なんとか今日中に投稿できました!(; ・`д・´)
[20:04] 何も起きない夏休み
夏だ!
8月序盤! 夏休みのピーク真っ盛りだ!
海!
監視員のいる遊泳区域内で、入水前の準備運動と一時間ごとの休憩を徹底した遊泳だ!
BBQ!
火気使用が許可された区画で、青少年健全育成条例の範囲内でのキャンプファイヤーだ!
花火!
市の条例で定められた時間帯と指定区域で、近隣住民への事前挨拶済みの手持ち花火だ!
高二の夏は遊び盛り。
しっかり計画表を立て、順調に課題と向き合いつつ、ルールの範疇で楽しめるだけ楽しむのが僕の流儀。毎年そうして来たし、後悔しない夏を過ごすため、今年もきっとそうなるだろうと……楽しみにしていた。
……しかし。
今年の夏だけは……ただ楽しむ訳にもいかないんだよな。
*
「──ふふふ。こうして一緒に机を囲むのも3ヶ月ぶりだ」
「もうそんなに経っていたか」
「……分かるかい、3ヶ月だよ、3ヶ月」
「悪かった。最近時間が取りにくくなって、許してくれないか」
「いいや、許したくないね。僕はそっけない幼馴染に寂しい思いをしていたんだから」
……にしては楽しそうじゃないか、ハルキ。
そんなに僕から「久しぶりに勉強会をしよう」と提案されたのが嬉しかったのか。
3ヶ月前といったら、丁度辻カリンのループが始まる前の頃だったか? あれ以降、ループが頻発して時間が取りにくくなり……気づけばもうこんな時期。彼の怒りも理解できる。
「ま、今年のマコトは『何故か』例年みたいに予定を入れてないみたいだし。僕との時間も取りやすくなるかな?」
「まあ、そうなるだろうな」
満を持して始まった夏休みだが、生憎の僕には「途中で抜けられない予定」が組めなくなってしまった。
理由は極めて単純──いつ辻セイラからヘルプの電話がかかってくるか分からないから。
聞いていた話によると、つい昨日の8月8日から、六泊七日の中々長めな家族旅行に出かけたとのこと。
旅行期間中には僕を頼らないと宣言していたし、彼女本人も比較的安全な場所を選ぶと言っていた手前、こうしてここまで警戒するのはいささかやりすぎかもしれない。
ただ、正直僕はそんなこと言われてもいまいち安心できない。
一学期の間に4回起こったループだぞ。どうせ、夏休み期間にも不幸なイベントが起こってしまうのだろう。悲しいことだが、もうそんな気がしてならないんだ。
そして、頼らないと宣言していたにも関わらず、おそらく僕に泣きついてくる。
となれば、「友人達とビーチバレーに勤しんでいるから後にしてくれ」とは言えない。
「というわけでこの漸化式、模範解答は数学的帰納法だけど、特性方程式で解く方が綺麗だと思うんだよね。マコトはどっち派だい」
「僕も特性方程式派だ。答案が三行で済む。ただ、試験で使うなら成立の一行を挟むのが礼儀だろうな」
「ふふふ、その一行を挟む几帳面さ、実に君らしいよ。よし、じゃあ次はこの確率だ」
となると、できるのは「すぐに切り上げられる」勉強会に限る。
勉強魔のハルキはとっくに夏休み課題なんて終わらせているから、二学期の予習にお熱だ。そんな議論に付き合える同年代の友人は、自慢じゃないが僕くらいしかいない。
最近ハルキと一緒に何かすることも少なかったし、寂しいと宣言している親友を放っておく訳にはいかない。予習であれば、いつまでに終わらせなくてはという恐れもないから途中で離席しても問題ない。
だから、最適解はこれだ。
駅前の冷房の効いたフードコートで、ドリンクバーもあって、家まで自転車で十分。
学生の勉強は許可されているし、何かしら頼んでいれば滞在も認められている。
即時解散が可能な条件を満たす娯楽なんて、突き詰めれば勉強会くらいしか残らないんだよな。
勿体ない気もするが……贅沢は言えない。
海と人命では、比べるまでもない。バイトのシフトは動かせない以上、自由に使える枠は元々限られている。
僕は計画に合わせて課題を進める派の人間だから、勉強時間はどちらにせよ確保する必要があるし、実利で見れば十分に上等な夏だ。
文句を言おうにも、相手は側撃雷から庇ってくれた命の恩人でその用件は人命。
労働基準法もびっくりの拘束条件なのに、審査してくれる機関がどこにもない。
現実は非情である。
「大体、最近の君、あの辻さんって不良とばかりつるんでたよね。僕が声をかけても、辻さんが近くにいたら後にしてくれって」
「……悪かった。色々と立て込んでいて」
「別に責めちゃいないさ。事実確認だよ、事実確認。ただ、親友の僕より優先される『用事』の中身は、ちょっと気になるけどね」
「それは言えないんだ。申し訳ない」
「ふうん……君、付き合う相手を選んだ方がいい。委員長として正したい気持ちは分かるけど、あの不良は筋金入りだし……」
ごめんって。
彼女にも事情があるから許してくれ。三学期の予習まで付き合ってもいいから。
君はあんまり人と群れたがるタイプじゃないし、唯一の幼馴染が校則違反の常連にずっと連れまわされてたら、不機嫌になるのも致し方ないよな。
ただ、今日の勉強会は一味違うぞ。
いつもは議論するだけだったが、たまには「少し違うこと」をしてみて、気分転換してみるのもいいんじゃないかと思ってな……。
……!
