ヲタクが文明にもっと輝けと囁いている【配信中】 作:いかのしおから
『植物紙が発明されました』
「キターーー!!!」
立ち上がり拳を掲げる。
来た、遂に来た。
ヲタク文化で世界を席巻する時代が。
「一日に何枚作れる!?」
『現段階では発明されたばかりなので生産体制は整っておりません。
ですが幸いにして周辺には材料となる木々が大量に群生しています。
また育ちの早い針葉樹が材料であるため、植林を行えば継続的に製造が可能です。
今後しばらくはオルフェナで紙不足は起きないでしょう』
「早速アニメの制作に取り掛かるぞ!
そんで今までオルフェナで作られた物語も全部漫画化だ!
作りまくって向こうの世界をヲタク色に染め上げてやる!」
『それは不可能です』
「は?? なんで???」
『技術が不足しているからです』
「技術って、印刷技術か?
木版画ぐらい教えりゃすぐ作れるだろ。
アニメは無理でも漫画ぐらいなら」
『漫画家が存在しません』
「……」
急速に頭の熱が冷める。
「……劇団の背景画家とか、壁画職人とかいたと思うんだけど」
『それらを描く技術と、漫画を作る技術は大きく異なります。
あなたが望まれるような漫画を描かせるためには数多の研鑽と文化的蓄積を必要とするでしょう。
おそらく最初のうちは、まともにコマ割りや吹き出しを描くことすら苦労するかと』
「……この俺としたことが一生の不覚。
壁画制作の段階で漫画調の絵を描くように指示しておくんだった」
そしたら直ぐに漫画を描かせることができたのに。
『ま、最初のうちは皆初心者だ。
練習させてれはいずれ作れるようになれるだろ』
「……それもそうだな。
いきなり完成形に辿り着けないことは分かった。
段階的にやっていくとしよう。
植林紙って売れば買ってもらえるよな?」
『アルヴェリア王国には存在しない資源です、実利的な理由で拒まれる理由はないかと』
「実利的?」
『伝統や歴史的な文脈から、植物紙が下賤な粗悪品として蔑まれる可能性があります。
王国は今まで羊皮紙を使っていた伝統があり、また強度という点で見ても羊皮紙が上回っていますので。
ただ植物紙は羊皮紙と違い生産量が桁違いです。
この世界の紙は需要に対して生産が追いついていないため、量産が可能な植物紙は多くの人々に求められるでしょう』
『おそらく当分の間は上流階級が羊皮紙を、商人や農民が植物紙を使う流れになるんじゃないか』
「なるほどなるほど。
それじゃあ今度行商人に売り込んでみるか」
ラズロには特別安く売ってやるとしよう。
あいつはかなり見どころのある男だからな。
「他に何か使い道を思いつかないか?」
『【表示できません】』
『お答えできません』
「あー検閲か、俺の聞き方が悪かったな。
それじゃあええと、劇団の広告用のビラやチラシは量産できるか?」
『可能です。
オルフェナ周辺には染料資源が不足していますので、モノクロと但し書きがつきますが』
とりあえずチラシは作らせるとしよう。
次はどうするか。
「小説……いいや、ラノベ?
……紙芝居って作れない?」
『……絵を描ける人材が少ないため時間がかかりますが、漫画やアニメほどハードルは高くはありません、不可能ではないでしょう。
しかしどうして紙芝居を?』
「オルフェナ劇団が世間にウケたのは、教養のない一般層にも理解できる内容だったからだろ?
