『大切な人を救うために死に戻る能力』   作:破れ綴じ

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この木金土めちゃくちゃ忙しいので毎日投稿/翌日補填できない可能性が高いです。
実際木曜は投稿できませんでした。今日2話投稿できるかも怪しいです。

ご迷惑をおかけしております……(´;ω;`)


[21:22] だから防止率100%

 ──「マコト~。お客さんにお茶出した方が良い?」

 

「いいよ。母さんはじっとしててくれ」

 

 

 

 ──「兄さん。トラブルなら僕からバイト先に連絡しようか?」

 

「大丈夫だアラタ。僕が自分でするから……」

 

 

 

 ──「マ、マジで!? え、瀬尾少年来れないかもしれないの!?」

 

「すみませんすみませんすみません……」

 

 

 

「……ごめん。無理やり上がっちゃって」

 

「本当だぞ……? 頼むから納得いく説明をだな……」

 

 

 

 

 

 *

 

 

 

 

 

「……っていう。納得した?」

 

「すごい納得した。怖すぎだろ、なんだそれ」

 

 夢の中で殺しに来る怪異が無理やり辻カリンを眠らせてきた……? 

 なんて理不尽な。僕は死に戻りではなく怪談を聞かされていたのか? 

 辻セイラが今朝大急ぎでやって来て、「入れて!」って言ってきたのもそれか。出現場所が夜道or夢の中だと分かっていたから勇気を出して外に出たがやはり怖くなって、チャイムを連打したと。

 僕も同じ立場だったらきっと恐怖していたことだろう……。

 

 ……よくよく考えたら家族の不幸に連動して自分の脳が爆発する方がホラーか。

 ちょっと今更だったな。

 

「なんで電話で話さなかった。前の周は電話で連絡したんだろう?」

 

「……前の周は外に出たらマズイと思ってただけ」

 

「じゃあ今回もそうすれば良かったじゃないか」

 

「極力記録には残したくなかったから……前にも話したでしょ」

 

「そんな話したか?」

 

「……あーそっか、今のアンタは覚えてないのか」

 

 えっなにそれこわい。

 君な、自分が経験していないことを「経験したはずだ」って言われることの恐怖が分かっているのか? 

 話した過去があるなら、今は大事じゃないしそれ以上は触れないでおくが……。

 

 とにかく。

 今の問題は、今回のループが既に詰んでいる状態からスタートした難題ということだ。

 

 要は、今回のループの原因が「辻カリンが夢の中で殺されてしまうこと」。

 その原因の原因は「昨日、口裂け女が辻カリンに話しかけたこと」。

 桐島ミオの時と同様に、原因の原因が確定した後からループが始まってしまっている。怪異だけでも厄介極まりないのに、それに加えて自分の能力まで安定の鬼仕様。絶望する気持ちはよく分かる。

 しかも、今回の相手は物理的にどうやっても勝ちようがない相手。銃の一つや二つ準備できれば話は違うだろうが……いや無理だ。60km/hの怪異にどうやって素人が弾を当てればいい。

 

「他に、前のループ以外で新情報はないのか?」

 

「……これとか。アンタの言った通り、この話は実在する創作だった。調べてきたの」

 

「言った覚えが無いんだが」

 

 それも過去の僕の発言か。

 前の僕はすごいな。色々限られた状況で推測して結果を残せて。今の僕にはさっぱりだ。

 

 ……というか、創作? 

 あと、この映ってる人物は誰だ? ……宵坂ヨミ? 

 

「宵坂ヨミ。ちょっと前に怪談番組の収録でこっちに来てたんだけど、その時の没ネタの一つらしい。ほらこれ」

 

「……すごいな君。どうやってこんな情報を?」

 

「本人のSNSに『昔から大ファンでした!』『このネタ、先生のですよね!』って絡んだらノリ良く教えてくれたよ」

 

「……すごいな君」

 

 しかし、なるほど。

 この創作が今回具現化した怪異の元ネタ、と。

 

 まとめるとこんな感じか。

 1. 口裂け女の本名は仮死魔霊故。二つは同一の存在だった。怨念がそのまま実体を持って動き、多くの人を襲っていた。

 2. しかし、口裂け女は対処法が広く知られてしまい、仮死魔霊故は存在を知る者が少なくなった。そのため、人を襲えなくなり、どんどん力を失っていった。

 3. そのため、彼女は口裂け女として徘徊し、通りすがる人に声をかけて自分のことを認知させ、無理やり条件を満たさせた。これにより声をかけただけの相手に仮死魔霊故の呪いを使えるようになった。

