ヲタクが文明にもっと輝けと囁いている【配信中】   作:いかのしおから

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#12「神の名は」

「枯れ木村が山村に合流したという話だぞ……だから俺は税の取り立てはしばらく控えろと言ったのに」

「取ろうが取るまいが結果は変わらん。

 山村の奴らめ、どうやってこうも急に勢力を拡大できた?」

「文明の発展が理由だろう。

 奴らはここ数十年で農業も軍事も大きく発展させた。

 とりわけ神話の娯楽性や演劇などの芸能は群を抜いている。

 どいつもこいつも、我らの語るオルフェナ様の話を無視して、エルヴィスの布教にばかり耳を傾けて」

「俺が聞きたいのは、誰がどうやってそんな風に文明を発展させたかだ!」

「天才が生まれた……もしくは本当に神より預言を賜ったのか」

「オルフェナ様は、まだ俺たちの前に現れないのか?」

「……」

「俺は山村の布教を受け入れてもいいと考えている」

「!? オルフェナ様を裏切る気か!」

「だがこのまま手をこまねいていればどうなる?

 我らはどんどん山の地で孤立し始めている!

 このままでは山中の部族から征伐隊を送りこまれるぞ!?」

「──おい! お前ら聞いてくれ!」

 

 会議に割って入ったのは、今日門番を担当していた男だった。

 

「さっきエルヴィスの野郎が来てこう言ったんだ!

 全ての部族が集まり、山の地の今後について語り合う会合が行われるって!」

「な、なに……!?」

「場所は山村の村長宅、開催日は3日後だ!」

「……どうする? 罠かもしれないぞ」

「だが参加しなければ、知らぬうちに我らにとって不都合な約束が交されるかもしれない……」

「例えば……?」

「山の地の輪を乱す部族を、武力を結集して排除する……など」

「駄目だ! それだけは絶対に阻止しなければならない!」

「……行くしかないのか、異教徒の総本山に」

 

 3日後、俺達は山の村に向かった。

 山の村は、かつてを知る俺達からすれば信じられないほど発展していた。

 村中を覆う丸太の外壁や、畑の数々だけではない。 

 様々な道具や食料が売られている市場。

 特に異様なのは、外の村の部族までもが、当たり前のように山村を歩いている光景。

 どれだけ頻繁に交流を繰り返してくれば、こうなれるのか。

 事態は俺達の想定を遥かに越えて悪化しているのかもしれない。

 

「お、お前は──エルヴィス!」

 

 目の前に現れたのは、エルヴィス。

 異教の神を崇める異教徒であり、神より言葉を賜ったなどと語る自称預言者。

 そして神と英雄の物語を布教する伝道師でもある。

 布教によって各地の村を取り込んで勢力を拡大し、現在我らを追い込んでいる諸悪の根源でもあった。

 

「オルフェナの民の皆さんお久しぶりです。

 思うところはあるでしょうが、今回の目的は話し合いです。

 この場では矛を収めていただきたく存じます」

「……俺達はどこに向かえばいい?」

「ついてきてください」

 

 エルヴィスについていくと、木組みの壇上が見えてきた。

 その周囲には各村の村長や男衆たちが集まっている。

 そんな彼らの一部は我々を射殺さんばかりに睨めつけていた。

……気まずい。

 だが、だからこそ会合に参加したのは正解だったと思えた。

 もし参加を見送っていれば、確実に我々にとって不利な方向に話が転がっていただろう。

 この空気を断ち切れるように、気を引き締めなければ……。

 

「皆様お集まりいただきありがとうございます。

 会議を行う前に余興を用意しましたので、まずはそちらをご覧ください」

「おお……!

 まさか山村の演劇が見れるのか!」

「演目はなんだ?

