ヲタクが文明にもっと輝けと囁いている【配信中】 作:いかのしおから
「一時はどうなるもんかと思ったが、なんとか和解できたな。
それで色々教えてもらったわけだが……あいつ、なんて言ってたっけ」
『異邦人の名前はラズロ。
職業は行商人、亜麻やリネン、羊毛などの布類に加え、畑で採れる作物などの商品を持ってきました。
山の地では入手が難しいため、高値で売れると期待して持ち運んだようですが』
「羊毛の布地以外、どれもオルフェナにある資源だな。
まあ、布類は演劇に使えるし、食料だってあって困るものでもない。
詫びも兼ねて全て買い取るとしよう」
思いついた政策はメモしておく。
神託の時に伝え忘れてしまわないように。
「行商人のラズロとやらはどこから来たんだっけ」
『アルヴェリア王国エルドラン子爵領の城下町です。
エルドラン子爵領はこの山岳地帯と隣接した平原にあり、ラズロはその周辺で行商を営んでいました。
しかし大商人との競合に敗れてエルドラン子爵領周辺での商売が難しくなり、新しい商機を求めてこの地に訪れたそうです。
とはいえ彼は山岳地帯に定住者がいる確信はありませんでした。
古き伝承から山脈へと移り住んだ者がいると聞き、一縷の希望に賭けて訪れたと』
「子爵ってのは、ええと」
『貴族の階級です』
『もう貴族制度なんてできているのか……うちはまだ人口2000を超えて町になったばかりだってのに。
シビライゼー◯ョンだとよ~いドンで始まるよな。
もしかして出遅れた?」
『我々の文明は娯楽文化にかなり偏っています。
また立地が山岳地帯であるため人口増加が困難なのもあるでしょう。
とはいえアルヴェリア王国が誕生したのは、あなたが神として民を導き始めた以前からのようですが』
薄々思っていたがこの文明育成ゲーム。
あまり公平なルールではないらしい。
『アルヴェリア王国は幾つかの貴族領に分割されて統治されています。
エルドラン子爵領もその一つ。
群雄割拠で争いの絶えないこの時代。
民は身を守るべく、戦いを得意とする勢力、すなわち貴族を味方につけるために、税を支払っています。
とはいえ王国に紐付かない独立都市も多く、それらは貴族に税を払わず、自力で防衛戦力を構築しているとのこと』
「もしかして、うちも税を払わないとマズイのか?」
『行商人ラズロは、エルドラン領からオルフェナにたどり着くまで2週間も歩き続けたと仰っていました。
距離は遠く、オルフェナは山地であるため移動も困難、防衛力も高い。
攻め込むにはかなりの軍事費を必要とするでしょう。
エルドランがどれだけ軍事力を持っていても、割に合わないと思われます。
こちらから下手に出て税金を支払いを提案するのは、まだ時期尚早かと』
ふう、良かった。
ただでさえ山地ということで人口を増やすのに苦労しているんだ。
このタイミングで税なんて取られたら増えた人口が減りかねない。
「行商人のラズロ……こいつはどうしたもんか」
『ひとまず最終目標を決めませんか?』
「最終目標?」
『はい、我々の文明が目指すべき最終目標です。
その指標があれば、今後の判断も選びやすくなるでしょう』
「……指標かぁ」
最初の頃、アイが言ってたやつか。
科学勝利、制覇勝利、宗教勝利、文化勝利ってやつ。
「科学勝利は難しい気がする。
俺、科学知識とか全然持ってないし。
制覇勝利も無理だな。
戦争もしたくないから」
『となると残るは宗教勝利と文化勝利か。
科学と戦争よりは適正ありそうだが』
「正直宗教に関しては雰囲気でやってるだけで知識がないから限界が見えてきてる。
文化勝利っていうと、世界中の勢力が侵略できなくなるぐらい、都市に外国の観光客を呼び込むことだよな?
