『大切な人を救うために死に戻る能力』   作:破れ綴じ

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今日もギリギリです。
お待たせしてしまって申し訳ない……(・ω・`;)


[20:05] 遊びに行こうよ

「──すまない電話だ、すぐ戻る。僕がいない間に自己紹介でもしておいてくれ」

 

「え、えぇっ! 困るよマコト、こんな不良と一緒だなんて!」

 

「こっちのセリフなんですケド!? さっきから人のこと不良不良って!」

 

「事実だろ! 君みたいなのがマコトを誑かすから彼は……!」

 

 おお元気だ。

 騒ぎすぎると追い出されるからそこにだけは注意するんだぞ。

 

 

 

 

 

 *

 

 

 

 

 

 さて。

 着信は……やはり辻セイラ。

 

 完全に予想通りだな。

 大方、旅行先でとてつもなく難易度の高い問題に直面してしまって、何周かした後にどうしようもなくなり、仕方なく恥を忍んで僕に連絡してきたと、そんなとこだろうな。

 だってこの女が個人的な世間話するために電話してくる訳ないし。

 

 もしもし。

 

『もしもし? 聞こえてる?』

 

「聞こえてる。で、次は一体何のループだ」

 

『はいはい、ループだなんて言ってません』

 

 そうかそうか、やはり死に戻りが発動して……。

 

 ……はいはい? 

 

 え、即答にもほどがあるだろう。

 こっちの台詞が終わる前から答えを構えていたみたいな速さだったぞ、今の。

 というか……ループじゃないだと? 

 こっちは今の今まで、頭の中に「さあ何周目だ、状況を説明しろ」まで用意して待っていたんだが……その全部が行き場を失ったじゃないか。

 

「違うのか?」

 

『アンタの意見が欲しかっただけ。問題が起こっても自分で対応するって、言ったはずだけど』

 

「あっ……そうなのか」

 

『そう。そもそも、アンタが毎回必ず役に立つとは限らないんだし』

 

 そう……なのか。

 

 な、なんだ、僕の気にしすぎか。

 いや、いいんだ。無いなら無いで、それが一番いいんだ。

 

 じゃああれか、死に戻りとは関係のない問題が何か起こって、ちょっと意見が欲しくなったということだな。友人と呼べる間柄ではないが、知恵を貸した経験もあるし、良い答えが返ってくると期待して僕にかけてきた。

 僕の方が「どうせ死に戻りが起こっているに決まっている……」なんて不謹慎に決めつけて考えてしまい、嫌な想像を巡らせてしまっているだけなのかもしれない。

 

「一応……こっちの状況とかも教えておいた方がいいか?」

 

『知ってる。ミオと勉強会やってるんでしょ』

 

 なんで? 

 

 ……ああいや、そうか。

 桐島ミオから連絡を受けたのか。それなら知っていてもおかしくない。

 

「じゃあ……君が帰ってくる14日だが、僕はアラタと夏祭りに行くから、その日は──」

 

『それも知ってる。大丈夫だって』

 

 なんで? 

 

 ……言ったっけ、僕。

 いや、知ってると言うからには言ったんだろう。あるいは生徒手帳にでも書いていたメモを勝手に調べたか。この女は必要とあれば人の予定くらい平気で調べ上げるからな。

 

 というか知ってるなら言ってくれ。

 何を調べたのかも、その正当性についても教えてくれ。

 事前に僕に許可を取ったかどうかも明確にしておいてくれ。

 僕の個人情報がどこまで抜かれてるか怖くなったじゃないか。

 

『あのさ、アンタ気にしすぎ。本当に大丈夫だから。もっと夏休み楽しんだら?』

 

「しかしだな……」

 

『私のことが気になって仕方がない? 流石好感度50』

 

「ぐぬぬ……!」

 

 そうなのか、これが好感度50の力なのか。

 

 僕⇒辻セイラは-50だと思っていたが、事実彼女は50だと言っていた。向こうは-2としっかり僕を嫌っていたのに、僕は一般人と同じ程度には好感を抱いていた訳だ。

 そうか、これが52の差なのか。向こうはきっちり線引きができているのに、僕は彼女が好きすぎて気になって仕方ないのか。

 

 いやだ認めたくない……! 

