これからも新章第1話はこういうことがあるかもしれません。
ゆるして……(´;ω;`)
[17:07] 知りたくなかった!
──「何でこの定食ハンバーグって書いてあるのに中身がメンチカツなの!?」
──「ミオちゃん、メンチカツも美味しいよ~」
──「そういう問題じゃないのよルナ! 表示に偽りアリよ偽り!」
──「ミオ落ち着いて。私のと交換する?」
──「えっいいの? さんきゅーセイラ~!」
……今日も来ないな。
もうあの日から二ヶ月以上経つぞ。
辻セイラの母親を救った日。虚偽通報の共犯になった日。録音で脅された日。
あれから──何も起きていないだなんて。
辻セイラとはあれ以降、ほとんど接触がない。それこそ、多少いがみ合うことはあるが、それ以上には決して発展しない。廊下ですれ違っても目すら合わせない。教室で同じ空間にいても、他人のままだ。
あのとき、「これからも協力しろ」と言ってきたのに、何も起きない。ループが発生していないのか。それとも、一人で対処できる範囲だったのか。そう家族が死ぬような事故が頻発することもないだろうし前者だと願いたいが。
とにかく、あの録音。あれをどうにかすべきだ。
共犯の証拠を辻セイラに握られている。あれさえ排除できれば僕は一切の懸念なく自首ができるというのに。
下手に動けば辻セイラを刺激する。かといってこのまま放置するのも気持ちが悪い。あの女はあれを人質に僕を脅していると思い込んでいる訳だから、消してくれなんて頼んだところで素直に応じるとは思えない。
一体どうすべきなのか……。
「で、マコト。午後の小テストの意気込みは?」
「……」
「マコト? 僕の話聞いてる?」
「ん……ああ、ハルキ。当然Aだったぞ」
「絶対聞いてなかったよね」
しまった。
流石に親友──宮野ハルキとの食事中にまでここまで考え込んでしまうとは。
僕は少し考えすぎなのかもしれない。日常生活にまで影響が出てしまっている。
「はぁ。最近辻さんのことよく見てるよね。僕との昼食は暇?」
「そんな訳じゃないが」
「悲しいよ僕は。親友より不良を優先だなんて」
ぐ……。
確かに、彼の話を無視してしまっていたという事実は否定できない。
君のことは小学校の頃から知っているが、小さい頃から君の学びに対する意欲の高さが人一倍強いことは十分承知だ。純粋に学問を愛しているから、彼は学問に対して一切の妥協がない。
方向は違うが融通が利かないという点では似た者同士だ。だから長年付き合えているのかもしれないが。その彼に対し今の対応はあまりにも失礼だ。
でも彼が僕に成績で勝ったことないんだよな……。
「僕は類題作ってまで対策してきてるんだ。今度こそ君に勝つからね」
「うん……そうだな」
君にとって次の授業の小テストが非常に大事なのは分かる。よく分かる。
でも僕には無視できない事情ができてしまったんだ。許してくれ友よ。
辻セイラは今日も友人の桐島ミオ、三好ルナと楽しく歓談に勤しんでいる。
気が強くて、声の大きい。長い髪とアクセサリーがやたら目立つ桐島ミオ。
その隣でニコニコしているショートカットでふわふわした性格の三好ルナ。
そして学内における不良の代表格として僕に目の敵にされていた辻セイラ。
前までは校則違反だらけのあの三人組に対して怒りしか湧かなかったはずだ。
なのに今は、辻セイラが今も自分が突然死亡する恐怖と、友人にも秘密を作らなければいけない罪悪感に苛まれているのかと考えてしまう。
あの事実を知ってしまったからこそのもどかしさと、あれ以降一切音沙汰が無いという事実が不気味で、さっきから思考がまとまらないんだ。
──「え、セイラどこ行くの? ごはん残ってんじゃん」
──「別に大丈夫、気にしないで」
──「セイちゃん、行ってらっしゃい~」
──「いや何で送り出してんの」
いや、いっそのこと僕もそこまで深く考えない方が良いのか……?
僕が罪を犯した事実を忘れるって訳じゃないが、続報がない以上、今の僕がうじうじ悩んだところで問題は一切進展しないんだ。
このまま悩み続けて次の時間に影響が出るのもよろしくない。今考えてもどうしようもないことで悩み続けて、それで点数を落とすなんて……ハルキじゃなくても悔しい。きっと後悔する。それはよくない。
僕は実際に辻セイラが死ぬ瞬間を見た訳でもないんだし、少なくとも今この瞬間だけは夢みたいなものだったと思うことにしよう。そう思った方が僕の精神的にもいい。
そうだそうしよう。あれは春の陽気に誘われてつい見てしまった儚い夢の跡だったんだ。
なんだ授業中に寝てるのか僕は。恥を知れ、それは校則第5条の──
「……マコト」
「ん?」
「辻さんが──こっち来てるんだけど」
「……何?」
まさか……。
おい、今ちょうどそのことを考えてたんだぞ、タイミングが完璧すぎないか。二十分もすれば小テストなんだし今は余計な懸念事項を増やしたくないんだ。
緊急事態なら協力する。するが……せめて「次のテストについて教えて」みたいな、碌に勉強していない不良みたいな相談をしてくれると助かるぞ、どうだ?
