三組、四十一……よし、ぴったりだな。
しかし、月曜から数えて五日目の放課後が……先生に指示されたプリントの山の整理か。今週の締めくくりとしては、平凡すぎるというか。
「瀬尾さん。三組、終わりました」
「ありがとう、九条ノドカ」
「委員長は大変ですね。疲れませんか?」
「なに。今のこれだって僕は作業の開始が遅れてしまった。文句を言える立場じゃない」
配布書類をクラス別に仕分けて、枚数を揃えて、積む……以上だ。
工程の説明が一息で終わる単純作業なのに、量だけは一丁前だよな。
この人選にも異論はない。学級委員長の僕と、まだ委員会の決まっていない転校生の二人。早い段階でこの学校の作業を覚えてもらうという意味でも、適任という他無いだろう。
それにしても、安全な放課後だ、今日は。
当然か。九条ノドカは放課後の間、ずっとここで僕とプリントの相手。
この女がここにいる限り、辻セイラとの接触なんか起こりようがないじゃないか。昨日みたいな追跡も潜伏も必要ない。隣の女への警戒まで解いてはいないが、こちらとしては気が楽だ。
それに彼女はかなり手際が良い。
僕が一クラス分を数え終える間に、向こうも一クラス分終えている。初めてやってこれなんだから、慣れてしまえば僕より早く終わらせられるだろう。
しかも積んだ束の角が凄い。凄いというか、怖い。定規で測ったのかと言いたくなる直角だぞ。君のお辞儀じゃないんだから。
「この学校にも慣れてきたみたいだな。友人もできたんだろう」
「はい。皆様よくして頂いて、先ほども遊びに誘われました」
「そうか。先生の指示とはいえ、プリントなんかに付き合わせて悪かったな」
「いえ、お仕事が先です。規則ですので……ね?」
「そうだな」
転校してきて、今日でまだ五日。もう放課後に誘われる側と。
学籍も学力も本物で、その中身を知っているのが、この学校で僕一人。
いや……やめよう。
せっかくの何もない日に、わざわざ広げる話でもない。
そもそも、この5日間で分かったが、彼女は非常に『規則』に従順なタイプ。
要は僕と同じタイプの人間な訳だ。規則を守り、規則を超えた行動をとることはない。その理念には僕も非常に共感できるし、初日に抱いた印象よりも今は好感を持っている。
気になることと言えば、底が見えるような見えないような微妙なバランスで扱いにくいことぐらいか。
それも、『僕を信用させるための演技』なのかもしれないが。
「辻セイラとは会話できたのか?」
「いえ。でも、お気になさらないでください。私にはこの能力がありますから。万が一、乱暴をされるようなことがあっても、自分の身は自分で守れますので」
「ああ、昨日は僕も過保護だった。君の能力はシンプル故に強そうだからな」
「そうでしょう? ふふふ」
ま、僕が過保護になっているのは君じゃなくて辻セイラに対してなんだが。
まあ、いい。
言われなくても、もう君を一々追いかけて見張ったりするつもりもない。
もう、口裏合わせは──数分前に済んでいるんだから。
*
……右よし、左よし。頭上の窓も閉め切りだ。
旧校舎の裏まで来れば、通りがかる人間の方が珍しい訳だし、多少声を張ったところで届く先は壁と雑草ぐらいのものだ。我ながら念の入った確認だが、今日ばかりはこれぐらいで丁度いい。
なにせ、この機会は今日を逃すと次がいつになるか分からないんだ。
九条ノドカは今頃、職員室で山積みのプリントの受け取り中。僕も一緒に呼ばれていたが、「少し遅れてから行く」とすでに伝えている。今現場にいるのは彼女だけだ。
教師から割り当てられた校務である以上、途中で放り出して抜けられる訳がない。つまり今この時間だけは、僕が辻セイラを呼び出す姿をあの女に見られる心配がない。
つまり、今日──金曜日の放課後は絶好の密会チャンスな訳だ。
「すまないな。呼び出して」
「別に。言いたいことがあったんでしょ」
「そうだ」
九条ノドカは「WPPOは密会等の内容まで強引に調べたりはしない」と言っていた。
これ自体は考えてみれば当然のことだ。せっかく協力を要請しているのに、その協力相手に不利になるようなことを沢山して、それで好印象が得られる訳がない。
