ヲタクが文明にもっと輝けと囁いている【配信中】   作:いかのしおから

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#28「アルヴェリア王国」

 アルヴェリア王国王都ヴァルモント。

 その王城の最上階にある一室にて、三人の人物が集まっていた。

 参加者は、

 

 国王アレクシス・ヴァルモント・アルヴェリア。

 宰相セドリック・アッシュフォード。

 元帥エドガー・レイヴンウッド。

 

 つまりこれから始まるのはアルヴェリア王国の政治を左右する事前協議である。

 

「緊急事態です」

 

 そう切り出したのは宰相セドリック。

 面長な顔に神経質そうな切れ長の瞳、白髪をオールバックにした老人。

 彼は懐から一通の手紙を取り出す。

 

「エルドラン子爵から連絡がありました、オルフェナに看過できない動きがあったようです」

「看過できない動き……?」

 

 そう返すのは国王アレクシス。

 彼は上座に座り椅子の手摺に肘を乗せ、頬杖をついている。

 年齢は50代中頃、矍鑠としていながらも貫禄がある、王として脂が乗り始めた年頃だ。

 

「オルフェナというと、エルドラン子爵領と隣接する山岳地帯、その山中に見つかった町の名前でしたよね?」

「彼らの信仰する神の名前でもあるという」

「異教徒ですか、布教を始めたというのなら問題ですね。

 我がアルヴェリア王国は星教を国教に定めていますから」

 

 そう語るのは元帥エドガー。

 身体中には無数の傷を負い、眼帯によって片目を隠しているが、その覇気は健在。

 先の隣国との戦争で王国に勝利を齎した立役者だった。

 

「いいえ、オルフェナはよく弁えています。

 オルフェナ内で育んだ信仰は演劇に取り入れる程度で布教はせず、王国の信仰する星教との対立も避けている。

 異教徒の異民族の田舎者にしては、珍しく礼儀を知っている」

「……異民族と交流すると、文化的な衝突が起きがちだからなぁ」

 

 国王の脳裏に浮かんだのは、今まで外交してきた異民族の数々。

 百数十年近く交流をしているというのに、未だ王国の文化を理解せず問題を起こす連中がどれほど多いことか。

 それと比べればオルフェナは関わりやすい民族なのかもしれない。

 

「では軍備の拡張でも始めたか?」

「いいえ、その様子はないと聞きます」

「なら商人共のように、妙な金の使い方をして経済を滅茶苦茶にし始めたのか?」

「その様子もないと」

「では何が問題だというのだ。

 オルフェナなんぞ、少々演劇文化が盛んな程度の小さな町だろうに」

 

 宗教、軍事、経済。

 政治的な軋轢を生む要素を並べたが、どれも違うという。

 国王にはこれ以外の可能性は思いつかなかった。

 

「少々どころではなかったのです」

「演劇が? ……それが国家を揺るがす話になるとは思えんが」

「一連の流れを説明するために、まずこちらをご覧ください」

 

 宰相セドリックが取り出したのは、漫画コモンレンジャーの単話本を二冊。

 受け取った国王アレクシスと元帥エドガーは興味深く表紙を見つめる。

 

「これは……羊皮紙ではないな?」

「ええ、どうやらオルフェナは羊皮紙以外の紙を製造する技術を開発したようです。

 紙は大量にオルフェナ周辺に出回っており、羊皮紙とは比べ物にならない生産速度で量産されています」

「良かったな宰相、これで仕事が捗るぞ」

「その分仕事も増えそうですがね。

 それよりも、私が見てほしいのは中身の方です」

「ふむ──ん!? うおっ!?」

 

 国王アレクシスと元帥エドガーは驚きの声を上げた。

 なにしろ全てのページが絵で構成されていたからだ。

 読み方を教わった二人は夢中で読書に没頭した。

 

「楽しめましたか?」

「ああ……これは中々に興味深い」

「ええ、少々奇抜な作りで面を食らいましたが、物語の内容はよく練られています」

「その2冊の同じページを見比べてください。

 普通人の手で二度書けば、僅かでも線は変わります。

 しかし絵の形や文字の形すらも全く同じ。

 これが意味することはすなわち、オルフェナには一度書いたものを他の紙に転写する技術があるということです」

「……」

「この圧倒的な広報力を以て、オルフェナは文化を拡散。

 これによりエルドラン子爵領の平民や独立都市タルミナの市民から圧倒的な支持を獲得。

 そして──タルミナで革命が発生。

 オルフェナと対立していたガルダン商会は、タルミナの商人や市民の自主性により粛清されました」

「……待て、ガルダン商会といえば周辺地域を牛耳る大商人であり、タルミナに多数の議席を持つ支配層だった筈だ。 

 ただの本が、権力者を打ち倒したというのか……?」

 

 革命。

 それはこの争いの絶えない時代では、よくある出来事だった。

 しかしそれは基本的に武力によって決起するものであり、文化によって革命が成るなど聞いたことがない。

 

「既に山岳地帯周辺ではオルフェナ文化圏と呼べるコミュニティが発生しており、凄まじい勢いで拡大しています。

 早急な対策を講じる必要があります」

「……これ以上オルフェナ文化が広がる前に、軍を動かし鎮圧しますか?」

「……駄目だ、それをやればガルダン商会の二の舞になりかねない。

 侵略を果たしてもあんな飛び地だ、管理も難しいだろう。

 オルフェナへの対応はもっと慎重に行うべきだ。

 爵位を与えてこちらに迎え入れるか……?」

「お待ちください。

 アルヴェリア王国は原則貴族の血を引く者しか貴族になることは許されていません」

「そんなもの貴族の娘を嫁がせるか、家系図を書き換えればいいだろう。

 新興貴族共は皆それをやっておる」

「……そこについては目を瞑るとしても、もう一つ懸念点があります。

 オルフェナは異教徒です、貴族として迎え入れようものなら国教たる星教が黙ってはいません」

「オルフェナを星教に改宗させるのはどうだ」

「困難でしょう、彼らの信仰は厚く、また町の有力一族は神オルフェナの血を引いている英雄の末裔だと信じています。

 彼らから信仰を奪おうものなら確実に反発されるでしょう」

「……困ったな」

 

 頭を悩ませる面々。

 このままオルフェナを放置する選択はありえない。

 どうにかして首輪をつけなければならない。

 しかし星教の影響力が邪魔をする。

 

「……星教の問題はオルフェナに自力で何とかしてもらおう」

「よろしいのですか?」

「面倒事は押し付けるに限る。

 どの道オルフェナが影響力を広げていけば、いずれ星教とはぶつかるのだ。

 遅いか早いかの違いよ」

「……かしこまりました」

 

 爵位を与えるということは、王の仲間として迎え入れることと同意義だ。

 しかし一から十まで面倒を見てやるつもりはない。

 自力で生き抜けぬというのなら、それまでだ。

 

「儂にはこの文化が王国にとって良きものなのか、悪しきものなのかを測りかねておる。

 確かめさせてもらうぞオルフェナ。

 まずは王都に招く。

 恭順の意思を示さぬというのなら──エルドラン子爵領やタルミナも含め、文化圏丸ごと焼き払わせてもらうぞ」

 

 敵対した際の最終手段、それは殲滅。

 オルフェナの町を打ち倒しても、文化が生き残り敵対を続けるというのなら、根本から断ち切るまで。

 国王に油断はなかった。

 文化が国家を揺るがしかねない脅威を正しく認識していた。

 

第二章 劇団編 了

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