ヲタクが文明にもっと輝けと囁いている【配信中】   作:いかのしおから

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#11「異教徒」

「異教の神など知ったことか!

 我らが崇めるは山の神オルフェナのみ!

 異教徒は食料を置いて我が村から立ち去れ!」

「に、逃げるぞエルヴィス!」

「あ、ああ!」

 

 槍の穂先を向けて威勢してくる谷村の民。

 散々追い回され、山の頂上を越えた辺りで、どうにか巻くことができた。

 また失敗か……。

 

「なあエルヴィス、お前はまだ谷村に伝道を続けるつもりか?」

「……伝道は血を流さずに山の地を統一できる唯一の手段であると認めてくれたではありませんか」

「それはそうだが、村に残っている連中はそろそろ限界が近い。

 お前の言葉を受けてどうにか踏み止まっているが、暴走するのも時間の問題だぞ」

「それに谷村のやつら、うちの村の傘下の区にちょっかいかけていやがるんだ。

 税を徴収された区もあれば、略奪の被害を受けた区もある。

 中には改宗を迫られた区もあるらしい」

 

……改宗。

 彼らも増やそうとしているのか。

 山の神オルフェナを崇める信者を。

 

「お前を旗印に部族連合を結成し、谷村を征伐しようとする計画が水面下で動き始めている。

 これはケール区だけじゃない、各地の区で行われている運動だ。

 正直、俺も悪くない考えだと思いつつある。

 話を聞かせるのは一発ぶん殴って黙らせてからでも──」

「……それでも俺は、血を流さず山の地を統一する夢を、諦めたくありません」

「……エルヴィス」

「もう少し、もう少しだけ時間をください。

 僕が必ず谷村の皆さんを説得してみせます」

 

==

 

「……ほうほう、Live2Dにも種類があるのか。

 顔の左右の動きや瞬き、基本的な口の開閉のみのシンプルなモデルなら5万から10万GP。

 顔の動きに加えて体や手、髪の毛の揺れなどが含まれる配信向けモデルなら10万から40万GP。

 5万GPぐらいなら、ちょっと食費を抑えれば届きそうだな。

 誰に書いてもらおうか、やっぱイケメン書くのが得意な人がいいよな……」

『マジでVTuberになんの?』

『俺、お前がデフォルトゴッド使ってるの結構好きなんだけど』

『キャラデザ視聴者の案から抽選で決めようぜ、俺はモヒカンとトゲつき肩パットに一票』

『じゃあ俺は肩にレールガンが乗ってるタイプの人型ロボット』

『むっちり色白系の豚獣人はどうすっか、顔や手足は豚で、四足歩行もできるタイプの』

「5万もする高級品にてめえらの悪ふざけを採用できるわけねえだろ」

 

 うーむ、やはり人気どころのイラストレーターに依頼を頼むとなると、相場より高額になっちまう……。

 だけど初期投資はちゃんとやっておくべきだよな。

 今後の配信人生、一生付き合っていくかもしれないんだし。

 

「……そろそろ仕事に戻るか。

 つっても最近やることがねえんだよなぁ。

 軍事も政治も農業も宗教も、地盤固めの時期だから、方針伝えて結果待ちだし」

『イベントシーンまでターンスキップしたら?』

「状況が急変したら怖い。

 最低でも山岳地帯の勢力を統一するまでは、予兆を見逃さないために状況を観察し続けたい。

……お前らにはしばらく退屈な配信を見せることになるけど」

『大丈夫、ゆっくり進展を見守るのも楽しいから』

『こういうのも緊張感があっていいよね』

 

 最近視聴者が定着し始めている。

 同時接続者は50〜70の間を維持。

 新しい政策をろくに打たず、戦争も起きていないというのにだ。

 もしかすれば配信内容のファンと言うよりも、俺自身のファンが増えてきたのだろうか。

 フフ、なんだよ、すっかり俺の美声の虜じゃねえか。

 このツンデレ共め。

 

『エルヴィスがあなたに伝えたい事があるようです』

「頼んでた谷村の情報収集か。

 ようし、早速神託だ」

 