確かシビ◯イぜーションがそんな感じだった気がする」
『イメージは近いですが、守り育むべきは都市ではなく文化。
あなたの興した文化を他の追従ができないほど世界中に浸透させることにあります』
なんつーか……それシビライゼー◯ョンより難くね?
まあ、他に選択肢もなさそうなので、これを選ぶしかないのだが。
「漫画、アニメ、ゲームの知識で文化勝利ルートを目指す。
とりあえず行商人は解放して、隣にあるエルドラン子爵領城下町と貿易を始める。
それと並行して、うちの文化の輸出と、観光地化を推し進める。
まずは神殿の演劇の一般公開枠を増やす、神殿とは別に劇場も建てよう」
『宿泊施設とかも用意しておいた方が良くない?』
「それ採用、宿泊施設も追加で」
漫画やアニメやゲームを輸出できれば最高だったが、今の俺が使える手札はこの程度。
先は長いが、一歩づつ着実に進めていくとしよう。
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「ラズロさん、また来てくれたんですね」
「ああ、愛しのセラちゃんに会うためにね」
「フフ、相変わらずお上手ですね。
今回は何を持ってきてくださったんですか?」
「染料かな、前回随分と喜んでもらえたからね」
「まあ嬉しい!
幾つか買い取らせてください!
対価はいつものように物々交換でよろしいですか?」
「ああ、それで構わないよ」
山岳地帯の定住者改め、オルフェナの民との貿易が始まった。
あの日は死を覚悟したが、持ってきた商品は平原では希少で高価な商品と交換してもらえたため、僕は商人としても一命を取り留められた。
そんな貿易の窓口になったのが彼女、神官にして物書きでもあるセラちゃんだった。
「今日も神殿で演劇が行われると聞いたけど、脚本は今回もセラちゃんが担当したのかい?」
「ええ、最近オルフェナで恋物語の需要が急増しまして。
戦記や冒険譚をご期待していたのであれば申し訳ありません」
「いやいや、そんなことはないさ。
僕はセラちゃんの書いた脚本演劇を見るためにオルフェナにやってきたと言っても過言ではからね」
「さっきと言ってること違いません?」
「何も矛盾してないさ。
演劇脚本も含めてセラちゃんの一部だから」
セラちゃんに会いたいのもそうだし、セラちゃんが脚本を書いた演劇を見たいのも事実だ。
それはおべっかを抜きにした本心からの言葉だった。
僕は新しい土地に辿りつた時は、その土地の文化に触れるようにしている。
勿論今まで演劇を観たことはあったけど、とりわけオルフェナの演劇文化は優れていた。
特に物語の内容に関しては卓越している。
ようやく行商人として復活できたというのに、僕はオルフェナで演劇を見る度に、衝動的に仕事を放り投げて恋愛や冒険に駆け出したくなる欲求に駆られてしまう。
オルフェナの演劇には、それほどまでに抗い難い魅力があった。
「そろそろ俺達も紹介してくれないか?」
「おっとすまない忘れていた。
紹介しよう。
彼らはタルミナ子爵領から連れてきた僕の同業者だ」
背後から声をかけてきた三人の行商人。
彼らを一人づつセラちゃんに紹介する。
この三人は僕が連れてきた。
同じ行商人という商売敵でもある彼らをどうして新市場へと連れてきたのか。
それにはある目的があった。
「確か知り合いを劇場に連れて来れば観劇の半額券を貰えるんだよね?」
「ええ、今回は三人紹介してくれたということで、三つの半額券が発行されます。
神殿に行けば貰えますので、係りの神官にお申し付けください」
「おいおい、まさか俺達を連れてきたのはそのためか?」
「悪いが演劇鑑賞なんて高尚な趣味に払える金は持ってないぞ」
「安心しろ、初見は無料だ。
どうせ今日一日は町に滞在するつもりなのだろう?
