ヲタクが文明にもっと輝けと囁いている【配信中】   作:いかのしおから

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#21「強盗騎士」

「……大変な目に遭いましたね」

「ですがタルミナ市民の皆さんには助けられました。

 エルヴィスの名を継いだ身としては、あの景色には感慨深い感情を抱いてしまいます」

「確か初代エルヴィス様は、伝道と演劇によって山岳地帯の部族を統一なさられた方でしたよね」

「ええ、故にオルフェナ神殿劇団の看板役者は代々エルヴィスの名を襲名される習わしなのです。

 おそらく初代様も伝道を行う中で、あのような景色を見られたのだと思うと」

 

 確かにあれは見事な景色だった。

 劇団への愛着があのような団結を生み、権力者の悪意を跳ね除けてくれるとは。

 確か預言者エルヴィスの物語は演目にもあったと聞く。

 今度公演日を狙ってオルフェナに行ってみるのもいいかもしれない。

 

「ラズロ殿、少しよろしいか?」

「おやエルンさん? どうなさいましたか」

 

 今回の遠征の護衛団団長であり、オルフェナ戦士団の団長を務めるエルンさん。

 彼もまた伝統の習わしによって預言者エルンの名を引き継いだ方だった。

 

「先の関税の一件だが、ラズロ殿の見解を聞きたくてな。

 ラズロ殿は、あれは誰の思惑によるものだと考える?」

「……おそらく下手人はガルダン商会です」

「ふむ……」

 

 戦士団長エルンは顎に手を当てて考え込む。

 僕の発言の裏にどのような意図があるのか精査しているのだろう。

 

「僕にガルダン商会への恨みがないといえば嘘になります。

 因縁の商売敵ですからね。

 しかしそれを差し置いてもこの手口には覚えがある。 

 ガルダン商会は政府に複数の議席を持つタルミナの実質的な支配者です。

 これまで何度も役人に賄賂を握らせ、気に入らない相手を陥れてきました」

「我らオルフェナはガルダン商会に敵意を見せた覚えはない。

 虚仮にされた恨みはあるが、外に出る際は牙は隠せと神より仰せつかっている」

「逆恨みでしょう。

 ガルダン商会はオルフェナを非文化的な地域と決めつけ、今まで商売の手を広げてこなかった。

 にもかかわらずこれほど知名度を上げて商業的にも成功している。

 それが気に食わなかったのかもしれません」

「……今後タルミナには近づかない方がいいのかもしれないな」

 

 そうした方がいいだろう。

 ガルダン商会と関わっても百害あって一利なし。

 最初は親切に接してくれても、最後は金を巻き上げられる。

 ガルダン商会とはそういう連中なのだから。

 

「これが話に聞いていた分かれ道か……。

 左ではなく右の道に進めばいいのだな?」

「ええ、少々遠回りになりますが、敢えて近道はせず迂回しようと考えております。

 あちらを道なりに進んでいくと、強盗騎士が住み着いた砦があり、不当に税を徴収しているので」

「……強盗騎士か、嘆かわしい連中だな」

 

 戦士団長エルンは悲しそうに目を細める。

 僕ら商人にとっては最悪の連中だが、戦を成業としている彼からすると、何か思うところがあるのだろう。

 

「──エルンさん!?」

 

 エルンさんが急に倒れてしまう。

 慌てて支えたため怪我はないが意識がない。

 いったいどうしたというのだこれは。

 

「まさかこれは」

「伝承に語られる……」

「み、皆さん!? いったいどうしたと言うのですか!? エルンさんが倒れたんですよ!?」

「──ハッ!?」

 

 エルンさんは目を覚ました。

 意識を失ってから十秒も経っていない。

 いったいなんなんだ、こんな症状は聞いたこともないぞ。

 

「強盗騎士団が背後から迫っている!」

「どうして、そんなことが」

「神より預言を賜ったのだ!

 ラズロ殿、この周辺には強盗騎士が住み着いてはいなかったのでは!?」

「そ、その筈です!

 他の貿易商から裏付けも行った最新の情報で……まさか、ガルダン商会が告げ口をした…!?」

「あの連中か……!」

 

 っ!

 マズイ、背後から馬の足音が聞こえてきた。

 まだ姿は見えないが、相当近づいてきているのが分かる。

 

「っ、この先に吊り橋があります! 

 頑丈ではありますが幅が狭く、馬に乗って渡るには躊躇する作りです!

