ヲタクが文明にもっと輝けと囁いている【配信中】 作:いかのしおから
『オッス新人神様、なかなか珍しい政策だな、視聴継続するからこれで頑張れよ/500GP』
「スーパーチャットありがとう子猫ちゃん☆
ちなみに僕は高身長高学歴高収入の3Kイケメンだけど、何か他に聞きたいことはある?
初配信記念に何でも答えちゃうよ☆」
『今更アイドル売りは草』
チッ、今までの会話聞かれてたのかよ。
実をいうと俺は昔から配信文化に憧れており、もし始めたらガチ恋イケボ系VTuberとして女リスナーにモテモテになる夢があった。
……まだ視聴者数は4人しかいない。
今のうちにキャラ固めてブランディングし直すか?
でもスパチャをくれた視聴者を振るいに落とすのはなぁ。
「もしかして顔も映ってる?」
『いいえ、映ってはいません。
配信に載っているのは、村の画面と、あなたと私の声だけです』
「……ならやりようはあるな」
『クソしょうもないこと考えてそう』
『こいつ結構おもろいわ、視聴継続決定』
お、これは別のやつのコメントか?
視聴者数は4のままだが、悪くないコメントの増え方だ。
いいや、それよりも。
「お前らって何者? この空間なに?
どうして俺がここにいる? 連れてきた奴は?
あ、ちなみにうちの配信はアドバイスコメント大歓迎だから」
『言えないんだなーこれが』
「……じゃあ何かいい感じの科学技術を教えてくれ」
『それも無理、検閲されるから』
『【表示できません】。
書いたらこんな感じになるんだよね』
なんじゃそりゃ。
全然役に立たねーぞ。
「ゴッドポイントってのは……?」
『答えられるけどアイちゃんに聞いた方が早いかも』
『ゴッドポイントは消費すると道具と交換できる独自通貨です』
「500GPって書いてあるけど、これって何が買えるの?
日本円だとどれぐらいの価値?」
『500ゴットポイントで500円相当です。
カタログをご覧なさいますか?』
「見る」
うーん……見たところ漫画やアニメ、ゲームなどはない。
マジで生活必需品ばっかだな。
「おすすめを教えてくれ」
『新人神様向け生活必需品セットをお勧めします。
価格は300GP、3日は過ごせる水と食料、調理器具。
更には部屋の隣にシャワートイレルームも設置できます』
「シャワートイレ……そうじゃん、ここトイレねえじゃん!?
このままだと野糞するところだったぞ!?」
『ようやく気づいたか。
スパチャした俺に感謝しろよ』
「マジでありがとう……!」
『この流れなつかしー』
懐かしい……?
もしかしてこいつら俺と似たような立場なのか?
俺、他のやつの配信とか見れねえんだけど。
続けていけば見れるようになるのかな?
なんにせよ助かった。
……とはいえ一つ問題がある。
「でも俺、シャワートイレ苦手なのよね」
『シャワーとトイレが別れたセットもあります。
価格は500GPと少し割高になりますが』
「とりあえずそれで」
『かしこまりました』
アイがそう言うと、カップラーメンとペットボトルに入った水が十個づつ、カセットコンロと鍋が1台づつ、箸とスプーンが一膳づつ、何もないところから現れた。
後ろに物音がしたので振り向くと、二つの扉が設置されている。
「腹減ったから一旦休憩してくるわ」
『おっけー』
『待機』
飯を食い、うんこをして、シャワーを浴びてリフレッシュを終えた俺は、再びパソコンの前に戻ってきた。
「ただいまー。
さぁて、村はどうなっているのやら」
==
『そこで神は仰られたのだ!
我々ケール村の民は神と英雄の血を引いているのだと!』
『『『うおおおおおおお!!!』』』
画面では村の広場でエルンが演説を行っていた。
それを聞いた村人たちは高らかに天へと拳を突き上げ雄叫びをあげている。
「……盛り上がりすぎだろ。
いつの間にか村の名前もケール村になってるし。
そんなに面白かったか? あの話」
『こういう辺境の村落って生きるのに必死で娯楽がねえからなぁ』
『そんな場所に神様がお告げをして、自分の先祖が英雄だと教えてくれたとあっちゃあね』
「村の現状を理解するほど萎えてくるわ。
こっちは楽しませたいんじゃなくて楽しみたいってのによぉ……ん?