 僕は辻セイラが嫌いなはずなのに……! 

 

「じゃ、じゃあ! 意見ってのは何だ。何を聞きたいんだ!」

 

 もういい、話を逸らそう。

 このことについて考えるのは後だ。とりあえず、彼女の疑問に答えよう。うだうだ悩むのはその後でいい。

 

 さあ、何の意見が欲しいんだ。

 

 

 

 

 

『生き物が死んでるかどうか確認するのって、何をすればいいと思う?』

 

「……なんの話だ?」

 

 

 

 

 

 生き物。

 生き物って。

 

 またずいぶんと大きな括りで来たな。虫でも魚でも、なんなら人間でも入る括りだぞ、それは。

 それに心配でも介抱でもなく、生きているかどうかの確認と来たか。事務のやりとりみたいな言い方じゃないか。

 

 だがしかし、泣きついてきている訳でもないし、切迫している訳でもない。

 本当に気になったから聞いてみた……みたいなテンションだな。一学期に4回聞いた『ヘルプ』のどれとも雰囲気が似ていないし、かなり余裕があるようにも聞こえる。

 

「一応聞いておくが、何でそんなことを聞く?」

 

『道にセミが転がってて。カリンが拾おうとしたら急に飛んで──』

 

『──ギャーッ! こっちも生きてるーっ!』

 

『……聞こえた? あんな感じでさ。死んでるのか生きてるのか、見分ける方法ないわけ』

 

 ……すごい声が聞こえたぞ。遠くにいるのに響くような。

 

 しかし、なんだ。そういうことか。

 セミ、言われてみれば完全に夏の風物詩じゃないか。

 仰向けのセミが死んでいるか寝ているかは、拾う側にとっては確かに死活問題だからな。

 非常にしょうもないことではあるが、辻カリンの無事を伝えつつ、少し気になったから僕に聞いてみようと。色々知識のある僕であれば、普通に調べるより厳密な法則を教えてくれるのでは……そう考えた訳か。

 

 ……辻カリンはどうしてそんなものを拾おうと? 

 女子中学生ってそんな好奇心旺盛だったっけ。男子小学生みたいなことしてないか? 

 プールにもよく虫とかいて慣れてるのかな。

 なんだっけ。ガガンボ? 

 

「あるぞ。足を見ろ」

 

『あし』

 

「ああ。縮こまって閉じていればまず死んでいる。開いていれば生きている可能性が高い」

 

 死んだふりのまま急に暴れて飛ぶのは大抵こっちだった気がする。

 確か……拾うなら翅の側から摘まむこと。それだけ覚えていれば十分じゃないか。

 

 というよりそもそも素手で触るのは感心しないな、雑菌だってあるんだ。

 辻カリンにもそう言って聞かせておくべきだろう。

 

「後、辻セイラ。辻カリンに素手で……」

 

『じゃあさ、もっと大きいのだったら? 猫とか』

 

 触らないように……と。

 

 えっ猫? 

 

「……なんで猫? セミじゃなくて」

 

『さっき伸びてる猫見つけて。生きてるならまだしも死んでたら汚いでしょ。可愛い可愛いカリンが病気貰ったら困るし』

 

 じゃあセミを拾うのも止めさせろよ。

 

 ……いやしかし、まあ、あり得なくはないか。

 旅行先の道路なら、轢かれた野生動物の一匹や二匹、転がっていることもあるかもしれない。カリンが迂闊に近寄る前の予習という訳だな。そう考えれば姉として正しい備えだ。

 

 ここで「人間なら?」とか聞いてきてたら即通報していたが。

 猫か、そうか。猫ぐらいならまあ……旅行を楽しめているか。

 

「その大きさなら脈と呼吸の確認だ」

 

『なるほど』

 

「後は呼びかけや、体に触れたときに反応があるかどうか……ただし先に言っておくが、野生動物の死骸は絶対に素手で触るなよ。病原菌と寄生虫の塊だ。見つけたら距離を取って、管理事務所なり自治体なりに──」

 

『オッケー、分かった。ありがと。じゃ』

 

「えっ、あっ……」

 

 ……切られた。

 なんだこの女は。もういいのか。

 人に講義させておいて、切り上げが早いんだよ君は。

 

 結局何だったんだ。ただセミと猫の生死の見分け方が知りたいだけでこっちに電話してきたのか? 

