「クソっ……面倒だな…!」
俺はビル街を抜けて、とにかく走り回っていた。
背後からは、巨大な呪霊。恐らくは一級。
あれだけデカいと真正面からやり合うのも難しい。
俺に今残ってる式神に、デカブツに対応できる手札は万象ぐらいしかない。
しかも相手は動きが早い。
少しでも止まれば潰される。
「…時間を稼ぐしかないな……『脱兎』!」
腹に抱えた白兎から、無数の白兎が現れる。
それは瞬く間にビル街を埋め尽くした。
それぞれをロープのように連結させ、呪霊を拘束する。
「いいぞ、そのままだ」
俺は脱兎をそのまま、印を結ぶ。
「『万象』、踏み潰せ」
空に巨大な像が形を結び、そのまま大地へ降り下ろされる。
そして轟音と共に、周囲が土煙で覆われた。
「くそっ、呪霊の姿が見えない……失敗だな」
俺は攻撃に備え、保健で鵺の印を結ぶ。
「『鵺』、こ」
衝撃。
あの呪霊が、ものすごい速度で向かって来ていた。
あと2秒もすれば俺は吹き飛ばされるだろう。
考えろ。
どうすればいい?
考えろ、考えーーー
ピシッ
そんな音と同時に、呪霊の動きが完全に止まった。
それから1秒もしない内に、凄まじい威力の衝撃で呪霊は横のビルに突っ込んだ。
「おーっ、兎見えたからもしやと思ったら。無事かい?」
聞き覚えのある声だ。
なぜここに?とか、彼女さんは?とか。
聞きたいことはたくさんあったが。
ここは一言。
「…助かりました、御森さん」
「良いってことよ。五条からのお願いでもあるしね〜」
御森さんはにこやかに親指を立てると、呪霊に向き直った。
「とりあえず伏黒君は補佐お願い。じゃあ行ってくるわ」
その瞬間、残像を残して御森さんは消えた。
気づけば呪霊が突っ込んだビルのさらに奥の通路で轟音がする。
「補佐つったって…アンタに追いつけるかよ……」
俺は1人呟いて、鵺に乗って追いかけた。
◇ ◇ ◇ ◇
いやぁ、伏黒君に会えて良かった。
これで無事じゃなかったら気まずいことこの上ない。
なんて考えていると、呪霊がこっちに向かってきた。
「大人しくしてな、よっ!!」
私はそれをすんでで避けて、思いっきり蹴り上げてやる。
呪霊は完全に動作を停止し、直後に蹴りで思いっきり吹っ飛んだ。
私は地面を走ってアイツが降りてくるタイミングと位置を合わせる。
ここ。
「せいっ、やぁぁっ!!」
思いっきりぶん殴って前方に飛ばす。
それに追いついて踵落とし。
地面が砕けて抉れ、大きなクレーターができた。
呪霊の口から血が吐き出される。
「まだまだぁっ」
そのまま上に乗っかり、高速で打撃を叩き込んでゆく。
徐々に速度を上げる打撃は、肉体に拳を沈めて行き。
「これでっ、ラストぉっ!!!」
渾身の一撃を叩き込んだ。
轟音と共に呪霊の体が大きく揺れる。
気づけばわたしは血塗れだった。
拳をゆっくり引き抜き、顔をブンブンと振って血を払う。
呪霊は既に崩壊を始めていた。
「久々にこんな動いたよ、サンキュー一級」
ぽんぽんとそいつの眼球を叩いてあげる。
飛び降りて辺りを見回すと、鵺から降りて近づいてくる伏黒君が見えた。
「流石ですね」
「久々に動いたらこんなもんよ」
そうですか、と伏黒君は苦笑した。
「じゃあ、俺は他の奴と合流するつもりなんですけど、御森さんは?」
「もち着いてくよ〜、取り敢えず多分確実にいる虎杖君と野薔薇ちゃんと合流しちゃおうか」
私がそう言うと、伏黒君は少し表情が陰った。
「ん、どしたの?」
「……釘崎は、死にました」
「…そっか」
そっか。死んじゃったか。
前に惑花と3人で一緒にショッピング行ったの思い出した。
性格がツンツンしてたけど、薔薇みたいに綺麗で可愛い子だった。
少し、悲しい。
「正確には、死にたてホヤホヤみたいな状態らしいです。だから、治せるかもって」
「そっか。治せると良いね」
「…はい」
断言はできない。
無理だった時に私は、その言葉に乗った重さの責任を取れないから。
