『大切な人を救うために死に戻る能力』   作:破れ綴じ

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毎度のことですが、次のループ内容を考えるため、次話は1日開くかもしれません。
ゆ、許してください……(´;ω;`)


[21:00] 君だけのヒーロー

「助けに来るの遅いんだけど」

 

「うそ、ゲホ、だろ君、僕はッ、ゲホッ! ゴホッ、ちゃんと言われた時間にッ……!」

 

 いった! いったっ! いったっっ! 

 なんだこれ! 息がしにくいし涙が出そうだし焼けるように痛い! 

 本当にふざけるなよ君! せっかく助けに来たってのに……! 

 くっ、なんとか息を整えないと……。

 

「ま、助かったよ。ありがとね」

 

「そんな……しれっと! 僕がどんな気持ちで……ゲホッ! というか、何で君は……ッ」

 

「目瞑って、息止めてただけ。ほら、そこまだ煙たいって。こっち」

 

「たすか……ゲホッ、ゲホッ!」

 

 あーもう……。

 言われるまでもない、ここは息をする場所じゃない。通路の入口の方まで戻れば少しは薄いだろう。そうでもなければ本当に息ができなくなりそうだ。

 

 さっきは完全に油断した。焦りすぎてブローバックの危険性を完全に失念していた。

 考えてみれば当たり前じゃないか、噴射剤なんてものは自分の側にも回り込むんだ。狭い通路の行き止まりなんて閉鎖的場所で使えばすぐ流れて行かないのは当たり前。噴射すれば僕だって無傷という訳にはいかない……。

 最悪、何が正当防衛だ。

 要件を4つも数えておいて、自滅の可能性だけ数え忘れる人間があるか。

 

 というか、僕はあんなものを人の顔面に向けて噴射したのか? 薄まったものを吸った僕ですらこれなのに、もう無理じゃないかこれ? さっきまで不審者に見えていたのに、急に同情心が湧いてきてしまったぞ。

 ……いやだが、あの霧の中から引きずり出してやる義理はないな。

 触れば現場を弄ったことになるし、近づいたところで僕がもう一度喰らうだけだ。放っておく方が正しい。

 

「あの男……生きてるんだよな」

 

「スプレーに怯んだとこ蹴り飛ばしただけだって。頭打って伸びてるだけ」

 

 まあ、僕もその現場は目の前で見ていたから分かる。

 僕のスプレーで勢いを削がれた瞬間、辻セイラが押さえつけられていた体勢から蹴り上げて。吹き飛んだ先の丁度いい高さに「偶然」パイプが通ってて、それにぶつけて……あの様だ。

 

 気絶するように向きを決めて蹴ったようにも見えたし、押さえ込まれた状況で他に選択肢が無く場当たり的に蹴ったようにも見えた。どちらにせよ、後から調べれば、襲われていた被害者が苦し紛れにとった行動が相手を気絶させ、間一髪で助かった……そういう絵に見えるだろう。

 

 だが、今回の作戦はあまりにも自分の身を軽んじていると言わざるを得ないぞ。

 あまりにも軽率すぎる。もっと抜け目ない奴かと思っていたのに。

 

「君な。もし僕が来なかったり、間に合わなかったりしたら、どうするつもりだったんだ」

 

「そのときは自分で倒してた。熊のスプレーが効くのは分かってたし。一本落としちゃったんだけど、もう一本懐に忍ばせてたんだよね」

 

「なんて抜け目のない」

 

 もう何もかもこの女の掌の上じゃないか。

 軽井沢なら熊が出るからスプレーが売っててもおかしくないし。

 

 つまり? 

 辻セイラは「偶然」僕と待ち合わせをしていて、「偶然」そこで危険人物を見つけて、「偶然」護身用のスプレーを一本落として、「偶然」僕が助けに来たタイミングで反撃し、「偶然」相手が頭をぶつけたから窮地を脱した? 