勿論、初対面には先手の能力発動を許可している組織だ。見張っているのが九条ノドカだけ……そんなずさんな管理体制ではないだろう。今も見張っている別動隊がいると考えるべきではある。
だからこそ密会だ。
人間誰しも秘密の一つや二つあるものだ。WPPOも秘密を作るな、なんて言っている訳じゃない。もし別動隊がいたとしても、僕達が秘密の用事で話し合いをしていたとなれば彼らは踏み込んで来れない。
実はこの会話を聞いていて、そこから情報を得ていた……そんな可能性を否定できる訳じゃないが、もしそうだとするとWPPOは僕からの信用を大きく失ってしまう。であれば、大胆な行動には出られない。
だから、堂々と隠す。九条ノドカが用事で確実に来ないと分かっているタイミングで密会する。
この方法で、「隠している」と分かる形で会ってしまえば、連中は中身に手を出せない。推測はできても、確認まではできないんだから。
月曜から数えて五日目。ようやくの機会だ、これは。
「伝えておきたい話がある。これは君の能力に関わることで──」
「昨日のあの女のことでしょ」
えっ。
「アンタの言いたいことなんて分かってるっての。私、目をつけられてるんでしょ、あのしつこい転校生に」
「分かってたのか」
「長い付き合いになりそうだから、余計なことは喋らないよう気をつけろ。特に噂になってる正当防衛とか、怪談の話については。だから、ボロを出すな……以上でしょ?」
……お、おお!
すごい、凄いぞこの女。
昨日、九条ノドカと少し話しただけでそこまで辿り着いたのか。驚きだ。
これはいいことだ。話が早いのは、どう考えてもいいことに違いない。
仮にも九条ノドカに「先に作業を進めておいてくれ」と言った手前、説明の手間が省けて、拘束時間が縮んだことは非常にありがたい。密会の痕跡も残りにくいし、効率の観点からは満点の展開じゃないか。
「よくそこまで理解したな」
「なんか探ろうとしてる感ありありだったから。で、口裏合わせしときたいって話?」
「そうだ。彼女は世間話の体で話を聞こうとすると思う」
「そ。心配しなくても全部突っぱねるから安心してたら」
おお、なんて安心感。
人を突っぱねることについては右に出る者のいないこの女が、意図的に自分から「一切話をする気はない」と予め宣言してくれる訳だ。ここまで心強いことは無い。
しかし、そうなると僕の判断は完全に杞憂だったのか。
彼女が初めから相手するつもりがないなら、僕が「僕の知らないところで取り返しようのない展開になるかも」と思っていたことは間違いだったのかもしれない。
少なくとも、2年程度で彼女が「だんだん情に絆されてきたから匂わせしてもいいかな」となる可能性は低いだろう。無理に伝えようとしなくても、彼女は初めから距離を置くと意識してくれる訳だ。
「常にそれを維持できるか?」
「維持するに決まってるでしょ」
「うちに転校してきたんだし、場合によっては高校卒業まで懐かれる可能性もあるが」
「面倒くさ……長引いていいことなんて一つもないのに。連載だって長期化したら大体碌なことにならないし」
へえ、彼女の口からそんな例えが出るのは珍しい。
「もし、黙秘も否定もできなくなったら、僕が怪しいと言え。そうしたら僕が対応する」
「はいはい。その話はもう……いや、そうか。面倒なこと聞かれたらアンタに回す」
よし。
流石に相手がWPPO職員であることは知らないだろうが……君もきちんと状況は把握しているんだな。この分だと喋っていい情報とそうでない情報の線引きもしっかりできているだろう。聞き取りから逃げられなくなったら「怪しいのは全部瀬尾マコトだ」と丸投げさえすれば向こうも満足するし。それなら、僕から新規で君にアドバイスすることなんて何もない。
逆に、ここまで言い含めておいてそれでもバレるなら、口裏合わせをしていたとしてもバレるということだ。そうなってしまったらもう仕方がない。せめてWPPOに「密会を覗いたな!?」と反抗の意思でも見せてやろう。
「話したかったのはそれだけ?」
「それだけだ。時間取らせて悪かった」
「いーよ別に。転校生のお世話頑張りな」
「ああ。じゃあな」
そうと決まれば、僕も早く書類整理に戻ろう。九条ノドカが今一人でやっているはずだ。
とにかく、不安の種だった口裏合わせはこれで済んだ。次に九条ノドカが辻セイラに話しかけたとしても僕は安心して無視できるだろう……。