 楽しんでいるといえば楽しんでいるのかもしれないが……だいぶ悪趣味な楽しみ方だ。辻カリンがそれなら「好奇心旺盛」だと思うのに、辻セイラだと「悪趣味」だと思ってしまうのは何故なのか。

 

「『気にしすぎ』……か」

 

 ……彼女の指摘は当たっているかもしれない。

 本当に興味が無ければここでさっさと終わらせて結論を出しているだろうに、僕は「辻セイラの家族旅行期間中に誰か死んでしまうのでは」なんてことばかり考えてしまっている。

 

 もう少し、気を楽に持った方が良いのか。

 彼女は『気にしすぎ、本当に大丈夫』と言っていた。緊急時以外にも神経を張り詰めさせて、肝心な時に役に立たないようでは意味が無いかもしれない。

 ……そうだな、さっきのは本当にただの軽い連絡だったと思うことにしよう。

 僕だって自分がアラタと何かしらのイベントを楽しんでいる時に辻セイラから「問題起こってない? 大丈夫?」とか思われてたらムカつくだろうし。

 

「……戻るか」

 

 ただ普通に考えてもこれ以上埒が明かない。

 もういっそ、彼女の旅行期間は「僕に頼るような一大事」が起こらないと仮定して。

 

 少しぐらいなら、予定を入れてみてもいいのかもしれないな。

 

 

 

 

 

 *

 

 

 

 

 

 おーい戻ったぞ。

 仲良くやっているかー……と。

 

 

 

 

 

「──僕は76だったけど? 君はいくつだったんだい?」

 

「な、76……いや、ウチは普通の友達にも80出てたけど? 76って低いんじゃない?」

 

「えっなんだいその理屈は。僕は君の数値がどうだったか聞いてるんだよ」

 

「そもそもあの数値はほとんど信用できないってマコっち本人が言ってたし……」

 

「なんだいその言い逃れ方は! 僕は周りでも一番高くて……!」

 

 

 

 

 

 ……何の言い合いだ、あれは。

 

 いや、飛び交っている「76」や「80」という数字を「はてさて。テストの点数か?」などと言って惚けるつもりはないが。

 あれって、僕からの好感度についての議論だよな。確かに友人達の中ではハルキが一番高かったし、桐島ミオには「こんな数値信用ならない」と話した覚えがある。

 しかし、なんでちょっと目を離した隙にマウント戦に発展しているんだ。

 

「戻ったぞ。なんだ、その不毛な点数勝負は」

 

「あっマコト! ちょうどよかった。説明してもらおうか、76の根拠を」

 

「いいだろう、基準は明快だ。まず全ての人間は50から始まって、そこに小学校以来の実績を──」

 

「てかマコっち。今の電話、セイラ?」

 

「おい、なんで遮るんだい。僕の76の話だよ」

 

「長くなりそうだったから」

 

 すっごい。

 

 想像以上に関係性が発展している。プラスではなくマイナスに。

 僕と辻セイラ並に相性が悪いのかもしれない。

 

 僕がちょっと電話に出ていただけなのに、机の上には桐島ミオと課題との格闘の跡が見えるし。これはハルキがやらせたのか。

 逆にハルキの方の机もだいぶ乱れている。桐島ミオとマウント合戦を繰り広げるうちに正している余裕がなくなったみたいだな。

 

 仕方ない、この状況を引き起こしてしまったのは僕だ。

 なんとかしてこの場を取り仕切り、元の勉強会へと方向性を戻そう。

 

「じゃあ休憩終わりだ。次は数学の大問3から──」

 

「もームリ! 休憩!」

 

 ……。

 

「いや、だから今のが休憩……」

 

「きゅーけーい!」

 

 ……。

 いや……。

 

 ……。

 その……。

 

 ああダメだこれは。

 このままでは突っ伏した桐島ミオが机と一体化してしまう。

 元々、今日は課題をするつもりなんて無かったのにハルキと舌戦を繰り広げたせいで早々に疲弊してしまっている。

 完全に僕の作戦ミスだ。

 