 4. そして最後は主人公の死で終わっている……。

 なんて魔改造だ。

 

 口裂け女と仮死魔霊故、両方のペルソナを持った一つの怪異ということにして、「声をかける性質」と「自分のことを知っている者を襲う性質」を融合させたのか。確かに辻セイラから聞いた話に酷似している。

 おかげでとんでもない化け物が現れてしまった訳だが。

 

「……没になった理由は?」

 

「『今時、仮死魔霊故なんてマイナーでしょ』って切られたんだって。そのまま色々仕事のこと愚痴って来たから今はブロックしてる」

 

「すごいな君」

 

「なんでもいいよ。こんなこと分かっても、何の解決にもならないし」

 

 そんなことは……。

 結構凄い情報だと思うが……。

 

 しかし、確かに君の言うことも一理ある。

 情報の大本が分かったのは良いことだが、もし宵坂ヨミやその周囲の人物が能力者なら、彼女の拠点は今頃怪異で溢れかえっているはずだ。でもそうはなっていない。

 能力者を仮死魔霊故のネタに触れられる人物に仮定すれば、この街で仕事している人間にまでは絞り込めそうだが……結局、この情報だけでは誰が能力者なのか特定することは不可能だ。

 

 辻セイラも彼女なりに色々頑張っているんだろうが……数時間前に妹が死ぬ未来を見てきたばかり。精神的疲労も限界だろう。

 ループの難易度も相まって絶望的な雰囲気が漂っている気がする。

 

「……そもそもさ。WPPOは何やってんの。防止率100%とか言ってるくせに」

 

「……」

 

「声掛けは多発してるんでしょ。それなら他にも夢の中で殺される人はいっぱいいるはずじゃん。個人どころか、大規模の能力災害じゃないの? これ……」

 

 

 

 

 

「いや、それは多分説明できるぞ」

 

「えっ」

 

 

 

 

 

 恨む気持ちは分かるが……僕の推理通りであれば、この問題はWPPOが未然に防ぐことができない。

 というか、君が関わった時点で全ての事件は未然に防ぐことができないと思う。

 

「ど、どういうこと?」

 

「これは僕の推測だがな。おそらくWPPOには未来予知系統の能力者が在籍していると思うんだ」

 

「……それは、まあ、そうかも」

 

 だよな? 

 

 WPPOは世界各地の自然災害や能力災害を早い段階で察知して解除している。

 それが台風や大雨のような、天気予報士でも分かるようなものならともかく。地震や噴火などの科学的に予期しにくいものから、数字現象のように個人のタイミングで起こるようなイベントでさえ、彼らは事前に対処を終えている。

 ここまで来ると、WPPOが何かしらの方法で未来を予知し、問題を防いでいると考えるのは妥当な考え方だろう。

 

 防止率100%なのも、それが理由ではないだろうか。

 もしそうだとしたら、世界の治安を守る組織として、極めて正当な運営方法だと言わざるを得ない。

 

「ところが今回のケースはどうだ。君の話によれば、おそらく辻カリンが最初のターゲット……そうだな?」

 

「う、うん……」

 

「であれば、今回の一件がニュースになる前に時間が巻き戻ってしまう。WPPOはこの一件を知覚できる手段が無いんだ」

 

「……? 何が…………あっそういうこと!?」

 

 そう考えれば全ての辻褄が合う。

 どうしてWPPOは世界中のありとあらゆる問題を未然に解決できているか? その答えは──起こった問題を報道するニュースを予知しているから。

 

 数字現象のように世界規模の異変ならまだしも、とある国のとある地方のとある怪事件なんて一国際組織が知る由もない。いくら各国に支部があったとしてもだ。

 しかし、それがニュースになればどうなるか? 夜眠っていただけで足を奪われて不審死した人間が続出した……WPPOが未然に対応できなかった未曽有の大事件として報道されるだろう。

 そして未来予知能力者がいれば、そのニュースが世界中で話題になることを予知できる。

 後はその事件が起こる前に現地に行って対応するだけ……こうすれば報道するようなことは何もない。防止率100%は維持される。

 

 しかし、それならどうして今回はWPPOが事件解決に現れないのか? 

