ヲタクが文明にもっと輝けと囁いている【配信中】   作:いかのしおから

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#15「来訪者」

……本当に実在するのだろうか。

 

 現在僕は、山岳地帯を登っていた。

 

 山岳地帯。

 険しい山々が連なるその場所は、アルヴェリア王国に住まう我々にとって、長年未開の地とされていた。

 傾斜や木々の多さから畑を作るには適さず、狼や猪などの凶暴な獣も多く、とても人間が住める場所ではないからだ。

 

 しかしこうも語られている。

 昔、時の権力者によって弾圧された民族が、安寧の地を求めて山岳地帯に向かい、定住を始めたと。

 僕はこの伝承を信じて山道を歩いている。

 

「くそぅ、ガルダン商会共め……!

 あいつらさえいなければ、こんなところまで来なくても良かったのに。

 そもそもこんな山地に定住者なんているのか?

 今更後戻りはできないけど……」

 

 僕は行商人だ。

 少し前までは故郷の町と馴染みの村を渡り歩き、商品の売買を行うことで生計を立てていた。 

 村とは良好な関係を築いていたけれど、しかし水を差してきた連中がいた。

 それがガルダン商会だ。

 

 ガルダン商会は余りある人脈と経済力を使い、安価な商品を大量に村へと売りつけた。

 当然村は僕ではなくガルダン商会を取引相手として選んだ。

 ここまでであれば競合に敗れた結果だと苦渋を飲みながらも納得できただろう。

 

 だがガルダン商会の嫌らしいところは、そうして他の商人を追い出した後、少しづつ取引価格を上げる点だ。

 町や村が騙されたことに気づいたとしても、その頃にはもう手遅れ。

 競合していた行商人は、既に仕事を辞めているか、闇に葬られている。

 ガルダン商会と縄張りが被った商人は素直に道を譲るしかない。

 それがこの周辺で商売を営む商人の鉄則だった。

 

「……山地では手に入りにくそうな商品を持ってきたが……誰もいないと本当にどん詰まりだぞ」

 

 リュックの中に入っているのは、亜麻やリネン、羊毛などの布類と作物。

 山地では農地を広げるのが困難なため、需要があると予想した。

 しかし、もしオルド山脈に誰もいなければ、そこで私の行商人人生は終わりを迎えるだろう。

 なにしろ、僕はこの商品をを集めるために全ての財産を注ぎ込んできたのだから。

 

「ふう、やっと一山越えられたか──っ!?

 こ、これは!?」

 

 山を超えて見下ろした先に見えたのは、人々の生活の痕跡。

 文明が存在した。

 本来なら喜ぶべきだろう。

 

「は、畑がある……しかもあんなに沢山」

 

 しかし、山の側面に作られた階段上の畑の数々。

 近場の盆地は隙間なく畑で埋め尽くされている。

 大事に背負ってきた商品が、急に鎖つきの鉄球のように思えてきた。

 

「……もう商人辞めて実家に帰ろうかなぁ」

 

==

 

「あいつ、こっちに向かって来てるよな?

 偶然立ち寄った?

 でも態々こんな山岳地帯に理由もなく近づく意味なんて。

 もしかして俺達を知っていた?

 ならどこで知った?」

『分かりませんが、一つ明確なのは、現在オルフェナの町が内政に集中できているのは、他勢力に煩わされていないからこそです。

 早急な対策を講じる必要があるでしょう』

「対策というと」

『捕らえて幽閉するのも一つの手です。

 彼が自らの拠点に情報を持ち帰る前に』

『こっそり始末するのもありっちゃあり。

 この配信だとあんまり見たくない展開だけど』

『それ、後ろに大勢力が潜んでたらマズくないか?』

『バレなきゃ問題ないっしょ』

 

 村の景色が写っているパソコンの画面。

 俺達がギリギリ視認可能な範囲にいたのは、異邦人。

 彼は真っ直ぐオルフェナの町に向かっている。

 

「……情報が足りねえ。

 決断は一度こいつから話を聞き出してからだ。

 とはいえ、アイの言ってることにも一理ある」

『ではどうなさいますか?』

「歓待しよう、脅すんじゃなくてもてなして引き留めるんだ。

 そうすりゃ敵対を避けつつ、こいつを町に留めることができる。

 そんで情報聞き出しつつ、対策を練りたい」

『それがいいかと思われます』

「となるとまずは神託だな。

 町民がやらかして、異邦人との関係がこじれるのが怖いし。

 でもまだ昼か。

 昼間に神託すると、所有ゴッドポイント半分失うんだよなぁ。

 俺のゴッドポイントって幾ら残ってる?」

『2300GPです』

 

