばまだ未知の可能性が残っているということ。

 大嫌いなあの女を救い、僕の信念を貫くためだ。

 やってやる、やってやるぞ……! 

 

 

 

 

 

 ……しかし。

 今朝はあんなこと言っていたのに、結局頭上にあるのは「-2」だったな。

 いや、マイナスなんて数値があるならきちんと嫌っているんだから安心だが。

 好感度の範囲に負の数が含まれるなら-24ぐらいは嫌われてると思ってたぞ。

 

 

 

 

 

 *

 

 

 

 

 

 いた! 

 

 5限後の休憩時間は空振りに終わったが、なんとか見つかったぞ! 「放課後は自分のクラスに戻る」という辻セイラの情報が無ければ危なかった! 

 教室に残っているのは……桐島ミオと三好ルナの二人だけ。好都合だ! あと30分もない! 

 

「桐島ミオ! 話がある!」

 

「うわっ!? ……げ、セイラんとこの委員長じゃんか」

 

「あれ〜、セイちゃんの最近のお気に入りちゃん? ミオちゃんに何か用?」

 

 三好ルナからは──50。

 桐島ミオからは──5。

 

 まあ、こんなものか。

 普段から注意をしてばかりだったからな。むしろ0じゃないだけマシ、三好ルナの50に関しては高すぎと言うべきか。

 

「……あれ、-5? へ~、マイナスなんてあるんだ〜」

 

「ウソ……うわ、マジじゃん。ウチの-20なんだけど。ひっどーい」

 

「ぐっ……!」

 

 気まずい。非常に気まずいが、抗議は受け付けないぞ。

 君達のそのアクセサリーとメイクとスカート丈は、校則第四条に真っ向から喧嘩を売っている。減点の積み重ねの結果だ。

 

 辻セイラに対する好感度が大体……同情や諸事情を差し引いても性格の反りの合わなさや犯罪的所業で-50ぐらいだろう。

 それに比べれば誤差だ。動じる必要はない。

 

「三好ルナ、すまないが少し外してもらえないか。桐島ミオと二人で話がしたい」

 

「ふぇ?」

 

「は??」

 

 とりあえず彼女には出て行ってもらわねば。

 これから桐島ミオについての、人には聞かせられない話をする訳だ。もし同調されて僕の敵側として意見なんか出されたら敵わない。

 

「ん〜……まっ、オッケー。じゃあミオちゃん、何かあったら呼んでね〜」

 

「え、ちょっ、マジで二人きりにする気? ルナ? ちょ、ルナ〜!?」

 

「ありがとう」

 

「ん~ん、ミオちゃんのことよろしくね」

 

 ……お、おお。思ったより話が早い。

 しかし、早めに判断してくれたのは助かった。彼女はそこまで攻撃的では無いし、桐島ミオの抱えている闇にも気づいていたのかもしれない。僕が何かしようとしているのに気づいてくれたのかも。

 

「……で? 何の用。注意? 言っとくけど今日メイク薄いから」

 

 対してこちらは。丁度抱えていた不安と綯交ぜになってフラストレーションがあふれ出してるんだろうが……正直そんなこと気にしていられない。

 僕は今回の説得に──案外可能性を感じている。これを解決してループを脱出できると踏んでいる。

 

 1. まず僕は桐島ミオに対して好感度が低い。

 これは致命的に見えて逆に好ポイントだ。好感度の高い人間が励ましても慰めにしか聞こえないが、低い人間が真摯に迫れば「こんなに仲の悪い人でも肯定してくれるんだ」と逆に安心感を呼ぶことができる! 

 

 2. これは今朝気づいたことだが──僕の好感度は非常に単純かつ規則的だ。

 初対面の人間であれば原則50。相手を親友だと思い込もうとしても1程度しか上がらない。感情で左右されることは無く──桐島ミオが恐れる「態度による変化」を一切受けない。実は特攻体質だった訳だ。

 

 3. そして僕は辻セイラから事情を聞いている。対策は万全。

 潰すべき中身は三つ。「この数字への不信」と「友人への不安」と「失恋」。

 

「もしかしてアレ? この状況利用して告白とか? ウケる。頭の上-20のくせに?」

 

「好きに思ってくれればいい。君が納得できるならそれが一番いい」

 

「ナニソレ。普段怒ってばっかのくせに……」

 

「単刀直入に言うぞ。君は今日、この能力現象で落ち込んでいるだろう」

 

「……って、ハア?? なに、それ」

 

 わざとらしく声を張り上げ、刺のある揶揄い口調。

 わざと挑発して、怒らせ、いつも通りのペースに乗せようとしているな? 

