「………はっ?」
朝。
ベッドの上でスマホを弄っていた私は、虚をつかれたような声を出した。
私の名前は、
東京都立呪術高等専門学校に所属する、フリーの呪術師だ。
階級は、一級。
そんな私が驚いた理由はーーー
『総監部より通達:
一、夏油傑生存の事実を確認
同人に対し再度の死刑を宣告する
二、五条悟を渋谷事変共同正犯とし
呪術界から永久追放
かつ封印を解く行為も罪と決定する
三、夜蛾正道を
五条悟と夏油傑を唆し
渋谷事変を起こしたとして
死罪を認定する
四、虎杖悠仁の
死刑執行猶予を取り消し
速やかな死刑の執行を決定する
五、虎杖悠仁の死刑執行役として
特級術師乙骨憂太を任命する』
『姉貴?
一応連絡しとくわ
パパ、もうすぐ死ぬと思うで』
ーーーこの、呪術総監部と弟からの連絡だった。
「は?冗談でしょ、どゆこと?」
朱莉は頭を抱えた。
(まず、夏油君が生きてる?
そして五条悟封印された?
学長と虎杖君死ぬの?
あと乙骨君なんで?
んで親父死ぬのマジ?)
ーーといった考えが私の頭の中を何度も巡っていた。
かつて死んだはずの特級呪詛師。
最強の術師の封印。
師事したことは無いがお世話になった人と、可愛い後輩の死刑宣告。
知り合いが死刑執行人を務めること。
そして、一応世話になった師匠の、死去(まだ)。
いろいろ考えて、考えてーーー
「惑花ぁ〜、親父死んだぁ(80%くらい)ー」
彼女に報告した。
「何でですかっ!?」
「分かんない。説明足りないんだよあのカスガキ……」
「そういえば、近々実家に顔見せに行くって言ってましたね」
「んっ、タイムリーな感じだったし、ついでに手合わせてくるよ」
惑花はそう、返事をした。
「じゃあ早く帰ってきてくださいね?私、待ってますから」
「はいはい。帰ってきたらたくさん可愛がってあげるからさ」
私は纏めていた荷物を抱えて、玄関に立った。
「じゃあ、行ってきます」
「はい、行ってらっしゃい」
私は、家を出た。
◇ ◇ ◇ ◇
禪院家へ行くには、東海道新幹線に乗る必要がある。
見知った白い新幹線に乗って京都まで行って、駅を降りる。
そこからはバスと徒歩を駆使する。
かなり山奥にある上、人に見つからないよう特別な結界を重ねてある。
呪術師でなければ見つけるのは困難だ。
まぁ、私には関係ないけれど。
やがて、和風造りの門が見えてくる。
前には黒装束に身を包んだ門番が1人。
私は少しイタズラ心が働く。
「えいっ」
「はっ…!?」
門番のところまで、術式で一気に近づいた。
「やっ、久しぶりぃ」
「………なんだ、お前か」
やれやれまたかと言うような反応で門番は私を押し除ける。
「なんだ、父親の顔でも見に来たか」
「そんなとこ〜?親父死んだって聞いて」
「まだ死んでねぇよ、まぁ誤差みたいなもんか」
はぁぁと溜息を吐いて門番は怠そうな表情をした。
私はそんな門番に同情しつつ、中に入った。
中に入れば、ずっと離れていたにも関わらず、未だ懐かしい風景が広がっている。
向こうでは鍛錬に勤しむ奴らの走る姿が見えた。
「元気なこった」
私は苦笑しつつ、カスガキを探した。
割とすぐ見つかると思ったが、やっぱり広いからか。
全然見つからない。
屋敷の中に入ると、ようやく。
「おぉ、姉貴やないか」
「久々じゃんカスガキ」
「非道いなぁ」
かっかっか、と笑いながらカスガキ…もとい直哉はこっちに来るよう手招きした。
「もうすぐパパの死んだ後の話するから、姉貴も来いっちゅう話してたんや」
「私が今日来るかも分からなかったのに?」
「さっき決まったことやで。姉貴の呪力が感知されたからなぁ」
そういうことか、と納得した。
私は大人しく直哉についていく。
「で?他に誰いんの」
「大体わかるやろ」
「扇と甚壱かぁ」
「せやせや」
あいつらこういうの大体いたからなぁ。
「そういえば、姉貴が昔ボコった奴、前にまた1人死んだで」
「どんだけタイムラグ空いてんだよ」
苦しんだことだろう。
おつおつ。
「そういえば姉貴彼女できたってほんま?」
「できたできた。紹介しねぇからな」
「興味ないて」
「興味持てよ」
「めんどいなぁ」
うちの惑花まじで可愛いからな。
私と付き合ってくれてることが疑問なくらい。
「着いたで姉貴。おーい、開けるで」
直哉が障子をガラガラと開ければ、そこには見知った顔が。
禪院扇。
これでも一応特別一級らしい。
禪院甚壱。
こっちは割と納得の特別一級。
