ヲタクが文明にもっと輝けと囁いている【配信中】   作:いかのしおから

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#3「英雄」

「ようカイル。

 今から皆で最強議論をする予定なんだが、お前も一緒にどうだ?」

「……遠慮しとく、今から弓の鍛錬をしなきゃいけないから。

 お前らも遊んでる暇があるなら鍛錬の一つでもしたらどうだ?」

「お、おい」

 

 はぁ……くそ。

 どいつもこいつも、口を開けば同じ話ばかり。

 ああ気に食わねえ。

 あいつが来てからこの村は変わっちまった。

 

 隣村の村長エルン。

 突然うちの村に来たあいつは、聞いたこともない俺達の先祖の歴史を語り始めた。

 最初は眉を顰めたが、あのように真に迫り感動的な物語を、隣村の連中如きが作れるわけがない。

 神の存在は疑わしいが、実在した歴史だという点には納得を示すとしよう。

 先祖同士が仲良くしていたのだから、俺達も手を取り合うべきだという主張にも、一理あると認めよう。

 だが、

 

「……あいつらから受けた仕打ちを忘れちまったのかよ。

 しかも山の使用料なんてものを払っちまってさ。

 自然の恵みは皆のものじゃねえのか?

 そもそもあんな雑魚村の村長なんかにペコペコへりくだりやがって。

 神様に選ばれたからといって、それで急に強くなったわけでもねえのに。

 俺が村長になったら、こんな腑抜けた空気は終わらせてやる」

 

 親父もそろそろ歳だ。

 代替わりの時期が近づいてきている。

 そうなれば俺が村を引っ張っていかなくちゃいけない。

 村の長として舐められないためにも、もっと鍛錬に励まなければ。

 

「……ん? あれは──川向いの連中か?」

 

 丘から森を見下ろすと、はるか先に沢山の人影が見えた。

 

「ん? 川向いの連中だけじゃない、崖向いの連中もいる……」

 

 しかも良く見れば、弓や矢筒だけではない、槍などの武器を持っている。

 

「なんであいつら、こっちに向かって──まさか」

 

 まさか手を組んでうちに略奪を仕掛けに来たのか……?

 

「み、皆に伝えねえと!」

 

 俺は脇目も振らず走り出した。

 

==

 

『ロアン村が攻め込まれました』

「え」

 

 カップラーメンに湯を入れて待っていた時、アイからそんなことを言われた。

 

『おー遂に盤面が動いたか』

「攻め込まれたって何処から?」

『ロアン村から見て川向いにある村と、崖向いにある村が同盟を組んで仕掛けたようです』

 

 パソコンを操作して確かめると、アイの言っていた通りの情報が表示されている。

 川向いと崖向いつーと……あっち側か。

 

『どうするよ、助けるか? それとも見捨てるか?』

『戦力的にはロアン村が3、川崖連合が6、ケール村が2となります』

「……ケール村とロアン村が組んでも5……まだ賭けに出る段階じゃない、見送るしかねえ」

『でもケール村のやつら、勝手に助けに行きそうじゃね?』

「え?」

『ほら、ケールによるロアンへの約束。

 先祖の果たせなかった誓いを、子孫の俺達が果たすんだーって。

 なんであんな話入れたの? しかも助けた側じゃなくて助けられた側だし。

 ロアンとケールが一緒に戦ったってだけでよかったんじゃね?』

「……お、俺だって考えがあったんだよ。

 助けた側や対等な立場だと、ケール村の連中の態度がデカくなるかもしれねえし。

 そのせいでロアン村に反発されたら本末転倒だろ?」

 

 この展開を予想していなかったわけではない。

 もしかすれば英雄譚きっかけでロアン村を助ける流れになって、売った恩から同盟を結べればという下心もあった。

 だが早すぎる。

 神託を授けて防衛力の強化を図ったが、ようやく芽が出始めたばかりだ。

 戦争に参加できる戦力は整っていない。

 

「もうケール村は戦支度を始めているのか?」

『まだです、この情報はロアン村に住まうあなたの信者から齎された情報です。

 ケール村にこの情報はまだ届いておりません』

「黙ってるっつうのは……」

『先ほどロアン村からケール村に救援要請を求む伝令が送られたようです。

 彼らがこの話を知るのも時間の問題かと』

 

 ああもう。

 

「言って止めるしかねえ……!

 ああそうだ! まだ日中だ!

