『大切な人を救うために死に戻る能力』   作:破れ綴じ

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[24:00] 絶対有り得ない!


「ほら、あーん♡」

 

「すまないな。僕が右手を使えないばかりに」

 

「いーのいーの。ウチがやりたくてやってんだし」

 

 なんて献身的な。

 かつてはただの不良としてしか見ていなかったが、こんなにも面倒見がいいとは。

 

 ……まあこれは、本来看護師の仕事だと思うんだが。

 

 右手の掌は縦に裂かれて、腱と神経を縫った後だ。治療自体は終わったから後はリハビリを繰り返すことになるが……現状、装具で固定されているから指が一本も動かない。左手は無事だから問題なく使えるが、脚も斬られているからベッドから降りられないし、片手が塞がっているから松葉杖も握れない。

 

 利き手が使えないというのは、思っていたより不便だな。

 

 字が書けない。箸が持てない。ページをめくるのも片手では押さえが利かない。

 ……いや、できない訳じゃないんだ。全部、いちいち手間がかかるだけで。その「いちいち」が一日に何十回積み上がるかと思うと、やはり面倒だ。

 勿論、人命を救うためだと思えば、意味のある傷なんだが。

 

「だが君もいいのか? こうして毎日、僕と会話ばかりで」

 

「病院に知り合いもいないし暇なんですー。マコっちが動けないんだからウチがこっち来るしかないっしょ?」

 

「でも君は車椅子じゃないか。こっちに来るのも大変だろう」

 

「自力で動けないマコっちにも言われてもなー?」

 

「うっ……」

 

 確かに、彼女が怪我をしたのは足の腱だ。歩きにくい、走れない、地面を蹴れない……しかし、怪我が脚だけだから手が自由で、その分僕よりずっと動ける。

 彼女が毎日来てくれるのはそれのせいだ。車椅子を自分で漕いで、自分の病室からわざわざ。食事、飲み物、本、リモコン。看護師を呼ぶより先に彼女が手を伸ばしてくれる。

 

 しかし、申し訳が立たないな。

 

 そもそも彼女がこうなったのは僕のせいだ。

 最初に通報したのは僕で、あの男を引き寄せたのも僕で、彼女が足の腱を切られたのは僕を追いかけていたからだ。世話を焼かれる筋合いなんてどこにも無い。むしろ逆であるべきだろう。

 だが、断る理由も無い。こちらは本当に何もできないし、彼女は「暇だし」で全部片付けてしまう。結局彼女の優しさに甘えてしまうばかり……。

 

「あー役得だわ。マコっちの家族にも挨拶できたしさ」

 

「アラタも言っていたよ。『兄さんの友達、綺麗な人だったね』と」

 

「え……えへ、そう? そーお?」

 

 治療が終わって数日間は家族としか面会できなかったからな。

 そのせいもあって頻繁に僕の病室にやってくる彼女は僕の家族とも顔を合わせやすい。

 

 アラタは「また兄さんは無茶を……」と心配していたが、指名手配犯逮捕のために頑張っていたことを知って「相変わらずだね」と言っていたし。

 母さんに至っては「私がお見舞いに行く側になるなんて」なんて変わらない朗らかさで僕に元気をくれた。「マコトが後悔しない選択を取れたならそれでいい」とも言ってくれたし、やはり持つべきは子への愛情を一心に示し続けてくれる、尊ぶべき母親なのだと、改めて実感できた気がする。

 

「もうウチら同じ部屋でもよかったのにねー♡」

 

 そして、守れたものがこの笑顔だというのだから、僕は後悔しない。

 

「男女別なんだから無理だろうに……ところで君はどうして僕の手を握っているんだ?」

 

「痛かった?」

 

「いや、もう痛みはない。で、どうしてだ」

 

「早く動くようにおまじない。ウチのこと守ってくれた手だし♡」

 

 それにしてはちょっと距離が近くなっている気もするが。

 

 まあ、驚く方がおかしいんだよな。

 彼女は元々こういう人間で、人との距離を詰めるのが速い。僕達はあの夜、互いに命を預け合って、揃って大怪我をして、家族にまで会っている。仲良くならない方がよほど不自然だろう。

 

 

 

 

 

「で、あの転校生はなんでここにいんの?」

 

「その……そろそろ私、喋って良いですかね」

 

 いつでも喋って良いのに。

 さっきからずっといるんだが。

 

 

 

 

 