*
……そんな会話が数分前。
おかげで僕は安心して九条ノドカとの会話に臨める訳だ。
「組織内でも君の能力は強力な方なのか?」
「能力者の中では、地味な方かもしれません。ただ、応用が利くおかげで羨まれることもありますよ」
それにしても機嫌がいいな、この女。自分の能力を褒められたことが嬉しかったのか。
普通はそうだろうな。さっきの会話は足の速い人に「足が速いですね」というようなもの。それが能力に置き換わっただけだ。貶していないのだから悪い意味で捉えることは無いだろう。
悪い意味で捉えるのはそれこそ、呪いのような能力で苦しむ僕の知り合いぐらいなものだ。
しかしこれは好都合だぞ。
本来の悩みの種は解決済み。現役のWPPO隊員と、二人きりで、時間がかかるだけの単純作業。手は塞がっていても、口は空いているんだから会話することも可能だし、話題を選ぶ権利もこっちにある。
なら──WPPOの実情を、できる限り調べることができる。
よし、この仕分けが終わるまでが情報収集の時間だ。
雑談の顔をして、聞けるところまで聞かせてもらうぞ。
「実際、どういう能力なんだ。僕は曖昧にしか知らないんだが」
「危険度II、任意条件依存型能力です。私が両目で見て、自分の意思で決めた瞬間に相手の動きを止められます。以降は視界から外れても継続されますし、自分の意思で決めた好きな瞬間に解除が可能です」
「そうなのか。僕にかけられた時は首から上は動かせた気がするんだが」
「部位は指定できます。それこそ足だけ、手だけなどでも、全体ピタッとでも」
ふむ、危険度IIの任意条件依存型……危険度は確か、能力が与える周囲への加害可能性を三段階で評価するものだったな。IIは中間か。
つまり、意図しない限り他者を加害することはできず、特定の条件下であれば任意の判断で自由に発動可能ということか。確かそんな分類だった気がする。実際そうっぽいし。
それにしても、すらすら話してくれるな。
ということはこの能力については開示可能な内容なのか。
WPPOからすれば九条ノドカの能力については、僕からの信用を得るために開示してもいいと思っていると。まあ、能力の内容知ったところで悪用なんてできないか。
しかし、これは助かるぞ。
重要な時に能力の仕組みを知らないので対処できませんでしたでは問題だし、本人の能力についての話なら向こうも話しやすいだろう。そこから別の会話に繋げることもできそうだ。
「制限は? 何かあるのか?」
「対象制限があります。一度に一人にしか使えない……という単純なものですが」
「ふむ。なかなか便利じゃないか?」
持続時間、能力の射程、条件の例外、インターバル、代償、回数制限は存在しないと。
……まあ、そこは驚くところじゃないな。能力なんてほとんどがそういうものだし、その辺は能力学の基礎で勉強する。
しかしこれを任意で発動できるのか。条件さえ満たせば、撃つも撃たないも本人の任意。使い手を選ばない、実に真っ当な形式じゃないか。
世の中には、本人の意思なんてお構いなしに勝手に発動して振り回してくる型もあるらしいからな……誰の話とは言わないが。
「私は緊急時の貴方の護衛も兼ねているので。便利であるに越したことはありません」
「護衛?」
「はい。貴方が実際に『未来予知能力者』だった場合、私は貴方を脅威から守る必要があります」
「ほう」
「……とはいえ、以前不審者に行使した際、発動こそしたもののその後、対象が勝手に動き出して質問してきたり追跡してきたり。能力の先占効果には逆らえないので不発に終わることもあるんです」
なるほど。
調査員兼、非常ボタンか。豪勢なのは変わらないな。
とはいえ、理に適った配置ではある。WPPOからすれば未来予知能力者は喉から手が出るほど欲しい人材だ。不慮の事故で失ってしまうのは惜しい……。
大体のものを止められる人間を一人常駐させておけば、調査と保険が一枚で済む訳だ。人員のやりくりとしては上等な部類だろう。
あと……。
1. 能力で動いている。
2. 質問してくる。
3. 追跡してくる。
それには心当たりがあるんだが……。
まさか、君が言っているのは辻セイラが言っていたアレのことじゃないか?
