夕暮れ時。静まり返った生徒会室。
そこで彼女──クローディアはペンを走らせていた。
それは生徒会長としての仕事──などではなく、彼女が普段日課にしている日記を綴っている最中だった。
就寝前に書くことが一般的な日記ではあるが、クローディアの場合、こうした合間の時間に書くことが多かった。
「……穏やかですね」
中等部2年へと進級し、会長としての仕事も増えていくだろうと心構えていたが平穏そのもの。
クローディアは肩の力を抜き、椅子へ自身の体を預ける。
あっという間の1年だった。気がつけば終わっていたと言っても過言ではない。
未だ綾斗に関する手掛かりは少なく、どう動くべきなのかも不透明。けれど動き備えなければならない。己の求む結末、未来を手に入れるためならば
「そう……あっという間なんです。だから少しでも綾斗の情報を集めなければ。せめて彼の家名でも分かればいいのですが」
焦る気持ち。それをクローディアは持ち前のメンタルの強さで抑える。焦っては見えるものも見えなくなり、小さなことで取り返しのつかないことになる。
急がば回れ。落ち着いて着実にできることをしていくのが大事なのだ
「その時は唐突にやってくるのですから……備えましょう」
そう。いつだってその時は唐突にやってくる。それがこの世の真理だ
──⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎!!!!!!
突如、『星導館』全土に響く轟音。
突然のことにクローディアは何事かと立ち上がる。
また脳裏によぎるナニか。自分はこれを経験している、いや知っている、とクローディアは思う
「──まさか」
──Prrrrrrrr
この轟音の原因がなんなのか察したクローディア。
それと同時に生徒会室に備えられた電話機が鳴る。
電話機に映し出された番号は『星導館』の備わっている《
確信……いや、まさか。そんなわけがない。彼も学ぶはずだ。人は失敗から学ぶ生き物、成長する存在。そう、きっと関係ない。今の轟音がなんだったのか確認するための電話だ。
クローディアは止まらない冷や汗をポケットハンカチを取り出し、一拭きしてそう己に言い聞かせながら、電話に出た。
「もしもし? 綺優ですか?」
しかし現実とは──残酷なものである
『クローディアごめん。訓練場壊れた』
「──────────」
生徒会室に、およそ淑女が発したものとは思えないFワード、それも代表的な誰もが知っており聞いたことがあるであろう心からの叫び。
今日も『星導館』は平常運転。『星導館』にいる生徒の誰もがあの轟音を聞いて思った。
──ああ、また《白夜叉》が何かしでかしたのだと
そして『また会長が苦労してるんだろうな』と
中等部2年になって初日。
新しい生徒達が我が校へと入学し、私たちも進級して2年へと上がりました。
同時に綺優との付き合いが1年経ったことも意味します。
この一年本当に沢山の出来事がありました。
1番印象に残っているのはやはり、綺優関連のことですね。
また綾斗に関しての情報もそれなりに集まり……と言っても似顔絵を描ける程度ですが……。
ただあの場面を再現するための手順は幾つか思いつける段階にまできました。
あとは綾斗をここ『星導館』に呼ぶだけなのですが。
続きは帰ってからにしましょう
(強く握りつぶされた跡がある)
生徒会室で物思いに耽っていると、突然轟音が鳴り響きました。
はい、そうです。綺優が訓練場を破壊しました。
最初聞こえてきた時はきっと彼の仕業ではないと、信じたのですが……当然綺優のせい。綺優が原因。
現場に急行してみれば、外壁が崩れ、それが原因で天井も崩れており、どう見ても使用不可、修理が必要とするレベル。
これで綺優が訓練場を破壊したのは4つ目
「クローディアもっと頑丈にしてくれ。これじゃ誰も訓練できないぞ」
「本気でそう仰ってるのですか?」
「当たり前だ。少し《
「……え?? 本当の本当に本気でそう思ってるのですか?」
「ああ。だから今まで『星導館』に強い生徒が居なかったんだよ。みんな訓練場が脆いって気づいて、ろくに修業できなかったんだろうな。可哀想に」
「……あの、あなたが規格外なだけ、ということは考えないのですか?」
「何言ってるんだ? 当たり前だろ。昔師匠も、それこそヘルガさんも言ってたぞ。俺より強いやつは沢山いるって。自分が特別だと思うな、自分にできることは他の人にもできると思いなさい、ってな」
私は考えることをやめました。胃が痛くなるのを感じます。
彼の師匠とヘルガさんが私の中でブラックリスト入りした瞬間です。
しかし綺優の言う通りかもしれません。綺優が規格外とはいえ、彼の《
統合企業財体の力を持ってすればもっと頑丈なものを作れるはずなのですから。
今度はもっと強固で頑丈なものを作ってもらいましょう。
あれ……私間違ってませんよね?