 既に攻撃は受けていて、相手の殺傷武器に対しこちらは非殺傷武器。追加で攻撃した訳でもないし、状況だけ見ればどう考えても完全な正当防衛だ。ここまで想定していたというのか。

 僕に詳細を伝えなかったのは……事前に作戦を伝えてしまうと、計画性があるため正当防衛ではなくなってしまい、僕が非協力的になるから……? あくまで偶然の産物として正当防衛が成立する状況でないとダメだったと。

 

 やば、この女。こわ。

 スプレーが「効くのは分かってた」って。既に試した過去があるということじゃないか。

 

「……もういい加減、事の顛末を教えてくれ。混乱してきそうだ」

 

「まぁ、いいよ。全部終わったし。今日のループのこと教えてあげる」

 

 ……。

 …………ふむ。

 ………………ふむふむ。

 

 なるほど。

 理解できたぞ。

 

 辻セイラ曰く。

 1. 事の発端は能力差別主義者の男がどこかで辻カリンに目を付けたこと。

 発動条件がまるで能力のようで、能力の内容が他者に害を及ぼすものでは無さそうなことから、「自分でも能力者を倒せる」と思い上がった男が辻カリンを狙い、それによって死に戻りが発生した。

 

 2. それを理解した辻セイラは原因を回避する方向性を考えた。

 しかし、何をしても死に戻りは発動してしまい、「あの男が諦めない」ということを理解。原因を一時的に回避するのではなく、このループ期間で確実に排除することを決めた。

 

 3. しかし、辻セイラだけでは上手くいかず。

 なにせ相手は刃物を持った成人男性。手ぶらの女子高校生では相手にならず、かといってしっかり証拠が残る凶器を準備するのも危険がある。そのため、「直前に購入する機会があり」「護身用としてあり得て」「使用しても内容量が減るだけ」の熊用スプレーに目を付けた。

 

 4. そして、彼女は撃退に成功した。

 

 しかしそれが正当防衛として認められず、過剰防衛扱いになってしまったんだ。

 流石に人を本当に殺した訳ではないだろうが……。

 それ故に、彼女はそこで「過剰防衛による拘留」を考慮し、僕に質問を投げかけてきた。

 確かにあの発言をした以上、勝利した周が存在するのは当たり前……。

 

 ……いや、待て。

 

「……おかしくないか」

 

「やっぱり気づく?」

 

「当たり前だ。君の言葉の通りなら、過剰防衛が成立した瞬間にループは解除されるはずだから。拘留されるとはいえ、脅威の排除には成功している。それなのに……」

 

「ま、それについては色々考えられるよ。私が捕まって、家族が精神的ショックを負うとか」

 

 あっそうか。

 なるほど。理解できた。

 

 つまり、桐島ミオが原因で発動してしまった回のように、君の逮捕という衝撃的な知らせを受けてしまって、家族の誰かが精神を病んでしまったということだな。

 だから、過剰防衛によって脅威を退けたとしても、最終的に家族が鬱などになってしまう要因を作ってしまったため死に戻った。だから、完璧な正当防衛で脅威を排除する必要があった、と。

 なんとももどかしい話だが、あり得なくはない。一応納得──

 

 

 

 

 

「──あるいは、これから2ヶ月以内に次の死に戻りが起こるか」

 

「待て待て待ってくれ」

 

 今納得したんだけど僕は。

 

 

 

 

 

 つ、次の死に戻り? 2ヶ月以内? そんなハイペースで? 

 というか、それが過剰防衛にどう繋がる? 意味が分からないぞ。

 

「その、どうしてだ? 筋が通らなくないか」

 

「長いと2ヶ月動けないんでしょ。アンタが言ってたじゃん」

 

 は? 質問には的確に答えろよ? 

 皆が皆、いつもの僕のようにノーヒントで結論までノンストップで辿り着いてくれると思うな? 情報を省略して手短に行動するのは君の癖なんだろうが、それは正直甘えでしか……。

 

 ……あッ!? 

 

「もしかして……次の死に戻り発生時に、『何も手を打てない状況』だと、その時点で詰み判定を受けてしまうのか?」

 

「流石、察しがいい。そう、過去もそれでループを抜けられない時があった」

 

 な、なんだと……!? 

 昨日の質問はそういうことだったのか。

 

 確かに、拘留されて最初の72時間は電話ができない。

 以降も接見等禁止処分を受ければ、刑事訴訟法81条により、弁護士以外との面会や、書類の授受も制限される。家族との面会も手紙も全てNGだ。

 

 もしその期間に、次の死に戻りが起きてしまえば? 