 どうして彼女はパイプ椅子に座って、膝の上に鞄を抱えたままずっと動かないんだろう。

 何をそんなに遠慮しているんだ。君は僕のクラスメイトで、僕の見舞いに来たんだろう。

 僕達が食事だの手だのをやっている間ずっと黙って。見舞いに来た側が30分近く一言も発さないというのは一体? 何故喋る許可を僕から取る必要が。

 

「その、瀬尾さんのお見舞いに。それで……あー」

 

「九条ノドカ。悪いがミオは移動するのも大変なんだ。席を外すことはできないぞ」

 

「できませーん」

 

「あ、はい、そうですよね。その……こういう書類を預かってまして」

 

 まあ大方、WPPO側からの連絡だろう。

 本来は九条ノドカが口頭で伝えるはずだったが、今この場にはミオがいるし、せっかく車椅子でやって来てくれた彼女に「今からWPPO関連の極秘情報について会話を行うから席を外してくれ」と言う訳にもいかない。

 

 だから、こうして書類だけ準備して持って来てくれた、と。

 片手が使えない僕でも読みやすいA4用紙1枚。枚数が少ないということはめくらなくても全て読めるということ。そういうところの配慮は助かるぞ。

 

 で、何々……? 

 

「? なに書いてあんの?」

 

「WPPOが治療に協力してくれた、という旨だ。僕達は指名手配犯を捕まえた訳だから、治療を融通してくれたと」

 

「あー理解」

 

 項目は……。

 

 1. 怪我の診断と、行われた処置の詳細。

 手術も成功し、リハビリも順調に進めば1週間ほどで退院可能。つまりはこの冬休み期間中に全て治るということだ。手の裂傷って結構大きいイメージがあったが、その気になれば早めに治るらしい。

 一応、これだけ早く完治するのは後述されている内容もあるだろう。

 

 2. 家族に事情を説明し、許可を得た上で、WPPO-HBによる治療を施したこと。

 最悪の場合、数ヶ月を要する回復が……大幅に短縮される見込みであること。

 これは……まあ予想していた通りだな。WPPOは僕からの信頼を得るためにできるだけの措置を執り行ってくれる。自分達ができていなかった「指名手配犯の逮捕」を一般人にさせてしまった謝意とかも含まれているのかもしれない。

 首を突っ込んだのは僕の方なのだから自業自得なのに。

 おそらく九条ノドカが気まずそうにしているのもそれが理由だろう。

 

 3. そして、ミオについても同様の処置が行われていること。

 ……彼女は何も悪くない、完全な被害者だからな。今回の件に巻き込まれたこともあって、WPPOは彼女の治療も迅速に行うことを決定した。一般人を守り切れなかったことが響いてそうだ。

 

「手回しが早いな」

 

「いえ、そんなこと………………あっ、そ、そうですよね!」

 

「? なんで今否定しかけたの? アンタ、WPPOの関係者じゃなくない?」

 

「あ、あはは……」

 

 お、おお。大丈夫か? 

 今普通に喋りそうになってなかったか? 

 

 WPPOは「『大規模』な事件や災害を防ぐために活動している組織」であって、「個人を対象としたいざこざ」までは完全に介入しきれないと前もって主張しているのだ。事実、ミオの両親は「事件に巻き込まれてしまった娘の治療をWPPOが全て肩代わりする」という話に感謝していたと聞いているし。

 WPPOもそこまで気に病むことは無いと思うが。

 

 しかし、WPPO-HBね。

 要予約で、回復のサービスは通常半年待ち。緊急性の高い難病から順に回すのが原則で、そもそも治療系の能力者は数が少ない……にもかかわらず、僕と彼女は、その順番を飛び越えたことになる。

 回復が早い大きな理由はそれという訳だ。

 

「……瀬尾さん」

 

「なんだ」

 

「その、傷のこと……」

 

「この傷は僕が自分でつけたようなものだ。気にしなくていいと何度言えば」

 

「? なんでアンタがマコっちの怪我気にしてんの? ウチの知らない話してない?」

 

「そ、そう、ですよね……」

 

 そして彼女は目の前にミオがいるから、何か言いたくても喋れないと。

 実際、彼女が「瀬尾マコトは未来予知能力者の可能性がある」などと暴露してしまえば、ミオの疑いまでこちらの方向を向いてしまうし、そこから辻セイラまで辿り着かれる可能性がある。

 

