『大切な人を救うために死に戻る能力』   作:破れ綴じ

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次ループを考えないとなので、次回は1日お休みを頂くかもです。
何卒、どうかご理解のほどを……m(__)m


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[20:00] 安全な距離感は最低3m


 7月25日木曜日の放課後。

 明日はいよいよ終業式。夏休みの始まりを告げる日だ。

 

 となれば、その前日に多種多様な課題やプリントが配られるのも必然。

 学校にいる間に整理をしておきたい、そう思うのもおかしくはない。外は雨が降り出しているから早めに帰らないといけないが、中途半端な状態で帰るのもなんだか気持ち悪くて、おかげで教室には僕一人だ。

 

 だからだな。

 

 

 

 

 

「……なんでもうアンタしかいないの」

 

 そんなこと言われてもこっちが困る訳だが。

 

 

 

 

 

「教室に入るなり開口一番がそれか、辻セイラ」

 

「……チッ。ハズレか……」

 

「外れとはなんだ外れとは」

 

 約3週間前のループを解決できたのは誰の協力があってのことだと思っている。

 何の脈絡もなく入口から失礼な言葉を投げてくるのは、君ぐらいのものだぞ。

 しかも「なんでもうアンタしかいないの」とはどういう意味だ。まるで僕が最後の選択肢だったような言い草じゃないか。皆夏休みも近いからってすぐに帰って行ったぞ、選択も何も無いだろうに。

 

 ……さてはまたループか? 

 

 まだ18回目のはずだよな。そして僕達は16あるいは17歳。

 前回は3週間前で、前々回は4週間前、流石に頻発しすぎじゃないか? 事前に回避できたものも含めれば年に6~7回ほどの頻度だと聞いていたが、それにしたって多い気がするぞ。

 まあもしループなら仕方ないし協力するが。今回も証拠はあるのだろうか。

 

 いやでも、「アンタしかいないの」ってことは僕以外でも相手にできるのか。

 じゃあ何だろう? 

 

「用件があるなら手短に頼むぞ。僕ももう帰るところだからな」

 

「──傘、二つ持ってる?」

 

 ? 

 

 傘? 

 

 ああ、持っているとも。

 鞄に常備の折り畳みが一本、今朝の降水確率を見て持ってきた長傘が一本。

 天気予報を確認してから家を出るだけで、人間はこの程度の危機管理ができるんだ。我ながら隙が無いな。今日遅刻気味だった辻セイラは確認する暇が無かったかもしれないが……。

 

 ……まさか? 

 

「持っているが」

 

「じゃあ一本寄越しなさい」

 

「うわ」

 

「もうアンタしかいないから力づくでも」

 

「怖い怖い怖い」

 

 カツアゲじゃないか。

 恐喝だぞ、それは。刑法249条だ。

 

 さては僕以外にもこの質問をして回っていたな? 

 遅刻して傘を忘れてしまったから、降り出した雨に困窮して他の面々にもカツアゲをして回っていたと。無理やり奪うんじゃなく、まず初めに「二本持ってる?」と聞くのはせめてもの良心が残っている証拠か。

 しかし、都合よく二本持っている人が中々現れず。普段の不良仕草も相まって中々貸してもらえずに今に至り、教室に戻ってきたら僕しかいなくて落胆したというところか。

 

 というか、なぜ普通に「貸して」と言えないんだ君は。多少文言を変えるだけで借用申請に変わるというのに、どうしてわざわざ罪状の付く方を選ぶんだ。そういうジンクスでもあるのか? 

 

「貸すだけならいいが、何故カツアゲする必要があるんだ」

 

「いや、定期的に悪いことしてメンテナンスしておかないと」

 

 メンテナンス。

 えっなにそれは。

 

「カツアゲはあくまで体裁。こういう時に悪印象稼いでおかないと、いつ何があって私に好印象持たれるか分からないし」

 

「それで聞いて回ってたと?」

 

「そう。雨で困ってるのも本当だし、もし傘が貰えなくても嫌われるから得しかない。逆に事情が分かってるアンタに頼んだところで借りを作るだけ。もう取れる旨味が無い」

 

「そんな煮出した後の鰹節みたいに」

 

 まあなるほど。徹底してるんだな。

 いや、なるほどじゃないんだが。

 

 規則違反や排他的な態度もそうだが、日常のちょっと「嫌な奴」感を出すのにも余念が無いよな君は。

 ただ、傘一本の人は狙わない配慮ができるのに、嫌われる努力も惜しまないその姿勢には疑念を抱かざるを得ないぞ。悪印象を管理する几帳面さがあるのに、他の人間に「傘は私が貰うから濡れて帰れ」と言ったりする訳でもない。

 気持ちは分かるが、楽な方に振り切ればいいのに中途半端というかなんというか。

 

 ん? それで言うと、もしかすると……あれもか? 

