『大切な人を救うために死に戻る能力』   作:破れ綴じ

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[17:07] また犯罪してる……

「(……本当にやることになるとは)」

 

「(無駄口言ってないでちゃんと周り見張ってて。もし捕まったら一周潰れるんだから)」

 

 ……ぐ。

 いやしかし、人命には代えられない。

 

 建造物侵入罪。刑法第百三十条。三年以下の懲役又は十万円以下の罰金。消防法違反の共犯に続いて、僕の犯罪歴がまた一つ増えた。

 しかし、辻セイラの母を助けるために罪を犯しておいて、辻カリンにはしてやらないなど筋が通らない。おかげで高校二年生にして二件目だ。このペースでいくと卒業までに何件積み上がるんだ。考えたくもない。

 実際の観察を辻セイラが、警備員の見張り役を僕が担うことになったから、覗きの余罪は増えないことだけが救いか。それでも幇助ではあるんだが。

 

「(ん……近づいてきた。そっち寄るぞ)」

 

「(おっけー……ちょっ近すぎ)」

 

 うるさいな。狭いんだから仕方ないだろ。

 

 この中学校が辻セイラの母校だけあって、死角の場所を完璧に把握しているのは助かる。中学生の頃からこういった場所を把握していたということは、中学時代に活用した経験があるという証明でもあるのだが。

 体育倉庫の裏、校舎とフェンスの間の狭い通路。湿気てるし、塩素の匂いが漂ってくるが……ここからならプールが見える。人通りもほとんどないし、確かにここなら見つからないだろう。

 

 不幸中の幸いは、午後からの活動に限定すべきだという僕の提案を認めてくれたことか。

 流石に学費を払ってもらっている以上、親にも知らせず学校を無断欠席する訳にはいかない。部活の時間は放課後なのだから高校が終わってからでも遅くはないと、一日丸ごとアリバイを作って欠席するほどでもないと……その提案のおかげで辻セイラは今日一日中不機嫌だったが。

 

 ……結局僕も犯罪をするために色々努力してるんじゃないか。

 どうしてこんなことに。自首したい。

 

「(……一つ聞いていいか。こんなことする必要はあったのか)」

 

「(は…………いや、どういうこと?)」

 

「(他にやりようはなかったのかという話だ。家族に『未来視の能力』だと言って誤魔化したりはできなかったのか)」

 

「(……)」

 

 だってそうじゃないか。自分は死に戻りではなく予知能力者で、『妹が病気になる』と予知できたと言えばいいんじゃないか。

 そうすれば犯罪を犯さなくても済んだだろう。家族になら説明も通りやすい。少なくとも建造物侵入よりはマシだ。 

 

「(無理。今回の件は『将来的に病死する可能性がある』であって、今日明日死ぬ話じゃない)」

 

「(……)」

 

「(仮に『未来が見えた、カリンが病気で死ぬ』って言ったところで、カリンは今元気にしてる。親に『いつ死ぬの?』って聞かれても、私にはそれが分からない。『とにかく今すぐ病院に行って』って言っても、『今元気なのに? 土日じゃダメ?』で終わる。平日に学校休ませてまで行く理由が『見えた』だけじゃ弱すぎる)」

 

「(……確かに)」

 

「(それに、もしそれで『このループが解決』しちゃったら今後ずっとそれを演じなきゃいけなくなる。何度か試そうとしたこともあるけど、正直、かなり大変な目にあった)」

 

「(大変な目?)」

 

「(WPPOの……いや、気にしなくていい)」

 

 ……なるほどな。

 今回はおそらく急性の危機ではなく、じわじわと進行する何かだ。未来視を名乗ったところで、病気になる時期も分からない以上、猶予が三日しかないのに緊急性の説明ができない。

 金曜以降まで待てば何かしら動きがあるかもしれないが、その時にはもう手遅れだから辻セイラが死んでいる。

 

 しかも、その状態でこのループから脱出できてしまえば、以後のループ全てに影響する。

 病院にさえ行けばそれで解決する可能性だってあるんだ。もしそうなれば家族に能力があると打ち明けた事実は消せない。

 今回のループでは上手くいっても、次のループでまた別の危機が起きた時に「未来視」と矛盾する行動を取ればバレる。「特定の状況下で発動する」と言えばいいかもしれないが、周囲からしても「君は近いうちに手遅れになって死ぬ」と聞かされてはパニックになるだろうし、関係性にも亀裂が入りかねない。しかもそれを毎ループ繰り返す訳だ、精神的負担を考慮するとリスクが大きすぎる。