 本来であれば口裂け女なんて彼らの敵では無いはず。なのに現れないのは……。

 

「何故なら、辻カリンが最初の被害者で──」

 

「──その瞬間巻き戻るから、WPPOは被害者がいることを知ってすらいない?」

 

「そういうことだろう。僕はそう見ている」

 

 一番初めに被害が出るのは「口裂け女の問答に失敗した……前の僕のような人間が出た瞬間」か「仮死魔霊故が辻カリンの夢に現れた瞬間」の二択。

 そして、月曜日の夜の時点で、肉体が上下に両断された人間のニュースは出ていない。それは辻セイラがさっき説明してくれた。どう足掻いても最初の被害者は辻カリンだ。

 彼女のループによれば、火曜日の朝を迎えられた日はまだ一日も存在していない。

 つまり、この事実を報道することはできないということ。

 

 怪異がどれだけ暴れようと、本格的な被害が出始めるのが3日後以降なせいで、WPPOはこの惨状に気づくことができないでいる。

 

「だからWPPOは動かない……動けないんだ」

 

 もし、未来を変えられるとすれば、なんとかこの怪異による脅威を明るみにすることだ。

 口裂け女と仮死魔霊故が融合した危険な実体がいると証明することができればきっとWPPOもこの怪異を排除してくれるだろう。

 

 しかし、被害が出ていない今の時点でそれを証明することが僕達にはできない。

 赤の他人に「今から正答を教えるので、あの怪しい女に話しかけて切り殺され、人柱になってくれ」と頼んだところで許諾される訳もない。何も知らない無罪の人間を騙して生贄にするのも以ての外だし、対処法を言いまわっている時点で「知っている者」として怪異に目を付けられるかもしれない。

 もし「僕らの主張は事実だ!」「未来予知能力者を連れて来てくれ!」と主張しても、死に戻りのせいでその先の未来は見えない。「何かが起こる未来は見えませんでした」と返され、嘘吐きだと認定を受けるだけだ。

 世界中探せば「嘘を見抜く能力」の能力者もいるだろうが……そんな人間すぐには連れてこれないだろうし、もし連れてこられても精神病院を勧められそうだ。

 

 だから、WPPOに「どうして来てくれないんだ」と文句を言っても何も起こらない。

 そもそも辻セイラはWPPOの話題を聞いたときによく嫌そうな顔をしている。事情はよく知らないが極力頼りたくなさそうな……そんな顔を。

 

 どちらにせよ、話は振出しに戻る訳だ。

 ここまでの話を聞けば、あの怪異を回避できないのははっきりしている。

 

 1. 時間になれば必ずやって来て。

 2. 寝ていなくても強制的に眠らせて。

 3. 正答は意味をなさなくて。

 4. 正答を知らない──つまり誤答した周でも殺されていて。

 5. なおかつ逃げることも勝つことも不可能。

 

 つまり、対症療法は全滅だ。向かう先はもう一つだけ。

 僕達はどうにかして、この怪異を具現化させている能力者を3日以内に見つけ出し、能力を解除してもらわなくてはいけない。

 

 ……しかし、どうやってそれを成し遂げるか。

 ここがどうしようも……。

 

「なあ、辻セイラ……」

 

「……」

 

「辻セイラ?」

 

「…………ちょっと、待って」

 

 ……ん? 

 

 どうした? 

 なんだ、そんな声して。

 さっきまで「どうすればいいか分からない」「怖い」って言ってたのに……急に。

 

「私達は、能力者が誰かを特定すればいいんだよね。そうすれば解決するんだよね」

 

「そうだが……当てがあるのか?」

 

「無い。全く」

 

 な、なんだ。

 当てがないならどうして聞いた。意図が読めないぞ。

 

「別に、当たりをつけるのは私達じゃなくてもいいんじゃないの」

 

「何を言ってるんだ。暑さでおかしくなったのか?」

 

「だから! 特定するのは私達じゃなくてもいいんでしょ」

 

「あ、ああ」

 

 そう、だな? 

 特定が他の人間にできるなら、その人にやらせればいい。できればの話だが。

 

 しかし、一切の証拠が無いことは君も分かっているだろう。

 そもそも、その人が「能力を持っているか」でさえ証明することはできないんだ。なのに、特定するのが別人でもいいって……不可能な事態であることは変わっていないだろう。

 

「ねぇ、アンタ。怪談詳しいよね」

 

「確かにそうだが……母さんの影響で、僕は──」

 

「はいはい知ってる知ってる。詳しいなら何でもいいの」

 

 ……まだ喋ってる途中だったじゃないか。

 それに、何を言っている? どうして今怪談の詳しさが重要になるんだ。それに一体何の意味が──

 

「──だからさ」

 

 

 

 

 

「被害が出るまでそう時間のかからない──新しい怪談を創作してよ」

 

 

 

 

 

 *

 

 

 

 

 

「なあ、辻セイラ。僕達どこに向かってるんだ?」

 

「私ん家。カリンに会いに行くの」

 

 な、なんで? 