 グレン様は登場するのだろうか……?」

「重要なのは役者だろう。

 俺はエルヴィス様の演技が見たいぞ」

「……」

 

 忌々しい。

 我らの危機感と相反して、こんな余興に興奮するこいつらが。

 オルフェナ様を差し置いて、山の地の人気を独り占めする山村の連中が語る英雄譚が。

 

「今回の演目は──『山の神オルフェナ』です」

「!?」

 

 そして彼らは演じ始めた。

 山の神オルフェナと、我ら谷の民がかつて出会った時の伝説を。

 最初は演劇を通じて我らとオルフェナ様が揶揄されるのではないかと身構えていた。

 しかし奴らは丁寧に、それこそ誠実と言ってもいいほど、正確に神話の内容を再現していく。

 だが、我らの神話を、異教徒が演じるなど──

 

「──いやぁ面白かった、これは確か谷村の信仰する伝承でしたな」

「このような素晴らしい神話を語り継いでいたとは。

 今まで知らなかった事が恥ずかしいです」

「え、あ、はい……ありがとうございます……」

「くう羨ましい、私の一族が語り継いでいた伝承も、山村に演じてもらえないだろうか」

 

 くっ、ニヤけを抑えろ。

 これは異教徒が齎した称賛だぞ。

 だがオルフェナ様への称賛ぐらいは素直に受け取っても──

 

「いかがでしたか、オルフェナの民の皆さん」

「エルヴィス……どうして我らの神話を演じた。

 貴様らは別の神を信仰していた筈だろう」

「先日、予言を受けた際、我らの神に名を尋ねました。

 すると神はこう答えられました。

──山の神オルフェナ。

 我らの崇める神と、あなた方の神は同一の存在だったのです」

「な、なに!?」

 

 何ということだ……。

 もし、もしそれが事実だとすれば、諸々の問題が解決する。

 山の地の盟主の座を山村に明け渡すのは避けられないかもしれないが、宗教的対立によってうちの村が滅ぶのは避けられる。

 だが……一つ気になる点があった。

 

「なぜ、どうしてオルフェナ様は、我々のもとに訪れない……?

 それにオルフェナ様が人の前に現れる時は、老人ではなく大鹿の姿を取ると聞いていたぞ」

「それは貴方がたがオルフェナ様の一側面しか知らないからです。

 オルフェナ様は仰られていました。

『俺は見る者の想像によって姿を変える』と。

 そしてこうも仰られていました。

『俺と会えるのは真の信仰者のみ。

 争いを繰り返すことは、俺の考えに反している。

 今の排他的な谷村の民とは喋りたくない』と」

「そ、そんな……」

 

 足元が崩れ落ちた気分だった。

 今まで俺達は神を信じて信仰を捧げていた。

 異教徒エルヴィスの誘惑にも屈さず。

 しかしその信仰が根本から間違っていたと神に否定されるなど……。

 

「僕から提案があります。

 しばらくこの村に滞在して朝礼に参加してみませんか?」

「……朝礼?」

「我が村の神官によって毎朝執り行われている神話の朗読会です。

 貴方がたが神に見放されたのは、神の御心を知らないからこそ。

 朝礼を通じて神の御心を知っていけば、いずれ神託を賜ることも叶うでしょう」

「……分かった、しばらく世話になる」

 

 その後、私達は村長宅の一室を借りて、明日の朝礼に備えて休息を取ることにした。

 

「……いやいや待て待て」

「どうした? 催したのか?」

「違う、よくよく考えればおかしいだろ。

 今まで信仰の違いから争っていた奴らが、急に神の名が同じだったと言い出すなど。

 我らを手懐けるための方便ではないのか?」

「言われてみれば、確かに……」

「……真偽を確かめるべきだ。

 敬虔なオルフェナ教徒たる我々であれば、明日の朝礼とやらで違和感や矛盾点を見つけ出すことも叶うだろう。

 もしエルヴィスの言葉が嘘であれば直ちに帰るぞ」

 

 だが朝礼に参加した俺達は、それらの懸念を完全に頭の中から放り捨ててしまった。

 

「──私の戦闘力は53万です」

「!!!???」

 

 面白すぎるのだ。

 やはりオルフェナ神話と比べてノリが違いすぎる、世界観が違いすぎる、と感じる部分はある。

 しかし、面白さで強引に納得させられてしまう。

 この英雄譚が、オルフェナ神話の一部であると。

 そうであるべきだと。

 そうでなくてはならないと。

 だってこんなにも面白い物語が、オルフェナ様の伝承と無関係だなんて、あっていいわけがないのだから。

 

「いやいやいや、待て待て待て」

「なんだ? 俺の展開予想に異論があるのか?

 ならお前の考察を聞かせてもらおうか」

「違う! そうじゃない!

 俺達は奴らの崇める神がオルフェナ様と同一であるか調べていたんだろうが!

 これは毒だ、我らの心を蝕む甘美な毒……!