 プリントを後ろに回す時、後ろも見ずに投げやりに渡すアレも。

 先生にまとめて出す提出物が毎回締切ギリギリに出てくるのも。

 体育祭の片付けで、しれっと真っ先に消えて、気づいたら帰っているのも。

 全部「印象が良くなりすぎないための調整」だったのか……? 

 

 えぇ、セコ……。

 もっとデカいことをやれよ。やったら僕が止めるけども。

 

 桐島ミオにもこの前の勉強会で「セイラとなんか喧嘩した? その……仲直り手伝ってあげよっか?」とか言われてしまったし。周囲に「私は壁を作ってるんですよアピール」を心がけているのか。疲れるだろ、それ。

 

「もういいよ、『貸して』くれる? 早く帰りたいし」

 

「了解した。君の家まで送って行こう。そこで返してくれ」

 

「いや何もそこまで……まぁいいか。ありがと、おねがい」

 

 断っても普通についていくぞ。

 明日の終業式を逃したら返却は9月近くなる。不良に貸した傘が夏休みを越えて自然に返ってくる期待値を、僕は高く見積もれないし。

 

 さて、整理も終わったし、待ち人も出来てしまった。雨が酷くなる前に帰ろう。

 このプリントは鞄の一番奥だな。濡れないように注意しなくては。

 

 

 

 

 

 *

 

 

 

 

 

 ──ザァァァァ……

 

 ──ゴロゴロゴロ……

 

「一つ聞いておきたいんだが」

 

「なに」

 

「夏休みの間にループが発生したら、どうするつもりなんだ」

 

 我ながら物騒な世間話だが、時期が時期だ。明日で1学期が終わって、明後日からは約40日間、僕と辻セイラの間から「教室」という接触手段が消えてしまう。

 学校がある間なら、朝に顔を合わせて、証拠を見せて、その日のうちに作戦まで詰められる。夏休みは違う。連絡先を交換済みとはいえ、まず会うところから始めないといけない。初動が半日、下手をすれば丸一日は遅れる訳だ。タイムリミットのある能力で、この遅れは軽くないだろう。

 

 なのでどうするつもりなのか、今日のうちに聞いておかなくてはいけない。

 雨も本格的に強くなってきたから周囲に会話も聞かれにくいからな。ちょっと強すぎる気もするが。

 

「家族で遠出されたら協力できないぞって話?」

 

「それもある。どうなんだ実際、今年はそういう予定あるのか?」

 

「まぁ……ある。家族旅行的な」

 

 あるのか。

 あってしまうのか。

 

 まあ流石に、『もし遠出して死人が出たら自分が死に戻るからイベントはキャンセルしてほしい』なんて家族には言えないだろうな。辻家の雰囲気からするに、イベント好きそうなあの妹を辻セイラは止められないだろうし。

 しかしどうする? その場合、現地で死に戻りが起こったら僕にはどうすることもできなくなるぞ? 「現地にいないと娘さんの死に戻りを手伝ってあげられないので同行していいですか」みたいな頼みをする訳にもいかない。死に戻りが起きない可能性もあるのに。完全に不審者だ。

 

「流石にその時にはアンタに頼らない。もしそうなったら私が一人で何とかする」

 

「え、いいのか」

 

「当たり前でしょ。現地にいない人間に状況を説明したって時間の無駄だし混乱するだけ」

 

「それはそうだが」

 

「……行き先は毎年、私が安全そうな場所を選んでるから。可能性は低いと思うし」

 

 まあ、それなら多少は安心できる……かも? 