 救援要請が来る前に早く寝ろお前ら!」

『所有ゴッドポイントを半分消費すれば日中でも神託を授けられますが』

「それだ!」

 

 どうせ今のゴッドポイントなんて高が知れてる。

 俺はすぐさまエルンに神託を送った。

 

「聞こえるかエルン!」

『おお神様! このような日中にも声をかけてくださるとは!

 よもや賊に襲われたロアン村の件でしょうか』

 

 既に救援要請はケール村に届いていたか。

 だがまだ出発はしていない様子。

 間に合った……。

 

「……そ、それでなエルン。

 その、俺はケールを生み出すのに力を使い果たしてしまって、まだ力が全然回復していなくてな。

 力を授けてくれとか言われても、ちょっと今は都合が悪くて、だから──」

『分かっております!

 戦場に旅立つ私達を激励するために、お声がけくださったのですよね!?』

「え、ええと……」

『あの日の鍛錬に励めというお言葉は、この日のためだと理解しました!

 問題ありません! 私達はあなた様の御言葉に従い鍛錬を続けていましたから!』

「……あー、うん、そうだな。

 運命はお前達に味方している、勝利はケールの子孫のものだ」

『おお! なんという心強いお言葉!

 神と英雄ケールの名の下に、勝利を我が手に!』

 

 神託が終わると、すぐさまエルンたち男衆は出兵した。

 

「ちくしょう、勢いに押し切られた……!」

『あーあー』

『やっちまったなぁ』

「くそ、こうなった以上は被害を最小限に抑えるしかねえ。

 ロアン村にも俺の信者がいるって言ってたよな?

 そいつらに神託を送ることは」

『可能です』

「エルン達が着くまで耐えるよう言い含めておかねえと……!」

 

==

 

「ちくしょう! あいつらよくも親父を……!」

「顔を出すな! 射抜かれるぞ!」

「このまま待ってたところでジリ貧だぞ!?

 ならせめて一人でも多く殺して……」

「やめろ! 自棄になるな!

 行ったところで無駄死にするだけだ!」

「じゃあどうすりゃいいってんだよ!」

 

 運良く森を移動する奴らを見つけられたお陰で、奇襲は免れた。

 しかし数の差は遺憾ともしがたく、最初のぶつかり合いで親父が殺されてしまう。

 相手にも負傷者を出せたため、睨み合いの状況にまで持ち込めたが、この状況もいつまで続くことが。

 村長だった親父はもういない。

 息子の俺がなんとかしないと……!

 

「!」

 

 後ろで何かが倒れる音が聞こえた。

 振り向くと男衆の一人が倒れている。

 

「お、おい、まさか射抜かれたのか!?

 射線は──」

「い、いや、血は流れていない……眠っているだけだ」

「どんな度胸してんだよ……寝不足だったのか?」

「そんな様子はなかったが……」

「一先ず叩き起こせ、こんな場所で眠ってたら一生起きられなくなるぞ」

 

 ビビらせやがって……。

 

「んあ」

「起きたか、まったくここは戦場だぞ」

「ご、ごめん。

 ん? ……! そ、そうだ、皆!

 今さっき夢の中で神様と会ったんだ!」

「なに?」

「ケール村の戦士を遣わしたから、それまで耐えろ、村に立て籠もり続けてろって!」

「神様が……?」

「本当なんだよ! 信じてくれよ!」

「……どうするカイル?」

 

……現状の人数差は不利。

 このまま挑んだところで敵いはしない。

 他に手段はない……。

 

「……信じよう、俺達が略奪を退けるにはそれしかない」

 

 それから俺達が十分間、牽制に徹して耐え続けた。

 するとすぐさま事態は動き出した。

 

「! ほ、本当に助けが来たぞ!?

 奴らの背後から攻撃してるのってケール村の連中だよな!?」

「混乱している今が好機だ! 挟み込むぞ! 出陣だ!」

 

 今回ばかりは俺の意見に反対ばかりしていた男衆も、異論は唱えず付き従ってくれた。

 まさか、ここから巻き返せるのか?

……だが一つ懸念があった。

 

「ふ、ふん! 誰が邪魔しに来たのかと思えば山村の雑魚どもか。

 山村など物の数にもならん! 蹴散らせ!」

 

 そうだ、助けに来てくれたとはいえ、この山の地で最も弱いケール村だ。

 略奪は失敗続きで、逆に略奪ばかりされている。

 力も技術も根性も、特筆すべきところは一つもない。

 ケール村の力をどこまで信用できるのか。

 

「舐めるな! 我らは英雄ケールの子孫にして神の加護を受けし者!