 悪いが乗らないぞ。乗る理由がない。こっちは今必死なんだ。

 それに今一瞬言い淀んだだろ。図星を突かれて驚いたか。

 

 僕だけの利点も、気を付けるべき注意点も、やるべきタスクもはっきりしている。

 可能性はあるんだから、僕はやってみせる。

 

「落ち込んでないし、どしたの委員長、今日キャラ変じゃない? あのねー、ウチが落ち込むとかマジでないから。そもそもどこ見てそんな風に──」

 

「君のことは、ずっと見ていたから分かる。いくら取り繕おうと、嫌でも分かるぞ」

 

「……え? は、ウソ、いや、なんでっ………………なんでそんなことが分かんのさ」

 

 正確には、『前の僕』が見ていた、だが。しかし僕ではあるから嘘じゃない。

 そして「何でそんなことが分かる」と言いつつ、事実僕はそれを分かっている風に主張している訳で、君自身にも心当たりがある。否定はしていないのがその証拠だ。

 

 それにさっきから僕の頭上をチラチラ確認していることは分かっているぞ。

 動揺しているのか。そこまで気にしているようなら、人によっては違和感を覚えることもあるだろう。好感度に変化があってもおかしくない。

 

 しかし、僕は変化しない。

 僕は議論するのが好きだ。意見をぶつけ合うことは素晴らしいからな。

 でもそれで数値は上昇しないだろう。その人の評価を僕の好みだけで決めるべきではないと思うからだ。

 僕は罵倒されるのが嫌いだ。普通に気分が悪い。

 でもそれで数値は下降しないだろう。その人の評価を僕の好みだけで決めるべきではないと思うからだ。

 声が大きい? だから何だと言うのか。

 

「話は変わるがスカートの丈を直せ。校則第四条第二項違反だ」

 

「…………は??? この流れでそれ?? マジで言ってんの??」

 

「マジで言っている。騙されたと思って、ほら」

 

「えぇ、なにその真顔……そーいうセーヘキ? こわ……」

 

 ……ふむふむ。

 文句を言いつつ、一応は応じる辺り、辻セイラと同じくやはり根は素直なのか。

 

 しかし……素晴らしいぞ! 

 そんな性癖は無いが、一人の女子生徒が自分から違反している身嗜みを整えた。僕に命令されてではあるが、これまで何度も反発してきた桐島ミオが一時的にとはいえスカートの丈を直した。

 これで学園の風紀は一つ守られた訳だ。瀬尾マコトポイントを+10贈呈しよう。

 

「……えっ、-10になってる……な、なんで?」

 

「スカート一枚で点。こんなもの一つで変わる。こんなものを、君は信用しているのか?」

 

「じゃ、じゃあ。このピアスは? 着脱式で……うわ、0だ」

 

「素晴らしいぞ。第四条第三項、『装飾品の規定』に従っている」

 

「えっと……制服の着崩しは? 結構好き勝手やってて……」

 

「それは校則にないから関係ない。±0だ」

 

「何なのアンタッ!?」

 

 だって、校則にないんだよ。なら別に良くないか。

 確かに制服の着方についてのルールが無いのは僕も疑問だった。しかしこの学校ではOKなんだ。じゃあ別に指摘するようなことでもない、好きにしてくれ。

 

「待って? じゃあその-20って、ウチの態度とかじゃなくて……みだしなみの問題?」

 

「そうだ。こんなものだぞ、好感度なんて」

 

「……なんで? 今ウチ、めっちゃ感じ悪かったのに」

 

 御覧の通り好感度の精度はあまりにも正確だ。

 どんな些細なことにも逐一反応するし、明確な外れは勿論、些細なズレすらも逃さず反映する。88時間かけた辻セイラがそう証言するのだから間違いない。

 

 しかし、僕や桐島ミオにとっては降って湧いた11時間の産物。WPPOからも「限定的な一指標」としか言われていないし、少しでも反例のようなものが現れれば信憑性も落ちる。

 もっとも、僕の数値は極めて正確に動作している訳だが、内情を知らない桐島ミオにとってはこの数値が「信用ならないもの」に思えても仕方ないことだろう。

 

 こんな雑な基準で上下する数字を、人間関係の全てだと思い込むのがどれほど馬鹿馬鹿しいか──身を以て実演できるのは、多分この学校で僕だけだ。

 好感度も7、10……14。上がっているな。悪くない方向だ。

 

「で、でもさ! 他の人はそうじゃないでしょ! ウチがちょっと普通にしただけでさ、ちょっとずつ引いてくの、見えるんだよ! アンタには分かんないでしょ、アレ見ながら一日しゃべるの、どんなんか!」

 

「ふむ。僕も注意をすると相手の数値は少し下がるが、ほどなくしてすぐ戻るな。君の友人は違うのか?」

 

「いやっ、そんなことは……」

 

 分かんないでしょ、と来たか。ああ、分からないさ。分からないが、想像だけはつく。

 耳元で怒鳴られているに等しい音量だが、望むところだ。

 

 君は繊細過ぎるが故に、人の好感度の下降を気にしすぎるが、上昇していることには重きを置いていない。失敗を恐れるあまり成功体験を無視している。

 そして友人を大事にするきらいがある。「君の友人は薄情者なのか?」と聞けば否定するだろう。そして一度口から思わず出た言葉は案外自分に馴染みやすいものだ。だって自分が言ったんだから。

 