 対岸まで渡りきれば逃げ切れる筈!」

「皆! とにかく走るぞ!」

 

 僕たちは走った。

 この先にある吊り橋を目指して。

 しかし後少しというところで目の前に立ちはだかったのは、鎧を纏い馬に乗った男。

 そう、強盗騎士だ。

 

「止まれ! 貴様らがオルフェナ劇団だな?

 貴様らは騎士たる我々に無礼を働き恥をかかせた。

 よって名誉を取り戻すために、決闘を申し込む。

 決闘は騎士に許された正当な権利だ、異論はないな?」

「ぶ、無礼など働いておりません!

 そもそも初対面の筈です!」

「騎士たる私の発言を嘘だと断じた、それこそが無礼だ」

 

 くそっ、めちゃくちゃな理論だ……!

 

「わ、我々はタルミナの商人で──」

「くだらん嘘をつくな。

 しかしなるほど、自分達がタルミナの商人だと偽れば見逃してもらえると考えたということは、つまり下手人がタルミナの商人とまでは予想できたのか。

 奴らも詰めが甘い」

 

 強盗騎士は俺の予想が当たっていると打ち明けた。

 やはりガルダン商会の仕業なのか?

 

「……お前たちの目的は何だ、誰に依頼された、どうして俺達を狙う?」

「依頼人は教えられないが、貴様らを殺せばかなりの金が貰える約束でな。

 それに随分と稼いだそうじゃないか。

 各地で噂になっているぞ。

 貴様らの商売繁盛ぶりは」

 

 強盗騎士が視線を向けたのは、護衛の一人が担いでいる、沢山の硬貨や物資が入った背負い袋。

 今回の遠征で得たオルフェナ劇団の努力の結晶だった。

 

「こ、この中には神への貢ぎ物も入っているのだ!

 貴様らのような悪しき者たちが気安く触れていいものではない!」

「文句は貴様らが死んだ後に聞かせてもらうとしよう」

 

 周囲は強盗騎士団によって取り囲まれている。

 逃げる隙はない。

 どうする? どうすればいい?

 僕だけでも見逃してもらえないか交渉してみるか?

 一応僕の所属はオルフェナではなくエルドラン子爵領になっている。

 彼らの狙いはオルフェナ劇団だ、上手く交渉すれば逃れられるかもしれない。

 だが……ここで逃げ出せば僕は、二度とオルフェナの民に顔向けできない。

 そうなれば演劇も、セラちゃんとも……それは絶対に嫌だ。

 

「っ! 何をするラズロ殿!」

「ハハハ! 裏切られてしまったな戦士殿。

 いいだろうそこの商人。

 それを渡すならお前だけは見逃してやる」

 

 僕は劇団の財産が入った背負い袋を奪い取った。

 そして走り出す。

──橋のかけられた川の手前まで。

 そして僕はこう語る。

 

「オルフェナ劇団を見逃せ。

 さもなくばこの金品を全て川に流す」

「なっ……貴様」

「オルフェナ劇団が今回稼いだ収入と、お前がタルミナの商人から提示された暗殺の成功報酬。

 どちらの方が稼げると思う?」

「……」

「こちらも戦える人材はいる。

 戦えばお前たちもタダでは済まないだろう。

 選択肢は二つに一つ、さあ選べ」

 

 頼む……見逃してくれ。

 

「……見逃してやる、だからさっさとその袋を渡せ」

「これを渡すのは皆が橋を渡りきった後だ」

「ちっ、さっさと行け」

「ら、ラズロ殿」

「……すいません、勝手なことをして。

 皆さんの命を守るためには、こうするしかなかったのです。

 早く橋を渡ってください」

「……先で待っているぞ」

 

 オルフェナ劇団は全員無事、向こう岸まで渡ることができた。

 

「……こちらは約束を守った、今度はお前が約束を守る番だ行商人」

「……分かった、これは置いていく」

 

 背負い袋を地面に下ろし、吊り橋へと向かう。

 今まで自分を守っていた命綱を手放してしまった。

 不安に胸が張り裂けそうになる。

 頼む、何も起こらないでくれ──

 

「──だが商人風情が騎士たる我々と駆け引きを行うなど無礼千万。

 決して生かしてはおけぬ。

 貴様の命、ここで貰い受けるぞ」

「っ!」

 

 背後から剣が鞘から引き抜かれる音が聞こえ、馬の足音が近づいてくる。

 橋までまだ距離が遠い。

 今から背負い袋を盾にしようにも距離が遠く間に合わない。

 刃が風を切る音が聞こえる。

 このままでは、殺されてしまう──

 

「なにっ!?」

「!?」

 

 甲高い音が鳴り響いた。

 強盗騎士は剣を手放してしまう。

 いったい何が起きたんだ?