あくまでも、治せたら良いねとだけ。
「じゃあ、早いところ合流できるようがんばろ」
「勿論です」
◇ ◇ ◇ ◇
その後走ってたら、乙骨君と遭遇した。
肩に虎杖君と知らん男を背負った。
なんでも知らん男は一応味方らしい。
赤血操術の使い手だって。すごーい。
簡単に拠点を構えて、私は外で呪霊狩りに向かった。
それから数時間もして、帰ったら既に虎杖君と男起きてた。
男の方は脹相というらしい。
虎杖君のお兄ちゃんなんだって。突っ込まないぞ。
「そういえば、御森さんがいるのは予想外でした。ありがたいんですが、なぜここに?」
乙骨君に聞かれたので、流れを全部話した。
そしたら乙骨君は腹抱えて笑って「先生らしいですね」と言った。
うん、いかにも五条のやりそうなことをしっかりやってくる。さすが五条。
乙骨君たちの方からも色々聞いた。
なんでもウチのカスガキが来てたらしい。
伏黒君殺すついでに虎杖君殺しに来たらしい。
やっぱ碌なことしなかったなアイツ。
「僕らは一旦高専に戻る予定です」
「マジで?あそこヤバいんじゃないの、だって総監部の目とかあるじゃん」
「こそこそーっと帰れば大丈夫ですよ」
笑いながらそう言う乙骨君に、成長を感じた。
なんか五条っぽくなってきたな。
◇ ◇ ◇ ◇
という訳で高専に帰ってきました。
真希ちゃんとも合流できてやったね!と思っていましたが。
「やっ、御森君。久しぶりだねぇ」
「なんでいるんすか九十九さん」
特級術師・九十九由基がいた。
なぜ?
「単純に用があったのさ。今回の事案、私としても放っておけなくてね」
そんなレベルのお話になっていたらしい。
多分着いていけてないぞ、私。
「あの、私全然情報入ってなくて…できれば渋谷事変の概要教えてもらえると……」
「これは五条君のミスだね。分かった、何が知りたい?」
「目的ですね。何が起こったかは把握してるので」
九十九さんは頷くと、簡潔に話してくれた。
まず、おそらく最も重要だったろう目的は五条悟の封印らしい。
後に加茂憲倫の語ったことからこれは間違いないだろうとのこと。
そして次に、特級呪霊・真人を取り込み無為転変を抽出すること。
ドユコト?と思ったけれど、呪霊操術の極の番、うずまきには準一級以上の呪霊を使用した際に、その呪霊の術式を抽出するという効果があったらしい。
それを用いて、全国に分散する予めとあるマーキングを施した千人の非術師の脳を術師向きに変えた。
このマーキングには二種類あって、
・呪物を取り込ませられて、過去の術師の器となった者
・術式を持っているけど、脳の構造が非術師の者
がいるらしい。
彼ら彼女らは無為転変によって、前者は器としての強度を、後者は術式を使える体を手に入れた。
その時加茂憲倫が言った言葉を借りるならば、
「千人の虎杖悠仁が悪意を持って放たれた」
ということらしい。恐ろしや。
これ以上の細かい目的はこれから天元に聞きに行くとのこと。
「はえー…… 薨星宮行くの羨ましいな……」
「別に来てもらっても構わないけど、どうだい?」
「いや、私マジで外野なんで。帰ってきたら教えてくださいよ」
「分かった。じゃあのんびり待っていてくれたまえよ」
暫くしたら向かうらしいので、真希ちゃんとも話した。
「元気してた?……って感じでも無いね、ごめん」
「いえ、今は大丈夫なんで」
「そか。一回家に戻るんだっけ?一応気をつけてね」
「勿論です。そもそも呪具取りに行くだけですから、何も起きませんよ」
そう言った真希ちゃんの顔はけれど、覚悟の決まったような顔だった。
多分、何も無いと私も信じたい。
真希ちゃんも真衣ちゃんも可愛い妹分だから、死ぬのは辛い。
私は他の人たちとも少し会話した後、全員を見送った。
「………あ、やっべ暇だ」
どうやって潰そうかな……映画見るか。
不安要素の多い回。
おかしいとこは指摘お願いします。