『大切な人を救うために死に戻る能力』   作:破れ綴じ

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[19:00] 50……だと!?

 無い。

 桐島ミオの頭の上にも、辻セイラの頭の上にも──どこにも、何も、無い。

 

 数字が、消えた。

 つまり解除だ。WPPOの言っていた、能力の解除。

 

 いや、そうじゃない。

 消えたことが重要なんじゃ……いや重要だが。大事なのはその後だ。

 もう1分経ってる、そろそろ2分にだってなる。タイムリミット、そのはずだ。

 なのに、死に戻りが起こっていない。

 

 

 

 

 

 ──ループを、脱出できている! 

 

 

 

 

 

「あ~……セイラ? これは、なんていうか、そのー……」

 

「……どういう状況? なんでミオと瀬尾が……」

 

「へっ……あっ、ちょっ、近いって! もういいでしょ!」

 

 おおっと。すまなかった。

 

 ミオと瀬尾ってなんか響きが似てるな。

 韻踏んでるのか? 

 

「こ、これはねセイラ! 変なことしてた訳じゃなくて……!」

 

「4時半……回ってる? え、ど、どうして……? 何してたの?」

 

「何もしてない! フツーに話してただけだし! なんもないし! 距離も近くないし!」

 

 さっき近いって言ったじゃないか。

 

 しかし……辻セイラのあの反応、もう確実だ! 

 超えた、タイムリミットを超えた、間に合ったんだ。桐島ミオがネガティブな状態のままで、認識が固定される前に。説得は……成功した! 

 だってそうだろう? もうここまで来たら疑いようがないぞ。

 

 彼女の「数字に対する不信感」はどうなった? 

 僕が完璧なロジックでその正当性を叩き潰せている。あの数字の変動がショックの大きな原因だったんだから、それに信頼がおけないと証明すればいい。

 事実、死に戻りが発生していないなら彼女の中ではもう大きな問題ではないんだ。

 

 彼女の「友人達に対する不安」はどうなった? 

 これも既に僕の反証が通っている。桐島ミオは反論ができなかった。つまりは、あの情報を一時的なものだと認識できるようになっている。

 事実、死に戻りが発生していないなら彼女の中ではもう大きな問題ではないんだ。

 

 彼女の「失恋のダメージ」はどうなった? 

 正直ここはよく分かってないが、僕の言葉のいずれかが効いたんだろう。好感度も最終的には88……つまりは相当の信頼を勝ち取ることはできたということ。

 事実、死に戻りが発生していないなら彼女の中ではもう大きな問題ではないんだ。

 

 そうだよな? 初めに見た時は驚いたが、88はそれなりの数値のはず。

 ハルキが90だから……多分、「親友」ほどではないが、「友人の中でも上位クラス」程度には認めてもらえたということだよな。

 逆に日高アサヒには96~100ぐらいだったんだろうか。恋愛感情ならそんなものか。

 

「ねえミオ……」

 

「っ、てか! 数字消えたんだけど!? 何? 終わった? これ終わったってこと!?」

 

「……速報出てるんじゃない」

 

「あっそっか。じゃあ検索すれば……」

 

 むっスマホ。

 校則違反! 

 

「……っ! い、いや! 学校でスマホダメじゃん。よくない……よね、セイラ?」

 

「えっ急にどうし」

 

「だよね! セイラ!」

 

「……ぅん。その、私が調べるよ」

 

 ああ良かった、びっくりした。携帯使うのかと思った。

 桐島ミオにもこれまでもよく注意していたが、今日も今日とて懲りずに携帯を校内に持ち込んでいるのかと思ったぞ。しかし、そういう訳じゃないのか、今日はちゃんと置いてきたんだな。何が起点かは分からないがしっかり意識改革できているようで素晴らしい。

 もし目の前でスマホ出されたら好感度爆下がりしているところだった。もう見えないが。

 

 そして辻セイラ。君には大幅減点だ。

 家族と連絡を取るためにも必要なのは分かるが、学級委員長を見た上でさも「えっ何も問題意識ありませんけど? 別に目の前で弄ってても私悪くないですよね?」みたいな風にブラウザを起動するんじゃない。

 事情が事情だから没収はしないが、自分が校則を違反しているという意識をきちんと持ってくれ。

 

「……『日本時間の7月5日金曜日、16時31分12秒に対象能力者の保護を完了。能力は解除された』だって」

 

 ……! 

