ヲタクが文明にもっと輝けと囁いている【配信中】 作:いかのしおから
『丘村の布教に失敗したようですね。
原因は言語の違いのようです』
「あー」
『そういや今まで異言語民族と出会ったことなかったな』
『使われている文法や単語は共通しているものもありますが、あなたの故郷日本で例えるなら本州と沖縄並みに方言が異なるようで』
丘村といえば確か、うちの村の住人と比べて肌が浅黒い民族だった筈。
うちの村とは言語のルーツが違うのかもしれない。
『食料の交換など、簡単な交渉自体は可能です。
しかし英雄譚という複雑な感情や情景を言語だけで描写するには、どうしても共通規格から外れた単語を使用せねばならず。
丘村の住民はエルヴィスたちの持ち込んだ異文化性に拒否反応を起こしたのが、今回の布教失敗の原因でした』
「回数熟せば何とかなる……ってわけでもなさそうだな。
伝道を繰り返すたびに追い回されるとあっちゃあ、エルヴィスたちが死んじまうかもしれねえし」
『丘村の乱暴な対応に我々の村民は激昂しています。
いつ戦争が始まってもおかしくありません』
「……これ詰んでね?」
戦争なんてしたくねえよ。
だがどうすりゃいいんだ。
相手は話の通じない相手。
エルヴィスたちが傷つけられて村の奴らはキレ散らかしている。
「神託で強引に止めるのは……まずいよな。
てめえはどっちの味方だと俺への信仰心が薄れかねない。
そのせいで俺の好きな物語を作ってもらえなくなったら困る。
だが戦争が起きれば、俺の作家たちが死んでしまうかもしれない。
作家だけ戦争に駆り出させないよう命じておくか?
いやでも、そういう特別扱いをすると、村の団結に罅が……」
『【表示できません】』
「ん?」
画面に流れた検閲済みのコメント。
一つだけではない、二つ三つと複数続いている。
『あ、それだわ』
『確かに今までの流れからしてそれが順当か』
「おい、検閲されて読めねえんだけど」
『見えていないのは俺達も一緒だ。
俺達も気づいたんだからお前も気づけ』
『今まで散々VTuberごっこをして遊んでただろうが』
「あれはただのごっこ遊びじゃねえよ。
いずれVTuberになるための大切な予行演習で……」
あれ……ごっこ遊び……?
VTuber……?
「……」
画面の視点を移動して拡大する。
するとそこには英雄ケールや英雄ロアンに扮してごっこ遊びをする子供たちがいた。
彼らは誰が英雄役をやるか、魔物役をやるかで言い争っている。
「英雄役……役者……演劇か!」
『ようやく気づいたか』
「そうか、演技か。
確かに、言葉が通じないなら動きで伝えればいい。
演技の中には言葉は使わず動きだけで物語を表現する技法なんかもあった筈。
あれなんて言うんだっけ、パントマイム?」
『無言劇、サイレントアクトの方が表現としては的確かと』
「それだそれだ。
この村に演劇の概念はあるのか?」
『子供たちがごっこ遊びをする程度です。
どうにも彼らは神から言葉によって英雄譚と文字を授かったことから、言葉や文章で英雄譚を表現することに固執しており、演劇文化は未発達のまま現在に至りました』
「あっちを立てればこっちが立たずか。
なにはともあれ思い立ったが吉日だ。
エルヴィスが旅立つ前に演技の概念を教えるぞ」
==
「こいつは……」
「すげぇ……」
やっぱりだ……。
予想していた通り、山沿いの村はかなり発展している。
特に畑が凄い、ここまで広い畑は見たことがない。
山に地にこんなに広い土地があったのか?
爺さんから聞いた話では木々に覆われていた筈で……そうか、森を切り拓いたのか。
略奪ばかり受けていた筈の山村が、こんな開拓を行えるとは、いったい何が起こった?
「……畑で作業していた者達が引き上げていく」
「今なら畑から作物を盗めそうだな……。
よし、行くぞ。
見つからないように気をつけろよ」
心は痛むが仕方がない。
家族を食わせて行くためには必要なことなのだ。
俺達には山を切り開く人手も気力も持ち合わせていないのだから。
「!?」
畑の陰から複数の男が飛び出してきた。
まずい、まさか罠だったのか──
「逃げるぞ──」
「もう遅えよ」
「確保成功しました!」
「二名様ご案内〜!」
捕まった!
俺達は縄で縛り上げられ、口枷を嵌められてしまう。
そのまま担がれて村の中へと運び込まれる。
くそ……何をする気だ?
すぐに殺さないということは情報を抜き取るための尋問?
いいや、この前こいつらの食料を奪ってしまったのだ。
その報復に拷問を受けるかもしれない。
それとも見せしめに処刑でもされるのか……。
「よし。
もうすぐ始まるからここで待ってろ」
「……?」
連れてこられたのは、山村や川村の連中が大勢集まる広場だった。
俺達は縄で縛り付けられたまま椅子に座らされる。
これから礫形でも始まるのかと思ったが、しかし村人達は俺達を一瞥しただけで興味を失った。
彼らが興味を向けているのは、広場に建てられた木製の壇上。
しばらくすると、そこに一人の男が現れた。
「──我が名はラグス、魔物に支配された山の地の未来を憂う者」
マントを靡かせ、槍を掲げる雄々しい姿。
そんな彼の肌の色は、山村の住民とは思えぬほど浅黒い。
まるで俺達丘村の民のような肌の色だった。
彼は槍を掲げて何事かと語っている。
「ニンゲンだ! 殺せ!」
「魔物め! また村を襲いに来たのか!
俺が成敗してやる!」
しばらくすると、怪物に扮した連中が壇上に現れ、褐色の肌にマントの男が戦い始めた。
それを見て盛大に盛り上がる観衆。
言葉は分からないが、彼らの動きを見て、なんとなく内容が理解できた。
これは人里に現れた悪しき怪物から、あの益荒男が人々を守るために戦う物語なのだろう。
彼らの一挙手一投足に心が惹かれる。
俺達は目の前の光景にのめり込むあまり、拘束が解かれていた事にすら気づかなかった。
「な、なあ、あれ、何だ?」
「君たちのご先祖様の物語だよ」
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『丘村の布教に成功。
それに伴い丘村が傘下に加わりました』
『平和解決いいぞ/100GP』
『このまま文化勝利一直線だ!』
『え? 宗教勝利ルートじゃないの?』
『配信者の性格的に文化勝利ルートだと思ってたけど』
「ふー……」
どうやらうちの配信には黒塗り警察はいなかったらしい。
エルヴィスに塗料で肌を黒く塗れと指示した時は、炎上するんじゃないかとヒヤヒヤしたが。
まだ同時接続者50人しかいない弱小配信者なのが功を奏したのか。
それともこいつらが肌の色をとやかく言うような次元の存在ではないのか。
『とはいえまたしても骨抜きになったか。
今度は一ヶ月ぐらい仕事休みが起きそうな雰囲気だぞ』
『うちの村は娯楽に耐性ができつつあるけど、他所の村だとどうしてもね』
『なにはともあれ、これで山岳地帯の村の殆どが、あなたの勢力に加わりました。
これで残す村はあと一つです。
おめでとうございます』
「とはいえ……ここが問題なんだよなぁ」
視点を動かし表示された風景。
そこには深く大地に刻まれた谷と、うちを除けば山岳地帯で最も大きな村が存在していた。