あれ、ゴッドポイント増えてないか?」
視聴者からもらった500GPは使い切ったので0だった筈だ。
にもかかわらず3増えている。
スズメの涙ではあるが、それでも確かに。
『それは民があなたに捧げた信仰心です。
民の信仰が増えるほど、定期的に貰えるゴッドポイントは増えていきます』
『この熱量だと祠とか立てられて貢ぎ物とかもされてそう』
『時間スキップしまくると一気にポイントが入るから、飢え死にかけた時の最終手段として覚えといて』
「……俺の初動って平均値的にどんなもんなの?」
『お答えできません』
『言えないんだなーこれが』
またそれかい。
『これで朝礼は終わりとする! では皆の者!
神と英雄ケールに恥じぬよう、今日も精一杯仕事と鍛錬に励もうぞ!』
『『『応!!!』』』
『村の現状を説明します。
まず当初の計画通り、隣村への敵意は緩和され、こちらから感情的に戦争を仕掛けることはなくなりました。
そして鍛錬への意欲が向上し防衛力の強化が着々と進んでいます。
おめでとうございます。
あなたの神託は計画通りの成果をあげました』
「よし!」
『おめでとう』
『おめでとー』
これで漫画とアニメとゲームに近づいた。
この調子で家に帰るぞ。
「次はどうすればいいんだ?」
『隣村への対応が先決でしょう。
信仰に目覚めたケール村は、隣村をロアン村と呼んで友好的に接していますが、隣村は依然としてこちらの領土への侵入を繰り返しています』
「侵入つっても山だろ?
家の中に押し入ってくるわけでもないんだし」
『狩場が被ると収穫できる食料が減ったりするのよね』
「……なるほど」
『ここで私から提案があります。
伝道師を派遣しましょう』
「伝道師?」
……伝道師っつうとあれか。
宗教を伝えるために、遠い場所にまで足を運ぶ。
『ケール英雄譚を学んだ村人の反応を見て、これを隣村でも再現できないかと思いました。
ケール英雄譚を覚えた伝道師を隣村に送り出し布教を行う。
すると隣村は「ロアンの子孫である我々は、ロアンの友であるケールの子孫を尊重しなくてはならない」と考えるようになるかもしれません』
『まあ、悪くはないな』
『他に手立てもないし、これしかないか』
……隣村にケール英雄譚を伝える。
「駄目だ、それで上手くいくとは思えねえ」
『何か気になる点でも?』
「……こいつら、語り部によって英雄譚の内容が変わってるんだよ。
正確に覚えているのはエルンだけだ。
記憶に留められないってことは、さほど覚える価値のないつまらない話だと思われてるってことだろ」
『いやいや、十分面白かったぞ』
『村人も喜んでんじゃん』
『私もそう思います』
「だから気休めはいらねえよ。
好きな物語は読まずとも正確に内容を暗唱できて当然だ。
事実俺はそれができる」
『結構珍しい部類の特技だと思うけど』
「そんなわけがない。
お前らだって、ドラゴン◯ールを一度読めば1話から最終話まで暗唱できるだろう?」
『いいや……?』
『いくら内容が面白くても流石に四十巻以上ある漫画は覚えきれねえよ』
ああもう、なんで俺の意見に共感できないマイノリティばかり集まってるんだ。
『とにかく! あんなやっつけで作った英雄譚だ、こいつらが退屈に思うのも仕方がない。
ああくそ、恥ずかしい。
こんな駄作を村の外に布教して成功するわけがねえ」
『その意見には共感しかねますが、どうなさるおつもりですか?』
「テコ入れをする……少年漫画メソッドを採用しよう」
少年漫画。
漫画発行部数では常に上位を占領している漫画界の王とも言える人気ジャンルだ。
国内外問わず幅広く愛読されており少年漫画に国境はない。
これなら異世界人のこいつらにも刺さる物語が作れる気がする。
「名作の面白い要素を片っ端からパクりまくれば、素人の俺でも多少は見れる英雄譚が作れるだろう……多分。