 だから、こちらとしても君が話せないのは歓迎だ。

 むしろこれ以降、強く問い詰められて困った時は誰か近くにいる知り合いを呼ぶことで九条ノドカを振り切ることができるかもしれない。

 

 可哀想だから極力しないけど。

 せめていくつかフォローを入れるぐらいは……。

 

「えっと、それじゃあ失礼しますね。私はお邪魔みたいですし……」

 

「そっか。気ぃ付けてね、ばーい」

 

「おおい、ミオ。握ってる方の手で振るな。動かしにくい」

 

 だが……今は無理だな。

 彼女には、後で二人になった時に、改めて詫びておくか。

 

 ……いや、詫びるのも妙だな。

 あの時の判断は間違っていなかったんだから、詫びれば「影中トオルを逮捕するのは間違っていました」と嘘を吐くことと同じになってしまう。

 なら礼を言う方が正しいのか? 

 止めに来てくれたという事実に対しては、感謝が筋な気もするが。止めに来た相手に礼を言って、その上で振り切った側が僕なんだから、それはそれで嫌味に聞こえないか? 

 

 ……まあ、その辺は追々考えよう。

 順番というものがある。今の僕は箸も持てないんだから。

 

 

 

 

 

 *

 

 

 

 

 

「マコト! 怪我したって聞いて……っ、お見舞いに来たよ!」

 

「よー委員長。怪我したって聞いたぜー……って」

 

「え? ……だ、誰だい?」

 

「んぁ? 誰って? ……あっ委員長の知り合いか?」

 

「そうだけど……君は?」

 

 おお、今度はハルキとアサヒが来た。

 確かに今は面会可能時間ではあるが……いつの間にやってきたのか分からないような九条ノドカを除けば、かなり早い時間だぞ。一応、二人には連絡していたが……そこまでして見舞いって急ぐものじゃないだろう。

 

 あれか? 

 もしかして今日は別件でこっちに来てたのか? これはその帰りとかか? 

 

「あっ、アサヒじゃん」

 

「おー桐島ァ。なんでお前もここいんの」

 

「こっちのセリフだし。ね、彼女さんと別れちゃったんでしょ。どしてんの今」

 

「えっなんでそれを。オレまだ委員長にしか言ってないのに……」

 

 あっ……。

 そうだったそうだった。

 

 今の状況、ミオとアサヒが図らずも同じ部屋にいるというシチュエーションじゃないか。

 ここで邪魔するわけにはいかない。

 彼はもうフリーだし、ここでミオがアタックを仕掛ければカップルが成立する可能性もある。握っていた手もバレないようにこっそり外して、僕はお邪魔にならないように空気と化しておくべきだろう。

 

 いやしかし感慨深いな。

 半年近く応援し続けていた彼女がついに、目的を果たす直前までやってきただなんて。

 

 ──「それがさ、イブの夜になんとか仲直りできたんだよ」

 

 ──「えー! よかったじゃん! うりうりー」

 

 ──「いやさ。オレ、イブの日にヒーローの役に立てて自信がついてさ」

 

 ──「あっその話は見てたから知ってる。パス」

 

 ──「見てた……?」

 

 うんうん。彼女もかなり自然体でアサヒと会話することができている。

 それどころか、本当にただの友達みたいな空気感だ。何か吹っ切れたことでもあったのだろうか。

 

 ……いや、違うな。

 これは今までの「練習の成果」だ。

 

 今日にいたるまで何度も何度も。アサヒが気に入りそうなお洒落の内容を二人で研究し続け、定期的な勉強会を繰り返し……時には「二人でいざという時に緊張しない」ために、カップルの練習なんかも沢山やったりした。一緒にプールに行ったこともあったし、恋愛映画を観に行ったこともあるし、直前まではクリスマスデートに誘われていた。経験は十分積めていたんだ。

 それが今ここで効いている。彼女は想い人相手に怯むことなく、素直な感情をぶつけて、純粋に距離を近づけることに成功できている。

 なんということだろう。練習台の僕としてもこの成果は鼻が高い。

 

 対してアサヒの方の反応が少し鈍いのが気になるが……大丈夫だろうか。

 何を言っているかは聞こえな……いやいや、しかし彼はフリーのはずだ。好意を向けられておいてそれに鈍くて気づかないなんて彼女があまりにも可哀想だから止めてやってくれよ。

 

 あっ、さっき僕達が手を握り合っていたのを見られていたのか? 