新入生を含む生徒達が綺優の序列1位の座を狙い決闘を挑む日々が続いています。
しかし全員が返り討ちにあっており、綺優の底は見えないまま。
ただ、以前と違いすぐに決着がつくことは無くなりました。
生徒達が成長している……ということはなくはないでしょうが、やはり綺優が単純に長引かせていることが1番の要因でしょう。
以前のように相手をすぐ倒すのではなく、相手の全力を受け止めてから倒す、その様なスタイルに変わりました。
私の目にはまるで対戦相手を稽古している様に映りました。
彼の得意の抜刀で勝利するスタイルではなく、剣を交えて勝つスタイル……来年の《
2年に上がり早3ヶ月。夏になりました。
綺優は生徒達からその凄まじい剣戟を讃え剣の鬼、《剣鬼》とも呼ばれるように。
《白夜叉》も《剣鬼》もどちらも人外を指す言葉で、彼にピッタリでしょう。
「クローディアなんか俺に怒ってる?」
うるさいですよ問題児さん。
別に訓練場を破壊したり、対戦相手の心を折り会長としての仕事を増やしたり、他校の生徒からの決闘でやり過ぎて周りに被害出してるからって、別に怒ってませんよ
「──ほら、早く立ってください綺優」
綺優が訓練場を懲りずにまた使うとのことで、今回は私も立ち会うと言ったのですが、綺優は嫌そうな顔をしました。
理由は《
それを聞いて余計に私は興味を持ったのですが、稽古の内容は──とても残酷で耐性の無い人が見れるものじゃありませんでした
「はやく。それぐらい貴方ならすぐに治せるはずです」
「はぁはぁ……っ、はい」
綺優は沖田さんに腕を斬られ、脚を斬られ、腹を貫かれ、肩を深く斬られ、手首を落とされ、体中の至る所を斬られておりました。訓練場のあらゆるところに綺優の血が付着しており、足元にはおびただしい量の血が溜まっておりました。
そしてその傷ついた体を《超速再生》で直していく。
あの綺優が一方的にやられる姿を見てしまい、私はその場で固まっていました
「エンフィールドさん、でしたっけ?」
綺優が気絶し稽古を中止し沖田さんが私の方へとやって来ます
「クローディアで構いません」
「でしたらお言葉に甘えて。あ、私のことは沖田さんとお呼びください」
「では、沖田さん私に何か話したいことがあるのでしょうか?」
「はい! 私の元から離れてた綺優のこと……ここに来てからの綺優のことを教えてほしいと思ってですね」
少し前まで綺優と戦っていた時はとても怖い顔つきをしていたのですが、この時の沖田さんの表情はとても穏やかで、まるで我が子を心配する親の様な表情を浮かべておりました。
どこか身構えていた私はその表情に毒気を抜かれて、私自身も緩んでしまいます。
そこから話しました。私の知る綺優を。ここに来てからの綺優を
「なるほど……相変わらず背伸びしてるんですねこの子は」
「背伸び、ですか?」
「そうですよ。怖がりで、根暗で、不器用で、自分を大きく見せたがる上に、ちょっとしたことですぐに怒る子供。弱い子です。でも──自分の大切な人のためなら、躊躇うことなく一歩を踏み出せる優しい子です」
「……」
「あ、そう育てたのは沖田さんなので。ぶいぶい……本当は今の私じゃ綺優と戦ってこんな一方的になることはないんですよ。でも困ったことに、この人私相手に無意識のうちに手を抜いてるんですよ」
私にはそう見えませんでしたか……綺優は全力で戦っている様に見えました。
仮にもしそうならただ単純に私が2人の戦いをしっかりと把握できるほどの実力がないのでしょうね
「でも綺優は本当に面白い身体してますよね」
「面白いですか?」
「ええ。ついつい斬り甲斐があってやりすぎちゃいます」
「……だとしてもこれはやりすぎなのでは?」
「綺優が私を傷つけたくないなどと無意識に考えて手を抜く甘っちょろいことするからです。さてそろそろ起こしましょうか。ほら綺優起きてください、続けますよ?」
「つッ……!? お、起きますから! ぐはっ」
持っていた刀で寝ている綺優の身体を起き上がるまで、刺し続ける沖田さん。
しっかり刺さって綺優の体から口から血が溢れるのですが、お構いなしで刺し続けておりました。
綺優の価値観がおかしいのはきっと沖田さんのせいなんですね、と私は思いました。
そんなこと言ったら私までも斬られそうだったので、心の中にしまっておきます
夏休みになり綺優は帰省するかと思われましたが、今年はアスタリスクに残るらしいです。
面白いことに綺優が刀藤家に帰らず、シルヴィアが刀藤家に遊びに行くとのこと。
両親公認のお付き合いとは中々ですね
「どうして帰られないのですか?」
「……師匠が稽古をつけてくれるって。来年の《
「ああ……そういうことでしたか」
「あれ、一時的に……というより、稽古中だけなんだけど、《
「一時的なら問題ないと思われますよ。その一時的もどこまでを指すのか曖昧な表現ではありますが、貴方以外の人が……そうですね、《
「助かるよクローディア」
そう返事を返し綺優は座禅を組み瞑想を始めました。
……近々、綺優には私の契約している《
私が何を望んでいるのかも
私も本格的に序列戦に参加することにしました。
ひとまず《
目隠しした状態で相手の攻撃を避け続け、程よいタイミングで勝利。
デモンストレーションとして、また今後私に挑むのを躊躇わせるためにかなり使いましたが、成功と言えるでしょう。
現にあの人外化け物の一角である綺優が
「クローディアやばいな……お前とは戦いたくない」
「あら、次の対戦相手はあなたですかね?」
「やめてください。本当に」
「ふふ。冗談ですよ。未来が見える程度であなたに勝てるとは思えませんから」
「こっちからしたらどんな攻撃も読まれて負けるイメージだよ……あとクローディア、ひょっとしなくても俺のこと嫌いだよね?」
まさか。あなたは人外化け物ですが嫌いではありませんよ
遅くなってすみません!本当に忙しくて
最後まで読んでくださりありがとうございます〜
あと、4話以内には原作に入りたいと思ってます
次の更新もちょい遅れるかもですが、早めにできる様頑張ります!