 まあ、正直に言えば想定内ではある。

 彼女は更生中とはいえ元は不良中の不良。ちょっと身だしなみを直させたところで学業に対する意識まで僕やハルキと同程度まで回復させろというのも無理な話。

 

 桐島ミオの集中力は瞬発型で、一度切れた糸は簡単には戻らない。この展開は八割方読めてはいたんだ。

 問題は、どうやって再起動させるかなんだが──

 

「君ね、マコトを困らせるのもいい加減に……」

 

「てかさマコっち。せっかくの夏なんだし、どっか遊び行かない?」

 

 おっと再起動する気が皆無の提案が来たぞ。

 しかも僕の都合を聞く前に、遊びたい欲求が先に口から出ている。

 

「反対だね。夏休みは予習の黄金期。二学期の貯金を作れる時期は今しか無いんだから」

 

「出たー、委員長より委員長っぽいやつ。マコっちはもっと柔軟だよ?」

 

「事実を言ったまでさ。大体、ワークが真っ白の人間が言うことかな、それは」

 

「うっ……い、いいじゃん! 今日やってるし!」

 

「さっきの数分じゃないか」

 

 おお、正論の連打。

 手加減という概念が無い。

 今日のうちに溜まってしまった嫌悪感を余すことなくぶつけている。

 止めてやってくれないか、彼女は結構繊細な性格をしているんだ。初対面とはいえここまで詰められたらショックを受けるかもしれないし。

 

 しかし……遊びか。

 

「そもそもね。課題さえできないのに遊びがどうこう言うのはおかしいよ。ね、マコト?」

 

「いいんじゃないか。行こう」

 

「ほら、マコトの言う通り……え?」

 

「えっ、マコッちいいの!?」

 

 なんで提案した本人が一番驚くんだよ。

 

 だが、考えてみれば僕の手帳、いくら辻セイラ問題があるとはいえ、夏休みに入ってから課題とバイトの二色しか無いんだ。計画的と言えば計画的だが、高校二年の夏の記録としてはちょっと寂しいと自覚していたところ。

 それに、辻セイラ本人から「気にしすぎ」「もっと夏休みを楽しんでいればいい」とまで言われてしまった。ここで意地を張って、「いいや僕は辻セイラのために夏を捨てるんだ」と主張するのもやりすぎなのかもしれない。

 

 せっかく遊びに行こうと誘ってくれている知り合いがいる。

 ここで乗ってみて、退屈な夏休みに彩りを添えてみるのは悪いことでは無いはずだ。

 

 勿論無条件ではない。

 桐島ミオには今日のノルマを終わらせることと、当日までに各自の課題を決めたページまで進めることを条件づける。

 持ち帰りの課題として指示しておけば、彼女の進捗も進むしハルキの予習の時間も削らない。ついでに僕にも夏っぽい予定が一つ手に入る。

 これなら文句ないだろう。

 

「よっしゃ! じゃあカラオケ!」

 

「カラオケは年中行けるだろう。どうせなら夏らしいやつにしないか」

 

「あ、じゃあプール! プール行こ! 市民プール、流れるやつあるらしいし!」

 

「いいんじゃないか。健全で、安上がりで、夏だ」

 

「ね、ねえマコト。そんな、なんで桐島さんの味方するのさ……」

 

 そんな泣きそうな目でこっちを見られても。

 僕が「楽しむときはとことん楽しむ人間」であることは、小学校からの幼馴染である君であれば当然知っている事実だと思っていたが。

 

 そういえばハルキはプールが苦手だったな。なんなら運動が全般嫌いだった気がする。

 嫌々参加させられた体育の授業のソフトボールで「打ったら走るなんて知らないよ!」と文句を言っていた姿が昨日のことのように思い出せるぞ。

 水泳に関しても「目なんて開けられないよ……皆おかしいよ」とゴネていたし。この世の終わりみたいな顔していたっけな。

 

 親友の僕だけは賛成してくれると思っていたのに、案外遊びに行くのに乗り気な僕を見てショックを受けているのか。

 すまないな、ハルキ。でもプール行きたいんだよ僕も。

 

「え、じゃあいつにする? マコっちいつ空いてんの。明日は?」

 

「そうだな。ここ数日は予定がないから……」

 

「……マコト」

 

「なんだ」

 

「……なら、僕とも。その、外で、何か」

 

「…………なにが?」

 

 

 

 

 

「だから、その……プールがあるなら、僕とも。外で、何かを、だね」

 

 

 

 

 

 …………。

 

 ……待ってくれ。今、何が起こった? 

