ヲタクが文明にもっと輝けと囁いている【配信中】 作:いかのしおから
「なあなあ! それってコモンレンジャーのベルトだよな!?」
「あ! いいなー! いつ手に入れたの?」
「へへへ、父ちゃんがオルフェナで買ってきてくれてさ」
窓を開ければ聞こえてくる人々の声。
話題は平民戦隊コモンレンジャーで持ちきりだった。
特に子どもたちの支持は厚く、このような夢を語る子供が後を絶たなかった。
「俺! 将来は絶対にコモンレンジャーになって、怪人商会と戦うんだ!」
「俺もだ! あんな悪いやつらは絶対に野放しにしちゃいけない!」
「皆で力を合わせて怪人商会を打ち倒そう!」
コモンレンジャーになって怪人商会を打ち倒す。
そんな言葉が口々に語られている。
とはいえ、全ての人間が同じように考えているわけではなかった。
「ふっ、コモンレンジャーになって怪人商会を打ち倒すだって?
イタタタタタタ、現実と物語の区別がつかないなんて、君達まだまだ子供だね」
「な、なんだと!?」
「そういうお前は将来何になるつもりだ!」
「そんなものは決まってる。
行商人になって困窮する村や町に商品を届けに行くか、
もしくはガルダン商会の悪虐に対抗するために、この町の政治に携わるかのどちらかだ」
「……結局根っこは俺達と同じじゃねえか」
普段はマセたことばかり言う大人びた子供ですら、ガルダン商会への対抗心を燃やしている。
物語と現実、関心を抱く舞台に差はあれど、悪を許さぬ正義の芽は、着々と育まれつつあった。
──そうした光景は、独立都市タルミナでも変わらず繰り広げられていた。
「窓を開けるな! さっさと閉めろ!」
「も、申し訳ありません!」
「はぁ、はぁ、くそっ!」
ガルダン商会の会長ヴォルクは拳を机に叩きつける。
それを聞いたサルディオは大きく肩を跳ねさせた。
サルディオが怯える度に、愉悦心を満たしていたヴォルクも、今となっては苛立たしい感情を抱くだけ。
ヴォルクは肩で息をしながら、サルディオを睨めつける。
「あの日以来、オルフェナの人間はタルミナに近づけなくなった筈だ。
にもかかわらず、どうしてここまでオルフェナ劇団が話題になっている?」
「ど、どうやらオルフェナが流布しているこのようなものがタルミナにも流れ着いたようで……」
「な……っ、こ、これは羊皮紙ではないぞ!?」
サルディオが懐から取り出したのは、紙芝居屋が配っているチラシ。
そこにはコモンレンジャーの台詞台本が記されている。
「なんだこれは、なにでできている?」
「わ、分かりません。
ただ、どうやらオルフェナには紙を大量に生産する技術があるようで、これに台本形式で我々を揶揄した物語を書き、各地にばら撒いているようです……」
「おいサルディオ、オルフェナは羊皮紙すらない未開の地ではなかったのか?」
「わ、私が視察に行った際は確かに粘土板や木版しか使っておらず──」
「言い訳は聞きたくない!」
「も、申し訳ありません……!」
サルディオはただ頭を下げるしかなかった。
嵐が過ぎ去るのを待つように。
けれどヴォルクからの追求は止まらない。
「……貴様の担当区域だった村や町で、これで取引を打ち切られたのは何件目だ?」
「……な、七件です……!」
「この愚か者めぇ!」
商会長ヴォルクの拳が、サルディオの頬を打ち抜く。
たっぷりと脂肪を蓄えた身体から放たれた体重の乗った一撃は、サルディオを横転させた。
「オルフェナの旅団はまだ仕留められないのか!? 不良騎士共は何をやっている!」
「も、申し訳ありません……!」
サルディオはただ頭を下げるしかなかった。
自分の失敗によって現在の状況に陥ったことを理解しているのもあるが、それ以上にヴォルクに逆らえば破滅させられてしまうからだ。
「サルディオ! 今すぐ議会に掛け合い、オルフェナに纏わる物品の所有、発言の一切を禁ずる法律を制定せよ!」
「か、かしこまりましたっ」
「……こうなれば最終手段だ。
もうなりふり構ってはいられない……!」
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『独立都市タルミナがオルフェナへの侵攻を計画しています』
「え……」
それって……まずくない?
「お、お前らの予想だと、あっちにも面子があるから、戦争を起こすまではいかないって結論が出たんじゃなかったっけ」
『その筈だと思ってたけど……』
『今タルミナが戦争仕掛ける意味あるか?』
『ない、うちって山地で道も整備されていないから行軍するだけで金が山ほど飛ぶ。
マジで採算取れない』
『ガルダン商会の私怨じゃね』
『だけど侵攻してるのは独立都市タルミナだぞ?』
『あいつら結構な数の議席持ってるって話だし、やろうと思えばできるでしょ』
「……もしかして追い詰めすぎた?」
『想定以上にヒーローショーの宣伝効果があったようで、その影響はタルミナの市民まで波及していました。
周囲の声に耐えきれず、ガルダン商会が議会に掛け合う形で軍を起こしたというのが、最も有力な推測となっています』
つまり自傷覚悟の侵攻ってこと……?
『効きすぎて草なんよ〜。
いや、草生やしてる場合じゃねえぞこれ』
『だから言ってたやん! 独裁政治寄りの国家は地政学より人文学的な視点で動きを予測しろって!』
『いや、タルミナは議会制だったし』
『まあ一周目は仕方がない。
次に切り替えていこう』
「切り替えられるわけねえだろ!」
『──皆様誤解されているようですが、まだタルミナ軍は出発していません。
それどころか軍隊の編成も行われていません』
え。
「どういうこと……?」
『独立都市タルミナには常備軍が存在します。
しかし規模は小さく、都市防衛用の専守兵しかいません。
侵攻用に軍を起こすとなれば各地から傭兵を募る必要があります。
タルミナ軍がオルフェナに侵攻するのはしばらく後になるでしょう』
「……つまり、まだ猶予があるのか?」
『はい』
な、なんだよ驚かせやがって……。
思わず天井を見上げる。
相変わらずシミどころか傷一つない天井だ。
「ちょっと休憩、コーヒー淹れてくる」
カセットコンロで湯を沸かし、インスタントコーヒーの粉を入れる。
苦いのは嫌いなので砂糖とミルクを3つずつ。
ぶっちゃけコーヒーは好きではないが、安価でカフェインを摂取できるので常備してる。
よし、目がパキついてきた。
「うっす、ただいま」
『おかえりー』
「一旦状況を知りたい、タルミナはどうなってる?」
『上層部についてはこれ以上の情報はありません』
「なら一般市民は?」
『現在タルミナの一般市民はタルミナ政府の政策によって、オルフェナ文化に纏わる物品の所有、発言の自由を奪われています。
元々ガルダン商会一派の議員によって重税を課されていることもあり、かなり不満が高まっているようです』
「……ふむ」
後で役に立つかもしれない。
これについては覚えておこう。
『アルヴェリア王国政府は?』
「関与せずです」
「エルドラン子爵領は?」
『平民の多くはオルフェナに協力的ですが、エルドラン子爵は中立を貫きたいようです』
「オルフェナは?」
『不安はあるようですが、皆あなたを信じて耐えています。
これまでのように神オルフェナは、必ず民を正しき道に導いてくれると』
嬉しいことを言ってくれるじゃないか。
『──どうやら運命はあなたに味方したようです』
「ん?」
『漫画の完成原稿が発表されました』