今こうして会話しているということは他の職員が最終的に制圧したんだろうが。君、アレの捕獲にも駆り出されてたのか。
へえ、実は既に僕は護衛を受けていたのか。知らなかった。「どうしてそれを知っている?」と思われかねないから口には出さないが。
「そうして保護した能力者とかはどうしているんだ。殺処分とか言わないよな?」
「まさか! 能力の内容から対処プロトコルを制定し、周囲に悪影響を与えない形で社会復帰できるようにバックアップを行います。3ヶ月前に保護された能力者の方も同様です」
なるほど。
WPPOに保護されたことで即座に解放という訳にもいかないが、危険だから処分という訳でもないと。
僕達が遠ざけるよう仕向けたあの人は、より安全な人生が歩めるようWPPOが支援を行っているんだな。なんというか安心した。
しかし、この能力者が辻セイラだとどうなるのだろう。
彼女がより安全に人生を歩む……それは相当難しいぞ。『大切な人』全員を常に監視する、あるいは安全な場所に隔離する……精神衛生的な問題から現実的ではない。
ループ発生時だけ特例で協力する……というのも認められるのか? こちら側としては一切の報酬を準備できず、逆に未来の結果をかき乱す始末。過度な介入も「日常を壊す」恐れがある。
うーん……いまいち確実なのか判断ができない。あのカス能力が発動条件に「精神的な問題」も含んでいるせいで大きな環境の変化という手を打ちにくいのが面倒だ。
「ところで、君の方はどうなんだ。その調査とやらが終わったら、次の街へ行くのか」
「いえ。調査が終わっても、転校生としての暮らしはこのまま続けます」
「ん? そうなのか」
「はい。また新しい特殊な任務を頂ければ、次の場所へ移ることもありますが。そういったことがなければ、このままここで、普通の学生として過ごすことになるでしょう」
「ふうん? 意外だな」
「そういう『規則』ですから」
……。
それもそうか、彼女は「未成年協力員」云々について言っていたし。学生であるうちは学生として普通に暮らすことも許されているんだな。任務でごくたまに席を外したり、大きな任務で今回のように転校してくるパターンもあるが……何事も無ければ普通の学生と変わらない、と。
まあ、転入の手間を考えれば、馴染んだ拠点は使い回す方が合理的か。この女の所作なら、何年いようがボロも出ないだろうし……。
「……あれ?」
「どうしましたか?」
「いや……」
「……WPPOには、未来予知能力者がいるんだよな?」
「はい。そうですけれど……何か?」
少し引っかかるぞ。「そういったことがなければ」と言ったよな。
つまりこの女は、次の任務があるかどうかを、知らないってことじゃないか。
決まっているなら「いつまでです」と言う。移動するなら「移動します」と言う。九条ノドカはそういう喋り方の人間じゃないか。それが「あれば」「なければ」の仮定形ときた。
つまり……。
「現場には──未来予知の結果が知らされていない?」
「……!」
思えばそうだ。
彼女は木曜、辻セイラに断られ、話ができないことを知らなかった。知っていたなら、あんなに落ち込んだリアクションを見せる訳がない。
調査期間は1週間から2年。未来が見えているなら、こんな幅の持たせ方は要らない。終わる日を知っている人間は「2年かもしれません」なんて構え方をしない。
「ふふ。やっぱり瀬尾さんは、未来予知の能力者なのでは? 私達のことを、何でもご存じのようですので」
「違うと言っているだろう」
だいぶ余裕があるな。
その言い分からすると、今の発言は事実なんだろうが……それでも開示可能な範疇の情報だったのか。
しかし、どうして教えない? 未来予知能力者はとにかく欲しい人材じゃないのか?