 今の一回で楽をしたツケを、以降全てで払い続けるのは非効率。そういうことか。実際に死に戻りを経験しているこの女にしか分からない事実というか。

 

「(あんたを使えば同じことがノーリスクでできる。わざわざリスクのある手を先に使う理由がない)」

 

「(言ってくれるな)」

 

「(いいから、分かったら離れてくれない? 流石に近すぎ)」

 

 おっとすまない。

 

 結局、何処まで行っても僕は「安全で便利な手段」か。

 分かっていた。分かっていたが、改めてこうも率直に言われると複雑なものがあるな。

 

 ……最後に若干不穏な言葉も聞こえた気がするが。

 気にしなくていいというのだから、多分、今は気にするべきではないか。

 

「(……それで。辻カリンの様子は?)」

 

「(確かにおかしいかもしれない。泳ぐ前はあんなに元気そうだったのに)」

 

 その口ぶりからすると……丁度今、例の症状が出ているのか? 

 見張り担当が僕である以上、こっちは辻カリンの様子が分からないんだが。女子中学生の体育授業を覗くわけにもいかないし。

 ただ、昨日あれだけ妹相手にじゃれついていた辻セイラが言う訳だから、普段と様子がおかしいことは確定なのか。これはいよいよプールへの疑念が深まって来たぞ。他生徒には何もないんだろうか。

 

 ──「カリン大丈夫?」

 

 ──「また? 先週の今日もそうじゃなかった?」

 

 ──「保健室行く?」

 

 ──「大丈夫大丈夫、ちょっとだるいだけ。すぐ治るし」

 

 ──「う~ん、でも休んだ方が良いよ。溺れちゃったらマズイし」

 

「(……聞こえた?)」

 

「(ああ。会話からすると症状が出ているのは辻カリンだけか)」

 

 微かに話し声が聞こえてきたが……確かに体調が悪そうだ。

 だが本人が軽視している。「ちょっとだるいだけ」。周囲の友人も心配はしているが、深刻には受け止めていない。「先週の今日も」ということは、頻度は一週間に一度程度なのか。ますます謎だ。

 

 これが辻セイラの言っていた症状か。運動後の倦怠感。

 出る日と出ない日がある。だから誰も病気だとは思わない。

 だが、確かに症状について確認はできた。

 辻家の両親には虚偽ではなく、一応善意で診察の提案をすることはできる。

 

「(ちょっとカリンの様子見てて)」

 

「(えっ)」

 

「(今話しかけた友達と発言内容を全員メモする……カリンのこと変な目で見ないでね)」

 

 見ないって。流石に中学生をそんな目では見ない。

 というか……今話しかけた友達と発言内容を全員メモする? 

 

 まさか、妹の友達というだけで、全員のことを把握しているのか。

 流石というべきか、怖いというべきか。

 

「(カリンの友達の連絡先は全員把握済み。後で全員に『今日カリンの他の友達から聞いたんだけど、体調悪そうって本当?』って連絡する)」

 

「(うわ)」

 

「(複数人から『そうなんだよ、最近多い』『心配してた』って返事が来る状態を作る。友達の間で心配の声が広がってる空気を先に作っておく)」

 

「(……それを親の耳に入れると)」

 

「(で、今夜、私から親に『カリンの友達が心配してるみたいだけど』って切り出す。アンタも同調して)」

 

 ……えげつない。外堀の埋め方が完璧すぎるぞ。

 友人たちの心配を利用するのではなく、既にある心配を可視化して増幅させている。嘘は一つもついていない。友人たちは実際に心配しているんだ。その声を束ねて親に届けるだけ。そして自分は、あたかもそこで初めて意見するかのように提案するつもりだと。

 辻カリン自体にも「友達から聞いた」と言えば、流石に受け入れざるを得ないかもしれない。

 