 

「〜〜っ、よかった! よかったじゃん!」

 

 い、いや、それでもやっぱり、そうなのか。

 能力解除は果たされたんだな。公式のお墨付きで。もう誰の頭の上にも、あの数字は出てこないと。

 

 じゃあ、今日という日は、本当に終わったんだな。

 確保された能力者とやらには正直、思うところが無くもないが。その人のせいで今日、一人の女子生徒が朝から地獄を見て、もう一人が8回死ぬような目に遭い、今も死にそうなほど疲れ切っているんだ。もう少しタイミングを選んで発動してほしかった。

 ……が、まあ仕方ないか。そこまでは委員長の管轄外だし、世界規模の話はWPPOに任せておけばいい。「瀬尾マコトが裁いていい」というルールが無い以上、口出しをするのは野暮というべきか。

 

「じゃ、じゃあウチちょっと行くとこあるから! またね、また来週!」

 

「えっちょっとミオ!?」

 

「委員長も! その……いつものウチで、本当にいいんだよね! 信じるから!」

 

「え? あ……ああ、当然だ。僕が保証する」

 

「サンキュ! また明日!」

 

 明日って君。

 今日は金曜だから明日は休みだぞ……おお早、そんな逃げるように出て行かなくても。

 まあ不良の君が「明日も学校に来る」ことについて前向きに発言できるなら、だいぶ精神は回復していると見ていいんだろうが……。

 

 なにはともあれ。

 

「上手くいったぞ、辻セイラ! 僕の説得でループを突破することができた!」

 

「…………どういうこと?」

 

「言葉の通りだ。何も言わずに行動したことは悪かったが、問題は解決だ」

 

「……好感度の低いアンタに、ずっとバレバレなストーカーさせて、好感度の基準を勘違いさせる作戦を考えてたんだけど」

 

 む。またそれはだいぶ悪魔的な発想を持ち込んできたな。

 

 確かに、僕の桐島ミオに対する好感度は-20だった。

 もし、辻セイラの代わりに-20の男が朝からずっと隣にいれば、鬱陶しいと思う反面、「案外好感度ってのはこれぐらいが基準なんだな~」と思い込ませることができる。

 桐島ミオが嫌がる可能性はあるが、既に知ってしまっている日高アサヒや友人達の数値を「あれは意外と高い方だったのかも?」と勘違いさせられる。既知の情報の前提をすり替えることで問題解決を図ろうとしたんだな? 

 

 しかし、その作戦には致命的な弱点があるぞ。

 僕が社会的に死ぬ。もう駒としてリサイクルできなくなる。

 へー。-2の女の思考はこんなものか。ちょっと容赦が無さすぎるぞ。

 僕も覚悟が足りなかったか。

 

「……何したの」

 

「だから、説得だ。数字はデタラメ、友人関係は良好、恋はリフレッシュと。僕にしかできない方法で説得した。それが功を奏した訳だ」

 

「……は?」

 

 我ながら、口に出すと単純な手順だな。

 目の前で数字をいじって、あとは正論と本音を投げ続けただけ。

 ……言っておくが、君の8周分の情報が無ければ一手目から詰んでいたぞ。

 半分は君の勝ちだ、これは。自分が役に立てなかったとは思わなくていい。

 

「……べ、別の恋で、無理やり上書きして、解決した? それが、確定……戻せない? 新たなミオ要因の可能性……?」

 

「? どうした辻セイラ。何を言っている」

 

「……そ、そっか……そっ、か…………」

 

 ? 

 おい、様子がおかしいぞ。なんだか返事の音量がおかしい。目の焦点も──

 

 ──おおおっとっ!? 

 

「っと、危ない……軽っ!? 軽いな君!? 大丈夫か?」

 

「……あは、あははは」

 

 本当に大丈夫なのか君。

 腕一本で足りてしまった、人ひとり支えた感触じゃないぞこれは。君、もしかして普段から心労であんまりものを食べられていないんじゃないか。

 いや、まあ疲労が出たんだよな。88時間ループ突破のために走り回っていた訳だし、やっと解決できて肩の荷が下りたんだろう。ふと気が抜けて足元がふらつくのもおかしなことじゃない。

 

「……もう、疲れた今日は帰る……」

 

「お、おう。そうか。そうだな、土日はよく休め。家まで送ろうか?」

 

「……おねがい。話の続きは、月曜、また……」

 

 ……本当に一気に疲れが出たみたいだな。

 なんなら教室に突入する前より疲れている気がする。それだけ衝撃的な事実でも知ってしまったのだろうか。僕から伝えられたのは全て朗報のはずなんだが。

 

 まあ、ゆっくり休むといい。

 今度からループが起こったらすぐに相談するんだぞ。

 

 

 

 

 

 *

 

 

 

 

 

「話の続きは月曜にって言ったけど」

 

「ああ」

 

「なんでミオと土日の間に仲良くなってるの?」

 

 月曜日の朝から随分元気だな君は。

 きちんとサボらずに学校に来ていて気分が良いぞ。

 