 画面の端にはアイのアバターが映っている。

 どこからどう見ても美少女だ。

 25000GPから2300GP……。

 そりゃあ、そんぐらいするわな……。

 

「それじゃあまずは食料を買い漁るぞ。

 残りGPを全て使い切ってから神託を送る」

『昼寝をしている方もいらっしゃるようですが』

「でもそれって病人や子供だろ?

 今回は急ぎだから、機動力優先で神官長に直接神託を送りたい」

『かしこまりました。

 では私の方で食料の購入処理は済ませておきます』

「頼んだ」

 

……果たして鬼が出るか蛇が出るか。

 

==

 

 気づけば雲の上にいた。

 そして目の前には神様がおられる。

 隣におわす女性は、おそらくセラが言っていたアイ様だろう。

 聞きに勝る美しさだ……いや、見惚れている場合ではない。

 

「神様、セラ様、おはようございます。

 本日はいったいどのようなご要件でしょうか?」

 

 日中の神託を受けたのは、最初の伝道師エルン様が最初で最後だった筈。

 ただ事ではないとすぐさま察した。

 

『神官長、緊急事態だ。

 町の外縁に異邦人がいる』

「! ……異邦人。

 オルフェナの民ではなく?」

『ああ、着ている服装からして、明らかにここの文化圏の人間じゃない。

 俺達がここまで発展できたのは、他勢力が周囲にいなかったからこそだ。

 それはお前も理解しているよな?』

「……ええ」

 

 訪れたのか、ついにこの日が。

 それは神様より再三に渡り注意されている予言だった。

 もしかすれば外の世界には、私たちオルフェナの民とは違う民族がいるかもしれない。

 交流に成功すれば利益を得られるかもしれないが、失敗すれば衝突が起きるだろう。

 だから何れ来るその日に備えて準備をしておけと。

 そのため族長一家などの名家は、外敵対策のために怠らず鍛錬を続けている。

 

『異邦人はもうすぐ盆地の畑にたどり着くだろう。

 そして我らオルフェナについての情報を故郷に伝えるかもしれない。

 情報戦で後手に回るのは困る。

 なんとしてでも異邦人をオルフェナに引き留めるんだ』

「かしこまりました!」

『その際に気をつけるべき点が……ん? なに?』

「どうされたのですか?」

『まずい、あいつ引き返しやがった……!

 このままこちらの情報だけ抜き取られるのは困る!

 絶対に逃がすな! なんとしても引き留めるんだ!』

 

 目が覚めると、私は神殿書斎の椅子に座っていた。

 副神官長が心配そうに私の顔をのぞき込んでいる。

 

「お目覚めなられましたか神官長、急にどうされたのですか?」

「お、オルフェナ様より神託を授かったっ」

「なんと!? このような昼間に……いったいどのような神託を!?」

「山の盆地の近くに異邦人が訪れており、その捕獲を命じられた!」

「遂に来ましたか……外の世界から侵入者が!」

「オルフェナ様は随分焦っておられる様子だった! 

 今すぐ全神官に捜索を命じてくれ!

 いいや、神官だけで見つけられるか分からない!

 ケール一族やロアン一族など、名家の戦士達も招集せよ!」

「か、かしこまりました!」

 

 その後私は集められる限りの勢力を集め、異邦人がいるという盆地畑の周囲の探索に当たらせた。

 

「見つけたぞ!」

「逃がすな! 追え!」

「ひ、ひいいいい!」

「待てええええ!」

 

 戦士たちの怒号が鳴り響く。

 そのあまりの迫力に恐れ慄いた異邦人は、白目を剥き、泡を吹いて気絶してしまう。

 

「異邦人の捕獲に成功しました!」

「よくやってくれました!」

 

 よし、恙無く使命を果たせたぞ。

 この異邦人は町で最も堅牢で厳重な地下牢に閉じ込めておこう。

 ふふふ、きっとオルフェナ様に褒めてもらえるに違いない。

 ああ、今から就寝が楽しみだ。

 せっかくだから昼寝でもしちゃおっかなー?

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