【完結】 『大切な人を救うために死に戻る能力』   作:破れ綴じ

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[26:64] 君の真意はお見通し

「もしもし。なんだ、辻セイラ」

 

『……』

 

「もしもし? 聞こえているか? 電波が悪いのか?」

 

『……っ、……ぅ、……っ』

 

 ? 

 

 一応嫌な予感がしたから、ハルキとアサヒに断りを入れてわざわざこうして人気のない場所まで移動した訳だが……なんだ、この電話は?

 彼女は旅行中に電話をかけるべきではないと考えているし、それでも電話をかけてきたのだから、てっきり僕はまたループが発生したのかと思ったんだが……なんだか、変だな。

 一応声は聞こえている。途切れるような音はするが、音自体が途切れている訳では無いし、電波の問題では無さそうだ。ということは辻セイラが途切れ途切れの声を発しているということになる。

 

 まさかだとは思うけど……。

 泣いているのか? あの辻セイラが? 

 

 ……いやいやまさか。

 僕を嫌っているはずの相手が、僕に電話をかけて、何も言わずに泣いている……なんて。

 

「おいどうした、何があった。今どこにいる?」

 

『……っ、……ひっ……』

 

「怪我をしているのか? どこか痛むのか?」

 

『……ぅ、……ちが……』

 

「違う? 怪我じゃないんだな? じゃあカリンは? 近くにいるのか? 誰か一緒にいるなら代わってくれてもいい」

 

『……ぅう……』

 

「分かった、分かったから。急がなくていい。落ち着いてからでいいから、少しずつ喋ってくれ。僕はここで待ってる。切ったりしないから」

 

『……ごめ、ん……』

 

 え、なんだこれ……ガチ泣きしてないか。

 あの辻セイラが? 冗談だろ。

 丁度今、祖母が死亡したときと同じぐらいショックを受けるようなイベントが向こうで発生しているっていうのか? しかも僕が旅行に行っているタイミングで? 

 

 彼女の周りには誰もいない。誰かに話せる内容ではない……ループの可能性が高い。

 ただ、怪我や痛みがある訳では無い。辻セイラ本人が今すぐ危険な目にあう訳でもない。

 だが、何とかして僕に話しかけようとしている。僕に何かを伝えなくてはいけない状況。

 つまりは、僕に頼らないとどうにもならないようなレベルの……絶望的ループ? 

 

 怖い怖い怖い。落ち着いてくれないか。

 何がそんなに君を落ち込ませて……。

 

 

 

 

 

『久し、ぶりに……マコトの声が、聞きたくて……』

 

 ……。

 

 ……? 

 

 ………………。

 

 ??? 

 

 

 

 

 

 彼女は何を言っているのだろう。

 僕の声が聞きたかった? 

 泣きながら? 

 

 ??? 

 

 いやいやいやいや、そんな事情で彼女が電話をかけて来る訳がない。

 声が聞きたいだけなら君が僕を脅すために使っているあの録音でもなんでも聞けばいいだろう。そういう話じゃないんだろうが……前にカリンに誘われてカラオケに行ったこともあった。その時の動画も送ってあるから、別に声を聞くだけならいくらでも手段はあるはずだ。

 

 何より、僕の声を聞いて解決する事態というものが考える限りで存在しない。

 何だ? もしかして今誘拐されているとか? 

 でも声を聞きたいって普通人質に取られた側が言う台詞じゃないのか。

 そもそも僕は人質じゃないし、だとしても君は追い詰められたりしないだろう。

 

「辻セイラ? 何かあったんだな? そう捉えていいな?」

 

『ちがっ、違う……』

 

 ああそうだよな。

 そう言うしかない状況ってことだよな。

 誘拐じゃないにしても、多分面倒な状況とループが重なってしまったんだな。

 で、自分には対応できないから代わりにやってくれと。

 

「……じゃあ何か言っておきたいことはあるか。メモを準備するぞ」

 

『……じゃ、わ、わたし……』

 

 

 

 

 

『展望台の……写真が見たい』

 

 ん? 

 

『あそこなら、埋まるのは、遅いから……』

 

 へ? 

 

『マコトが写ってるやつ……撮って、1時間後に、送って。おねがい』

 

 は? 

 

 

 

 

 

「お、おい。待っ──」

 

 ……き、切れた。

 切れたぞ。本当に言うだけ言って切ったぞあの女。

 

 え? どういうことだ? 