「それは一時的なものだ。君だって、友達の意外な一面にビックリして、一瞬引いて、5分後には忘れていた経験くらいあるだろう」

 

「…………」

 

「一瞬の変動を恒久的な評価だと思い込み過ぎだ。出席簿の遅刻欄だけ見て生徒の全部を決める教師がいたら、君は真っ先に文句を言うタイプだろう」

 

「……別に。そんなの、分かってるし」

 

 25、31、38……よしよし。徐々に信頼を稼げている。

 僕の言葉の正当性を理解し始めている。やはり落ち込んだ時に聞く、自分に有利な正論は沁みるか。

 

 そうだ、君の友人は君と楽しそうに会話をしていた……はずだ。

 ここについては実際に見た訳ではないから何も言えないが、君の交友関係の広さについては辻セイラから聞かされた。なんでも……100人分? とかなんとか。

 

 君は今日、数字が下がった瞬間ばかり数えて、上がった瞬間を一度も数えていない。それは観察として不公平だ。データの取り方が偏っている。

 友人達は自分の態度に距離を置いたわけではなく、ほんの少し驚いただけだ。自分の思い込みが外部から軌道修正されれば、次第に今日の光景を見つめ直すようになるだろう。

 さっき教えられた曖昧な指標で友人達に「不安を感じてしまっていいのか」と。

 

「……委員長さ、ウチの本当の性格知らないから、そんな綺麗事言えんだよ」

 

 ん、しぶといな。

 結構粘るぞ? 

 

「ウチ、ほんとはもっと面倒くさいから。声でかいだけじゃなくて、しつこいし、めんどいし、こんなんじゃないから。今日のだって、その、猫かぶってたっていうか……」

 

 自分で自分を下げにきたか。慰めを無効化する気だな? 

 先回りして「どうせ」と言っておけば傷が浅い──そういって聞く耳を持たないつもりだろう。

 

「好きな、人にだって、さ。あんなだったし……告白する前にフラレちゃって」

 

「そんなことはない。彼には彼女がいたんだ。横恋慕がお好みなら話は別だが」

 

「即答すん……え、見てたの?」

 

「見てたって言っただろう」

 

「な──ッ!」

 

 見てないぞ。

 ただ、辻セイラから「一切介入が無かった場合は君がどういう行動に出るか」昼休みに全部教えてもらったんだ。プライバシーの件で文句があるなら親友に言ってくれ。

 ここは人命のために嘘をつかせてもらうがな。

 

「君は面倒なんじゃない。人の顔色の変化に気づけるのは美点だ」

 

「……なっ、なんで」

 

「ん?」

 

「なんでアンタ、下がんないの。ウチ、今めっちゃダサいじゃん。めっちゃ嫌なやつじゃん。なのに、なんで……」

 

「だから下がらないんだって。何回言わせれば分かる」

 

 君が今この場で母親への呪詛を吐き始めたらその瞬間-100を叩きだすが、そんなことはしないだろう。

 むしろ君が化粧を落として、髪染めを止めて、リップクリームも無色のものにしたら数値上昇待ったなしだ。

 あまりに劇的な更生っぷりに好意すら抱くかもしれない……。

 

 ……って、おい目を逸らすな。

 

「ちょっ……ウソ! 距離、近いって!」

 

「数字なんて気にするな、僕の目を見て話せ」

 

「ほんっと、さっきから……!」

 

「君が落ち込んでいるのは嫌だ。辛いなら話だって聞こう。君が前向きになれるならなんだってする」

 

「〜〜っ!」

 

 とにかく後は失恋のダメージを緩和するだけ。

 傷心中の女性に無理やり過去を忘れるよう迫っているようで気分が悪いが、ここをこなせないと君の気持ちにはダメージが残ったままだ。君の親友を解放するためにも、これ以上ループを起こすわけにはいかない。

 どうだ、どうなんだ? ここだけは正直確証が持てないんだ。恋愛なんてしたことないからどうすれば正解なのか分からない。彼女の認識を大きく塗り替える何かが必要だ。

 少し顔が赤いのが気になるが……恥ずかしがっている場合じゃないんだぞ! 

 

 46、55、65、76……いける! 彼女は僕の言葉にどんどん希望を見出しかけている! 

 さあ、気持ちを建て直せ。今日のことは忘れろ、友人の笑顔を思い出せ、新しい恋に向き合う姿勢を見せろ! 

 

 立ち直るんだ、桐島ミオ! 

 

「なんっで委員長なんかに、ウチ……あーもう、やだ、ほんとやだ……」

 

「おい、そろそろ結論を──」

 

 ──ガラッ!! 

 

「瀬尾、分かった! わざと数値の低いアンタを宛がって、基準を誤認させれば──って」

 

 あっ、-2の女。

 

 

 

 

 

「……ん?」

 

「……は?」

 

「……え、な、なに……セイラ?」

 

 えっ……? 

 桐島ミオから……。

 

 

 

 

 

 ………………88、だと? 

 

 

 

 

 

 あっ消えた。

 ……あ、あれ? 戻らないぞ?




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