パクリには抵抗があるが……こっちは命が懸かってるんだ、許してもらおう。
一人で作り直せる自信がないから、お前らも手伝ってくれ」
それから二日後。
視聴者の感想を聞き、アイに推敲を手伝ってもらいながら、ようやく真ケール英雄譚が完成した。
まずはエルンの夢に侵入して内容を伝える。
「聞けエルン。
以前お前に聞かせたケール英雄譚は簡略化したダイジェスト版だ。
これから教えるのが真のケール英雄譚。
毎晩同じ内容を語り聞かせるから、ちゃんと覚えろよ?」
あちらの世界基準で十夜。
俺はエルンに毎晩真ケール英雄譚を語り聞かせた。
喉が掠れるまで、羞恥で心が擦り切れるまで。
「よし覚えたな。
それじゃあ隣村に行って真ケール英雄譚を伝えてこい」
エルンを村の外に送り出し、水を少し飲んで一息つく。
「……あー、ようやく終わった。
さて、結果はどうだ。
タイムスキップして確認するか」
==
「それじゃあ狩りに行ってくる」
「頑張ってねエルン!」
「頑張れー父ちゃん!」
弓と矢を持って、山へと向かう。
木や岩などの遮蔽物に身を隠し、獣道を進んでいると、山の中にある者を見つけた。
隣村の狩人だ。
目が合えば一触即発。
罵声を浴びせ合うのは当たり前。
時には矢を打ち合うことすらあった因縁の相手だ。
とはいえ今は昔の話。
俺は木陰から姿を現し、片手を挙げて声をかける。
「よう兄弟、調子はどうだ?」
「おおエルン様ではありませんか!
成果は上々、本日も山を使わせていただきありがとうございます!
よければ先ほど採れた肉を半分受け取ってくださいませ」
「山の使用料は先日そちらの村長から貰ったが」
「これは私個人のお礼でございます」
「フ……なら俺は山菜を渡そう」
──神より齎された使命、真ケール英雄譚の伝道は果たされた。
ロアン村に行った際、殺気立つ彼らを見て死を覚悟したが、ケール英雄譚を語り聞かせれば、それは全くの杞憂であると理解した。
今まで互いに憎み合っていたというのに、今ではお互いを兄弟と呼び、こうして収穫物を交換できるように。
私は神の導きにより正しく救われたのだ。
とはいえ一つ、問題もあった。
「しかし、まさか我らの先祖が魔物殺しの英雄であり、生き別れの兄弟が魔人四天王の一人だったとは……」
「おいやめてくれ、仕事中に英雄譚は話さないと約束しただろう。
仕事に支障が出る」
「おっとそうでしたな。
フフフ、エルン様が伝道に来た日はすさまじかった。
英雄譚を聞くために、十日間、男衆がまるで役に立たなくなってしまったのですから。
そちらのケール村も同じだったのでしょう?」
「うちの村はもっと酷い、15日間、ろくに仕事に手がつかなかった……俺自身も含めて」
「エルン様は仕方がありませんよ。
神様より直々に授かった英雄譚を覚える必要があったのですから」
真ケール英雄譚は、確かに俺達の失われた古の絆を取り戻してくれた。
そこに間違いはない。
けれど神様の言葉を借りるなら、薬も過ぎれば毒となる、と言うべきか。
今まで物語文化に触れてこなかった俺達にとって、ケール英雄譚はあまりにも劇薬すぎた。
喜び、怒り、哀しみ、楽しさ。
ライバルとの熱い競争、ヒロインとの美しき恋、恩師との別れと託されたもの、諸悪の根源との決戦。
ケール英雄譚とは我々が普通に生きていては一生かけても味わいきれない経験と感情の揺れ動きを体験できるものだった。
話が終われば抜け殻のようになり、もう一度英雄の人生に浸りたいと言葉を紡がせる。
止め時を見失い、それでも名残惜しさを振り払い狩りに出ても、頭の中は英雄譚で埋め尽くされてしまう。
我々は完全にケール英雄譚へと取り憑かれていた。
それでも、英雄譚を悪しき文化と罵る者は誰一人としていなかった。
「これから狩りをされるのですか?
