ヲタクが文明にもっと輝けと囁いている【配信中】 作:いかのしおから
画面上には西洋風の城が映っている。
ここはアルヴェリア王国王都ヴァルモント。
俺の送った使節団は、ヴォルモント城の中で眠りについていた。
「さてさて、会談の結果が出たわけだが」
ずずずとコーヒーを啜り、一息つく。
『会談内容としては、オルフェナ側はアルヴェリア王国に下り叙爵を受け入れる意思を表明。
製紙技術と印刷技術を提供。
特許法の制定と特許の取得を要求。
アルヴェリア政府は、オルフェナの技術提供の功績と、山地を切り開き町を開拓した功績を合わせ、男爵位の叙爵を提案しました。
また特許法についても一考すると』
「結構いい流れだな」
『とはいえ、一つ議題ができました。
アルヴェリア王国の慣習上、貴族になるためには貴族の血縁者でなければいけません。
オルフェナには貴族の血縁者がいないため、よって婚姻で貴族の血を取り入れるか、家系図を書き換える必要があります』
『定番の婚姻政策と血統ロンダリング来たー!』
『うおおおおお!』
『げへへへ! 貴族のお嬢様をオルフェナのど田舎に連れ込んでやるべ!』
『かわいい子にしよう! かわいい子に!』
盛り上がりすぎだろこいつら。
「婚姻政策と経歴ロンダリング。
どっちを選ぶかで利点はあるのか?」
『婚姻政策であれば貴族の血縁者が生まれるまで爵位は得られませんが、血統に疑いの余地はありません。
経歴ロンダリングであれば今からでも爵位を得られますが、嘘がバレれば評判が下がります』
「別に急いでないし、前者の方が良さそう……いいや、どっちも採用するか。。
どのみち貴族の血を取り入れるつもりなら、嘘がバレてもリスクにはならないだろ」
『それよりさ! どこの貴族と血縁関係になれんの!?
まさかお姫様だったり!?』
『流石に王族は無理だろ』
『提案された候補は三つ。
建国の時代から代々王国に仕えるエルドラン子爵。
星教という宗教と関係が深く、新興貴族ながら発展目覚ましいブライトン男爵家。
隣国と隣接し、国境を警備する武闘派貴族のグレイウォール辺境伯家。
これが国王アレクシスから提案された血縁者候補です』
『これって……全部オルフェナの近くに住んでる貴族じゃね?』
あ、言われてみれば確かにそうだわ。
『地理的に血統ロンダリングをしても違和感のない相手を選んだ感じか』
「……星教ってどんな宗教だっけ?
オルフェナ教と仲良くやっていけそう?」
『星教は天体を神と見立てる宗教です。
秩序を尊ぶ教義から、国民の統治に便利だとして、二代前の国王により国教に制定されました。
一神教であるためオルフェナとの相性は悪いかと』
「となればブライトン男爵は辞めといたほうがいいか。
教徒同士が喧嘩するかもしれん」
ヒートアップして宗教戦争が起きたら目も当てられない。
俺は戦争が嫌いなのだ。
「グレイウォール辺境伯家はどうだ?
かなりの武闘派だけど」
『ありっちゃあり』
『オルフェナって喧嘩あんまり強くないから、身内に喧嘩上手がいると、いざという時に助かりはする』
『でも辺境伯ってことは国境を守ってるんだろ?
親戚になったらオルフェナまで前線に駆り出されるかも』
『でも隣国って平和主義の大国だから、まず戦争は起きないって話じゃなかったか?』
『それなら別に武闘派と組まなくても良くね?』
『強盗騎士がいるだろ』
『そのぐらいならいずれオルフェナでも独力で倒せるようになる』
グレイウォールは喧嘩上手だが、平和になった今、その喧嘩の強さを活かせる場は少ない。
となると組んでもあんまり旨味はなさそうだなぁ。
『多分、グレイウォールはこれから落ち目だぞ。
今は戦争が終わった平和な時代だ。
ここで軍縮できる政治的手腕があればいいが、そうじゃないなら借金地獄だ。
もし親戚になれば金をたかられるかもしれない』
『国防の要の辺境伯だし、流石に王様も軍資金は出してるんじゃない?』
『だとしてもって話』
「エルドラン子爵家はどうだ」
『無難ではあるな、一番近いし』
『民衆同士の仲もいい』
『子爵家の統治の評判も悪くはない。
尖ったところはないけど、バランス感覚はあるみたいで』
『あと建国時代から続く古株の血統ってのも魅力的だ、俺ら新参者だし。
これといった特色はないみたいだけど』
「最初に縁を結ぶ相手としては、ちょうど良いのかもしれん」
『ではどうなさいますか?』
「エルドラン子爵家に婚姻政策と家系図書き換え、どっちもお願いしてみるとしよう」
近所で色々派手にやらかしてたから、断られなきゃいいけど。
「あとは……他に決めるもんあったっけ?」
『そんなの誰と誰を結婚させるのかだろうが!』
『絶対嫁を迎え入れるのがいい!
かわいい子にしようぜかわいい子に!』
「エルドラン子爵家に丁度いい年頃の娘や息子っているのか?」
『エルドラン子爵家には十七歳の長男、十八歳の長女、十二歳の次女、八歳の三女がいます。
長男以外はまだ結婚しておらず、婚約者もいません』
『まだ若い次女と三女はともかく、貴族の娘なのに十八歳で婚約者なしって……事故物件じゃね?』
『来歴に問題はありません。
どうやらアルヴェリア王国に彼女と同年代に生まれた貴族令息が少なかったようで、他の貴族子女たちと奪い合いになおり、実家の力不足で売れ残ってしまったようです。
子爵家には伝統という武器がありますが、それ以外には目立った長所はありませんので。
彼女自身に瑕疵はありませんでした。
エルドラン子爵家の長女との婚姻は、恩を売るという面においても狙い目ではあるでしょう』
『大切なのは可愛いかどうかだ』
『おおよそ世間一般の価値観では美しいとされる容姿はしているようです』
『ならば許可する』
『ではその方針で行きましょう』
「なんで視聴者のてめーが勝手に方針を決めてんだよ」
『すまんすまん』
「てかアイも従うな」
『失礼しました』
お前が言うとギャグなのかバグなのか、いまいち判断できなくて困惑するんだけど。
『うちからは誰を見合いに出す?』
「誰にすっかなぁ。
よし……ここは勝負の出どころだ。
オルフェナ一番の色男、神殿劇団の看板役者エルヴィスを出す。
今代エルヴィスはケール一族族長筋の長男だし、女性人気が凄まじいイケメンだから、エルドランの長女も気に入ってくれるだろ」
『それ、女性ファンブチギレない?』
「流石に相手が貴族のお嬢様ともなれば、一般人じゃあ意地悪できないっしょ」
『まあそれもそうか』
「そういうわけで嫁を迎え入れるのはエルヴィスで決定で」
──この時の俺達は予想もしていなかった。
この軽弾みな決断が、あんなとんでもない事態を招くなんて。