 マズいな、僕とミオがそういう関係だと誤解されたら彼女の恋路の邪魔になってしまう。人前ではまじないをかけないようにと、ミオに注意しておかないと。

 

「──マコト」

 

「ん? ああ、ハルキ。君も見舞いに来てくれたんだな。ありがとう」

 

「そうだよ。25日以降君とは全く連絡が取れないし、家まで行ったら病院にいる、手術中だとか言われて。僕はこうして面会に来れるようになるまでずっと心配だったんだけど?」

 

 お、おお。

 結構……怒っている。

 

 そ、そうか。そうだよな。

 僕は瀬尾家の二人を基準に考えていたが、君は僕の身に何かあったとなると、「指名手配犯を捕まえた」どうこうよりも「僕が怪我をした」の方が気になるよな。昔から君はそういうヤツだった。

 申し訳ないな、一番の親友にこんな心配をさせてしまうだなんて。「ライバルであるマコトが五体満足でいられないようじゃ、僕も満足できない」「何かあったなら何でも僕に教えてくれ」と昔から言っていたし。きっとここに来たのも、一体何があったのかを徹底的に聞き出すためだろう。

 

 しかし、こちらから事件の情報を話す訳にはいかないんだよな。

 瀬尾家、桐島家は仕方がないとして、必要以上に「能力犯罪者逮捕の切っ掛けになる戦闘を繰り広げた」だなんて。WPPOの信用的にも、その情報を広めることのリスクは無視できない。

 

「それは……いや、すまなかった」

 

「全く。僕は君の親友として、事の顛末を聞きだすつもりで来たのに……」

 

 ……ん? 

 

 あれ? 

 来たのに? それが本命では……。

 

「……あの二人は? 桐島さんは知ってるけど、僕、もう一人は知らないよ?」

 

「……ハルキ?」

 

「なんだか、仲が、良さそうだったじゃないか。さっきも手なんか握ったりして……」

 

「いや、『ミオ』はまじないをかけてくれていただけで。『アサヒ』だって──」

 

「──!?」

 

 え。

 ど、どうしたハルキ。何故そんな目を見開いている。こっちこそびっくりなんだが。

 君がそこまで露骨に驚く様子、今までの人生で見せたことがあったか? 

 なんだか珍しい物が見れた気がするな。

 

「っ、待って。せめてあの爽やかな彼はいいよ。百歩譲って」

 

「あ、ああ」

 

「なんで……あんな不良を? よりにもよって、僕と同じように、下の名前で……」

 

 

 

 

 

「いや、一緒にイブを過ごす程度の仲になったからフルネームは他人行儀かな、と……」

 

「!? か、家族とのパーティーは!? 僕とだって、一緒にはいられないのに……」

 

「それができなかったんだ。今年はミオと二人きりだったな」

 

「………………きゅぅ」

 

 ……!? 

 

 ハ、ハルキ!? 

 おい、何を……ハルキー!! 

 

 

 

 

 

 *

 

 

 

 

 

「瀬尾、アンタに聞きたいことが──」

 

「──あっ、セイラ!」

 

「って、え? ミオ? なんで瀬尾の部屋に……」

 

「……待って? なんでセイラがマコっちの部屋に? ウチの見舞いじゃないよね?」

 

 なんか今日は人がいっぱい来るな……。

 

 面会時間開始直後に九条ノドカがやって来て。WPPOの文書だけ渡した後、ミオがいるから何か話すこともできず、気まずそうなまま出て行って。

 少ししてからハルキとアサヒがやって来て。そして何故か倒れてしまったハルキをアサヒが「邪魔しちゃ悪いからな。あばよ!」と背負って行って。

 

 そして、最後には辻セイラだ。

 

 どうして僕が入院していることを突き止めたのかは謎だが……まあこの女は僕の家に押しかけて来た前科もあるし、やろうと思えばそれぐらいの情報突き止められて当然か。

 この様子だと多分ミオの家にも行って、彼女が入院したことも突き止めているだろうな。ミオの病室に見舞いに行くより先に僕のところへ来たのは……それだけ真実が知りたかったからか? 