なら私が追い込み役を務めましょう」
「感謝する」
ロアン村の狩人の協力を得て、さらに一羽獲物を狩猟できた。
狩りを終えた俺は家に帰る前に、山の奥に作った祠に向かい、供え皿に今日の収穫の一部を捧げる。
そして目を瞑り手を合わせる。
「あなた様の御言葉によって全てが上手く回っております。
本当にありがとうございました。
どうかこれからも我らを見守りお導きください」
==
「物語にハマりすぎて生産力が下がるとか、そんなのあんの……?
しかもあんなコテコテの内容で。
危うく村の人口が減りかけたぞ……」
『俺こんなイベント初めて見たかも』
『まあ結果良ければ全て良しだろ。
信仰心も爆上がりしてるみたいだし。
ゴッドポイントどれぐらい入った?』
「ええと……うおっ、200GP超えてるぞ」
『信仰値は?』
「信仰値は50だ」
『信仰値=ワンターンで貰えるゴッドポイントだから、普通に作業をしてれば、一日分の食費は稼げそうだな』
『おめでとうございますマスター』
200GPというと200円。
カップラーメン単品が丁度そのぐらいだ。
時計もなければ窓もないので時間は分からないが、肌感覚として600GPぐらいなら急がずとも一日もあれば稼げる気がする。
三食分の食費を賄えるようになったのは、かなりの進歩だ。
水に関しては風呂の水道の水を引っ張ってくればいいので問題ない。
どうやら俺の生活は軌道に乗れたらしい。
『面白かったです/300GP』
「お! また新しい人のコメントが来た!
しかもスパチャつきじゃん! ありがとよ! 助かるわ!」
『ちなみに視聴者数も6人に増えたぞ』
「え、マジ!?」
『好調な滑り出しだな、とはいえこの配信内容ならもっと視聴者がいてもおかしくないと思うんだが』
「嬉しいこと言ってくれるじゃん」
こいつは多分頭がいいな。
おそらく東大やハーバード大学とか超名門大学に通っていたに違いない。
俺は知識面ではただのヲタクだが、地頭がいいから分かるのだ。
『差し出がましい意見で申し訳ありませんが、配信のタイトルを変更しませんか?』
「ん?」
『私見ですがデフォルトタイトルでは、この配信の内容や面白さが伝わりません。
これは閲覧数にも関わってくると思うのですが』
……配信のタイトルつうとこれか。
「新人神様が民を導く配信」
地球の動画サイトならともかく、この妙なコミュニティの配信タイトルとして見れば、確かに特徴がない気がする。
『そういえばデフォルトタイトルのままだっけ』
『変更しようぜ』
「……よし決めた、これでいこう」
【睡眠導入】イケボ神様が囁きながら村を導く配信【ガチ恋注意】──っと。
『そういうのいいから』
『いやー冗談きついっす』
「分かった、今馬鹿にした二人男だろ?
俺が女リスナーにモテ始めると嫉妬するから、そういうことを言ってるんだな?
そんで丁寧語のコメントは多分女の子だ。
なあ君、俺って結構イケボだと思うんだけどさ、どう思う?」
『私の性別や、あなたの声への言及は避けさせていただきますが、この配信の魅力の軸は、そこではないと思います』
「じゃあどこだよ?」
『この際皆で案出し合ってクジで決めたら?
俺達ならお前よりは確実にマシなタイトルを思いつけると思うし。
確か配信機能にコメントのランダム抽選機能があった筈』
「……まあ、今はモテより視聴者数か」
分母が多ければ、その分俺にガチ恋する視聴者も増えるだろう。
イケボ配信者ブランディングは後回しだ。
「それじゃあ行くぞ──ほい」
そうして配信のタイトルは──
「ヲタクが文明にもっと輝けと囁いている【配信中】」
に、決定された。
……こいつ絶対日本人だろ。