「朱莉はどうでもいい」
「開口一番でそれ?最高だね」
「無駄口を叩くな」
扇は今日も最高にキレているらしい。
「直哉、何をしていた」
扇は低く告げた。
「実の父親が峠を彷徨っている時に…!」
「ちょっと姉貴呼び行ってただけや、ごめんちゃい♡」
直哉はそう言いつつも、別にええやろと蛇足。
「次の禪院家当主は俺なんやから」
甚壱は元より、扇も押し黙る。
まぁ嘘ではないし、一番あり得るのはコイツなんだから当たり前か。
「まぁ、ホントは姉貴がなるのがスジなんやけどな」
「やめろやめろ、そういうのじゃない」
「全くだ。あろうことか女と、それも呪いが見える程度の出来損ないと重ねた役立たずに居場所などあるわけがない」
瞬間、私の拳が扇の顔面スレスレで止まった。
扇の刀も私の首元にある。
危険を察知したのか、甚壱も戦闘体制に入った。
「私が、お前のような成り損ないに負けると思っているのか」
「こっちの台詞だ、ブスとクズに負けると思ってんのか」
殺す。
惑花を貶したヤツは殺す。
「ほら、終いや」
ぱんぱん、と直哉が手を叩く。
「パパが峠を彷徨ってんねんで、堪忍したってや」
ケラケラと笑いながら制止を促す。
私たちは拳と刃を収めた。
「皆さんおそろいで」
障子が開き、そこからちっこいおじさんが出てきた。
「たった今禪院家当主、禪院直毘人様がお亡くなりになられました」
扇は顔も変えない。
直哉は笑う。
甚壱はブスのまま。
私は少し眉を動かす。
「ご遺言状はこのフルダテがお預かりいたしております」
フルダテは懐のバッグから紙を取り出す。
「ご遺言状は直毘人様のご遺志によって、禪院扇様、禪院甚壱様、禪院直哉様、禪…いえ、御森朱莉様4名がそろわれた時、私からお伝えすることになっております」
「なんや、姉貴連れてきて正解だったんかいな」
「どうせ文句ないかの確認でしょ、アイツ別に私の術師としての才能が好きだっただけだから」
「容易に想像できるわ」
カッカッカ、と直哉は笑う。
「相違なければ、ご遺言状を読み上げます」
ん、と私だけ相槌を返す。
フルダテは満足そうな顔をすると、遺言状を読み上げた。
「一つ、禪院家27代目当主を禪院直哉とす。一つ、高専忌庫及び禪院家忌庫に保管されている呪具を含めた全財産を直哉が相続し、禪院扇・禪院甚壱のいずれかの承認を得た上で直哉が運用することとす」
直哉は隣でチッ、と舌打ちしていたがまぁ納得したようだった。
うん、無難な遺言だな。こういうところはさすが親父。
「ただし」
流れ変わったな。
「なんらかの理由で五条悟が死亡、または意思能力を喪失した場合、伏黒甚爾との誓約状を履行し伏黒恵を禪院家に迎え」
「同人を禪院家当主とし、全財産を譲るものとする」
「ーーーあ"?」
◇ ◇ ◇ ◇
あの後結局直哉は、
「やっぱアカンわ、タマなしやあの2人…」
とかなんとかブツクサ言いながら出て行った。
ロクなことしないと思うけど、まぁ大丈夫だろう。
私はと言うと、もう終わったので帰ることにした。
出る時、門番と少しだけ話した。
「直毘人さん、死んだか」
「ん」
「親が死んだ気持ちは?」
「師匠としては最高だったから、なむなむって感じ」
「はっ、まぁ親子って感じではなかったよなぁ」
うちの親父は私のことを娘というよりも、術師の才能に溢れた弟子と思っていたんじゃなかろうか。
正直死にかけた記憶が何個かある。
まぁ、良い師匠だったから上では幸せにやれよぅって感じ?
「じゃ、バイバイ」
「あぁ。もう来んなよ、めんどくせぇ」
「こねぇよ、もう用ないし」
私は後ろ手にヒラヒラと手を振って、禪院家を後にした。
禪院家は京都にあります(安直考察)。
まぁ、あってもおかしく無いよなぁと。
あと、術師の本拠地って少なくともこの時くらいまでは隠してそうですよね
ってことでそれっぽい結界があることにしました。
わかる人にはわかる、博麗大結界みたいなやつです。
要は付近を一生ぐるぐるし続ける羽目になるタイプのやつです。
そして直哉のやつはエセ関西弁です。
本場の人は許してくれぃ。
朱莉はクズではない上に、扇とか直哉にズカズカ物言いできて何なら2人より強いので、かなり禪院関係者とかからは好かれてます。
ちなみに甚壱と直哉は気づいていますが、扇さんは朱莉が自身よりも強いことに気づいてません。
まぁ朱莉も父親よろしく全然本気は見せなかったので。
……禪院家に朱莉がいると、直哉が仲裁役になる?マジぃ?