 急に家を飛び出したと思ったら……今度は辻家に? 

 

 ……いよいよ分からなくなってきたぞ。

 なぜ君の家なんだ。なぜ辻カリンなんだ。「新しい怪談を創作してよ」と来て、次の行動が「妹に会いに行く」。間が全く繋がらない。

 怪談と、辻カリン。創作と、辻カリン……駄目だ、繋がる絵が一枚も浮かばないぞ。

 少しぐらい説明してくれたっていいじゃないか。

 

「カリンは学校で怪談が流行ってたって言ってたの。広げるには最適でしょ」

 

「広げる……?」

 

「あんまり大きな声出さないで。周りに人もいるんだから」

 

 そうは言うがな。

 どうして君は新しい怪談を広げようとしている? どこからそんな話が出てきた? 

 

 いや待て、考えろ。

 辻セイラが一切意味も無く突発的な行動に出る訳がない。何か訳があるはずだ。

 

 彼女はついさっき、「被害が出るまでそう時間のかからない──新しい怪談を創作して」と言ってきた。

 そう時間がかからないというのは……おそらくループの期間でもある3日以内だろう。

 仮死魔霊故と比較して、彼女よりも早く行動する怪異を作れと、彼女は言っているんだ。

 そしてそれが広がればどうなる? 確かに辻カリンは友人も多いだろうし、喋りたがりな性格だ。彼女に教えれば、広まりやすいだろう。

 

 ……それで? 

 その怪談を知っている人間が増えるだけじゃないのか。

 もし件の能力者が街にいて、その能力の条件に合致したらどうするつもりだ。

 そうなれば……。

 

 

 

 

 

「そうなれば、この街にさらにもう一体の怪異が生まれる可能性がないか」

 

「そういうこと。話が早くて助かる」

 

 

 

 

 

 いや、早くない早くない。こっちは説明不足の君のせいでまだ全然分かって無いんだ。

 二体目を作って、それでどうなる? 勝ち目のない怪異が、一体から二体に増えるだけじゃないのか。手詰まりを倍にしてどうす……。

 

 ……いや、違う。

 増やすこと自体に意味があるんじゃない。

 今の怪異は、必ず辻カリンから襲うという。だから月曜の夜に世界ごと巻き戻ってしまう。

 だから被害はどこにも残らず、誰も知らず、ニュースにもならない。ニュースにならない未来は、WPPOの予知に引っかからない……ついさっき、僕が自分で組み立てた理屈だ。

 

 なら──辻カリンがやられるより先に、被害を出す怪異がいたらどうなる? 

 

 ループの期間が3日間で、あの怪異が最初の被害者を出すのも3日後。

 その3日以内で、他の怪異によって被害が発生すれば? 

 被害が出れば、ニュースになる。ニュースになる未来なら、WPPOは予知できる。

 そして防止率100%を名乗るあの組織は。実際に被害が発生するより前に現地へ来て、新しく発生した二体目の怪異を発見、排除し……。

 

 ……そうか! 

 そういうことか! 

 

「だからアンタは、できるだけ宵坂ヨミの創作と傾向が似た別の創作を作って」

 

「それを辻カリンに教えれば……」

 

「うん。カリンだけじゃなくてミオやルナにも教えて、3日間のうちにできる範囲でだけど、怪談を街に広めるの」

 

 そうか、そういうことだったのか。

 ようやく意味が理解できた。

 

 そりゃそうだよな。

 ただ怪異を排除できたからといって、物理現象を無視した存在が急に暴れ出したのに、WPPOが大本を無視して去っていくはずがない。

 むしろ、数字現象を解除したあの時のように根本の原因ごと解決しようとするはずだ。

 

 つまり、これは餌。

 

 僕達はただ新しい噂を作って、それを広め、能力者まで届ける。

 そして、その能力者が「被害が出るまでそう時間のかからない」怪異を具現化したら、彼らは「防止率100%」の掟に従って動かざるを得ない。

 被害とはいっても、もし事態が深刻化したら困るから、物理的な怪我や死が起きるものは避けて作る必要があるが……。

 

 すごいな君。

 今日は君に感心させられてばかりな気がする。

 

「つまり、僕達では能力者を特定できないから……」

 

「そう、私達はこれから、二体目の怪異を囮に──」

 

 

 

 

 

「──元凶の能力者を、WPPOに特定させて捕まえてもらうの」




だいぶややこしかったかも……。

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