末端の案件にまで教えている暇が無いという意味なら理解できるが、こんな重要案件にまで未来予知の結果が与えられない……そんなことがあり得るのか。3ヶ月かかってるんだぞ?
となるとおそらく、全案件において、現場の人間には未来予知の結果が教えられない──そういった風にルールが統一されているのではないか。実際に死人が出るような案件は未然に伝えているだろうが……それ以外の案件では結果が分かってしまえば担当する職員の士気に相当な影響が出てしまう。
未来と違う行動を取れるのは未来のことを知っている人間だ。もし未来を知る人物が職員に「今日の任務は成功するから安心して!」などと言って未来の結果が変わってしまっては元も子もない。
予知された未来からずれた動きをして、予知そのものを台無しにしかねない。だから基本はそういった気持ちの変化を発生させず、気を引き締めさせるためあえて伝えないようにしているとか?
「では限られた情報で言い当てたと? もしかして私、喋りすぎたのかもしれませんね」
「焦り一つも見せないくせによく言うよ」
いや、それに加えてリソースの問題があるのかもしれない。
簡単に考えれば、この世の全てのイベントを予知なんてやっていればその能力者はぶっ倒れてしまう。見ている内容は限定されているはずだ。
内容を限定……そうだ。そんな話を前にも辻セイラとしたことがあるじゃないか。
「いやでもそうか、当然だな。未来予知で見るのは、ニュースの報道が主だろうし」
「!!?」
──ガタッ、ガラッ、ガッシャーン!!
「!? く、九条ノドカ!?」
「お、おい、どうした。すごい転び方したぞ、君」
「ど、どうして……そのことを……?」
「は? いや、それぐらい考えれば当然……」
え、なに、何だ。どうして九条ノドカは急にここまで動揺している。
そんなに変なことは言っていないだろう。僕はWPPOには未来予知能力者がいて、ニュースの報道を見て問題の発生を知覚しているから……と仮説を立てたことがあるだけだ。
別に普段のWPPOを見ていれば未来予知能力者が内部にいることは自明だし、そこまで変なことを言った訳でも……。
……。
…………。
………………。
……あっこれ辻セイラの能力で発生した「失敗した周」の事実を知ってないと導き出せない仮説じゃないか! ただ単に未来予知能力を持ってただけじゃ導出できないぞ!
つまり、九条ノドカからすれば、内部の人間しか知りえない事実を急に目の前の人間が言い当てたことになる訳で。その僕にずっと情報を開示し続けていたのは他でもない自分……。
「私……喋りすぎたかも、しれません。こういう時の対処法は、マニュアルにありませんでした。だ、黙ります」
……は?
「い、いや、今のは単なる思いつきだ。別に君の失態じゃない」
「……」
「……おい? 九条ノドカ?」
「……」
「え、本気か?」
「……」
えっ本当に黙っちゃったんだが。
マニュアルにないから黙る? 確かに、マニュアルに「内部情報を言い当てられた時は?」なんて項目はないだろうが。そういう時は臨機応変に動くものじゃないのか?
……あれ、おかしいな。僕は君のこと、中々底が見えそうで見えない、表向きは完璧な人間として認識していて、その規則に忠実な姿勢に一定の理解を示していたんだが……。
……これもしかして違くないか。
この女、「規則に忠実」なんじゃなくて、「規則にあることしかできない」だけじゃ……。
「い、いや……そうじゃないだろ! マニュアルがないなら上に聞くなりすればいいだろう!」
「そ、そうか! その通りです。マニュアルにはありませんが当然の話でした。電話します」
──ピッ!
「おい」
「あっ……えっ、なんで取るんですか?」
「校内で携帯電話を使ってはいけない。校則違反だ」
「え、ええっ!?」
何を驚いている。許可が出たのは初日だけだったろう。
連絡ぐらい帰ってからしろ。WPPOの人間だからって甘えるなよ。
感想やご意見をお待ちしていますのでよろしければ……(´・ω・`)
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