「分かってるでしょ、来て」
えぇ……。
君は空気ぐらい読めないのか……いや君は悪くないんだったな。
君の能力は空気ぐらい読めないのか。
*
……で、結局、昼休みも残り僅かなのに人気のいない場所まで連れて来る、と。
今は使われていない教室、内緒話にはうってつけだ。こんな場所を知っているあたりサボりの常習犯だな、今それを指摘する気にはなれないが。
「で、用件は」
「また始まった。助けてほしい」
だよなぁ……。
まぁ助けるけど。
あの日から二ヶ月以上、まるで最初からなかったみたいだった。
ついさっき、夢だったことにしようと自分に言い聞かせたばかりだったのに。
あの録音が存在する限り、僕と辻セイラの間にある糸は切れていない。見えないだけで繋がっていた。それが今、引っ張られたんだ。
信じられないような日々がまた始まる、信じないといけなくなってしまうということ。
「いつからだ」
「へぇ。素直に協力してくれるんだ」
「当たり前だろ。で、期間は」
「今日、水曜の朝。終わるのは金曜の夜で──今は7周目」
……7周目か。
となると……ループが始まってすぐ助けを求めた訳じゃなく、ある程度自分で試行してみた、ということか。
しかし、水曜の朝から金曜の夜まで……ほぼ3日間だと?
前回は15分だったよな。今回は3日間、時間の桁が全く違うじゃないか。
前と違って、一周あたりの猶予は比較にならないほど長い。だが、それでも7周やってまだ解決していない。
長いから簡単ということにはならないんだな。むしろ猶予が長いということは、それだけ問題が複雑で、すぐには手が打てないということの裏返しになってしまう。
これまた難しそうな問題だ。
次はどういう事故が起こって、誰がどういう悲惨な最期を迎えてしまうのか。なんとかして阻止してやりたいが、僕のような高校生一人の手で補いきれるのか不安だぞ。
「それで、対象の目途は着いているのか」
「多分カリン、私の中学生の妹」
「多分? 確定じゃないのか」
「うん。原因は多分病気なんだけど」
「……待て、妹さんは今重い病気にかかっているというのか?」
「いや、至って健康体」
「……?」
どういうことだ……?
待て、よく分からない。
その言い方だと、「おそらく病気が原因で妹が死ぬ」という意味だよな?
ただ、病死するとなればそう突然とはいかないだろう。突発性の発作でもない限り、肉体が徐々に衰弱していって死亡する……というのが一般的な流れではないのか。
持病の疾患があるのかもしれないが、それなら至って健康体とは答えないはず……。
「多分というのは、まだ周回が不十分だから、全員分把握できていないということか?」
「まぁそう。3日間、誰の身に何も起こらないし。誰が標的か確証が持てなくて」
「……?」
「ただ、数日前からカリンに体調不良の兆しがあったから、それが原因の可能性が高い」
「???」
ま、ますます分からない。
僕の理解が大幅に間違っている可能性があるぞ。
3日間、誰も死なない。なのに辻セイラは死ぬ。
前回は母親の交通事故だった。あれは因果が明確で、「母親が死ぬからその瞬間に辻セイラも死ぬ」という構図が見えていた。
しかし、今回は違う。話によれば、3日間のうちに誰かが目の前で死ぬわけじゃない。
今の話からすると、おそらく標的だろうと推測される彼女の妹、辻カリンだって健康に生きているみたいだ。少し前から体調不良っぽかった……が、別に3日間の範囲内で死んではいない。
それなのに金曜の夜に辻セイラの能力が発動する?
誰も命の危機に陥っていないのに辻セイラだけが死亡する?
それは矛盾していないか。
君の能力は何に起因して発動している。標的もいないのに君だけ死に戻るなんて、そんなことあるのか。
「……分からない?」
「ああ、いや……待てよ」
今一瞬、嫌な想像をしてしまった。
確か、辻セイラは「辻セイラの『大切な人』が死亡した」あるいは「長期的な死の要因が確定した瞬間」に能力が発動すると言っていた。
……となると、もしかして。
もしかすると……まさかだとは思うが。
「その能力は──『今すぐ死ぬ』じゃなくて、『将来的にそれが原因で死ぬ』場合でも発動する……のか?」
「ご名答。流石委員長」
……ちょっと発動条件が軽すぎないか!?