 我々を侮ったことを後悔させてやる! 行くぞ皆のもの!」

「おおおおおおおお!!」

 

 しかし俺の不安は杞憂だった。

 それどころかケール村の戦士たちは、まるで死を恐れぬが如く果敢に挑み続ける。

 彼らの鬼気迫る勢いに怯え、川崖村の連中は、蜘蛛の子を散らすように逃げていく。

 

「か、勝ったのか……?」

 

 勝った。

 勝ってしまった。

 あの絶望的な戦況を覆して、俺達は生き残ったのだ。

 川崖村の連中はどこにもいない。

 俺たちの村は救われたのだ──

 

「──エルンが倒れているぞ!」

「!」

 

──とはいえ、失われてしまった命もあった。

 

「え、エルン! お前、腹から血が……!」

「ごふっ……奴らを追い払うまでは耐えられていたが……どうやら俺の命はここまでらしい」

 

 戦士たちの先頭に立ち、最も勇敢に戦った男──ケール村の村長エルン。

 彼は地べたに横たわり、腹から真っ赤な血を流している。

 傷は一つだけではない、見えるだけでも三つも血が流れている傷がある。

 もう助からないことは一目瞭然だった。

 

「ど、どうして俺たちを助けてくれたんだ。

 そんなになるまで……!」

「……ロアンの子孫よ。

 これで約束は果たしたぞ」

「!!」

 

 約束。

 それはケールがロアンに立てた誓い。

 ロアンに危機が陥った時、ケールが助けに行くというもの。

 ケールが無理なら息子が、息子が無理ならその子孫が。

 こいつは、エルンは、その約束を果たすために命を投げうったのか……!

 

 ああ……涙が溢れる。

 感情が抑えられない。

 俺は、俺はこの男に報いなければならない。

 こいつが眠りにつく前に、その心に僅かでも救いを与えなければ。

 何か、何か言えることは──そうだ。

 これだ、これしかない。

 

「次期ロアン村の村長として誓おう!

 ケール村が危機に陥った時、必ず助けに行くと!

 俺が無理なら息子が! 息子が無理なら俺の子孫が!」

 

 絶対に果たす。

 上辺の言葉ではない。

 俺はこの誓いを必ず果たさねばならない。

 生涯にわたって、子や子孫に託してでも。

 必ず。

 

「ああ……神よ、あなたの導きは最後まで正しかった。

 ありがとうございます。

 もう悔いはありません──」

 

 そしてエルンは……。

 ロアン村を救った英雄は──

 

 こうして永遠の眠りについた。

 

==

 

『エルーン!』

『嘘だと言ってくれー!』

『惜しい男を亡くしてしまった……!』

『覚悟はしていたけど悲しいなぁ……』

 

 続々とコメントがなだれ込む。

 視聴者数は14人。

 配信タイトルを変えた影響か、今までにない盛り上がりを見せている。

 とはいえ、それを素直に喜ぶ余裕はなかった。

 

「自分の馬鹿さ加減が本気で恨めしくなってきた……。

 俺がもっと上手くやれてりゃ、ちゃんと勉強して技術を与えられていれば、こんなことには……」

『あんたはよくやってるよ』

『こういう出来事って、神様やってると必ず遭遇するもんだから、あんまり思い詰めすぎんなよ』

「……立ち直るにはしばらく時間がかかるかも。

 しかしなんで勝てたんだ?

 辛勝ならともかく優勢で」

 

 戦力比は川崖同盟が6 、ケールロアン同盟が5。

 勝負はやってみないと分からないとは言うが、だとしても違和感のある勝ち方だ。

 

『それはおそらく士気の違いでしょう』

「士気?」

『生活のために食料を奪いに来た略奪者と、命懸けでロアン村を助けに来たケール村。

 その意思の差が戦力差を覆したのだと思います』

『不意打ちできたのもあるだろうね』

『もしかしたらケール村の戦力だけでも追い返せてたかも』

「なんで、死んでもいいなんて思えたんだ。

 なんで、そこまで……」

『あんたを信じたからこそだよ。

 人間ってのは信じられる神様がいれば、どこまでも勇敢になれるからな』

 

……俺を信じた結果か。

 

「……あんなに頑張ったんだ。

 あいつらの守ったものが壊れないよう、ちゃんと見守ってやらねえとな」

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