 実際にあの後、「やっぱり死に戻り」なんてどんでん返しがあってはいけないし、親友の所在や交友関係については迅速に把握したいんだろうな。

 任せてくれ。説明責任は僕にある。君は僕が下心に従って手を出したのでは、と疑っているんだろうが順を追って話せば分かるはずだ。

 さて、どこから話すか。

 

「まず土曜日だ。桐島ミオから僕の友人伝いに、『金曜励ましてくれたお礼がしたい』、と申し出があった」

 

「……お礼」

 

 当然僕は当然断った。

 あれは委員長の職務の範囲であり、辻セイラに「協力する」と宣言したが故の行動。礼をされる筋の話じゃないからな。

 

 だが彼女は退かなかった。助けられたのに何も返さないのは嫌だ、と。

 慰められた側が、「ありがとう」の一言で流さず、きちんと形にして返したいと言い出したんだぞ? 当たり前のようでいて、なかなかできることじゃない。義理と筋の通し方を知っている人間だ。

 素晴らしい。僕は受けようと思った。

 

「で、日曜日に二人で食事をした」

 

「ふーん……それで?」

 

「そこでだな。彼女曰く、女性にとってお洒落は命。だから、校則に違反しない範囲でどこまでのお洒落が許されるのか、『委員長が良いと思うもの』を教えてほしいと頼まれた」

 

「……ん?」

 

 これは非常にいい傾向だ。

 辻セイラと並ぶ、身だしなみの校則違反常連だった桐島ミオが「校則の範囲に収まるお洒落に路線変更したい」と言ってくれたのだから。正直感心した。

 

 そしてそれを僕に相談したのも理に適っている。

 校則の条文なら、服装規定から細則まで一言一句頭に入っているからな。第何条がどこまでを禁じて、どこからが解釈の余地なのか、即答できる人間は生徒会にもそういないだろう。

 我ながら、これは適任だと確信したよ。

 

 途中からは僕の方も楽しくなってきて、条文の背景──なぜその規定が生まれたのか、過去にどんな違反例があって改定に至ったのかまで解説してしまったんだが、彼女は嫌な顔一つせず最後まで付き合ったんだ。

 大した集中力だと思わないか? 

 

「また、『日高アサヒのことも、正直まだ諦めたくない』、と言っていた」

 

「……それ、は……」

 

「そこで『男の子はどういうのが好きか教えてほしい』と頼まれたんだ。勿論これにもOKした」

 

「……えぇ」

 

 当然だな。

 確かに僕は金曜、彼女が辛いなら話を聞くと言った人間だ。

 自分の発言には責任を取らなければならない。吐いた言葉を週明けに忘れるような人間が、他人に校則を説けるはずがないからな。

 一応、断りは入れたぞ。僕に答えられるのは統計じゃなくサンプル数1。要は僕個人の好みが基準に混ざってしまう可能性が高いが、それで良ければ、と。彼女は「それでいい」と即答だった。潔い。

 

「ただ『一回じゃいまいち分からなかった』らしい。だから、連絡先を交換して、これからも定期的に勉強会を行うことになった」

 

「うわ」

 

「バイトがあるから毎週とはいかないが、2〜3週に1度なら時間も作れる」

 

「……だから今朝のミオはちょっと様子が変だったんだ」

 

 変とは何だ。

 校則違反していたのが常なんだから、むしろ正常に向かっていると考えるべきだろう。

 

 それにしても、向上心まであるとは非常に関心。

 一度きりの礼で終わらせず、継続して学ぼうという姿勢だ。教える側として、これほど張り合いのある生徒もいない。学級委員長冥利に尽きるというものだろう。

 しかも、去り際に彼女は「教えてくれた礼に、これからはできるだけ校則を守ろうと思う」とまで宣言してくれた。彼女は不良とはいえ、見た目も非常に優れていてスタイルも抜群。あの言葉を聞いた瞬間はもう本当に恋に落ちるかと思った。

 

 彼女とはきっと、これからも長く続く良き友人になれるだろう。

 辻セイラにもぜひ見習ってほしい。桐島ミオはもうピアスを止めようと決心しているそうだぞ。

 

 こうして整理すると、僕はこの週末。僕は委員長生活でも一番実りのある仕事をしたんじゃないか? 