 対岸を見れば、エルン殿が弓を構えていた。

 強盗騎士の足元には矢と剣が転がっている。

 まさか……放った矢で強盗騎士の剣を弾いたのか!?

 

「ラズロ殿! 早くこちらに!」

「あ、ああ!」

 

 全力で橋を渡り対岸まで辿り着く。

 後ろを振り向くと、剣を弾かれた強盗騎士が顔を真っ赤にしていた。

 

「田舎者風情が!

 この私の剣に土をつけるなど!

 いいだろう! そんなに死にたいのであれば殺してやる──」

「待て」

「何故だ!? 何故邪魔をする!?」

「よく見ろ」

 

 戦士団は全員弓を構えていた。

 強盗騎士が攻め込むためには、この吊り橋を渡らなければならない。

 橋は逃げ場のない狭い一本道。

 もちろん金属の鎧を身に纏っている彼らだ。 

 矢が当たったとしても弾き返すことはできるだろう。

 だが鎧を貫けないだけで、その衝撃は身体へと伝わる。

 橋の上で矢を受けようものなら、姿勢を崩して川に落ちてしまいかねない。

 

 なにより、こちらには最終手段がある。

 それは強盗騎士が橋を渡っている途中、吊り橋を支える紐を切り落とすことだ。

 僕たちが橋を渡りきった時点で、勝負は決していた。

 

「金品は奪えた、ここが引き時だ」

「……ちっ」

 

 強盗騎士は背負い袋を回収し、馬に乗って去っていく。

 こうして僕らは多くの財産を犠牲にしながらも、全員生きたままオルフェナに帰ることができた。

 

==

 

「マジでよくやったラズロ!

 うちに帰ったら好きな奴とファックしていいぞ!」

『女性の貞操を売り物にするつもりですか?

 そういうのは良くないと思います』

「誰が女だけと言った。

 エルヴィスだろうが神官長だろうが、ラズロが望むなら誰だろうと相手させてやる。

 旅団全員の命を救ったんだ、女だけなんてケチ臭いこと言うわけねえだろ」

『いや、そういうことを言いたかったのではなく……』

『これは男女平等』

『なんてサービス精神が旺盛な神様なんだ』

『受け流されてて草』

「あ、でも物書きはなしで。

 恋愛経験を積んで面白い話が書けなくなったら困るし」

『そして相変わらずの身勝手な執着心』

 

 劇団は無事にオルフェナに帰還した。

 ああ、よかった、本当によかった、誰も死なずに済んで。

 強盗騎士共に追いつかれた時は、もう終わりだと思ってしまった。

 

『遠征の稼ぎか全部奪われちまったのは残念だよな〜』

「命あっての物種だ。

 劇団員が生き残ってりゃまた稼げるだろ。

 てか強盗騎士ってなんだ?

 聞いたことないんだけど」

『王や貴族に仕える騎士でしたが、様々な理由で雇用がなくなり、糊口を凌ぐために強盗してる者達のようです』

「ってことは騎士っぽい姿をしているだけの強盗団なのか」

『いいえ、騎士階級自体は現在も保有しており、領地収入や政府からの補助金も貰っているようです。

 ただ、それだけでは身分相応の生活を維持するのが困難なので、強盗を行っていると』

「……なんじゃそりゃ」

 

 騎士って正義の味方みたいなものじゃないのか?

 そんなダサい真似をするぐらいなら、もう武器全て質に入れて普通に働けよ。

 

「とりあえず当分はタルミナには近づかないことにする。

 そんで護衛も増員。

 あとは……元凶候補の中で一番怪しいのはガルダン商会だっけか」

『ラズロはそう予想を立てています』

「まだ確定情報じゃねえんだよな?」

『現時点では』

「……ちっ、面倒臭え」

 

 とはいえ正体を突き止められても、こちらから打てる手は多くはない。

 できることと言えば劇団の人気を利用してガルダン商会の悪評を流すぐらいだが。

 しかし証拠もなく糾弾すれば、うちの劇団の評判も落ちるかもしれない。

 相手の一番の武器は金で、こちらの一番の武器は人気。

 人気の削り合いになれば不利になるのはこちらだ。

 人気商売の辛いところだな……。

 

「お、新しいイベントか──これは」

 

 表示された文章を見て目を丸めた。

……まさかこんなに早く完成するとは。

 

『おめでとうございます──植物紙が発明されました』

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