 そして、作戦通りなら、僕は今夜、家族の場で第三者として『僕も診察した方が良いと思う』と援護射撃する訳だ。

 伝聞とはいえ話を聞いただけで家族でもない人間が心配している。しかもそれが「しっかりした学級委員長」だ。昨日の自己紹介が効いてくるわけか。第三者の客観的な意見として重みがある。

 

 手口としては限りなくグレーだが、犯罪ではない。

 ……僕が言える立場でもないが。

 

「(皆に瀬尾を紹介してよかった。正直複雑だけど、アンタ信用されてるし。今後も家族を誘導するのに利用できそう)」

 

「(君な……)」

 

「(こっち見んな。カリン見ててって言ったでしょ)」

 

 ……結局僕も覗きをすることになるのか。

 部活はまだやってるな。うわぁ、嫌だぁ……見たくない……。

 

 カリンは……さっきより少し元気そうだ。友人と喋っているし、やはりそこまで重いようには見えない。

 本当に、普通の中学生だよな。こんな子が──

 

 

 

 

 

 ──「んー?」

 

 っ!? 

 

 

 

 

 

 ……し、しまった。

 今、こっちを向いたか? 

 

 プールサイドにいるカリンが──こっちの方向を見た。気がする。

 いや、気のせいか。距離があるし、体育倉庫の裏からプールまではそれなりに離れている。視線が合ったかどうかなんて確信が持てる距離じゃない。

 気のせいかもしれない。たまたまこの方向を見ただけかもしれない。

 

 ……これが覗きの気持ちか。

 相手にバレるかどうかを気にしながら、こんな生産性のない行為をするだなんて……しかもそこに不法侵入まで重なってくる。罪悪感が凄い。もう本当に閉じられるものなら目を閉じていたい。

 

 やはりルールというものはあるべくしてあるものだ。

 犯罪者になってまで再確認したくなかったが。

 

 

 

 

 

 *

 

 

 

 

 

 ……満腹だ。ご馳走様でした。

 

 今日も辻家の夕食は温かかった。食事だけじゃない、食卓の空間自体が平和と安心感に満ちている。母さんとは味付けが違うが、丁寧に作られていることは分かる食事。

 流石に僕の好みという点では母さんの手料理を超えないが、「おかわりは?」「もういらなーい」「食べ盛りなのに」と笑い合うような余裕ある雰囲気が素敵だ。

 食事が終われば家族の団欒。家族が揃ってテレビをつけて、リモコンを握る辻カリンを中心に穏やかな時間が流れていく……辻セイラの排他的な性格が嘘のように、赤の他人の僕にも居心地の悪さを感じさせない。

 

 その素敵な雰囲気に今から大きく切り込む必要がある訳だが。

 しかも前科二犯の僕と辻セイラが。

 

「瀬尾くんは何か不自由していないかい? 客間は長いこと使っていなかったから、埃っぽくないかな」

 

「いえ、とても快適に使わせていただいています。ありがとうございます」

 

 実際に、客間は……確かに少し埃っぽかった。

 しかし社交辞令は欠かさない。嘘は嫌いだが、無礼であればいいという訳ではない。

 

 それにしても……いつになったら切り出すんだ。合図はまだなのか。普通にしているのだって気を使うんだからな。

 この穏やかな空気に爆弾を落とすタイミングを計っているんだろうが、待たされる側の身にもなってほしい。心臓に悪い。そんなこと言っても君の判断には1mmも影響しないだろうが。

 

 

 

 

 

「ねぇ、今日カリンの友達から相談されたんだけど」

 

 ……! 

 来た……! 

 

 

 

 

 

「なに? 私の?」

 

「そうそう、それも一人じゃないんだけどさ」

 

 ……始まった。

 第1フェーズ、『お姉ちゃん心配なの』。

 

 やるじゃないか、声のトーンが凄く自然だぞ。

 事前に仕込んでいたとは微塵も感じさせない語調で、あたかも「今から証拠の通話画面を見せますよ」とでも言わんばかりに準備していたスマホの画面を操作している。

 この女の演技力は末恐ろしいな。これまでのループで習得したんだろうか。

 

 ……じゃあ家族の前での僕に対する態度ももう少しなんとかできたよな? 