 

 流石にイベントのキャンセルはできないからせめてもの抵抗として家族旅行の行き先の決定権を握っていると。

 流石に現代日本でそう危険なバカンスも存在しないと思うが、リスクヘッジは大事だ。家族も意見が強いくらいにしか思ってなくて、大事な娘が「今年はここにしたい!」と言い出せばそこまで拒否はしないということか。

 

 となると辻家には、旅行雑誌の写真から危険の芽を逆算する女子高校生が存在すると。

 雑誌の使い方として、多分日本で一番間違っているんだろうな。

 

「逆に、それ以外の期間は手伝ってほしいんだけど」

 

「当然のように僕が頷く前提で話しているな?」

 

「だってそうでしょ。そもそもアンタが便利すぎるのよ」

 

「えぇすごい責任転嫁」

 

 バイトのシフトが入っている時間帯は動けないが、それ以外なら一応対応可能だ。

 可能だがこう……遠慮というかなんというか。

 だっておかしいだろう。僕はいつから「頼めば当然応じる人間」として扱われているんだ。いや、事実そうなんだが。

 この協力関係の始まりは録音による脅迫だぞ。報酬なし、拘束時間の定めなし、契約解除の自由なし。労働基準法どころか、奴隷的拘束を禁じる憲法18条の領域じゃないか。

 

「普通は『死に戻り』なんて信じるだけでもおかしい方。なのに証拠見せたら即理解って」

 

「君の説明は筋が通っているからな。協力すると約束もしたし」

 

 それは僕が異常なんじゃなく、順番の問題だろう。

 検証可能な証拠が先にあって、論理が通っていて、それでもまだ「信じられない」と唸る方がどうかしているんだ。

 相手が正論を言っているのに自分が感情を優先して約束を反故にするなど学級委員長の風上にも置けない。信じる信じないは感情の話で、あれは検証結果を受け入れるかどうかの話。

 

 というか、僕の理解が早いんじゃなく、遅かった場合のコストが高すぎるんだ。

 いくらキミが相手とはいえ、誰だって無実の人間に危機が迫っていると聞けば協力を惜しまないのが普通だと思うが? 

 

「しかも犬猿の仲なのに、必ず協力してくれる」

 

「録音で脅しておいて何をぬけぬけと」

 

「何か異論が?」

 

「ないです」

 

 ぐっ……僕はいつになったらこの女からあの録音を奪い取れるんだ。

 このまま時効にでもなったらどうするのか。現在目下一番の悩みなんだぞ。

 別に録音が無くなっても協力するから何とか大目に見てくれないか。そんなこと言っても「証拠隠滅を図られてる?」と思われて警戒されるのがオチだから決して言わないが。

 

 ちなみに時効は……虚偽通報単体なら軽犯罪法で1年、偽計業務妨害まで広げれば3年か。

 どちらにせよ高校生活の間はずっと有効な首輪という計算になるじゃないか。考えるんじゃなかったな。

 

「便利に使ってもらえて結構だが、そもそも最近立て続けすぎないか」

 

「つまり?」

 

「この能力だ。僕が関わってからだけで、もう3回だぞ」

 

 高校2年春の時点でこれまで16回なんだから、年1回が普通だろう。

 事前に回避できたもの含めると年6~7回だから……やっぱり初めの3ヶ月で3回は異常だぞ。ちょっと君の周りに危機が起こりすぎじゃないか。

 

 確かに、将来一切怪我もせず病気にもならず精神的にも健康なままで生きようと思ったら障害はかなり多くなるだろう。

 それでもこのペースだと高校2年から加速度的にループが増えていくことにならないか。

 

「今年はたまたま続いただけじゃないの。前とその前はタイミング次第でいつでも起こりうるものだったし」

 

「たまたまか」

 

「昔は親も過保護だったし、交友関係も狭かったから。意外とこんなもんだと思うけど」

 

 ……そうかなぁ? 君がそう言うんならそうなんだろうが。

 ただ、ループが増えているように見える……そんな事実を認めたくないだけじゃないか? 

 いやでも「お前これから一気にループ増えるんじゃね?」とか言われれば否定したいか。

 考えてみれば辻カリンのアレルギーもいつ起こるか分からないし、数字の能力者だっていつ発動するかも分からない。この二つが去年起こる可能性もあったんだから、何も今年から異常だというのは的外れかもしれない。

 ちょっと君には酷な質問だった、申し訳ない。忘れてくれ。

 

 だとしても、事実これから死に戻りを手早く解決しようと思うなら、無事な期間に何か対策を増やしておくべきではないか。

 例えば──他の『能力』でこの死に戻りの効果を上書きして無効化するとか。

 

「他の能力者の能力が死に戻りを妨害した経験はないのか? それを利用してループを強引に破壊したりは」

 

「分からない。あったかもしれないし、なかったかも」

 

 分からない? 

 あるとかないとかではなくて、分からない? 