 

 宮野ハルキだぞ? 

 誘いは常に断る側で、カラオケには何度誘っても来なくて、放課後にどこか寄ろうと言えば「時間の無駄だよ」「それより勉強だ」と鼻で笑ってくる、あの宮野ハルキだぞ。

 最後に彼と外で遊んだのはいつだ。

 ……記憶を遡っても、小学生の頃の公園とか、誰かの家の前の道とか、そういう次元の映像しか出てこない。中学からの僕達の付き合いは、教室と、テストの見せ合いと、勉強会で全部だったはず……。

 

 その彼が。

 

 自分から。

 

 外で、何か……だと? 

 

「……何か言ったらどうだい」

 

「あ、いや。君に誘われるなんて、と思って」

 

「そんな、そんなこと言わなくたって……」

 

 ……さては嫉妬しているのか? 

 小学校以来の友人を、今日急に現れた、とにかく相性の悪い女に奪われそうになって、嫉妬で咄嗟に声に出してしまったのか? 

 

 いやでも、確かにそうかもしれない。

 今日、ハルキは開口一番に拗ねていた。

 この最近、僕がバタバタして勉強会を一度も開けなかったのを、律儀に「3ヶ月」と数えて口に出すくらいには、気にしていたんだ。

 そこへ来て僕が、目の前で桐島ミオとプールの予定なんかを組み始めたものだから。「自分も」のたった一言が出てしまった。

 

 あの勉強魔のハルキがだ。

 本当は勉強したいにも関わらず、自分のプライドを一旦机の下に置いてまで、桐島ミオに対抗し、「僕とも遊ばないか」と提案している。

 これはすごい成長だ。ハルキの弱点といえばせいぜい「付き合いが悪い」くらいだったんだ。それが今崩れかけている。桐島ミオを媒介に、僕に歩み寄ろうとしてくれている。

 

 なら、友人として返す答えは一つしかない。

 

「勿論だ。何をしよう? 一緒にプールへ来るか?」

 

「……この女とは嫌だ」

 

「うげ。何その言い方」

 

 こら、茶化すんじゃない。人の決心を。

 

 しかし、ただの勉強会のつもりだったが思わぬ収穫があったな。

 予定を入れられるのは「辻セイラが帰って来るまで」の短い期間でしかないが、その間に僕は知り合いとプールへ行くことが確定し、一番の友人とも遊びに行けるようになった。

 全ては辻セイラの「私を気にするな、もっと夏休みを楽しめ」という言葉に従ったおかげではあるが……まさかあの女にそんな指摘を受けるとは。

 

 少しぐらいは予定を入れてもいいかもと思った矢先にこの提案。

 神が僕に「夏を満喫せよ」と言っているに違いない。

 

 もし、さっきの電話が無かったら、僕は一切予定を入れず、14日の夏祭りまで寂しい夏を過ごしていたかもしれない。

 結局何も起こらないで、「何も起きない夏休みというのは、やっぱりつまらないな」だなんて思っていたんだろう。

 

「何にもプランないなら、ウチの話邪魔しないでくれる?」

 

「元々邪魔だったのはそっちだよ。僕は計画を練り上げてから提出するタイプなんだから、君みたいな不良と一緒にしないでもらえるかな」

 

「まあまあ二人とも」

 

 まあ、二人の仲が悪そうなことは残念だが。

 つまらない夏には、ならなさそうだ。

 

 

 

 

 

「とりあえず14日までなら時間を作れる。二人の予定はどうだ?」

 

「…………ん? 14日まで? なんで?」

 

「なんでとはなんだ」

 

「14日って……セイラの帰ってくる日じゃん」

 

「えっそうなのかい? マコト?」

 

 ……あっ。

 

「ね、なんでセイラが帰って来てからは時間作れなくなるの? なんで?」

 

「マコト、桐島さんの次は辻さん? やっぱり不良とばっかり関わってたからこんな風になったのかい?」

 

 ……つ。

 つまらない夏には、ならなさそう……だな?




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