「ま、待ってくれ。じゃあ、辻カリンが金曜の夜、何かしらの病気に感染すると……」
「そう。感染したそのタイミングで能力が発動する」
つまり、能力の発動が確定するのは、辻カリンが「病気によって死亡する瞬間」ではなく、辻カリンが「将来死亡する病気に感染した瞬間」だということ……。
前回の母親で言えば、彼女が死亡するのは藤見台で起こる事故の瞬間。母親が死ぬと同時に辻セイラも死亡する。
しかし今回。辻カリンの体調不良、その裏に進行している何かがある。そしてそれがある時点で「手遅れ」になる。医学的に言えば、ある疾患が治療可能な段階から不可逆な段階へ移行する──そのポイントが金曜の夜にあるということか。
……なんてことだ。
この能力の発動条件は思っていた以上に簡単すぎる。
おそらく病状は出ていない。本人も自覚していない。家族も気づいていない。
なのに辻セイラの能力だけが「この子は死ぬ」と告げている。辻セイラだけが自分の頭が潰れるという最悪の形で、教えられている。
これが「大切な人を救うために死に戻る能力」の正体か。ここまでするのか。
救えるチャンスは与える。だがそのチャンスを掴み損ねるたびに君は死ぬ。何度でも、解決するまで永遠に。能力なんて御大層な名前がついているが、やっぱり実態は呪いでしかない。
じゃあ、今回は、なんとかしてその病気を特定し、感染する前の段階で封じる必要があると言うことなのか。
……難易度が高くないか?
「……体調不良というのは具体的にどういう症状だ」
「ループ前からたまに倦怠感、微熱、あと腹痛。本人は疲れって言ってるし、ママとパパもそこまで深刻に思ってない」
倦怠感。微熱。腹痛。どれも日常的に起こり得る症状だ。
中学生なんて成長期の真っ只中だし、部活で疲れた、テスト前で寝不足、季節の変わり目で体調を崩した──いくらでも説明がつく。
家族が深刻に捉えないのも無理はないだろう。「また疲れたの? 早く寝なさい」で済ませてしまう程度の話。
実際、僕だって能力の件を知らなければ同じ反応をする。
だが、その裏に将来的な死因が潜んでいる。辻セイラの能力がそう判定している。
目に見える症状は軽微でも、身体の中では何かが確実に進行しているんだ。
「病院は。医者には診せたのか」
「そこが問題。連れて行きたいけど、期間が水曜から金曜だから学校があるし、今元気なのに『病院行こう』って言っても『土日にしよう』って」
そうか。ここが詰んでいる、協力者が必要なポイントか。
整理しよう。辻セイラが辻カリンを病院に連れて行くために、超えなければならないハードルは何だ。
1. 辻カリン本人の同意。
今現在、おそらく辻カリンには自覚症状がない──あるいはあっても軽微で、本人は「疲れ」として処理している。
中学生の女の子に「病院行こう」と言って、「なんで? 元気だけど?」と返されたらそこで終わりだ。姉に言われただけでは動機にならない。体調が悪い自覚がないのに病院に行く中学生なんていない。
2. 親の許可。
仮に辻カリンが「まぁ行ってもいいけど」と言ったとしても、平日に学校を休ませて病院に連れて行くには親の判断が必要だ。しかし、実際に今の体調不良が死に繋がるから……そう考えられるのは一度死を経験した辻セイラだけだ。現状では、子供の軽い体調不良に過敏に反応する姉──そう映ってしまいかねない。
仮に全ての障害を乗り越えて辻カリンを連れ出したとしても、保護者の同意なく未成年を受診させることには限界がある。あまり強引にやると「姉が精神的に不安定だ」と疑われかねない。実際に六回死んで精神がすり減っているだろうが、それを理由に意見を無視されたら本末転倒だ。
医者に診せれば病名を特定できるかもしれないが、親に能力のことは言えない。
3. 時間的制約。
水曜から金曜。三日間。しかも平日のみ。辻カリンは中学生で学校がある。病院だって平日の昼間は予約が必要な場合もあるし、大きな病院なら紹介状がいる。
しかも症状は「たまに倦怠感と微熱と腹痛」。緊急性が伝わらない。
つまり──構造的に詰んでいる。
辻セイラ一人では、辻カリンを病院に連れて行くための全てのハードルを越えられない。本人を説得する根拠がない。親を動かす権限がない。時間もない。立場もない。
7周やっても解決しない理由がよく分かった。問題は病気そのものじゃない。「能力のことを明かさず、医者に診せること」ができないことだ。
辻セイラだけが焦っていて、周囲の全員が「大したことない」と思っている。その温度差を、死に戻りでは埋められない。
