ヲタクが文明にもっと輝けと囁いている【配信中】 作:いかのしおから
──タルミナ劇場。
商人の都、独立都市タルミナにある劇場は、未だかつてない盛り上がりを見せていた。
演劇が終わり劇場から出てきた観客は興奮混じりの笑顔を浮かべて、皆が口々に劇団への称賛の言葉を語っている。
驚くべきは、その観客の殆どが、今まで演劇にさしたる興味を示さなかった中流や下流階級だということ。
これは先日、突如タルミナに現れたオルフェナ劇団によって巻き起こされた一大ブームだった。
独立都市タルミナにやってきたオルフェナ劇団。
彼らはタルミナの劇場を借りて客の呼び込みを行い、瞬く間にこの流行を作り出した。
いいや、流行の芽自体は既に育まれてはいたのだろう。
彼らの活躍は周辺地域から伝わっており、知らない者はモグリと称されるまでの話題を生んでいたのだから。
そんな光景を、我々はカフェテラスから忌々しく眺めていた。
「フン、気に食わんな……」
「え、ええ、嘆かわしい光景です」
儂が音を立ててコップを机に置くと、目の前に座る男は肩を跳ねて怯えを露わにした。
それも仕方がないだろう、この状況を形作った原因の大半はこやつの失態が占めているのだから。
「お前はオルフェナ劇団を観る価値のないつまらぬものと断じた。
にもかかわらず世論はオルフェナ劇団に熱を上げておる」
「そ、それは奴らが芸術の分からぬ低俗な愚か者ばかりだからで!」
「我々は貴族ではない。
確かに取引相手には貴族もおるが、大半は農民や市民だ。
商売相手の好むものを見抜けず、それどころか謗るなど、儂らの審美眼が疑われかねん」
「で、では、前言を撤回なされるおつもりですか?」
「いいや」
そんなことは認められん。
どこの馬の骨とも分からぬ新参者風情に、この儂が頭を下げるなど、納得できるか。
「民衆とは熱しやすく冷めやすいもの。
そしてタルミナ周辺は儂らの庭」
「つ、つまり……?」
「貴様とて先の失態を挽回したいだろう?
ならば自然とやるべきことは分かるはずだ」
「! か、かしこまりました……!」
オルフェナ劇団よ。
おぬしらの存在そのものが、儂の看板に傷つけるのだ。
恨むなら己の不運を恨むがいい。
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「は? ……これ俺の見間違いじゃねえよな?」
『目を疑いたくなる気持ちは分かりますが、見ての通りです』
「……なんだこの関税。
行きは普通だったのに、街の外に出るだけで、なんで劇団の稼ぎを全て奪われなきゃいけねえんだ」
目を擦れど表示されている文章は変わらない。
この関税官の野郎は、今回の遠征でオルフェナ劇団が稼いだ収入全てを取り上げようとしてやがる。
「これ違法だろ。
アルヴェリア王国の法律的にどうなんだ」
『違法とは言い切れません』
「は?」
『前提として、タルミナは独立都市です。
アルヴェリア王国政府の支配下にはなく、独自に法律を制定する権限があります。
突然関税の値上げをしたとしても、それを違法と断じる根拠はありません。
一般人がこうした被害を受けた際、所属している国家の政府に仲裁を行ってもらい財産を取り戻してもらうのが定石です。
しかしオルフェナはアルヴェリア王国には所属していない独自勢力ですので、国家政府に助けてもらうことはできません』
「早いとこ貴族か王様にでも頭下げておけば良かったって話か?
でもそれやったら税金取られるし、税金取られたら人口が増え難く……」
『政治ってのは、あっちを立てればこっちが立たずの繰り返しなのよね』
『まだ諦めるには早いんじゃねえか?
劇団の護衛に結構な戦力連れてきてたじゃん』
「! そういえばそうだったわ!」
劇団の護衛として連れてきた戦士団は50人。
対して独立都市タルミナの関税官に従う兵士は60人。
数では劣っているが、決して覆せない戦力比ではない。
それは相手も理解しているようで、戦いの火蓋は落とされることなく、睨み合いが続いている。
「どうなる……?」
緊迫した時間が続く。
暫くして事態は動いた。
予想外の方向から。
「これは……増援?
タルミナ市民が──俺達の味方をしているのか……?」
画面上ではタルミナ市民が、オルフェナ劇団の味方につき、関税官に批判の声を浴びせている。
中には果物や卵を投げつける市民もいた。
『これが文化勝利ルートの強みよな。
他勢力の都市の中に支持者が勝手に生まれてくれる』
『今回は劇団を送り込んだから、だいぶ能動的な政策だけど』
「……これが文化の力か」
いまいちピンときていなかった文化勝利ルートだが、この光景を見てようやく理解できた。
確かに、俺が地球の支配を企む宇宙人だったとしても、任◯堂や集◯社などは襲えない。
それどころか彼らを悪意を持った連中から守るために全力で戦うだろう。
『提示された関税が、一般的な価格まで引き下げられました』
「よし! さっさとずらかれ!」
『オルフェナ劇団は関税を支払い、独立都市タルミナから離脱。
負傷者なし、金銭的損失も最小限に抑えられました』
「しゃあ!」
タルミナからの追手はない。
無事に切り抜けられたようだ。
ほっと胸をなでおろす。
『しかし、誰が糸を引いていたんだろうな』
「え? タルミナ政府じゃないのか?
劇団の所持金欲しさに揺すってきたんじゃ」
『その可能性は低い気がする。
オルフェナ劇団の演劇を見るために各地から結構な数の観光客が訪れてたろ?
観光収入はかなり得られただろうし、劇団が金の卵を産むガチョウだとは、政府側も理解できた筈だ。
にもかかわらず肉を食べたいがために首を絞めようとするのは違和感がある』
「確かに……となるとタルミナ劇場も候補から外れてくるのか?
場所賃代わりに収益の何割か支払ってたし」
『いいや、そっちはむしろ怪しい。
タルミナ劇場って確か、独自に劇団を所有していただろ?
競合相手のオルフェナ劇団を潰すために、関税官に金を握らせた可能性はある』
「だっるっ!
勝負するなら面白さで勝負してこいよ!
裏で生産者同士がゴタゴタすんのが一番つまんねーんだわ!」
『あくまでこれは推測でしかないけどね』
あー、最近頭に血が上ってばっかりだ。
この前ブチギレたばっかりだってのによぉ。
思えば前回キレたのもタルミナ関係だっけ。
俺なんでキレてたんだっけ?
確かタルミナ出身のナントカ商会ってやつが原因だったような──
──え。
「な、なんだこいつら……!?」
『緊急事態発生。
オルフェナ劇団に接近する集団がいます』
凄まじい速度で劇団に迫りくる集団。
それはただの野盗には見えなかった。
人数は100以上。
馬に乗り、鎧を纏い、金属の剣と盾を持っている。
『これは──強盗騎士です』