 僕に展望台の写真を撮って来てほしい? 

 

 僕はいつ──辻セイラに「展望台へ行く」と言った? 

 

 いや、落ち着け。

 混乱している場合じゃない。あの女が泣きながら電話をかけてきた時点で、何かがあったことだけは確実なんだ。なら、今の会話から拾えるものは全部拾うべきだろう。

 たった少しの会話ではあるが、それだけあれば十分だ。

 

 まず、あの電話は何のためにかけられたのか。

 

「『展望台に行って』……言われなくても行くんだが」

 

 そうだ、行くんだ。

 今日は僕が主導の日で、展望台に行きたいと言い出したのも僕で、今まさに向かおうとしているところだ。放っておいても僕は展望台に行く。彼女に言われようが言われまいが、それは変わらない。

 

 しかし、彼女が本当のことを言えない状況にあったとすればどうだ? 

 例えば、『本当のことが言えなくなる能力』にかけられているとか。

 辻セイラは──本当はしてほしいことがあるのに伝えられない状況にあるのでは。

 だって、展望台に行ってほしいなら電話なんかする必要はない。わざわざ意味不明な電話を寄越さなくても、一切干渉しないだけで望む結果は手に入る。

 

 つまり彼女は、本当は展望台に行ってほしくないんだ。そのために電話した。

 

 展望台に行っては取り返しのつかない……展望台に行かないことで僕が対応可能になる案件が存在するということ。追加指示を出さなかった辺り、僕が現地で考えれば分かる内容だということだ。

 もし本当に「展望台に行ってほしかった」だけであれば? それなら、むしろ電話なんてしたことで僕は「何かあったのか」と勘繰ってしまう。実際、今こうして勘繰っている。遠ざけたいならこれ以上の悪手は無い。だからあの電話には、逆の意味合いがあったということだ。

 

 それこそ、本当に「声が聞きたかった」だけで電話し、それを誤魔化すためにわざと「僕が写っている写真を撮って来て」と要求した可能性も存在するが……まあ、彼女の性格的にそれは考えられないな。

 あの女が僕の声を聞きたがる理由は無い。僕が写ってる写真なんていらないだろう。

 そもそも、旅行の前日に「最近何もないし、楽しんで来たら?」と言われているんだから、久しぶりという言葉は嘘になる。「声が聞きたかった」という言葉に意味は無い。

 

 つまり、あの電話は、あんなことをするためにかけられたんじゃない。

 言いたいことが言えない状況で、僕に事態を察させるための電話なんだ。伝えてもいない行き先を知っていたんだから結論は自明。

 

 辻セイラは間違いなく、今、「ループ」している。

 それを僕に伝えようとしていた。

 

「中々回りくどいことをやってくれるじゃないか……」

 

 しかし僕は君の協力者だ。

 多少渡せる情報に制限がついたからといって行動できなくなるほど頭が悪いつもりはない。むしろここまでヒントを渡されれば誰だって同じ結論に辿り着く。

 君の協力者として、泣きつかれてまで縋りつかれたら断る訳にはいかない。

 

 しかし今回は難解だな。

 既におおよその想像はついているが……さっきの電話をかけてきた辻セイラは間違いなく衰弱していた。あの泣き方だ、1周や2周じゃない。今の辻セイラにできる、最大限のSOSがあれだったんだ。

 あんな状態の辻セイラに折り返しで電話をかけて「情報が足りないぞ、そんなもので動けると思っているのか」と説教する気には……とてもなれない。こちら側で完結させる必要があるだろう。

 

 加えて、辻セイラは義理堅い人間だ。

 解決不可能な情報だけ渡して、運任せで後は野となれ山となれ、運良く解決出来たら儲けもの……そんな解決法を目指しているとはとても思えない。

 ということは逆説的に、さっき伝えてきた情報だけで解決できるループということだろう。向こうの情報を一切教えなかったあたり、おそらく解決のカギはいつもの辻家周辺ではなく、この山間部の温泉街で手に入れられると見た。

 

「……仕方ないな、あの女は。二人にも謝らないと」

 

 僕が戻ると主張すれば、きっと二人はついてくるだろう。展望台に行きたいと言い出したのは僕なんだし、今日は僕が主導する日という取り決めだ。僕に他の目的があるからといって、二人も「じゃあ自由行動してくるわ」とはならない。

 