 辻セイラは一切の対応ができない。

 

 僕は未成年の同級生だから、面会の枠に入れる立場ですらないし。

 かといって弁護士に「私の家族あるいは友人を命の危機から救ってくれ」「いつ? どこで? 誰が対象か? 知らん、自分で調べろ」と言っても精神鑑定を勧められるだけだ。

 つまり、過剰防衛で捕まってしまうと、「次の死に戻りの解除不可能」が確定してしまい、間接的に「将来の大切な人の死」が確定してしまう。だから、相手をただ倒すだけでは解決しない……。

 

 ……2ヶ月以内。

 やっぱり早くないか、ペース。

 いや勿論、周囲が精神を病むことが要因で、次の死に戻りなんて発生しないのかもしれないが。

 一応これから2ヶ月以内に、もう一回大切な人の死亡関連イベントが発生するかもしれないという可能性を抱いて生活しなくてはいけないということだよな。

 

 えぇ、大丈夫かそれ。

 僕と一緒にお祓いとか行かないか。

 

「……とりあえず、事情は分かった」

 

「ん。こっちもずっと相談できなくてモヤモヤしてたし。そういう約束だったけどさ」

 

「とにかく、警察と救急車を呼ぶぞ。君の怪我も見てもらわないといけないし、現場を放置したまま逃亡すれば正当防衛が認められなくなるかもしれない」

 

「逆にまだ電話してなかったの?」

 

 コイツ。

 

 もういいよ。

 どうせ僕は夏休みであろうが、この女に振り回されてるのがお似合いなんだ。

 

「傷は大丈夫か」

 

「電話は」

 

「今やってる。傷は」

 

「絆創膏常備してるし、これぐらいはすぐ処置できる。どっちかというと服の方が、ほら」

 

 ……まあ、そうだな。

 怪我は浅いかもしれないが、服は結構切られてしまっている。

 ダメージ加工と主張するには布面積が心もとないことになっているし……この格好で辺りを動き回るというのはあまりよろしくない。

 

 仕方ないか。

 ここは僕の上着を貸そう。

 

「ほら、これで隠していろ」

 

「えっいやだ。汗臭そう」

 

「……」

 

 ……今思ったが。彼女があの男に挑発するような発言を繰り返していたのは、攻撃を誘うためじゃなくて、ただ彼女の性根がそうなだけなのかもしれない。そんな気がしてきた。

 

 いいのか? こっちにはスプレーがあるんだぞ? 

 僕以外にそんな煽るようなこと絶対言うなよ? 

 

 

 

 

 

 *

 

 

 

 

 

「その、ただいま」

 

「兄さんがパトカーで帰って来た……」

 

 いや、ごめん。早く帰って来てって言ってたのに驚くよな。

 これでも早く済んだ方だし、僕は何も悪いことしてないんだ。

 ただ、クラスメイトを不審者から助け、正当防衛で不審者を制圧し、到着した警察に事情を話して署まで同行し、簡単な事情聴取を済ませて、「正式な話は後日また署で」と言って解放してもらえただけなんだ。

 現場をどう見てもこちら側が被害者だったし、証拠の刃物も残ってたし、こちら側の証言も全て筋が通っていたし、目覚めた男が支離滅裂なこと言って暴れ出したのもあってすぐ信用してもらえたんだ。

 

 ……結構凄いことやってるな僕。

 

「うちにも警察から電話が来たし、大体事情は聴いてるけれど……」

 

「すまない、心配かけて。でも、あの場で見捨てても僕はきっと後悔したから」

 

「……まあ、兄さんならそう言うよね。でも、お母さんもこれで安心するよ」

 

 いや本当にごめん。

 中々長男が帰ってこない……と思ってる矢先に警察から電話が来たら心配するよな。

 

 ただ、彼女を見捨てられなかったのは僕の性分みたいなものなんだ。

 アラタも母さんもそのことはきっと理解してくれるはず。あまり二人の優しさに甘える訳にもいかないけれど、今回ばかりは助かった。

 

「あと、ちょっと電話したいことがあるから、先に戻って、母さんと待っててくれ」

 

「? 分かった」

 

 しかし、これで全部終わりじゃない。

 

 いや、これ以上問題は存在しない。

 死に戻りの判定は毎回、ヤツを倒した後に起こっていたそうだから……今の時点でループを脱出できたことはもう確定している。今から何かをしなければいけないという訳ではない。

 

「もしもし」

 

『なに』

 

「いや……その、無事に帰れたか?」

 

『まだ。パパが迎えに来るから、それ待ち。それだけ?』

 

「いや……」

 

 何かすることがある訳じゃない……ないが。

 ただ、全部終わってから、気になることだけが一つだけできてしまった。

 あの時は一切気にする暇も無かったのに、こうして無事が確信できてから、ふと思い出したように──一つだけ疑問が出てきてしまった。

 

 辻セイラは──自力であの不審者を倒せたのではないか? 