噂をすれば、来たか。
「──ハロー、マコっちー! ごめん遅れ……って、え。誰、コイツ」
「は? 桐島……さん?」
よしよし、ちゃんと来てくれたな。
約束から十五分遅れだが、来ただけで及第点としよう。
髪も……うんうん、すっかり黒色に戻っている。しっかり教育の成果が出ているようで僕は誇らしいよ。
やはり黒は良い、模範的優等生の色だ。母さんも黒髪だし。
「……マコト。何だい、この人は。どうして学内二番手の不良がここに?」
「アンタこそ誰。ウチ、マコっちに呼ばれて来たんだけど」
「こっちの台詞だよ。しかもマコっちって……何のつもりなのかな?」
「え、マコっちどういうこと? この人、ウチまでの繋ぎ?」
ひっど。
繋ぎって君。
ひっど。
「紹介しよう、ハルキ。彼女はご存じ桐島ミオ。今日は二週間に一度の勉強会を予定していたんだ」
「……元不良? 確かに見た目は変わったけど……」
「で、桐島ミオ。彼は僕の親友の宮野ハルキ。勉強魔で、同じく今日勉強会の予定をしていた」
「え、マコっちダブルブッキング? 酷くない?」
「いや、三人で勉強会だが?」
「え?」
「は?」
どうして驚いているのか。勉強会なんて何人でやっても効率に変化は無いだろう。
そもそも、この会は両者にとってメリットがあるんだぞ。
「さあ、座ってくれ、桐島ミオ。ワークは持ってきたな?」
「持ってきたけどさぁ……え、待って。これ、ガチのやつ? ガチ勉強会?」
「? そう言ったはずだが」
「課題『も』見る、くらいに聞こえてたんだけど! ウチはこう、この前の続きっぽいやつ……服とか、そういう話がメインだと思ってたし!」
「……マコト、君はこの人と普段何の話をしてるんだい?」
「校則の範囲内で身だしなみを整える講座を少々な。それは後だ。まずは約束通り課題が進んでいるかをチェックする」
「はぁい……」
言った側と聞いた側で約束の内容が食い違うのは世の常だが、これは聞いた側の願望が記憶を上書きした典型例だろう。
講座の依頼を受けたのも事実、課題を見ると言ったのも事実。どちらを「メイン」に据えるかの違いだ。課題が終わればきちんとその話もするから何も間違ってはいない。
さて、役者も揃ったことだし、今日の設計を確認しておこう。
1. 自分の課題の消化。
これは計画通り順調だ。このペースでいけば夏休み終了三日前にはきちっと全て完了する。
2. そしてハルキとの、普通の「勉強会」。
彼は勉強会さえ開けば上機嫌になる。これにより、これまで時間が取れなかった埋め合わせをする。加えて、新たに「教える」という、普段ハルキが行わない過程を踏まえることでより一層の知識定着を図る。
優等生といえど、一人で勉強するより分かりやすく解説できた経験のある方が身につきやすい。僕はアラタでこれを実践済みだ。
桐島ミオの学力向上にも繋がるし、一石二鳥。
3. それが終われば桐島ミオとの、二週間に一度の「勉強会」。
これまで懇々と教えを説き、校則違反の改善に努めてきた訳だが……夏休み期間でさらにワンステップ進める必要がある。サンプル数の確保だ。
このまま僕の好みが完全に反映され続けてしまっては、対日高アサヒの役には立たない。ここで新たな男子を投入し、より多くの人に刺さる傾向を話し合う。多彩な意見が入れば桐島ミオの参考にもなるはず。
誰も損をしない、完璧な設計だ。
僕のタスクを消化し、ハルキと桐島ミオの二人が求める「勉強会」を遂行できる。
三人いるが故に、途中で僕が辻セイラにヘルプを受けても、個人作業にならないという利点までついている。
あわよくば、この二人が仲良くなってくれれば言うことなし。
友人の友人は友人。交友関係の管理コストも下がって、良いことずくめじゃないか。
「……8月9日にして、ワークが真っ白。逆に尊敬だ、計画性の対極って実在するんだね」
「うっさ! やる気が出る日を待ってたの!」
「その日は永遠に来ないよ。統計的に」