 しかし、ループが起こるということは危険があるということ。

 二人を温泉街まで連れて来てはいけない。

 二人が死亡したままループを突破してしまえば、彼らは永久に死亡してしまう。

 二人は、ここで別れないといけない。

 

 ──「マコトー、まだ電話なのかいー?」

 

 ──「いいんちょー! 置いてっちまうぞー!」

 

 さて、何と言って、二人を行かせるか。

 ロープウェイに乗り終わった後なのに、もう一度乗って元の場所まで戻るというんだ。相当説得力のある言い訳を考えないと二人が納得してくれないぞ。

 まあ、ループしているならきっと他の周で説得したこともあるはず。もし説得に難航するならさっきの電話で説得方法を教えて来るだろうし、やはり今ある情報だけで僕に説得可能なのだろうな。

 

 展望台に行けないのは惜しくもあるが……。

 制限時間がどれだけなのかも分からないし、迅速に行動するとしよう。

 

 

 

 

 

 *

 

 

 

 

 

「日高くん。マコトは嘘をついていないよ」

 

「なあハルキ。本人の前で使うのは止めようって言わなかったかオレ?」

 

「……?」

 

 

 

 

 

 *

 

 

 

 

 

 ハルキの精神状態が心配だ。

 イマジナリーは母親にしか使えないものなのに、僕のイマジナリーだなんて。

 彼がイマジナリーを使っているところを見せてくれたのは嬉しいが……。

 もしかして疲れているのだろうか。無理をさせてしまったかもしれない。

 

 まあ、おかげでこうして下りのロープウェイに乗れたことだし。

 協力してくれたハルキと、了承してくれたアサヒには感謝しかないな。

 

「それに、おかげで思考を整理する時間ができた」

 

 今回の標的は九条ノドカだ。

 原因はおそらく雪崩だろう。

 それ以上の手がかりは分からなかったが、現状の情報で分かるのがここまでである以上、辻セイラが「瀬尾マコトであればここまで推測できるだろう」と考えている基準がこうであると考えていいはず。

 

 辻セイラへの再度連絡なし、家に帰る必要も無し、追加の指示を受ける必要も無し……それで問題が解決できるということは、問題そのものが僕に対応できる範囲にしかないということ。

 ここにいる彼女の知り合いは僕、ハルキ、アサヒ、九条ノドカの四人のみ。他に誰か来ているなら伝えているはずだし、僕とハルキとアサヒは除外されるから残る選択肢は、彼女の「友人」である九条ノドカだけ。

 

 正直驚きではあるが、九条ノドカは既に『大切な人』になってしまったんだ。

 彼女を引き込んだのは僕の責任。それなら尚更僕が対応する必要がある。

 

「雪崩の原因は……分からないが」

 

 彼女は「展望台なら埋まるのは遅い」と言っていた。

 埋まるとは何を意味している? 

 

 1. 水? いや有り得ない。温泉はあるがダムがある訳じゃない。

 2. 土? まさかまさか。そんな量の土がどこからやってくるというのか。

 3. 雪? ははは。

 

 有り得てしまう。

 ここは雪に覆われた温泉街。何らかの大きなイベントが発生して山肌に降り積もった雪の塊が崩れ落ちて来る可能性は十分に考えられる。大規模なものかもしれないが、九条ノドカが死亡する以上WPPOはそれを認知できない。

 何が起こるかは分からないし、雪が崩れたくらいでそんな被害が出るとも思わないが……辻セイラがあんなに泣きじゃくっていたんだ。ということは甚大な被害が出るということ。

 あそこなら遅いという言葉の意味は、展望台が高い場所にあるから雪崩に巻き込まれにくい、あるいは巻き込まれたとしても一番初めに被害に遭う場所ではないということだ。

 

 かといって、「なら九条ノドカをそこに連れて行けばいい」という話ではない。

 足場を構成している雪が崩れ落ちてしまうんだからいずれ被害は起こるはず。死亡するタイミングが多少遅いだけで、結局死亡してしまうならWPPOが知覚できない問題は結局解決しない。

 

 そもそも「もう一つの問題」のせいで九条ノドカをあそこまで連れて行くのは不可能だ。

 

「おそらく制限時間は……連絡から1時間しかない」

 

 彼女は「写真を撮って、1時間後に送って」と言っていた。

 写真を送るだけなら時間を設定する必要はない。そもそも展望台に行けという指示も嘘なのだから、あの「1時間後」という言葉には別の意味があるはずだ。

 つまり、1時間後にはもう終わっている……そう考えるのが妥当。

 