何回繰り返しても、辻セイラの言葉には「姉の過保護」というラベルが貼られる。何回説得しても、根拠を示せない以上、同じ壁にぶつかる。
「それで、アンタに頼みたいことがある」
だから、僕に頼ることにした。
正直皆目見当もつかないが、この女には「僕を利用する」ことで、平日でも辻カリンを病院に連れて行く算段が付いている。あるいは、可能性が見えている。
一体何をさせるつもりなんだ。できるだけ規則に違反しない内容であることを願うしかないが……。
「今日から金曜まで、うちに泊まってほしい」
「は? 嫌だが?」
何を言っているんだこの女は。
なんで君とお泊りしなきゃいけない。
しかも今日からか、いきなりすぎるぞ。
こっちの都合とか、荷造りとか考えたことあるのか。
「は? 断れるとでも?」
「おおっとそんな目で睨むんじゃない」
生理的嫌悪感で思わず反射しただけだ。
君との約束自体は生きているし、僕は筋さえ通っていれば絶対協力する。だからさっさと僕を納得させられる理由を説明してくれ。
「……今日の小テストで私はわざと低い点を取るから。その反省の『勉強会』って名目でうちに来てほしい」
えぇ……。
学校のテストを何だと思っている、ハルキを見習えハルキを。
「親には信頼できる友達だって伝えるから、多分歓迎されるはず」
「そんな適当な……それで僕に何をやらせたいんだ」
「カリンの様子を見てほしい。客観的に見て『これは病院行くべきだ』って言える第三者がいれば、医者に診せられるかも」
……なるほど。
女子高生が男子高生に提案するにしてはだいぶ飛躍した意見のような気もするが……今回期待されている僕の役割は「外部からの客観的な意見」を提供することか。
家族の中で完結してしまっている問題に、第三者の視点を差し込む。
姉が「病院に行った方がいい」と言っても「過保護」で片付けられるが、外の人間が同じことを言えば意味が変わる。少なくとも「過保護な姉の戯言」よりは遥かに説得力が出る。
だから、僕に、三日間泊まりに来いと。
あくまで「友人」という設定で、妹を医者に診せるための証人になれと。
うーん……。
「委員長としてはそんな提案、やっぱり飲み込めない?」
「いや、外泊に関する校則や法律はない。泊まること自体には一切抵抗はない」
「へぇ……じゃあなんでそんなイヤそうなの」
「金曜の放課後は友人とカラオケに行く予定があるんだ」
そう、せっかくテストを乗り越えた記念……というほど大袈裟でもないが。少し前から数人と約束をしていて楽しみにしていたんだ。
ハルキは勉強魔だから誘っても来なかったが、僕は規則の範囲なら柔軟かつ自由に楽しんでいいと思っている。時には遊ぶことも大切だ。
17時から20時までの予定だし、青少年健全育成条例にも違反していない。
しかし。
水曜から金曜の間、この女の家に泊まるとあっては、その予定はパーになってしまう。
先約ではあるし、複数人の都合もあるから土日にずらすことはできない。
勿論、人命以上に優先されるものではないが……。
「そ。どうでもいいし、キャンセルして」
「一秒の躊躇もないな君は」
おかげでこれからの僕は予定を入れることができなくなりそうだ。
恨むぞ。
仕方ない、友人には体調不良が原因とでも伝えよう。
嘘は嫌いだが、本当のことを言えるはずもない。「クラスメイトの死に戻り能力者の妹を救うために君達との約束をキャンセルする」。正直に言ったら頭がおかしいと思われて終わりだ。
実際、「誰の」体調不良が原因かは明言していないし、後で埋め合わせをすることを前提に今回だけは目を瞑って貰うしかない。
ああ、これだから辻セイラに関わると碌なことにならないんだ。
僕だって人命のためには最善を尽くしたいが、本当にあるか定かじゃない事象のために、共犯にされ、予定を潰され、嫌いな相手とお泊り会に勤しむことになる……。
……お泊り会か。
保護者がいる、相手が嫌い。とはいえ、同年代の女性のいる家に。なんだか変な感じだ。
「あとこれ。一応、今回のループの証明になると思って」
「ん……何だこの紙は。別にそんなもの見せなくても協力すると──」
「五限の小テストの問題と答え。これで証明になるはず」
「そんなもの見せるな!!」
学校のテストを何だと思っている! ハルキを見習えハルキを!
あっちょっと見えちゃったじゃないか!
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