 

「その、今ルナも来てて。ミオは今不在にしてるから面会できませんって……」

 

「そりゃウチ、マコっちの部屋にいるもんね。で、セイラはなんでこっちの部屋に?」

 

「あー、いや、その、知ってる人の名前見つけた、から。つい」

 

「……ホントかなぁ」

 

 まあしかし、辻セイラには真実を伝える義務があるな。

 確かに、影中トオル撃破後から彼女とはずっと連絡が取れていなかった。

 彼女視点だと、いつまで経っても僕に頼んだ荷物が届かず、何故か襲撃は発生せず、ループも発動せず……挙句の果てには「影中トオル逮捕」なんてニュースが流れるんだから。協力者が急に連絡してこなくなった以上、一早く僕に事情を聞こうとするのは分からないでもない。

 

 そして説明責任のある当の僕はこうしてベッドの上から動けない。

 この病室では携帯電話の使用が許可されているが、通話は控えるようにとのお達しがある。アプリを使えば連絡自体はできるが、そういう記録が残る連絡手段を彼女は嫌うだろう。

 

 というかそもそも僕の携帯は切り落とされているし。

 連絡のしようがない。

 

「……逆に聞くけど、ミオはなんで瀬尾の部屋に? 何があったの?」

 

「……ヒミツ! あれはウチとマコっちだけの思い出だから……♡」

 

「ま、待って。ホントに何があったの!? ソイツに何かされた?」

 

「なんでそんなに聞きたがるの? やっぱりセイラもマコっちのこと……」

 

「ないないない! ないからそんなの!」

 

 ……いやしかし待てよ。

 

 確かに、彼女にとって影中トオルの安否確認、ミオの入院、僕がイブに過ごしたあの時間……それらの情報は重要だ。

 しかし、今までの彼女は結構「ループ自体が解決すればそれでいい」みたいなスタンスを取っていた覚えがある。勿論、望まない解決方法というものは存在するが、それでも解決さえすればあまり後のことは考えず「疲れた……」等と言っている印象が強い。

 

 今回も、「まだ影中トオルが襲いに来るのでは」という疑念は「彼がWPPOに逮捕された」という情報がある時点で霧散するはずだ。WPPOが逮捕してそれでもなお襲われるのならもうどうしようもないからな。

 なのに、こうして一目散に僕の元へやって来た。まず、消息不明になったミオの病室へ行こうとするのではなく、ミオの所在がどこか聞くわけでもない。一番初めに僕の部屋へとやって来た……。

 

 それが意味するのは……次なるループの開始じゃないか? 

 勿論、確実にそうだとは言い切れないが……。

 

「そーなんだ。ウチとマコっちがハグしててもなんとも思わない?」

 

「思わないよ、こんなヤツ何がいいの……」

 

「……ちょっと意外。セイラって実は……って思ってたから」

 

「ないってば、絶対ない。コイツとそんな仲になるぐらいなら1年間泣きはらす方がマシ」

 

「そこまで言うなら安心だケド……」

 

 ……いや、流石にそんなことないか。

 もし本当にループだったら、「時間が無い」「一早く相談しないと」「ごめんだけど一旦席外して」と、なりふり構わず告げているはずだ。そうしていないということは、時間に余裕があるということ。

 

 第一、今日は12月30日だぞ。

 前回のループは6日前の夜に終わったばかりじゃないか。大切な人の死がそんなハイテンポで起こって堪るか。今までもこんなこと何度か考えた気がするが、もしまた1週間以内に問題が起こるならいくら何でも多すぎる。ただ僕に話を聞きに来ただけだろう。

 

「……ん? セイラ?」

 

 というか、二人はさっきから何の話を……。

 

 ──ぎゅ

 

 ん? 右手が……? 

 

 ミオ? また手を握って来たのか? 

 そうだ、さっき「人前ではあまりしない方がいいぞ」と。そう注意しようと決めたんだ。

 なあミオ、今は辻セイラもいるんだぞ。

 まじないもいいが、こういう恋人みたいな距離感は流石に近すぎると理解すべきで……。

 

 ──ぎゅっ……! 

 

 え? 柔らか……。

 へ、抱き着かれ……いや、これは流石にやりすぎ──

 

 

 

 

 

「──セ、セイラ? 何……やってんの?」

 

 ……は? 

 

 

 

 

 

「……瀬尾」

 

「は、おい。何を……は!? 何やってる君!? 何で抱き着いてるんだ!?」

 

「ままま待ってセイラ!? さっき、『絶対ない』って、なんっ、何を……!」

 

 

 

 

 

「……瀬尾、たすっ、助け、て……」

 

 えっ泣いてる。

 

 

 

 

 

 ……泣いてる!!? 

 あの辻セイラが!!? 

 

 ま……まさか今か!? 

 丁度今、このタイミングで──死に戻りから『戻って来た』のか!?




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