 本当にループの制限時間が1時間だけなのか。

 泣きはらしたせいで電話するのが遅れたのかもしれないし、ループしてすぐ電話してくれたのかもしれない。何はともあれ、僕に残された時間はあの電話から1時間だけ。

 電話を受け、ロープウェイに乗って……降りる頃には残り時間30分ぐらいか。

 そうなった場合、宿へ向かうだけで30分かかる。ロープウェイに再度乗って、展望台まで歩いて……そこまでしてかかる時間は優に1時間を超えてしまう。どちらにせよ九条ノドカは展望台まで来られない。

 

 谷から出る手段もおそらく失敗するだろう。

 さっき確認したがタクシーは呼べないし、バスも山吹屋の送迎車も時刻通りにしか動かなくて次の便はずっと後だ。他に移動する手段があるかもしれないが、そんなものが実在するかどうか僕には見当がつかない。

 外に通報する方法も上手くいく保証はない。これから雪崩が起こるだなんて言っても信じてもらえないし、証明しようと思ったら未来予知能力者だと名乗るぐらいしかなくなってしまう。

 旅館の中で耐えるという手段も考えられるが……それなら九条ノドカは死なないだろう。おそらく雪崩は山吹屋ごと破壊してしまうほどの規模だと考えるのが妥当だ。

 第一、こんな簡単な手法を辻セイラが試していない訳がない。

 試していないのに絶望して泣き出す訳が無い。

 

 重要なのは、現地にいない辻セイラが知らない情報。現地にいる僕だけが分かる情報。

 十分に彼女と連絡できていないから、僕には解決のために必要な情報が足りない。

 しかし、だからこそ思いつく考えもあるはずだ。ループの前情報が存在せず、初日にハルキ主導で観光して、少し温泉を楽しんだ……それだけの記憶しかない僕だからこそ思いつく案もあるはずだ。

 

 そう、『あの場所』なら、条件は満たせるはずだ。

 

 さっき管理者に電話を入れて利用可能であることは確認した。

 古い旅館である山吹屋では耐えられないが、あの場所なら耐えられる可能性がある。

 ロープウェイ乗り場と宿の中間にあって、僕と九条ノドカが同時に出発すれば間に合う。

 勿論失敗する可能性もあるが……観光知識がある僕に思いついて、辻セイラには思いつけない、そんな案となればまずこれだろう。

 辻セイラの状況が分からない以上、彼女に連絡を入れていいのかどうかは慎重に判断しなくてはいけないが、作戦を実行に移すだけなら何も問題は無いはず。

 

 ──プルルルル……

 

「……」

 

 ループの前情報があれば、先入観に引っ張られ、思いつかなかったかもしれないが。

 この方法を試す価値はあるはずだ。

 

 後は実行に移すだけ。

 九条ノドカに連絡を入れるだけ。

 

「もしもし」

 

『せ、瀬尾さん? 何か御用ですか?』

 

「ああ、今時間取れるか?」

 

『え、えと……はい。本当はお風呂に行きたかったんですけど、辻さんから無言電話がかかってきて、意図を測りかねていたんです』

 

「そうか」

 

 なるほど。

 九条ノドカが風呂に入って連絡できなくなる前にちゃんと手を打っておいてくれたのか。

 辻セイラのことだから、「どうすればいいか分からずとりあえず電話」なんて真似はしないだろうし、きっと僕が電話の意図を理解して行動していると判断して動いてくれていたのだろう。

 

 辻セイラ。

 どうして君があれほど泣いていたのかは分からない。

 もしかしたら今の推測は全て僕の勘違いなのかもしれない。

 1時間後に「展望台の写真は!?」とキレているかもしれない。

 しかし、僕は後悔しない高校生活を歩むと決めている。情報が足りないからどうのと言い訳して、ここまでお膳立てしてもらっているのに、何も行動を起こさないなんて真似はしたくない。

 

「ならその間に、僕から一つ頼み事をしても?」

 

『はい! 何なりと、お任せください。私は貴方専門の護衛ですから』

 

 だって僕は、君とあの日に約束した──

 

 

 

 

 

「今から言うものを持って、僕の指示する場所に来てほしい」

 

 ──君にとって唯一の、「死に戻りのリスクが存在しない安全な協力者」なのだから。




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