 

「『能力の先占効果』って、聞いたことある?」

 

「ん、何の話……いや、あるが」

 

「じゃあそれを前提にして、ループの開始をA、タイムリミットをC。で、途中で別の能力者が能力を使った瞬間をBとして考えてみて」

 

 急に何を……ああいや、考えてみるんだったよな。

 

 能力の先占効果。確かに、能力学でも有力とされている仮説の一つだった気がする。

 曰く──「矛盾する二つの能力が同時に存在する場合、先に発動/影響している能力の効果が優先される」。

 

 謎の多い『能力学』の中で、これまで観測された事例と矛盾しないから広く支持されている説の一つだったはず。

 そういや最近めちゃくちゃ賢い能力学者が正式に証明したとかいう話も聞いたことあったな。ちょっとレベルが高すぎて僕は全く理解できてないし、一般にもあまり浸透していないだろうが。

 

 だとすると? 

 ちょっと場合分けして考えてみよう。

 

 ケース1、BがCの後に発生したとすれば。

 ……いや、この場合は既にループが解決しているんだから関係ないな。

 

 ケース2、BがAとCの間に発生したとすれば。

 この場合は……あっ、死に戻りの影響範囲はA~Cの期間になってしまうのか。

 だとすると、ループ中に他の能力者に頼ったところで、既に死に戻りの効果が先に出てしまっている。ループを能力で解除してもらおうと思っても、死に戻りの方が優先されて解除できない。

 

 ……ケース3、BがAの前に発生したとすれば。

 死に戻りが事前に解除されてもその通知が来る訳じゃない。もしそんなことがあっても、辻セイラには知覚すらできないから、「分からない」。

 

「……他の能力者に頼るのは無意味そうだな」

 

「さっすが。頭の回転が速くて助かる」

 

 既にループ中であれば、どんな能力を持っていたとしても死に戻りは解除できない。

 まだ起こっていないループには対応できるが、それをするには「いつループが発生するか」を事前に把握しておく必要がある。それができれば苦労はしない。

 あまりにも能力として強力過ぎる。

 発動したが最後、正攻法以外でこの能力を止めることは不可能……。

 

 ……僕でも思いつきそうなことは既に辻セイラも考えているということか。

 それもそうだよな。ほんの3ヶ月事情を知っただけの僕に決定的な新方針が生み出せるなんて、そんな訳──

 

 ──チカッ! 

 

 ん? 

 

 

 

 

 

 ──ドーンッッ! 

 

 

 

 

 

 *

 

 

 

 

 

「……他の能力者に頼るのは無意味そうだな」

 

「ん? ……はっ?」

 

 あ? 

 どうした、急に怪訝な顔して。

 

 もう分かれ道だったか? 

 違うよな、まだここは途中の並木道で──

 

 ──チカッ! 

 

 ん? 

 

 

 

 

 

 ──ドーンッッ! 

 

 

 

 

 

 *

 

 

 

 

 

「……他の能力者に頼るのは無意味そうだな」

 

「……ッ!?」

 

「? 辻セイラ?」

 

「………………あっこれ側撃!」

 

 は? 何だ、そくげ──

 

 ──チカッ! 

 

 ん? 

 

 

 

 

 

 ──ドーンッッ! 

 

 

 

 

 

 *

 

 

 

 

 

「……他の能力者に頼──うぉっと!?」

 

「危ない!」

 

 おい! 

 何だ、何で僕を押し倒して──

 

 ──チカッ! 

 

 ──ドーンッッ!! 

 

「うおおおおおっ!?」

 

 な、なんだ今のは!? 

 一瞬辺りが真っ白になっ──ってなんだあの木!? 縦に裂け……えぇっ!? 

 

「っ、は……危なかった……!」

 

 え……雷? 雷か、今のまさか? 

 急に辺り一面真っ白になったから分からなかったが、さっき光と音が同時に来たぞ。僕達のすぐ側に……あっ、さっき歩いてた一番近くの並木に雷が落ちたのか! 

 

 す、すご。間一髪と言うヤツじゃないか。まだ実感ないぞ。

 プリントが濡れたら困るし、わざと車道側の並木の下を歩いてたが……あのままあそこに立ったら死んでいたかもしれない。

 

 運良く「雷が鳴っている時は木の下が安全」とは聞いていたが、雷の落ちる位置が少しでも悪ければ今頃魂ごと蒸発するところだった。

 教えてくれたのはあのカス父親だったか。とんでもなく迷惑な男だったが、あの教えのせいで助かってしまったというのは、少し複雑だな。

 

「──アンタ、側撃気をつけなさいよ……私も油断してたけどさ」

 

 ……ん? 