 

「僕の、この作戦の役割は、何だったんだ? わざわざ、僕を巻き込む意図が分からない」

 

『あー……』

 

 だって、そのはずだ。

 彼女は、僕が間に合わなかった場合「自分で倒してた」と言ったんだ。これまでの周回で、不審者に勝利した周も存在していたはず。安全性のためなのかもしれないが、わざわざ防衛行為の役を僕にやらせた訳が分からない。

 だって、どの方向に蹴飛ばせば相手が気絶するかまで把握していた人間だぞ? スプレーがあれば追い詰められることだってなかったはず。僕がいようといまいと、正当防衛は成立する状況だった。

 

 それをどうして、わざわざ来るかどうか分からない、僕に賭ける形にしたのか。

 それが理解できない。

 

『じゃあ、考えてみて。もし私が一人で勝ったら、そのことが噂になったら、どうなる?』

 

「そうやって君は人に全投げして……」

 

 結局、全然ヒントを貰えなかったぞ。

 仕方ないから自分で考えるけども。

 

 まず、辻セイラが一人で不審者を撃退した場合。

 そうだな、まず周囲は驚くだろう。周囲に対する辻セイラの印象はあまり良くないし、逆もまた然り。派手な装いとそれに負けていない本人のルックス。あくまでポジティブな面はそれだけ、後は近寄りがたい不良……それが周囲のイメージのはずだ。

 

 ──「あの辻セイラが?」

 

 ──「あの冷徹な不良が?」

 

 ──「誰に対しても素っ気ないあの女が、不審者を返り討ちに?」

 

 あっという間に校内で噂が広まるだろうな。ギャップがあるし、正当防衛を駆使して不審者を逆に警察に突き出しただなんて、話題として面白さしかない。

 そうなるとどうなるか? それまであった近寄りがたい空気は、孤高の気高さとして処理され、彼女の所業に憧れる生徒達も現れるようになり、いつの間にか校内の人気者に……。

 

「ダメじゃないか」

 

『理解できた?』

 

 ……ああ、なるほど。そういう理屈か。

 注目されたくないという一点に関しては、この女は一年中一貫してるな。

 

 関わる人が増えたら、その中の誰かと交友関係ができてしまうかもしれない。

 せっかく好感度調整して回っているのに、向こうから関心を持たれてしまったら撒くのは容易ではなくなるし、そこから新たな「友人」及び『大切な人』ができてしまう可能性もゼロじゃない。

 いや、それどころか、可能性は十二分にある。あまりにも危険だ。

 そういうことか。

 

「要は、僕をスケープゴートにしようと」

 

『そ。「ヒーロー」になってくれるんでしょ?』

 

 要はあの質問──「ヒーローになってくれる?」の意図を、僕は完全に取り違えていた。

 彼女は「私を助けるために、『辻セイラのヒーロー』になって」とお願いしていた訳じゃない。「正当防衛で終わらせたいけど、注目を集めたくはないから、『皆のヒーロー』になって」と提案していたんだ。

 僕はあくまで「犯罪者じゃなくてヒーロー役だから、気兼ねせずできるよね?」という意図だと受け取っていたが、そうではない。あの時点で僕を生贄にすることを勘定に入れていた。

 

 そうか。

 そういうことだったのか。

 

 

 

 

 

「……気に入らない」

 

『……はぁ?』

 

 

 

 

 

 人手が必要だったこと自体は責める気にならないし、僕を選ぶ理由も分かる。あの通路に向かうと決めた時点で、殴られる覚悟ぐらいはこっちにもあったんだ。

 辻セイラが、問題を増やさないように、その判断をしたのは英断と言わざるを得ないだろう。

 

 気に入らないのは、この功績が──丸ごと君の組んだマッチポンプの上にあることだ。

 

「僕はこんな方法で皆のヒーローになりたくない」

 

『え。アンタってそういうことしたいんだと思ってたんだけど』

 

「誤解するな、悪やルール違反を挫くヒーローに憧れはある。問題は、僕が自分で選んだ訳でもない功績を受け取ることになっていることだ」

 

 君は「これでヒーローになれるからいいよね?」と思って提案したんだろうが、僕は全く嬉しくない。

 ルールを守ることを広く推進することと、「内容は何でもいいから『相手を正した』という事実で賞賛されたい」と思うのは全く別のことだ。

 