 その演技力があって初日はどうしてあそこまで危うかったんだ。私情をそのまま結果に反映させるんじゃない。

 

「カリンが最近部活の時に調子悪そうにしてるって。何人かから言われたんだよね」

 

「そうなの、カリン?」

 

「え、別に大丈夫だよ? ちょっとだるいだけだってばー」

 

 ……今日、あの体育倉庫の裏から聞こえたのと同じ台詞だ。「大丈夫」「ちょっとだるいだけ」。

 本人が軽視しているから周囲も深刻に取らない。親もおかげで大きな問題だと思わない。この構造が問題なんだ。カリン自身に悪意はない。本当にちょっとだるいだけだと思っている。

 だから嘘もついていない。嘘をついていないのに、事態は深刻だ。それを知っているのはこの場で辻セイラと僕だけ。

 

 大丈夫、ここまでは想定通り。

 むしろすべてあの女の予想した通りに動いている。

 

 第2フェーズ、『友達もそう言ってる』。

 

「でも何人も言ってるんだよ。ほら、ユキちゃんもアオイちゃんも心配してた」

 

「あら、本当」

 

「カリン、熱は……ないな。だけど、本当になんともないのかい?」

 

「えーっ、大げさだなー」

 

 具体的な名前を出してきた。通話画面付きで。

 それを言われれば、カリンが否定しにくくなるはず。

 

 両親は無視できない問題なのではと考えを傾け始めるし、自分の友人が心配してくれているのに「大丈夫」で押し通すのは難しい。人の好意を無碍にできる年齢じゃない。

 自分が軽視している体調不良を、友人たちは真剣に心配している。その事実を突きつけられた時、「大丈夫」は少し揺らぐ。辻セイラはそこを狙っている。

 

 ……そしてここだ。

 辻セイラがこっちを向いて二回瞬き。一瞬だけだが、あらかじめ決めておいた合図。

 

 第3フェーズ、『素人意見で恐縮ですが……』。

 

「あの、差し出がましいかもしれませんが」

 

「ん、瀬尾くん?」

 

「僕もさっき彼女から話を聞いていて。プールの運動時に倦怠感や微熱が繰り返すようでしたら、一度診ていただいた方が良いかもしれません」

 

「瀬尾くんも……そう思うの?」

 

「咽頭結膜熱や流行性角結膜炎、レジオネラ肺炎やクリプトスポリジウム症も考えられます。早めの診察が得策かと」

 

 嘘は言っていない。昨日の作戦会議でカリンと話した内容に基づいている。

 丁寧な自己紹介からのしっかりした学級委員長で、病名だってわざとプールに関係する、難しそうなものを選んだつもりだ。本人の病状とはほとんど違うものも存在するが……小難しい病名をいくつも挙げられると、詳しい人間からの指摘のように見せかけられるし、不安だって煽れる。

 

 姉の報告、友人の心配、そして第三者の意見。

 三方向から「診てもらった方がいい」という結論に持っていく。

 そして、金曜日の受診を成功させる……これが辻セイラの作戦。

 果たして上手くいくかどうかだが……。

 

「ねぇ、あなた。本人元気そうだし……どうなのかしら」

 

「そうだね。土曜日に小児科へ行こうか」

 

「私は……明日言った方が良いと思うんだけど」

 

「明日……か。でも学校があるし……」

 

 ……マズイ。

 あと一押しが足りないか。

 

 出せる手札は今のところ出し尽くした。診察すべきだという意見には持って行けたが、緊急の必要性をまだ示しきれていない。ここから先はなんとかして「金曜日に診察を受けるべきだ」と説得するフェーズ4に入ってしまう。勝機が無いわけじゃないが、確実性はない。

 もし説得に失敗して週末まで先延ばしにされたら、手遅れだ。8周目を迎えてしまう。

 

 さっきから辻カリンがずっと黙っているのも不気味だ。

 彼女が元気そうなのが一番のネック、ここで「大袈裟、週末にしよう、明日は大丈夫」なんて言われてしまったら、本人じゃない僕と辻セイラではそれを覆すだけの意見を準備できない。

 彼女が次に何を言うかで、全てが決まってしまう可能性も──

 

「──あーでも、確かに具合悪いかも。明日学校行けるかな……」

 

 ……可能性も。

 

 ……。

 

 ……ん? 

