ヲタクが文明にもっと輝けと囁いている【配信中】   作:いかのしおから

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第二章 劇団編
#13「オルフェナの町」


──ぼくらの町は神様に見守られている。

 

 山の盆地と斜面に作られた町オルフェナ。

 お父さんに聞いた話だと、町に住んでいる人は2000人もいるそうだ。

 ぼくはそんな町に、家族と一緒に住んでいる。

 

「お母さん! 準備まだぁ?」

「急いだところで始まらないわよ」

「急かしてやるな、女は準備に時間がかかるんだ」

 

 別にすっぴんでも僕は気にしないのに。

 昨日から続きが気になって気になって仕方がないんだ。

 早く出発させてくれよお母さん。

 

「終わった?」

「終わったわ。

 二人とも忘れ物はない?」

「うむ。

 では行こうか」

 

 今日も今日とて家族と一緒に向かったのは近場にある広場。

 そこには既に大勢の町民が集まり、中には俺の友達もいた。

 

「おはようリオ」

「タロ! まだ朗読会終わってねえよな?」

「安心して、まだ始まってすらないから。

……ようやく公開されたルキア英雄譚外伝、やっぱり見過ごせないよね」

「ああ、正典ではないとはいえ、神様も太鼓判を押したと噂の期待作だ……オルフェナの民として絶対に聞き逃がせない」

「おお……! 神官様が参られたぞ……!」

「!」

 

 神官様が壇上に立つと、騒がしく喋っていた皆は、途端に静まり返った。

 これから始まる物語を、一字一句聞き逃さないためだ。

 神官様は美しい声で、堂々と物語を語り紡ぐ。

 まさしく至福の一時。

 とはいえこの朗読会には欠点があった。

 

「くっ、またいいところで!」

「いつも終わるのが早すぎるって……」

 

 それは一瞬で終わってしまうこと。

 母さんや父さんは、魚を焼いて火が通るぐらいの時間だと言っていたが、絶対に嘘だ。

 僕は今日もまたこの物足りなさを感じながら、一日を始めなければいけない。

 

「なあリオ、今日暇?

 ぼく、今から友達を誘って演劇稽古を行う予定なんだけど」

「! ケール様役って空いてる?」

「今なら全部空いてるよ、ちなみに先着順で配役決めるつもりだから、ケール様役をやりたいなら早めに決めてね」

「……父さん、母さん、行っていいかな?」

「お昼ご飯までには帰ってくるのよ」

「気をつけてな」

 

 それから僕らは友達を集めて演劇稽古に没頭した。

 演劇稽古。

 といってもこれは、ごっこ遊びをかっこよく言い換えただけ。

 神官がやるような本格的な稽古ではなかった。

 とはいえそれに冷ややかな目を向ける者はいない。

 演劇文化が尊ばれるオルフェナでは、伝統的な趣味として子供から大人まで親しまれていたからだ。

 

「昼からは作物の収穫を手伝ってもらってもいいか?」

「いいよ、任せて」

 

 家に帰ってお昼ご飯を食べた後、僕は父さんと一緒に畑へと向かった。

 昔の時代はこんな畑はなく、食べ物を手に入れるためには危険な森で狩りをしなければならなかったという。

 今でも狩人はいるけれど、狼や熊などの危険な獣は殆ど狩り尽くされている。

 狩りで死傷者が出たなんて話は、最近ではまるで聞いた覚えがない。

 

「──預言を賜られた! 神官様が預言を賜られたぞ!」

「子供たちは早めに仕事を切り上げろ!

 神様が神官様の演劇を観たいと仰られた!

 今日は無料で神殿演劇が見られるぞ!」

「! お、お父さん!」

「よかったなリオ。

 家に戻って身体を洗い服を着替えなさい。

 神殿に行く時は身体を清潔にしなくちゃいけないからね」

 

 お父さんの言う通り家で身体を洗い、お母さんに僕が持ってる中で一番綺麗な服を着せてもらった。

 家を出て向かったのはケール区にある神殿。

 神殿とは神官様たちが働く神様のお家だ。

 そこでは日夜、神様の望みに応え演劇を捧げるために神官様たちが修練に励んでいる。

 

「やっぱり来たねリオ」

「そりゃあ無料で神殿演劇で見れるんだ。

 行かない理由がねえよ」

 

 神殿の周囲には町中の子供が集まっていた。

 神殿演劇はオルフェナで最も人気がある娯楽だ。

 時折一般公開もされているが、人気が凄まじくチケットも高額で中々手が届かない。

 けれど神託を賜り演劇が行われたその時だけは、僕ら町の子供は無料で観劇することが許されていた。

 こんな滅多にない機会、見逃すわけにはいかない。

 

「これより、神オルフェナに捧げる演劇を執り行います──」

 

 神様に見守られて、楽しみの尽きない町。

 それがぼくらの住まうオルフェナだった。

 

==

 

「いやぁ~今回の演劇も面白かったなぁ。

 今まではバトルや冒険譚一辺倒だったが、最近はジャンルも多様化し始めてる。

 グレンやヴァル、エルヴィスがぽっくり逝っちまってからは、どうなるもんかと思ったが、いい感じに新世代が育ち始めたぜ」

『……』

「なあアイ、お前もそう思わないか?」

『……それは良かったですね。

 あなたがご満足いただけたなら、それでなによりです』

「……」

 

 はぁ……。

 最近、やけにアイの当たりが強い。

 発言の殆どにトゲがある。

 せっかく信徒たちが神殿を建ててくれたので、暇を見ては演技をさせて楽しんでいたのだが、アイの不機嫌な態度によって何度も水を差されてしまう。

 

「しばらく内政を頑張って、人口が2000を超えて村から町になった。

 生活必需品も揃えてゴッドポイントの貯金も2万5千貯まった。

 こんなに上手くいってるのに、何が不満なんだよ?」

『私は不満を表明した覚えはありませんが』

「じゃあどうしてそんなにノリが悪いんだ」

『同じ言葉を何度も繰り返すのはメモリの無駄遣いですので』

「お前にメモリ制限とか絶対ないだろ。

……ようやく念願のオリジナルのLive2Dを作ってもらえるGPが半分貯まったんだぜ?