絶対に損はさせないから一緒に見に行こう」
「……お前がそこまで言うなら」
「無料なら行ってみるか」
こうして彼らも僕と同じように演劇から抜け出せなくなるのだろう。
一見素朴な田舎町といった風情のオルフェナだが中々侮れない商売匠者だ。
最初は無料で窓口を広げ、半額券を釣り餌に知名度を高めていく。
なんとも顧客の心理をよく理解している立ち回りだ。
まあ、演劇の面白さに絶対の自信があればこそのやり方だろうが。
今でこそ注目度は低いが、俺には分かる。
いずれ確実にアルヴェリア王国を席巻するだろう。
流行とは即ち商機である。
流行りに乗り遅れないよう、今のうちにオルフェナの文化を学んでおかなければ。
つまりこれは先行投資、決して無駄な趣味遣いなどではない。
「──ほう? ここがオルフェナか」
後ろから声が聞こえた。
振り向くと、そこには数人の護衛と、馬に乗っている男がいた。
護衛や馬、着ている服装からして、俺達よりも金を持っていそうな雰囲気がある。
しかし商品は一つも持っていない、行商人ではなく観光客か?
……いいや待て、まさかあの記号は。
「私はガルダン商会のサルディオと言う。
この町が我らガルダン商会にとって貿易を行うに値する市場かを調べに来た。
そこの現地人、案内してもらっても?」
「あ、は、はい」
ガルダン商会か……!
あいつら、周辺地域に飽き足らずオルフェナにまで手を伸ばそうとしているのか。
強欲な奴らめ……!
「セラちゃん連れて行かれちゃったけど、どうするよ?」
「……嫌な予感がする、追いかけるぞ」
ガルダン商会の視察人は、セラちゃんに案内されて町の奥へと進んでいった。
俺達は奴の後を追い、物陰に隠れて観察を行う。
「……未だに石板や木板を使っているのか。
まさか羊皮紙は存在しないのか?」
「よ、羊皮紙とは……?」
「はぁ……その程度のことも知らないとは。
使われている文字も見たことがない田舎臭い文字ばかり。
ここ周辺の共通文字すらも知らないと見た。
とんだ未開の地に来てしまったようだ」
「……演劇を見てはくださらないでしょうか?
演劇は神より授かったオルフェナで最も栄えている文化なのです。
訪れたお客様からの評判も良く、初回は無料でお届けしておりまして──」
「フハハ、このような田舎で演劇だと?
寝言は寝て言え」
あ、あの野郎……!
「神が授けたなどと与太話に加えて、無料ということは客から金を引き出す自信もないのだろう。
この町の価値は十分に理解できた。
得るもののない最低の田舎町だとな。
ああ、とんだ無駄足を踏んでしまった。
タルミナに帰ったら、ヴォルク商会長には貿易の価値なしと伝えておくとしよう」
そう言ってガルダン商会のサルディオは資料館から出ていった。
肩を落としたセラちゃんに俺は声をかける。
「安心しろセラちゃん、今から俺があの野郎をぶっ殺してやるからさ」
「え?」
「大丈夫、武器は持ってる。
自衛用に武器を携帯するのは行商人なら常識だからな」
「な、何も大丈夫じゃありませんけど!?
人殺しは駄目ですって!」
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「な、なんだこいつーっ!!
中身を見る前に評価を決めつけやがって!
てめえみたいなやつがいるからレビューサイトが信用できなくなるんだよ!
あー! 腹立つー!!」
頭に血が上る。
これが俺だけが作ったものならまだ許せた。
だが演劇は幾人ものオルフェナの民が携わり作られたものだ。
なにより一消費者として、こいつの創作への向き合い方が気に入らない、許せない。
『ではどうなさいますか?』
「ぶっ殺……いいや、ぶっ殺すのは駄目だ……!
それじゃあこの野郎に真の敗北を味あわせられない……!
確か、タルミナだったか。
まずはあのバカが住んでる土地にどんな文化があるのかを調べるぞ……!」
久しぶりにキレちまったぜ……!