「マコっち、この人なんなの!?」
「通常運転だ」
「うげ、苦手……」
ふむ。夏休み開始から2週間経って何も片付いていないのは想定を下回るな。
一日あたりのノルマは組み直しか、今夜のうちに配分表を作っておこう。
「アンタ、頭カタくない? マコっちはまだ、話せば分かるとこあるのに」
「その渾名、聞いてるこっちの背中が痒くなるからやめてくれないかな」
「本人がいいって言ってんですけど? ねぇマコっちー?」
「校則に渾名を禁じる条文はない。友好的なのはいいことだ」
「ほらぁ」
「マコト、君のその基準は時々壊滅的だよ」
何とでも言うんだな。
呼称は表現の自由の範疇で、減点要素がない以上、僕に却下する権利はない。
しかし、あまり相性が良くなさそうだな、二人とも。
まあ初対面で気が合わないのは自然現象だ。
同じ卓で3時間も課題をやれば、嫌でも慣れるだろう。
僕と辻セイラの初対面なんて、脅迫込みだった。あれに比べれば、この程度の摩擦は挨拶みたいなものじゃないか。
よし。
じゃあ僕は、いつ辻セイラからのヘルプが来てもいいように携帯を準備しつつ、粛々と英語の長文を進め……っと、またまた噂をすれば。
「──すまない電話だ、すぐ戻る。僕がいない間に自己紹介でもしておいてくれ」
「え、えぇっ! 困るよマコト、こんな不良と一緒だなんて!」
「こっちのセリフなんですケド!? さっきから人のこと不良不良って!」
「事実だろ! 君みたいなのがマコトを誑かすから彼は……!」
おお元気だ。
騒ぎすぎると追い出されるからそこにだけは注意するんだぞ。
*
さて。
着信は……やはり辻セイラ。
完全に予想通りだな。
大方、旅行先でとてつもなく難易度の高い問題に直面してしまって、何周かした後にどうしようもなくなり、仕方なく恥を忍んで僕に連絡してきたと、そんなとこだろうな。
だってこの女が個人的な世間話するために電話してくる訳ないし。
もしもし。
『もしもし? 聞こえてる?』
「聞こえてる。で、次は一体何のループだ」
『? まだループだなんて言ってないけど』
……あれ。
え? ループじゃないのか?
「違うのか?」
『いや、アンタの意見が欲しかっただけ。問題が起こっても自分で対応するって、言ったはずだけど』
……そう、なのか?
正直拍子抜けというか。
いや確かに、泣きついてきている訳でもないし、切迫している訳でもない。
一学期に4回聞いた『ヘルプ』のどれとも雰囲気が似ていないし、問題が起こったら云々のことを持ち出せるあたり、かなり余裕があるようにも聞こえる。強いて言うなら、業務連絡というか。
だが意見?
僕の?
……一旦、今はいいか。
彼女が「起こってない」と言うなら、大急ぎで思考を巡らせる必要は無いという訳だ。
『一応聞いておくけど、そっちで何か問題があったりはしてない?』
「桐島ミオと三好ルナの心配か? 後者については僕の知るところではないが、桐島ミオとは駅前のフードコートで勉強会中だ」
『……だいぶ仲良くなってる』
「そんな敵意に満ちた声を出さないでくれ。仕方ないだろう」
『まぁ、いいよ。時間はあるの?』
「問題ない。バイトのシフトも固定してるし、時間が欲しければ準備できるぞ」
『だから大丈夫だって』
む。頑固だな。
そこまで言うなら本当に死に戻りは起こっていないのか。そう仮定して考えていいんだな?
もし発生していて、「頼らないと言った手前、旅行2日目にしてもう助けてほしいとか言いづらいから」みたいな理由だったらさっさと相談してほしいんだが。
まあ、辻セイラは自分の感情を優先して合理を捨てるような人間でもないか。
「帰って来るのは14日だったか? その日はアラタと夏祭りに出かけるからそう沢山は動けないぞ」
『だから大丈夫だっての』
『──おねーちゃーん、次、写真撮るってー!』
「……確かに大丈夫そうだな。元気そうで何よりだ、小麦は食べさせていないか?」
『私より心配症なってんじゃん』
そうだろうか?