 谷村は別の神を信仰している勢力だ。

 今まで異教徒を相手取ったことがないので、布教に手こずっている。

 その打開策を求めて、エルヴィスたちに谷村宗教の情報を集めさせていた。

 

「久しぶりだなエルヴィスよ」

『おお神よ……! 我が呼びかけに応えてくださりありがとうございます。

 しかし申し訳ございません……谷村への布教が未だに達成できておらず』

「よい、それより報告を聞かせてくれ。

 谷村の信仰する宗教とは、いったいどんな実態なのだ?」

『はい、谷村が信仰する宗教はオルフェナ教。

 山の神オルフェナとやらを信仰する宗教のようです。

 神とは山であり、山とは神である。

 神は時折、身の丈を大きく超える鹿の姿を取って人の前に現れる。

 山の化身たる神オルフェナは、人に自然の恩恵を齎す。

 故に人はオルフェナに感謝しなければならない。

 オルフェナと自然から見放されてしまわぬように』

「ふぅむ」

 

 結構ちゃんとした宗教だな。

 宗教は専門外なので的外れな意見かもしれないが、日本の神道に似た雰囲気がある。

 自然崇拝系と言うやつなのだろうか。

 

『神よ一つお願いしてもよろしいでしょうか?』

「願い?」

『名前を教えていただきたいのです。

 今まで名を明かされなかったことには、相応の理由があるとは思うのですが』

 

 いいや、普通に聞かれなかったからだけど。

 

「どうして今になって名前を知りたがる?」

『ご存知だと思いますが、谷村の異教徒たちは、我らの同胞を傷つけているのです。

 しかも改宗まで迫っている。

 これを許せぬと村一帯で団結して討とうという流れが生まれつつあり、我らの組織の名前を決めかねておりまして。

 是非とも神様の名を拝借させていただきたく』

「お前は戦争反対派じゃなかったか?」

『……村会議で決められたことです。

 もし神託を賜った者がいれば、その際に神様から名前をお伺いしろと。

 私の一存で村全体の意向を退けることはできません……』

「そうか……」

 

 しかし名前か。

 名前……。

 

……そういや俺達の宗教って英雄譚はあっても、神様の神話はまだ決めてなかったよな?

 

「最近、オルフェナの化身が現れたという話はあるか?」

『いいえ、彼らも伝承を語り継いでいるだけで、実際に姿を見た者はいないようです。

 時折法螺を吹く者はいるようですが』

「なるほど……ちょっと待ってろ」

『神様?』

 

 ええと、これが神託のミュートでいいんだっけか。

 神託画面から配信画面に切り替える。

 

「なあアイ、向こうの世界に本物の神様っているのか?

 もしくは俺みたいに神様ごっこをしてる奴は」

『存じ上げません、もし知っていたとしてもお答えできないでしょう』

「じゃあ次の質問だ。

 このオルフェナ教って別に俺の作った宗教と設定的にぶつかる点はねえよな?」

『今手元にある情報を比較したところ、問題はありませんでした』

『うん、大丈夫だと思う』

『うちの宗教って英雄譚はあっても、神様の具体的な神話はまだないし』

「よし」

 

 画面を切り替える。

 次に開いたのはVTuberのアバターが売られていたカタログ画面だ。

 

「夢の中に現れる時の俺の姿って、持ってるアバターの中から自由に変えられたよな?」

『はい、可能です』

「ええと、鹿の3Dアバターってあるか?

 できるだけリアルでデカいやつ」

『あるぞ、大きさはシークバーで好きに調節できる。

 人間以外の3Dモデルって珍しいからちょっと高めになるけど』

『確か2500GPぐらいで買えた筈』

「……これか」

 

 ちょっと高いが、手の届かない価格じゃない。

 カートに入れた後、神託画面に戻る。

 

「待たせたなエルヴィス」

『おお神様、お戻りになられましたか』

「それで俺の名前だったな?」

 

……これ、やっていいのか?

 まあ、別にいいか。

 やらずに後悔するよりは、やって後悔した方がいい。

 実在するのかは分からんが、これも平和的に山岳地帯を統一するためだ。

 悪いがタダ乗りさせてもらうぜ。

 

「教えてやろう、俺の名前は──」

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