 一人の不良の更生に大きく尽力し、新たな友人もできた。非常に充実した日曜日だったと言えるだろう。

 

「逆に君、その顔色はなんだ。土日でしっかり休めたんじゃなかったのか?」

 

「…………人の気も知らずに」

 

 おおう。やっぱり不機嫌だ。

 

 この前のループが相当精神に来たんだろうが、そのためにわざわざ君を家まで送って休ませたんじゃないか。なのになんだその様子は、あまり回復していないように見えるが……。

 

「……土日はカリンに癒してほしかったの。疲れてたから」

 

「そうだろうな」

 

「でも、小麦禁止ウィークだから機嫌悪くて……とてもダル絡みできそうな雰囲気じゃなくて」

 

「ああ……」

 

 それは……確かにそうだった。

 

 今の辻カリンは好物の粉物を食べられないんだ。言われた直後ならまだしも、そこから1週間後となるとだいぶストレスも溜まってきているだろう。

 検査は確かあのループ終了時の再来週だから……来週か。まだ1週間あるぞ。もし「お姉ちゃんうっとうしい!」なんて辻カリンに言われていたら、普通に辻セイラが病んでいた可能性もある。

 

「土日ろくに疲れも取れなくて、月曜になったらミオの惚気を聞かされて……」

 

「それはご愁傷……ん? 惚気?」

 

「しかもあの子鈍いから、まだアサヒ君に揺れてるのも本当っぽいし……」

 

「惚気? 何を?」

 

 日高アサヒと付き合えていないのに何を惚気ることが……。

 ああいや、違うか。今の彼女は疲れているんだ質問攻めにするのはよくない。

 つまり君は、癒されるはずの土日で疲労の回復に完全に失敗した訳だ。

 

 この話を続けるのも酷だな。

 ここは流れを変えてやる必要がある。

 

「そういえば、僕から君への好感度は、結局どれぐらいだったんだ?」

 

「…………なんで今それ聞くの」

 

「参考までに、だ。自己分析の答え合わせがしたいと思って」

 

 辻セイラが僕に抱く好感度は-2だったが……僕が君に抱く好感度は多分……-50ぐらいだろう。

 あまり攻撃的でないが不良ではある三好ルナに対して-5。

 更生する前の、校則違反盛り合わせみたいな桐島ミオに対して-20。

 だとすると、犯罪行為を平気で行ったり、ルールを破ることに一切の抵抗が無く、しかもこなしている数が尋常ではない辻セイラは……大体-50ぐらいが妥当じゃないか? 

 

 僕は感情に左右されない、独自の好感度ルールに従っていた。いくら辻セイラに同情しようと、数値は基本的に彼女の所業や思想に準じて変動していたはずだ。

 君自体にいくら好感を持っていようが、君の所業が消えない限りこの好感度は上がることがない。なんて予想のしやすい。

 僕との仲が悪いことは辻セイラにとって安心材料。今ここで再び思い出させてやれば、多少のガス抜きになって溜飲も少しぐらいは下げられるだろう。

 後、僕も純粋に気になるし。

 

「で、どうだったんだ?」

 

「………………-50」

 

「ん? なんだって? 聞こえないぞ?」

 

 

 

 

 

「……50だった!」

 

 えっ。

 

 

 

 

 

「50! アンタ、私のこと好きすぎ! もっと気を付けて!」

 

「な、なんだってーっ!?」

 

 -2に対して50……52も差があるだと!?

 ま、まさか……僕はだいぶ辻セイラに入れ込んでしまっていたのか!? 

 マズいぞ、彼女に好印象を抱かれる訳にはいかない。彼女がマイナスなのに、僕だけプラスだなんて、どう思われるか!

 いや、僕から50の好感度を浴びせられている時点で彼女にとっては気分が悪いだろうが……。

 

 ええい、彼女の能力を忘れたのか、瀬尾マコト。

 もっと厳正な基準に則って彼女を嫌わないといけないのに、初対面の人と同じ50の好感度を抱いてしまっているだなんて。彼女の協力者失格じゃないか。

 彼女の大切な人になってはいけないんだ。それを意識しろ、今のままではいけない!

 

 急いで考えを改めろ。暇な時間は呪詛を吐くぐらいの努力を見せるんだ。

 僕は辻セイラが嫌い僕は辻セイラが嫌い僕は辻セイラが嫌い……。

 

 

 

 

 

 *

 

 

 

 

 

「(……ムカつく。何なのコイツ……!)」

 

「(私が-2で……コイツが-50なんて!)」

 

「(これじゃ、私の方がコイツを嫌いじゃないみたいで……ああもう!)」




これで3周目終わりです。
ここまで読んでくださってありがとうございます。
投稿直後に内容の変更があった場合、高確率で直前まで執筆を行っていた可能性があります。
結構ギリギリで投稿してるので、大目に見てもらえるとありがたいです……(´;ω;`)

可能であれば、感想や意見や評価やここすきを頂けると嬉しいです。大喜びします。
それでは、次話以降も宜しくお願いします(´・ω・`)
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