『大切な人を救うために死に戻る能力』   作:破れ綴じ

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今日も今日とて昨日投稿できなかった補填を含めて2話投稿します。
最近抜け多くて申し訳ないです。ご理解のほどを……<m(__)m>


[22:05] 万一の時には

「いらっしゃいませ。店内でお召し上がりですか?」

 

 ああ忙しい忙しい。

 土曜の昼のファストフードチェーンなんて忙しいに決まっている。このところ毎日実感するばかりだ。店としてはありがたい悲鳴なんだろうが、回転率が速いことはこんなにも恐ろしい。

 

「チーズバーガーセットお二つ、ポテトはLに変更ですね。かしこまりました、少々お待ちください」

 

「瀬尾くん、四番あがったよー!」

 

「はい、すぐ出します!」

 

「瀬尾くーん、バニラシロップ切れそう!」

 

「在庫あります! 今補充行ってくるので!」

 

 レジ、受け渡し、またレジ、裏方に移動して補充して、またレジ。

 息をつく暇もないぞ。次は五番、ナゲットのソースは……マスタード、よし。

 しかしこの僕を誰だと心得る。ここに勤めて一ヶ月の新米じゃないんだ。やることは基本変わらない。丁寧な対応をしていればクレームなんてつく訳も無し、順番に対応していけばいつか終わりも見える。

 波も引いてきたぞ。あと三人、あと二人……。

 

 考える暇が一秒もないのは、今日に限ってはむしろ有難いのかもしれないな。

 昨日のこと、あの硬直した顔も。僕のあの失言が九条ノドカに聞かれて、どう報告されたのか……そういう余計なことを考えなくて済む。

 

 よし……これで一旦列は捌き終わった! 

 次にすることは……。

 

「ねえ瀬尾少年」

 

 ん? 

 

「ちょっといい?」

 

「なんですか店長」

 

「……あの子、何してると思う?」

 

 

 

 

 

 ──「ふぅ、ふぅ……もぐ、もぐ……やっぱり頼みすぎましたかね……」

 

 何やってるんだあの女は。

 

 

 

 

 

「クラスメイトですね。最近転校してきた」

 

「えっ知り合い? 転校生?」

 

「まあ、はい」

 

「ずーっといるんだけど……」

 

 いや、気づかなかった訳じゃないぞ。

 あの白い眼帯と綺麗なポニーテールはよく目立つ。シフトに入った瞬間からずっと窓際の席に「なんか見覚えのある姿があるなー」とは思っていたんだ。時折こっちを見て来るし、向こうだって分かっているんだろう。

 ただ、業務中に意味も無く私語を行うことは就業規則で禁止されている。実際彼女は色々頼んでいるんだから、知り合いとしてではなく客としてこの店に来ているんだ。そんな相手に対し、馴れ馴れしく話しかけに行くなど以ての外。だからわざと意識しないようにしていた。

 

 ……それにしてはちょっと気になる点が多いが。

 言われてみればどうしてずっと残っているんだ。

 

 机の上にはバーガーが……いや、包み紙まで数えるなら二つ目か? 

 ポテトもSサイズの空箱が二つ……ドリンクも三種類。味比べでもしているのか? 

 というか、僕が入ってからもう2時間ぐらいそこにいるよな。その間ずっと何かしら食べ続けていると? 

 

 ……なんで? 

 邪魔しに来た? 

 

「バイト志望の世間知らずちゃん? 誘った? 即戦力なら今すぐ働いてもらうけど」

 

「いや、何も誘ってないですね。多分、バイト目的じゃないと思いますが」

 

「チッ……じゃあなんであの子ずっといるのさ。30分おきに追加注文してるんだよね」

 

「えぇ……」

 

 訳が分からない。

 僕を待っているのか? 

 

 今は12月だし、店の外は寒い。だから仕方なく店の中に入ったが……ただ居座る訳にはいかないから、仕方なく少しずつ注文を重ねている……と? 