文字だけのビラを伝道師に持たせて朗読させるより、絵がついてる紙芝居の方がもっと普及しやすいかなって」
この世界の住民は、あまり物語や芸術文化に慣れ親しんでいない。
貴族や大商人などの上流階級は知らないが、少なくとも今まで交流してきた行商人や職人、農民層はそうだった。
慣れ親しんでいないということは、その分耐性がなく刺さりやすい。
しかし逆に複雑な内容を理解するための前提知識が欠けていることにも繋がる。
彼らに楽しんでもらうためには、まずはなによりも分かりやすさを重視するべきだろう。
「分かりやすさ……この際、作家に紙芝居用に新しい物語を作らせるか。
徹底的に分かりやすく、子供にも理解できる内容で」
もう一つ妙案を思いついた。
まだ証拠は掴めていないが、ガルダン商会なら心は痛まない。
せっかくだから意趣返しも仕込んでみるか。
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「早く来ねえかなぁ、オルフェナ劇団」
「少し前に来たばかりだろ。
当分は来ねえよ」
弟と駄弁りながら畑を耕す。
会話の内容は今日も今日とてオルフェナ劇団についてだ。
「ちょっと前までは頻繁に来てたのに、なんで今はこんなに待たないといけないんだ?」
「人気が出たからだろ。
こんな貧乏で人もいない村に、たまにとはいえ来てくれるんだから感謝しねえと」
「くそぉ、ガルダン商会に金を毟り取られていねけりゃ、俺たちの方から劇団に会いに行けたのに」
昔はこの村も色々な商人が訪れていたらしいが、ガルダン商会が訪れ、高額でこちらの農作物を買い取り、安価な商品を売り込むようになってからは、親世代は目先の利益に飛びつきガルダン商会とばかり取引するようになってしまった。
結果として他の商人が来なくなり、ガルダン商会は少しずつ農作物の買取価格を下げ、販売商品の値上げを行い村は困窮。
他の商人に助けを求たり、自分達で商隊を組み買い付けを行おうにも、相手は周辺地帯の貿易を牛耳るガルダン商会。
こちらの打つ手は悉く妨害されてしまい、俺達は何時までたっても貧乏から抜け出せずにいた。
「なんかさー。
最初は俺たちしか知らなかったのに。
急に人気になっちまって……寂しくねえか?」
「めでたいことだろ」
「それはそうだけど、今まで近くにいたのに、急に遠くに行っちまった気がして。
兄貴だって分かるだろこの気持ち」
「……」
分からない、とは言い切れない。
最初はこんなに面白いものを俺達だけが知っているという特別感があった。
段々と世間で人気が増していくと、やはり俺達の見る目は間違っていなかったと誇らしく思えた。
けれどオルフェナ劇団がこの村に来る頻度が下がる度に、寂しさに苛まれる。
まるで両思いだと思っていた相手に、自分以外の恋人ができてしまったかのような気分だった。
「とにかく手を動かせ。
せっかくオルフェナ劇団が来てくれても、対価を払えないんじゃ失礼だからな」
「へーい。
……ん? あれ、誰だ?」
林の方からこちらに向かっている集団が見えた。
数は5人と少ないが、周囲を警戒して身を隠しながら、更にはフードを被っている。
見るからに怪しい連中だった。
「盗人か?
どうする? 大人たちを呼んでくるか?」
「いや待て、あれって……もしかしてオルフェナ劇団の戦士と神官じゃね?」
「──お久しぶりです、村に入れていただいてもよろしいでしょうか?」
フードを取った面々の中にはやはり見覚えのあるオルフェナの戦士と神官がいた。
オルフェナ劇団の関係者なら安心して迎え入れられる。
「どうぞお入りください。
オルフェナの戦士と神官様ですよね?
どうしたんですかその格好」
「実を言うとつい先日、劇団が野盗による襲撃を受けまして。
念のために身を隠しながら移動していました」
「な、なんと!? 劇団は無事だったのですか?」
「はい、不幸中の幸いではありますが、死傷者は出ておりません」
「……ここ最近オルフェナ劇団は稼いでいましたもんね」
「ええ……とはいえ金銭以外の目的もあったようで」
「?」
金銭以外の理由?
襲撃者には他になにか目的があったのか?
「まだ確証がないので明言はできませんが」
「……もしかして、ここ最近オルフェナ劇団がうちの村に来れないのは」
「この問題が大きな原因を占めています」
「ゆ、許せねえ!」
弟は眉にシワを寄せていきり立つ。
同感だ。
オルフェナ劇団の演劇は俺達のような農民にとっては数少ない楽しみである。
それを奪おうとするなど許せるものか。
「劇団を守るためには沢山の護衛をつけねばならず、護衛を連れて行くためには大量の食料を用意せねばならず。
こうした理由から、しばらく劇団は遠征を行う回数を減らす方針に決めました。
ただ、代わりと言ってはなんですが、本日は皆様のために面白いものをご用意しまして」
「面白いものですか?」
「はい、きっとこの村の皆さんにも楽しんでいただけることでしょう。
よければ人を集めるのを手伝ってくれませんか?」
「それはもちろん喜んで」
これまで沢山面白い演劇を見せてくれたオルフェナ劇団だ。
きっと期待に違わぬものを見せてくれるのだろう。
そうした実績もあって、村人は直ぐに広場へと集まってくれた。
オルフェナの神官はすでに準備を終えているようで、広場の中央に本立てを置き、そこに数枚の紙を立てかけている。
「皆様ようこそお集まりくださいました。
早速皆様にお見せしたいところですが、事前に言っておくことがあります。
この物語はフィクションであり、実在の人物・団体とは一切関係ありません」
どうした態々改まって。
確かに物語と現実を混同する者は多いが、それを言ったところで没入感が削がれるだけで、オルフェナ側の利益には繋がらないと思うのだが。
「それでは始めましょう。
──平民戦隊コモンレンジャー!
第1話 極悪非道の怪人商会襲来!」