あくまで自然な疑問では。知り合いの妹の旅先のアレルギーについて懸念するのは……。
……いや、そうかもしれない。
ちょっと過剰な気がしてきた。
もしかしたら、僕の心配しすぎなのか。
僕にとっては死に戻りを知って初めての夏だが、辻セイラにとってはこれで17あるいは18回目の夏。もう慣れ切っているし、そこまで気にしている訳ではないのかも。
少し僕が過敏になりすぎていたか。彼女もただ僕に「意見」とやらが欲しくなって、普通にかけてきただけ。友人と呼べる間柄ではないが、知恵を貸した経験もあるし、良い答えが返ってくると期待して僕にかけてきた。
僕の方が「どうせ死に戻りが起こっているに決まっている……」なんて不謹慎に決めつけて考えてしまい、嫌な想像を巡らせてしまっているだけなのかもしれない。
気にしすぎもよくない、な。
向こうは案外楽しんでいるのかもしれないし。
「じゃあ、意見ってのは何だ。何を聞きたい」
『熊用スプレーって人間にどれぐらい効くと思う?』
楽しんでるんだよな?
「君を通報すればいいか?」
『チッ──』
「あっおい……おい! 待て! おい!」
き、切られてる!
くっ、かけなおして……あっ出ない! 無視してるな君!
何物騒なことを言い出してるんだ。熊用スプレーが人体にどれだけ有効か?
答えは「致命的なまでに」決まっているだろう。とんでもないこと聞くな君は。
「ああもう……気になる電話だけしてきて……」
……やっぱり出ない。完全に無視されてる。
しまったな、過剰に反応しすぎた。
ちょっと気になったから何気なく聞いてみたはいいが、僕の反応を見て質問の仕方を間違えたことに気づき、面倒な追及をされる前に急いで逃げた……といったところか。
まあ、僕の返答を待つ前に逃げた訳だし、絶対に必要な情報でも無かったのか。
それならやはり死に戻りとは関係が無さそうだ。本当に必要なら僕に説教されることも承知で返答を待ったはずだし。
「……仕方ない、戻るか」
死に戻りが起こった訳ではないんだろうが、きっと別件の問題が発生したんだ。
彼女の性格だし、家族に負担をかけるよりも僕に背負わせて考えさせた方が良いだろうと思ったんだな。
あくまで辞書か計算機程度の役割。僕の負担を考えない辺りが非常に想像しやすい。
どうせ、また何か起こって僕に電話してくるだろう。その時にもう一回聞き直せばいい。
結局、追加で予定を入れることは出来なさそうだな。
*
「どうしたの、兄さん? 夏祭り、あまり楽しめてない?」
「いや、そんなことはないぞ。杞憂が杞憂だと分かっただけさ」
「? 兄さんがそう言うなら」
8月14日。8月ももう中盤。
夏祭りの日。辻家が帰って来た日。
……結局、あれから一回も連絡が無かったな。
桐島ミオは辻セイラから何度か写真を送ってもらったと言っていたし、連絡できているあたり彼女達の身に何かが起きた訳ではなさそうだ。
本当に何もなかったのか。熊用スプレーの話は一体何だったんだ。僕の心配しすぎだったのか。
「……十分楽しんだし、もう帰ろうか」
母さんへの土産も買った。
母さんを見ててくれている隣人へのお礼も準備した。
普段あまり付き合いのない人だけど、イベントで僕達が出ている日だけは「仕方ないね」と笑って、理由も聞かず母さんとお茶を飲んだりしてくれる。
そんな風に配慮までしてもらっておいて、「知り合いの連絡の有無が気になって夏祭りが楽しめませんでした」では逆に失礼だ。気持ちを切り替えよう。
「そうだね。混まない内に出ちゃおっか」
「ああ。しっかり手を握っていろよ」
「うん」
辻セイラに後で聞いてもどうせはぐらかされるだろうし、真相は闇の中だ。
これならもう少し予定を入れておけばよかった……なんてのも結果論だが。
何も起きない夏休みというのは、やっぱりつまらないな。
*
夏だ!
8月序盤! 夏休みのピーク真っ盛りだ!
……しかし。
今年の夏だけは……ただ楽しむ訳にもいかないんだよな。
感想やご意見をお待ちしていますのでよろしければ……(´・ω・`)
お気に入り・評価・ここすき等も、可能であればぜひお願いします。励みになります。