 

 んん!? 

 

「カリン……具合悪いの? 明日休む?」

 

「まーね、その、心配かけたくないなーって思ってたけど」

 

 な、なんだと。

 唐突に辻カリンからの援護射撃が飛んできた……。

 え? これも辻セイラの作戦のうちか? なんとかして事前に妹を丸め込んでいたのか? 

 ……いや、本人もちょっとびっくりしてるぞ。辻セイラにとっても予想外だったのか。

 

 だが──これはとてつもない幸運だ。本人が認めれば決定打になる。

 

 周囲に心配されていることを知って、隠すべきではないと判断したのか。あるいは、最初から大したことないと思っていたから素直に言えたのか。

 どちらにせよ、彼女の素直さに救われた。この一言がなければ、辻セイラの工作も僕の援護も空振りに終わっていた。計画は完璧でも、最後のピースは本人の意思だ。それだけはコントロールできない。

 

「……そうか。じゃあ念のため、明日病院行こう」

 

「うん。そうだね。そうした方が良い。私も心配だったから」

 

「教えてくれてありがとう、セイラ。カリンも、今日は早く寝た方が良いよ」

 

「はーい」

 

 良かった……上手くいった! 

 

 辻セイラの表情も僅かに緩んだ気がする。ほんの一瞬だけだが。

 これでこの女にとっては「前進」だ。今周になってやっとノーリスクのまま妹を病院に連れて行ける。病名が分かるかもしれない。治療に繋がるかもしれない。

 正直、僕もほっとしているぞ。この作戦が上手くいかなかったらどうしようかって、昼間からずっと考えていたんだ。建造物侵入までしておいて、結果が出なければ救いがなかった。

 よかった。本当に、良かった……。

 

「(ねぇマコトくん)」

 

「……ん?」

 

 え? あれ、辻カリン? 

 おおびっくりした。いつの間に隣にいるんだこの子は。寝る準備に行ったんじゃなかったのか。どうして僕のところに……。

 

 

 

 

 

「(どうして今日、学校にいたの?)」

 

 ──わーお。

 

 

 

 

 

「(いたよね? 目合ったもん)」

 

「(あー……いや、その……)」

 

 見られてた。やっぱり。

 あの一瞬、プールサイドから目が合ったのは気のせいじゃなかった。隣にいた辻セイラは完全に隠れていたから気づかなかったのかもしれないが……ど、どうしよう。

 素直にここで「君の姉と一緒に病状を確認するために忍び込んでいた」と言うべきか。いやしかし、それを教えた状態で病院に行って病気が特定、治療を行えてしまったら、教えてしまった事実が確定してしまう……。

 

「(たぶん、なんか事情があったんだよね?)」

 

「(あ、ああ。そうだ……)」

 

「(だよねー。じゃなきゃヤバイ人だもん)」

 

 現時点の情報だけでも十分ヤバイ人だと思う。

 危機感足りないぞ君は。

 

「(まーいいよ。病院行ったげる。行ってほしかったんでしょ?)」

 

「(そ、そうです)」

 

「(うん、おっけー。しょうがないし、言うこと聞いてあげる)」

 

 ……そうか! 

 なんてことだ。僕は今、彼女の優しさに救われた。

 

 辻カリンは僕の不法侵入に気づいていたが、それに何らかの事情があると察していた。

 そして、実際に病院に誘導されたため、それが件の「事情」であると推測し──実際に今元気であるにも関わらず、「病院に行きやすいよう」両親に虚偽の体調不良を打ち明けたんだ。

 急に援護射撃をしてくれたのはそういうことだったのか。

 

 この察しの良さは流石辻セイラの妹だけはある。

 しかし、それを踏まえてここまでの判断をしてくれるとは。

 彼女と辻セイラは確かに姉妹だが……善性、素直さ、聞き分けの良さにおいては姉のそれを大幅に上回っている。辻セイラのことは嫌いだが、彼女のことは好きになれそうだ。

 

 何はともあれ、これで今回は一気に解決へと進むはず……。

 

 

 

 

 

「(だから、それが終わったら──どうして学校いたのか、教えてね?)」

 

 

 

 

 

 ……やっぱりこの姉妹怖くないか。




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