 なんて不器用なことを。シフトの終了時間ぐらい教えるからそれが終わってから来いよ。

 

 ……だが、どうしてやって来たのかは未だに分からない。

 仕方ない、整理しよう。考えられる筋は三つだ。

 

 1. 範囲の拡大。調査がバイト先も含んでいた。

 ……いや、しかし。彼女が転校してきたのは月曜だぞ。今週のバイトは今日含めて4日分シフトを入れている。しかし、他の3日間は影も形も無かったというのに、今日だけ現れるだろうか。調査網を広げるつもりなら初日からやればいい話で、6日目になって急に、しかも本人が直々に座り込む理由が見当たらない。

 第一、「守るべき人々の日常を壊さない」がWPPOの原則だと本人が言っていたはずだ。バイト先に堂々陣取るのは、日常のど真ん中に検問所を建てるようなものなのでは。

 

 2. 昨日の件。

 僕は昨日、言ってはいけないことを言い当てた。内部の人間しか知らないはずの事実を、雑談の流れで。上が警戒を強めて、調査対象としての僕の格が上がった。あるいは、九条ノドカ自身が何かの処分を受けて、新しい指示を持たされた──そう考えれば筋は通る。

 じゃあ、何故店の中で、苦しそうな顔までしてバーガーを食べているんだ。警戒を強めた組織の次の一手が「対象のバイト先で数時間の食事」か? あれが新しいプロトコルだと言うのなら、僕は世界平和の行く末が本気で心配になるぞ。

 

 3. 単純に客として来ている。

 色々気になるから食べている。

 そして食べ過ぎて後悔している。

 だから時間をかけて滞在している。

 ……そんな馬鹿なことある訳ない。

 

 というか、もし調査が目的なら話しかけてくるよな。当然、私語は禁止だから僕がそれに応じることは無いが……それにしたって向こうは一切のアクションを起こしてこない。

 となると、本当に僕と会話をするためか、特定の時刻まで時間を潰すために商品を注文しているとしか思えないが……それなら早い時間から店の中で待っている意味が分からない。

 ほら、店長もすごい混乱してるじゃないか。営業妨害だと思われたらどうするんだ。

 

 分からない。分からないのが一番怖い。

 ……ああもう。

 

「店長、僕、昼の休憩で聞いてきます。場合によっては帰ってもらうので」

 

「ごめん、頼める? なんだったらバイト募集の宣伝しといて。帰ったら友達にも広めるよう言っといて。怪談の時みたいにさ」

 

「その場でOKされたらどうするんですか」

 

「んなもん今から働いてもらうけど?」

 

 面接は? 履歴書とかは? それで大丈夫なのか? 

 というか、店長の中では怪談とバイト募集って同列なんだ。確かにこの激務はホラーかもしれないけど。

 

 しかし仕方ない。

 このままずっと細々と注文を繰り返してずっと同じ席を占領されても邪魔でしかないし、他のお客様及び同僚の目もある。事情があるならあるでしっかり説明してもらおう。

 業務中の私語は就業規則違反だが、休憩時間は労働から解放された、労働者の自由な時間だ。休憩中に客と話したところで何の規則にも触れない。

 

 ……あるいは、全然大したことない理由の可能性もある。

 僕は昨日、彼女のなんともポンコツな一面を見てしまった。あれを思い出すと、馬鹿真面目に変な解釈をしてこんな行動をとっている可能性だってゼロじゃない。

 

 まあ、全ては話を聞いてからだな。

 

 

 

 

 

 *

 

 

 

 

 

「それで、店の外まで連れ出したんですか?」

 

「店の中で話してたら邪魔になるだろう……寒いのは我慢してくれ」

 

 あー寒い。この女がやって来る原因の事件が起こった9月頃はまだ暑かったんだがな。12月ともなればすっかりこれだ。そのうち「気温を3℃上げます」とかまた告知されるんだろうか。

 かといって、「じゃあ関係者以外立ち入り禁止の休憩室かバックヤードで話しませんか?」と言う訳にもいかないし。こうして外で話すのは仕方ないことなんだ。

 

「で、説明してもらえるか、九条ノドカ。今の君は営業妨害の一歩手前だぞ」

 

「申し訳ありません。ですが、店舗の利用規則には反していないかと」

 

「そういう話じゃ……いいから目的を言ってくれ。何をしに来た」

 

「護衛です。本日、瀬尾さんの護衛につくよう指示を受けています」

 

 護衛。

 ……ご、護衛? 

 

 待てよ、じゃあバイト中にも彼女がついてくるようになったって認識でいいのか。

 君が僕の護衛を兼任していること自体は理解しているが、あれは「万一の時の保険」という話だったはずだし、前の3日は来なかったじゃないか。学校の外であの目立つ眼帯を見たのは自販機の時だけだぞ。昨日の一件で、僕に対する警戒がWPPOの中で強まったと考えていいのか? 