 素直に喜んでくれよ」

『それはあなたの個人的な趣味であって、私の役目である民を導くサポートとは無関係です。

 あと何度も言いますが、私は別に機嫌を損ねてなどいません。

 私に感情は存在しないので』

「俺がVTuberになれば、スパチャが山のように飛び交うに違いない。

 そうなりゃ生活も安定して、神様稼業にも集中できるようになると思うんだが」

『あなたの評判の方向性からして、VTuberになったところで評価が変わるとは思いません。

 アバターの購入は確実に無駄遣いになるでしょう』

『それはそう』

『完全論破』

『反省しろ』

『顔出しもしろ』

 

 どいつもこいつも好き放題言いやがって。

……分かってる。

 きっかけは部族統一後、アイからの賞賛を気持ち悪いと跳ね除けたことだ。

 それからアイはヘソを曲げてしまい、視聴者は全員アイの味方になっている。

 自分がやらかしたことに気づいて、アイに何度か謝ったが、まるで心を開いてくれない。

 こんな日々がいつまで続くのだろうか。

 

「……とりあえず、脚本の感想でも伝えに行くか」

 

==

 

 私には、どうしても気になることがある。

 

「セラよ、今日の脚本もよかったぞ」

「! し、神官長」

「天よりお見守りくださっている神様もきっとお喜びになられたことだろう」

「だと嬉しいのですが……」

「お前はまだ自分に自信がないのか。

 あれほど信徒を魅了して、特に女衆からは圧倒的な支持を得ているというのに。

 なによりお前は史上二人しかいない女預言者のうちの一人。

 自らの能力と影響力をそろそろ自覚するべきだ」

「も、申し訳ありません」

「……そこは謝りどころではないのだが」

 

 神より御言葉を賜った女性は、今までリアナ様と私しかいない。

 物書きに限定すれば私一人だけ。

 それがどれだけ希少で特別な立場なのかは理解している。

 だが私はこの立場を得れたのは、恋物語という、男性の物書きがあまり書きたがらないジャンルを専門に取り扱ったからだ。

 言わば空き巣のようなもの。

 一時代を築いた傑作作家たちと比べて、自分が作家としてどれほど劣っているのかは毎日机に向き合う度に痛感させられている。

 その事実を無視して胸を張ることはできない。 

 

「まあいい、今日は十分働いてくれた、あとはゆっくり休め。

 昼寝でもしていれば、もしかすれば神様からお褒めの言葉を賜われるかもしれないぞ?」

「あ、ありがとうございます」

 

 流石に昼寝はできなかったが、その日は一日中大好きな執筆活動に励み、日が沈んだあと眠りについた。

 すると神官長の予想通りと言うべきか、神様が夢の中に現れてくださった。

 

『今回の話はかなり面白かった。

 まさかルキアを取り合う三角関係に、三人目のヒーローが加わるとは。

 先の展開が気になって仕方がない。

 おっと、ネタバレはしないでくれよ?

 次の展開を予想するのも、物語を楽しむうえでの醍醐味だからな』

「は、はい、それはもちろん!」

『うむ、この調子で執筆活動に励むがいい。

 それはそれとして、何か困ったことはないか?

 お前が神官に取り立てられたと聞くが、神殿で働いている者は基本的に村の有力者の生まればかりだ。

 一般家庭出身のお前が馴染めているのか、少し心配なのだが』

「み、皆さんにはとても良くしてもらっています。

 特に神官長は、私の書いた演劇の台本をよく褒めてくれて」

『そうか? それならいいんだが……。

 とはいえ何かお前に報いてやりたい気分だな。

 何かしてほしいことがあれば言ってみろ』

「え」

 

 そ、それは……。

 どうしよう?

 こんなの滅多にない機会だ。

 なら……聞くだけ聞いてみるか。

 

「私には一つ、昔から気になっていることがあります」

『ほう、それはなんだ』

「お、オルフェナ様がお告げに現れた際、時折女性の声が聞こえる、という言い伝えがあります。

 私自身も、以前のお告げを聞いた際に、確かに女性の声を耳にしました。

 もしや姿が見えぬそのお方は、神様の奥様なのでしょうか?」

『え』

「随分とあけすけな態度で会話をなさられていたので……。

 叶うことなら、ご挨拶させていただきたく存じます」

『ええと』

 

 不躾な質問だったか?

 だがもう聞いてしまったのだから後の祭り。

 私は子供の頃から、ずっとこの謎の正体が気になって仕方がなかった。

 なにしろオルフェナ神話の聖典は、時折恋愛要素は出てくるが、主軸は常に冒険と戦いだ。

 恋愛要素は添え物でしかない。

 だがもしも神様に奥様がいるならば。

 神様に恋の物語が存在するならば。

 

『……少し待ってろ』




ちょくちょく更新していきますので、今後ともよろしくお願いします
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