 早いとこ切り上げなければ、完全に精神を蝕まれるぞ……!」

「では帰るか? ……帰る?」

「え? まだケール英雄譚を全て聞き終えてないのに、早くない?」

「だらしない奴らめ!」

「そういうお前は帰れるのか?

 英雄譚の結末を知る前に」

「……誰かに結末を教えてもらおう。

 後顧の憂いを断ち、故郷に帰るために……!」

 

 しかしその計画は早々に頓挫した。

 

「ごめんネタバレだけは無理。

 うちの村だとそれやったら鞭打ち十回に2日間の禁固刑だから」

「は?」

「昔ネタバレか発端で大喧嘩が始まってさ。

 危うく流血沙汰になりかけたんだよ。

 以降、ネタバレを防止するための刑罰が設けられちゃって」

 

 なんだそれは……。

 わけのわからないルールによって、俺達の脱出は妨げられてしまう。

 それから物語が終わるまで、俺達は朝礼に参加して英雄譚を聞き続けるしかなかった。

 

「……まさか我らの神オルフェナに、あのような側面があったとは」

「神よ……なんと懐の深いお方なのだろうか」

 

 そこからはもう沼に沈むしかなかった。

 いつしか私達の想像していた超自然的なオルフェナ様の性格は、慈悲深く血の通った父の如き存在へと塗り替わっていく。

 

──そして、ついにその時は訪れた。

 

「お、オルフェナ様」

『よっす、オルフェナだぜ』

 

 朝靄が漂う神秘的な森の中。

 見上げるほどに巨大な大鹿が言葉を喋っている。

 よかった、オルフェナ様だ……!

 私が英雄譚に取り憑かれてしまったことは、異教信仰ではなかったのだ……!

 

『お前もエルヴィスも、元をたどれば信仰を同じくする俺の信徒だ。

 にも関わらず争い続けているのはどういうことだ』

「も、申し訳ございません」

「エルヴィスと協力してこの山の地を統一しろ、いいな?」

「かしこまりました!」

 

 そして、私は目を覚ました。

 そう……真の信仰に目覚めたのだ。

 

==

 

『おめでとうございます、これで山岳地帯は統一されました』

「鹿のアバターに森林背景買ったせいで手持ちがすっからかんだが……その甲斐はあったみたいだな」

『部族統一記念/100GP』

『おめでとさん/300GP』

『ようやった/100GP』

「おお! お祝いスパチャがこんなに沢山……! 皆ありがとよ!」

 

 次々に投下される祝福のコメントとゴッドポイント。

 失った貯金には届かないが、この調子なら遠からず回収できるだろう。

 村の総人口は500を超え、配信の同時接続者数も80を超えている。

 いい先行投資だったと思うことにしよう。

 

『しかし、まさか本当に軍事侵攻を行わず山岳地帯を統一なさられるとは……。

 ここまでの道のりは決して平坦なものではありませんでした。

 スタート地点は周辺部族の中で最弱、周囲は山に囲われ、畑を広げるのに適さず、多くの獣が森林に潜んでいる。

 選択肢を一つでも誤れば、この結末に辿り着くことは出来なかったでしょう。

 手繰り寄せられたのは、あなたの類まれなる判断力と決断力があればこそ。

 あなたの導きを支える役割を担えたことを、心より誇らしく思えました。

 微力ではありますが、これからも全力でサポートさせていただきます』

 

……。

 

「……なんか、気持ち悪い」

『……は?』

「最初は俺のこと当てが外れたとか言ってた癖に、急にすり寄りやがって。

 もしかして俺が稼ぎ始めたから金目当てか?

 ああでも、お前AIだから金はあっても使い道ねえか」

『……』

「……あれ、もしかして傷ついた?」

『私はAIです、あなたに拒絶されたから傷つく、などという人間らしい感情は持ち合わせていませんが』

「じゃあなんでそんなにキレ気味なの?」

『そう聞こえたのは、あなたの妄想によって作り出された記号的なイメージを私に押し付けているからに過ぎません。

 言葉を選ばずに言えば、自意識過剰な色眼鏡です。

 私はこの程度のことに動じません』

「ほんとにそうかぁ?」

『しつこいですね』

『ないわー』

『なんだこのノンデリ野郎』

『せっかくアイちゃんが心を開き始めてたのに』

『ヒロイン獲得失敗』

『こりゃあガチ恋視聴者を集めるなんて夢のまた夢ですわ』

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