 でもそれもどうなんだ。君は僕の日常に過度に侵食してこない約束だろう。これじゃあその約束と相反するように思えるぞ。

 そして何より、君の自由が無くなってしまう。僕がバイト中、必ず君の行動が制限されてしまう。それは君に負担を強いることになりすぎなのでは──

 

 ──「本日」「指示を」? 

 

「待て、今日限定で何か起こるのか」

 

「あっすごい。そこまで理解されたんですね」

 

「質問に答えてくれ。本日、指示をってどういうことだ。今日この店に何か危険が訪れるのか」

 

「申し訳ありません。それにはお答えできません」

 

「…………」

 

「規則ですので……ね?」

 

 …………オーケー。

 大丈夫、全て理解している。こんなことも理解できないほど鈍くはない。

 要は、今日の彼女は上から「未来予知」の指示を受けて、今日限りで護衛として店にやって来たということだ。普段の任務では上から予知の結果を教えてもらえない……だが、今回は実際に実害が出る可能性があるので特例で指示が出た、そう考えるのが妥当だろう。

 

 つまり、その「万一」が適用されるのが今日なんだ。

 

 どうして今日なんだ。昨日の今日だぞ。

 僕のあの失言が報告されて、何かが動いた結果なのか? それとも関係なく、最初から今日が「そういう日」だったのか……分からない。

 

 彼女が朝からずっといるのはどうしてだ。

 予知を教えられたなら、その時刻に店にいて対応すればいい話じゃないのか。ずっといるということは……いつやってくるのか分からない脅威ということか? WPPOの見ている未来の内容が曖昧なせいで、いまいち要領を得ないぞ。

 

 別動隊は何をしている。

 差し迫った脅威が存在するなら、店の外で対処すればいいんじゃないのか。どうして店の中で待機をする必要がある。別動隊ではどうにもできないレベルの問題ということか? それとも僕の勘違いで、別動隊なんて初めからいない? そんなまさか。

 

 そもそも、中には店長がいる。同僚がいる。客席には子供連れだって……。

 帰らせるか? どうやって。「危ないので」? 

 何が、と聞かれたら終わりだ、僕は何も答えられない。

 非常ベル? 馬鹿か、それこそ犯罪だ。

 

「瀬尾さん。先に申し上げておきますが、大きな出来事ではありません」

 

「……大きな、というのは」

 

「私一人で対応できる問題であり、事実『対応できた』とのことです。ですので、どうか普段通りにお過ごしください」

 

 ……つまり。

 組織は念のため、護衛を準備するような案件がやって来たと判断したが、それは「九条ノドカ一人で対応できる」ことが確認できていると。客を帰らせるほどの危険ではない……と。

 

 そうか、うん。そうかそうか。

 昨日、他ならぬ僕が思い至ったんだ。現場に予知の結果を教えないのは、未来を知ってしまった者による未来のズレを防ぐためだろう、と。もし「暴漢が店に押し入って、動揺した僕が刺される」という未来が存在し、それを知ってしまった僕が「暴漢に抵抗した」としたら……他のお客様に被害が出る、そういう風に未来が変わる可能性がある。

 知らせれば行動が変わる。行動が変われば、組織が準備を済ませた未来ごと変わる。下手をすれば、「九条ノドカ一人で対応できた」はずのものが、そうでなくなる。

 だから、何時何分にどういうイベントが起こるかは「対応できる」と分かった人間にしか教えられない。

 

「まぁ、瀬尾さんには既知の情報かもしれませんが」

 

「僕に未来予知はできない。何度でも言うからな」

 

「ふふふ」

 

 しかし……なんて気持ちの悪い姿勢だ。

 来ると分かっている「何か」を、中身も知らないまま、普段通りレジに立って待て? 

 笑顔で接客できる自信がないぞ、僕は。

 いらっしゃいませと言いながら、頭の中は非常口の位置確認をしているかもしれない。

 

 仕方ない。理屈は通っている、僕は従うしかない。

 彼女を帰すことは不可能。時間まで居座ってもらうしかないんだ。こうやって僕が討論に負けることまで未来予知で織り込み済みなんだろうな。

 

「……ところで、あの席の惨状は何だ。朝から苦しみながら食べ続けることの意味は?」

 

「ただ居座るのも失礼かと。指定の時刻までに店内で待機しておけとの指示だったので」

 

 

 

 

 

「……? じゃあその時刻より少し前に来ればいいんじゃないか?」

 

「……あっ!」

 

 おい冗談だろ。

 

 

 

 

 

 まさかとは思うが、「店にいろ」としか言われなかったから店にいただけだというのか? 