 

「あーもう濡れちゃった、最悪……」

 

「そくげき?」

 

「……まさか、知らないの? 木に落ちた雷は伝導しやすい人間の方に飛び移るから、最低3mは離れないとって」

 

 ……は? 

 

 伝導しやすい人間の方に、飛び移る? 

 え、それじゃ、木の下って、逆に危ないんじゃ……。

 

「さてはあれ? 『雷は木の下が安全』っていう一昔前の迷信信じてんの」

 

「……」

 

「……なんか私、地雷踏んだ?」

 

 ……嘘だろ? 

 

 木の下は、安全じゃないのか? 

 え、僕はあの父親から小さい頃にそう教わって、以降めちゃくちゃ癪だが、あの身の安全を守るルールに従って生きてきたんだが……迷信なのか? 

 もしかしてあの男、母さんと僕達を捨てて出て行った挙句、命に関わる迷信を置き土産にしていったと。

 ふざけるなよ? 

 

 ………………いや。

 じゃあ、なんで辻セイラはそれが起こることを知って……。

 

「……まさか今、『死に戻り』が発動したのか?」

 

「うん、さっき発動した。大体6秒。私に感謝し──」

 

「──6秒!?」

 

「う、うん。ここまで短いのは初めてだけど……」

 

 ろ、6秒だと!? とんでもなく短いスパンじゃないか! 

 じゃ、じゃあ。今死に戻りが起こって、6秒だけ時間が巻き戻って、急いで僕を木から遠ざけたと。そういう訳か。

 そして、僕に側撃雷が当たらなくなったから、死に戻りは解除された。

 非常に短い間だったが、この6秒の間に死に戻りが一つ解決し、僕は命を救われたということに……。

 

 ……あれ? 

 まだおかしいな。

 

「じゃ、じゃあ、ついさっき僕は感電死していたということだよな」

 

「そうなるけど」

 

 待ってくれ。それは良くないぞ。

 それじゃあまるで──

 

 

 

 

 

「辻セイラ、それじゃあまるで、僕が『大切な人』になってしま──」

 

「んな訳ないでしょ。今ので私も巻き添え食らって感電死したってだけ」

 

 ん? 

 

 ……。

 

 

 

 

 

「あっ死に戻りって自分の死も対象なのか!?」

 

「あったりまえでしょ。自分だって『大切』じゃない」

 

 そ、そうか! 

 びっくりした! 僕が「『大切な人』認定を受けた」なんていう、とんでもない勘違いもとい悪夢のような展開になったのかと思った。良かった! 

 

「良かったね。私と帰ってなきゃ、アンタ一人で感電死するだけだったよ」

 

「そ、そうだ。ありがとう。まさか君に命を救われることになるとは……」

 

 僕は依然死に戻りの対象ではない。辻セイラを無視して一人で帰っていたら側撃雷を諸に食らって死に戻りも発動せず、僕は死んでいた。

 全く想定外だったが、「彼女自身も対象」であることで、僕は救われた訳だ。

 

 でもよく考えてみれば、それもそうだ。

 自分のことが「大切」じゃない人間なんてそういない。辻セイラにだって自己犠牲的な感覚があるが、死に戻りの瞬間は怖いんだから「何度でもループOK!」って訳ではないんだ。

 そもそも、死に戻り前に「自分が苦しんで死ぬフェーズ」が存在するのも不思議だった。もしかしたら、「能力の発動条件」が「辻セイラの死」なのであって、加えて「辻セイラの死の発動条件」が「大切な人の死の確定」なのかも……? 

 

「……『大切な人を救う』と言えば聞こえはいいが、本当に難儀な力だな」

 

「ま、アンタは『大切な人』じゃないんだけど」

 

「命の恩人じゃなかったら正座させてるぞ君」

 

 なんだコイツ。

 一々、君は一言多いんだよ。好感度調整の一環か? 

 助けてくれたことに感謝はしてるが、そんな相手を煽るような……。

 

 

 

 

 

 あっプリント。

 ……あっ。




これで4周目終わりです。
ここまで読んでくださってありがとうございます。
1回馬鹿みたいに短い章を書いてみたかったんです。なので今回はこれで終わりです。
そんな目で見ないでください(震え)

可能であれば、感想や意見や評価やここすきを頂けると嬉しいです。大喜びします。
それでは、次話以降も宜しくお願いします(´・ω・`)
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