ヲタクが文明にもっと輝けと囁いている【配信中】   作:いかのしおから

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#18「予想外の発展」

「♪~」

 

 ここは新しく建てられた劇場。

 弦楽器、打楽器、管楽器、鍵盤楽器。

 そして人の歌声。

 様々な音色が重なり合い、反響し、美しい音楽を奏でている。 

 

 現在は演劇を終えた後の演奏時間だ。

 神様の言葉に倣うならエンディング曲。

 演劇本編を視聴した熱狂と疲れが、穏やかな音色によって癒されていく。

 私達は心地のいい倦怠感と寂寥感を味わっていた。

 

 劇団員全てが壇上へ横一列に並び、観客に向けて一礼する。

 すると観客は立ち上がり歓声と拍手を鳴り響かせた。

 

「素晴らしい……!

 セラちゃん! 君は、君たちは天才だ! こんなにも素晴らしい芸術を生み出せるなんて!」

「えへへ、ありがとうございます……!

 でもラザロさんがいなければ、こんなに早く完成に漕ぎ着けることはできなかったと思います」

「そ、そうかい?」

「それはもちろん!」

 

 隣の席に座るラズロさんは照れたように頬をかく。

 まるで本当に意中の異性から褒められたかのような照れ方だ。

 相変わらず人を煽てるのがお上手な方だ。 

 勘違いしそうになるので程々にしてほしい。

 

 神様の命令により音楽を学ぶことになって早二年。

 当初は右も左も分からなかった。

 その際に協力を申し出てくれたのがラズロさん。

 彼は各地を渡り歩いて楽器を買い集め、更には講師の紹介までしてくれた。

 ラズロさんがいなければ、ここまで早く漕ぎ着けることは難しかっただろう。

 この歓声と称賛は、協力者であるラズロさんにも向けられるべきだと、私は思う。

 

「……かなり奇抜な手法を取り入れたため、困惑されるのではと心配していましたが」

「安心してくれ、王国民の民族性からして確実に受け入れられる。

 それは長年エルドラン子爵領周辺で行商人を務めていた僕が約束する」

 

 預言にはなかったアイデアを思いつきで組み込んでしまったが、想像以上に反響が良かった。

 渾身の作品がウケず、逆に手を抜いた作品が大盛況なんてこともザラにある。

 やはりエンタメとは博打のようなところがあるのだろう。

 

「オルフェナの神様も喜んでくださるといいね」

「ええ、そうですね……」

 

 相変わらず自分の能力に自信はない。

 けれどラズロさんが私の作った物を信じてくれるのであれば。

 勇気を出してこのアイデアを世界に送り出したいと思えた。

 

==

 

「ああ〜これだよこれ、すっかり忘れてたぜこの感覚。

 オープニング曲の高揚感から始まり、締めのエンディング曲による余韻。

 BGMや効果音が入ったお陰で、迫力と没入感も段違いだ」

『演劇時間を三十分から一時間に留めたのも良かったな。

 疲れすぎず、満足感もありつつ、ちょっと物足りなさが残る。

 また次の演劇を見たいと思わせる絶妙な塩梅だ』

『こうして比べるとよく考えられてんだな』

 

 それに楽器を使えるようになったということは、温めていた策を実行できる。

 課題だった知名度も、これで解決出来るはずだ。

 

「とはいえ……こんな予想外の方向に発展をするとは。

 この要素ウケんのか? 俺演劇にはあんまり詳しくないから想像つかないんだけど」

『とりあえず入れといてもいいんじゃない?

 オルフェナの文化って硬派さよりも、エンタメ偏重なのが強みだし、相性はいい気がする』

『絶対入れた方がいい、これがあるかないかでアドレナリンとドーパミンの溢れ出す量が桁違いだから』

『ウケなきゃ外せばいいっしょ』

「それもそうだな。

 さて、まずは様子見に隣にあるエルドラン子爵領に劇団を派遣するぞ。

 これをオルフェナ文化伝道の第一歩とする」

 

==

 

「退屈ね……」

「ええ……」

 

 今日も今日とて友達と集まってお茶会をしてみたけれど、早々に話すことがなくなってしまった。

 椅子の背もたれに腰を深く沈めて脱力する。

 

「あなたたち、だらけすぎよ。

 そんな仕事終わりのお父様みたいに。

 年頃の女の子がしていい格好ではないわ」

「でも、あなたもそう思うでしょう?

 この町に刺激はない。

 外から来た行商人ですら市場に並べる商品は見覚えのあるものばかり。

 これで退屈を感じない方が無理というものよ」

「年頃の女の子らしく恋バナでもしてみる?

 でも同世代の異性は鼻垂れ小僧の時から知ってる顔馴染みばかりで、いまいちドキドキしないのよねぇ」

「私たちの家がもっと大きければ、大商人や貴族様のパーティーに参加して、玉の輿を狙えたのだけれど」

 

 生憎とこのお茶会の参加者は職人を親にもつ娘だけ。

 まあ、ただの職人ではなく各職人の親方であるだけ恵まれてはいるのだけど。

 

「──ん? 何かしらこの音」

「外から聞こえているわね」

「……なんだか面白そうな予感がするわ」

 

 音につられて外に出る。

 すると町の出入り口から、ある一団が列を成して歩いていた。

 綺羅びやかな衣装を身に纏い、歌や楽器で音楽を奏でている。

 

「──午後から広場で演劇を開催します! 是非見に来てください!」

「……あれってもしかして、オルフェナ神殿劇団かしら」

「オルフェナ神殿劇団?」

「お父様の取引相手に行商人がいるのだけれど、山の向こう側にオルフェナという町があるそうなのよ。

 そこでは芸能文化が盛んで、連日演劇が行われているそうだわ。

 私も興味をそそられてお父様に観に行きたいと相談してみたのだけど、危険を理由に断られちゃって。

 でも、まさか私達の町にやってくるなんて」

「──そこの君、僕らについて知っているのかい?」

 

 声をかけてきたのは、オルフェナ神殿劇団の一員。

 エキゾチックな衣装に見を包んだ、凛々しい顔立ちの青年だった。

 

「え、ええ。

 お父様が細工職人で、知り合いの行商人から。

 皆様の人気ぶりとご評判はかねがね聞き及んでいますわ」

「それは嬉しい!

 細工職人ということは、もしかすればあなたのお父様が作った物が、僕らの着ている衣装にも使われているかもしれない。

 僕は今代エルヴィス、オルフェナ神殿劇団の看板役者さ。

 お名前を教えてもらっても?」

「わ、わたくしはレーヴェ細工店のリオナです」

「リオナさん、こうして会えたのも何かの縁だ。

 よければ僕らの演劇を観てくれないかい?  

 午後から広場で取り行う予定なんだ」

 

 それは……。

 

「楽しそうですわね。

 ちょうど退屈していたところですの。

 願ってもない話ですわ」

「本当かい!?

 それじゃあ待ってるからね! 絶対来てくれよ!」

 

 そう言ってエルヴィスさんははにかんだ。

 太陽のような屈託のない笑顔だった。

 彼は劇団の行列に戻っていく。

 

「素敵な殿方だったわね」

「どうする? 二人とも?」

「丁度お父様からお小遣いをもらったばかりだから、懐には余裕があるけれど」

「私もよ」

「頼まれたちゃったし……行ってみようかしら」

 

 オルフェナ神殿劇団。

 いったいどんなものを見せてくれるのかしら。

 

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