 他に指示されてないとはいえ、それまで外で時間潰すなり臨機応変にできなかったのか? 

 

「確かに、その通りです。お財布とお腹に無理して食べる必要はありませんでした」

 

「……店長には言っておくから目立たない場所でゆっくり食べろ」

 

「す、すみません。ありがとうございます」

 

 そうだった。

 この女、規則通りにしか動けないんだった……。

 

 ちょっと不器用すぎる……。

 

 

 

 

 

 *

 

 

 

 

 

「それで瀬尾少年、交渉結果は?」

 

「すみません。僕の負けで終わりました」

 

「役立たずがよ。お姉さん拗ねてやる。あーあ、君のせいです」

 

 そんなこと言われても。

 いや、本気で言ってる訳じゃないのは分かるが。僕では手を打てなかったんだ。

 いつトラブルが舞い込んでくるのかも分からないし、それがどういう内容かもこちらは把握できない。彼女がどの時点で店にいる必要があるのかどうかも知らないから、とりあえず残ってもらうという方法も取れない。別に商品を頼んでいる以上ルールに違反している訳でもないし。

 もう仕方なくないかこれ。

 

 いやしかし、僕が対応しないと危なかったのかもしれない。

 他の店員が注意しに行っていたら彼女はどう言い訳するつもりだったのだろう。流石にそういった時の対処法も想定されているんだろうけど。

 

「ま、瀬尾少年が言い負けるってことはよっぽどの事情があるんだろうけどさ」

 

「……見逃してくれますか」

 

「いいよ、知り合いなんでしょ。君の働きに免じて、仕方な~く……今日だけね」

 

「ありがとうございます、店長」

 

「その分働いてもらうかんなー。ほら行った行ったー」

 

 良かった、なんとかなった。

 回転率を下げながら無理して食べている客……となるとどう考えても邪魔でしかないが、事情があると察してくれたみたいだ。店長が良い人で助かった。

 僕も休憩時間は終わりだ、早くレジに戻ろう。

 

「いらっしゃいませー」

 

 しかし、結局起こる問題というのは何なのだろう。

 

 強盗? それは「一人で対応できる」案件なんだろうか。九条ノドカであれば可能かもしれないが、初動が遅れれば怪我の危険もある。別動隊が対処できない理由も分からない。

 火災? それなら設備の故障が原因だ。呼ぶべきは護衛じゃなくて点検するための業者だろう。そもそも、店長がそれに気づかないというのも無理がある。

 迷惑客? 流石にそこまでいけば店側の管轄だ。第一、迷惑だからといって能力をかけて追い出して良い訳じゃない。護衛を寄越すには少々物騒すぎる。

 

 今店の中にいる誰かがそのトラブルの原因かもしれない。

 あの老夫婦は? ……いや、ただの老夫婦だ。若くないだろうにファストフード店に顔を出してくれる客。孫を待たせているだけかもしれない。

 あの男性が持っている大きな鞄は何だ。どうして店内を見渡して……あっトイレか。鞄も今見るとそう大した大きさじゃない。気にしすぎだ。

 となると……子供が暴れて怪我をするとか? あの子なんか特に……静かだな。ちゃんと黙って食べている。いい子だ、和む。

 

 駄目だ。全部、土曜のファストフード店の普通の光景なんだ。

 九条ノドカ一人で対応できて、大きな出来事ではない何か。条件を足せば足すほど、かえって何も思いつかなくなるぞ。未来予知で「対応できる」とお墨付きをもらっているにも関わらず、何もわからないせいで漠然と不安だけが消えてくれない。

 

 当の彼女は……おお、食べ終わっている、あの量を。

 大柄な男性ならともかく、女子高生には少し多いんじゃないかと不安だったが……食べきれたなら良かった。

 しかし、食べきってしまっていいのか。待ち時間までまだあるなら、次の注文をしないと今度こそ本当に追い出されるぞ。

 ペースも落ちていたし、次を注文するのは苦しいだろうが、その辺は大丈夫なのか。

 

 ……あれ、手袋? 