 僕は初めから「君のヒーローになる」と決めてあの場所に向かったんだ。

 それなのに、これから「よくやりました」「マコト君は皆のヒーローだ」なんて言われて、何が嬉しい。

 

『……変な奴』

 

「変で結構。僕が自分の意思で救ったのは君だけだ」

 

『なに急にクサいこと言ってんの。口説いてる?』

 

「思い上がりも甚だしいぞ君は」

 

 どう考えても説教だろう。

 

 そもそもだな、君がもっと早い段階で僕に相談して穏便な方法を一緒に模索できていればこんなことにはならなかったじゃないか。「旅行中は頼らない」とは君の言葉だが、そのせいでここまで苦労させられて、それでも「辻セイラのことを気にせずに済んで良かった」だなんて思える訳がない。

 ダメだ、なんだか凄く腹が立ってきたぞ。

 

「いいか、次からはもっと僕を頼れ。情報を小出しにするな」

 

『は、何で。アンタに配慮した一週間だったのに』

 

「余計なお世話だ。君に過剰防衛の質問をされてから、僕がどれだけ悩みに悩んだか」

 

 真夜中だろうが、旅行中だろうが、僕のバイト中でも構わない。

 僕に迷惑がかかるかどうかを判断しないでほしい。厄介ごとの気配がした時点で、一番早い段階で相談してほしい。そのことがよく分かる一週間だった。

 

 だって、怖いんだよ、僕は。

 君から何か不穏なことを聞かされたら真意が分からないと不安になる。

 君が何をしようとしているのか分からないと、僕はどう動いていいのかも分からない。

 焦りに駆られながら、君が押さえ込まれる現場を指をくわえて見つめるしかできなくなるなんて、情けないったらありゃしないんだ。

 今日みたいなのはもう困る。今回のあれは運が良かっただけ。あの霧の中で転がっていたのが僕の方でも、何もおかしくはなかった。

 

『……ハッ、アンタらし。功績はいらないとか、面倒事は早く相談しろとか』

 

「僕らしいとかじゃなくて、協力者に対する姿勢として今の君はだな」

 

『はいはい、分かったって。次から相談する周はすぐ言えばいいんでしょ』

 

「『はい』は一回だ……って、切ったな君!」

 

 なんなんだあの女! 

 もう……。

 

 謎は解けた。解けたが……代わりに、明日以降の「僕の身の振り方」を考えなくてならない悩みができてしまった。これも、彼女がもっと僕を頼ってくれれば解決するかもしれない話だったのに。

 もし、「委員長って不審者を倒したんだって?」なんて聞かれでもしたらどうしよう。羞恥心と罪悪感で何も言えなくなってしまいそうだ。かと言って、嘘をついて誤魔化すのも良くない気がする。

 

 できるだけこの事実が広まらないよう気を付けるしかないか。

 自分に釣り合った評価なんて自分が一番分かっている。分不相応な評価は自分の認識を歪めてしまうし、辻セイラが困るように、僕だってそんな評価は望んでいない。

 もしバレてしまった場合は「あれは偶然の産物で、僕は大したことをしていない」と主張しよう。噂が次第に風化するのを待って、「いつも通り、少しうるさい学級委員長」ぐらいの認識を維持できるように。

 

 きっと大丈夫だ。大人しくしておけば、こんな噂広まりすらしない。

 本当に立派な人間になれるまで、僕は今の僕のままでいるしかないんだから。

 

 

 

 

 

 *

 

 

 

 

 

「マコっち! セイラ庇って不審者ぶちのめしたんだって?」

 

「凄いじゃないかマコト! 僕、噂を聞いてびっくりしたよ!」

 

「何、だと……」

 

 え、これ勉強会だよな? まだ夏休みすら終わってないぞ……? 

 ……もうそんなに広まってるのか!? 嘘だろ!? 

 

 

 

 

 

「(……でも、セイラなんだ。ウチじゃなくて……そっかー……)」

 

「(確か、現場は夏祭り。なら、マコトが、辻さんと一緒に……)」




これで5周目終わりです。
ここまで読んでくださってありがとうございます。
主人公が一切関知せず、読者だけ理解できるループというものを書いてみたかったんです。
大変でした。二度とやりません。

可能であれば、感想や意見や評価やここすきを頂けると嬉しいです。大喜びします。
それでは、次話以降も宜しくお願いします(´・ω・`)
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