 なんで食べ終わってから手袋を? 順序が逆では……。

 

 ──「いらっしゃいませー……って」

 

 ──バッ! 

 

 っ!? 

 な、何だ!? 何の音──

 

 

 

 

 ──バサバサバサッ!! 

 

 は、鳩!? 

 

 

 

 

 

「なん……何コイツ! 急に入って来たんだけど!」

 

「自動ドアだ! さっき開いた瞬間に入ってきやがった!」

 

「げっ! せ、瀬尾少年! ちょっと隠れさせて!」

 

 マズイ! 

 店内に鳩が入って来るなんて……! 

 

 このままじゃ危険だ、こんな狭い店の中で飛び回られたらどう考えても迷惑だし、パニックになる。というかもうほぼパニックになりかけている。

 食べ物を扱う店なんだぞ。衛生的にもよくないし、もしぶつかったら怪我人まで出かねない。急いで追い出さないと……! 

 

 

 

 

 

 ──ピタッ

 

 えっ。

 

「ひょいっと。捕まえました」

 

 えっ。

 

 

 

 

 

「皆さん、大丈夫ですよ。この子は、私が外に連れて行きますね」

 

「……く、九条ノドカ。その、鳩は……」

 

「あっ瀬尾さん。大丈夫、『止めた』だけです。死んでいませんよ」

 

「いや、そういう話じゃなくて」

 

 ……えっ、まさかそういうことなのか? 

 

 一瞬の出来事過ぎて全然わからなかったが、もしかして──今日、君が対応するトラブルって「店の中に鳩が入ってくること」だったのか? 

 確かに、怪我をする可能性があったかもしれない。未来予知でこのことが分かったとしても、その鳩がどこを飛んでいるかなんて分からないから事前に別動隊が対処することもできない。

 それに対し、九条ノドカの能力であれば、殺すこともなく、安全に事を解決できる。解決策も両目で鳩を見つめるだけ、難しいことなんて何一つ必要ない。

 筋は、通っている。

 

「では、私はこれで。ご馳走様でした」

 

「あ、ああ」

 

 だけど……鳩一羽のために、わざわざ? 

 え、助かったけども。過保護じゃないか? 客席全員、絶句してるぞ? 

 いや、助かったけども。何事も無くて良かったけども。

 

 確かに、トラブルだし、護衛対象が怪我する危険もあったが……こんなことのためにWPPOは「今日護衛してやれよ」って命令を出したのか? 僕に何事も無いように? 

 それって、もしものことが無いように、未来予知で僕が無事かどうかを観測し続けてるってことだよな。僕が怪我した未来が視えたから、その原因になる瞬間に九条ノドカを派遣するっていう。

 

 ……なんだかWPPOが怖くなってきた。

 善意なのは分かってるが……目的のためならどんな手段でも打ててしまうその規模感に、なんとも言いようのない複雑な感情が。

 

「……瀬尾少年、もう大丈夫? いなくなった?」

 

「うわっ。何してるんですか店長」

 

「いやね、私生き物とか無理で……なんもなく済んで今めっちゃ安心してる」

 

 ……まあ、こうして僕の周囲にいる人も危険から身を守れるっていうメリットはあるが。

 それでもやっぱり、彼らの疑いの矛先を、僕から逸らすのは得策じゃなさそうだ。

 

 守られているということは見られているということ。そして、行われる対策は、こちらの想定外の内容。

 鳩一羽のために能力者を出動させる、徹底した組織なんだ。もし、お望みの能力者が辻セイラだと分かってしまったら、どんな動きをするのか……今の僕には想像もつかない。

 

 

 

 

 

「ていうか見た? あの子、素手でパッと捕まえてたよね? 即戦力じゃんね」

 

「……」

 

「おっと、そんな目で見ないでよ」

 

 ……こっちはこっちで何を言っているんだ。

 

「冗談冗談。流石に眼帯してる子を無理に雇ったりしないって。どうすればいいと思う?」

 

 こっちはこっちで何を言っているんだ……。




元々、鳩じゃなくて蜂だったんですけど「よくよく考えたら12月に蜂なんている訳ねーじゃん」ってなって小一時間悩んでいました。
遅れたのはそれのせいです。本当に申し訳ない。

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