ヲタクが文明にもっと輝けと囁いている【配信中】   作:いかのしおから

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#4「死者が行き着く場所」

「アルド、お前の父さんはもう……」

「……分かってるよ。

 だけど、もう少しだけ一緒にいさせてくれ」

「……亡骸を放っておけば、いずれ疫病が発生する。

 急かして悪いが、早めに心の整理をつけてくれ」

「……」

 

 死んだ者は山の中に埋める。

 それが村のしきたりだ。

 だけど無理を言って数日遅らせてもらった。

 傷を包帯で無理やり塞いだ父ちゃんが部屋の中で眠っている。

 まだ俺は父ちゃんの死を、受け入れることができずにいた。

 

「父ちゃん……」

 

 分かってるさ、父ちゃんが村長として正しく役目を果たしたことは。

 ケール村は弱い、いつ他の村に略奪を受けてもおかしくなかった。

 だからロアン村と同盟を結べたのは願ってもないことだった。

 まさしく命の賭け時だった。

 だけど、それでも、こう思ってしまうのだ。

 

「どうして父ちゃんを助けてくれなかったんだよ、神様……」

 

==

 

「人口と生産力が下がってる……」

『しゃーない』

『戦争やると、どうしてもね』

「時間が経てば人口は元の水準に戻ると思うが……この空気どないしよ」

 

 別に今まで死人が出なかった訳では無い。

 しかし村の中心人物であるエルンが死んだことが大きく堪えたようで、予想を超えて村人たちは嘆き悲しんでいる。

 あまり仕事にも手がついていないようだ。

 

『どうして父ちゃんを助けてくれなかったんだよ、神様……』

「ぐはっ」

『これはつらい』

『重っ』

『可哀想に……』

『……神様にも色々事情があんのよ』

 

 それはエルンの家を見に行った時だった。

 息子のアルドはエルンの亡骸にしがみつき、俺への恨み言を呟いていた。

 

『村の住民は頻繁に神託を授かるエルンを、神より特別な加護を受けた存在だと見なしていたようです。

 そしてエルンが村長を務めるケール村の住民たる彼らも、神の庇護下にあるのだと考えていたようで。

 しかしエルンの死によって、その前提は揺らぎました。

 神に選ばれたエルンでさえ、その命が失われてしまった。

 ならば我々が守られる保証はない、と』

「……信仰が揺らいでいるのか」

『このまま彼らの恐怖心を放置し続けるのは危険です。

 エルンの亡骸も放置しておけば、いずれ疫病の原因になるかもしれません』

「……この子から、父親を取り上げろってのか」

 

 そんな事……。

 

「なあアイ、エルン達死んだ男衆の魂はどこへ行ったんだろう」

『分かりません』

「冥府とかないのか? 神の権能で作れたりは」

『冥府の存在を立証する手立てはありません。

 そしてあなたに備わった権能は、観測と神託の二つのみです』

「なら、また嘘を重ねるしかないのか」

 

 パソコンを操作して、テキストファイルを立ち上げる。

 

「死後の世界の設定を決める。

 悲しむ村民を慰め、死への恐怖を少しでも和らげられるように。

……お前らも手伝ってくれ」

 

==

 

『アルドよ、目を覚ませ。

 聞こえるかアルドよ』

「! ……まさか」

 

 目を覚ますと、雲の上にいた。

 目の前には立派な白髭を蓄えた老人が佇んでいる。

 そして声は若々しい。

 これは父ちゃんから聞いた通りの特徴だった。

 

「神様……」

『うむ』

「な、何か自分にご用でしょうか」

『俺からお前に言いたいことがあってな』

 

 き、聞かれてたのか俺の愚痴を?

 まさか罰を……?

 

『お前がエルンの亡骸を中々手離さないもんだから、エルンが心配して魂がこっちにやってこれないんだよ』

「た、魂?」

『魂とは心だ。

 人は死んだら意識がなくなるだろ?

 あれって肉体から魂が抜け出しただけで、心は生き続けているんだ。

 エルンの魂は今もお前の近くで彷徨っている。

 お前には見えないだろうがな』

 

……つまり、父ちゃんの心は消えていない?

 そして、俺の近くに……。

 

『本来であれば肉体から抜け出した魂は神の国にやってくる。

 エルン達は頑張ったから、ご褒美にご馳走を用意していたんだが』

「ご、ご馳走というと?」

『え? ……ステーキとか、焼肉とか、牛の丸焼きとか』

「それは……素晴らしいごちそうでございますね」

 

 全部、肉を焼いた料理だった。

 神様はお肉が好きなのだろうか。

 父ちゃんも肉が好きなので、悪いことをしてしまったな……。

 

『こっちはいいところだぞ。

 働かなくても飢えないし、娯楽は沢山あるし、飯は美味いし、家は快適だし』

「……死んだら、神様の国に行けるんですか? 父ちゃんに会えるんですか?」

『ただ死ぬだけじゃあエルンとは再会できない。

 神の国では生前の行いによって住む場所が決まる。

 あいつは頑張った、村の仲間のために懸命に働き、俺への信仰を貫いた。

 エルンが住む場所は神の国の一等地になるだろう、つまりは俺のご近所さんだな。

 逆に悪さばかりしたり、仲間を見捨てたり、適当に死んじまったら神の国の外に住むことになる。

 そこでは働かなくちゃいけないし、娯楽も微妙だし、飯もまずい、家も一から作らないといけない。

 神の国の中にも入れない。

 だからお前も前を向いて頑張って生きろ。

 そしてこの話を皆に伝えるんだ。

 エルン達と再会したいならな』

 

 前を向く……。

 死んでも終わりではないというのなら。

 父ちゃんが神の国で幸せに暮らしていけるなら。

 父ちゃんと再会できるかもしれないなら。

 

『俺、父ちゃんに会えるように頑張ります。

 寂しいですけど、父ちゃんの体ともお別れします。

 だから……これからも俺たちを見守り導いてくれますか?』

「もちろんだ、俺を信じてくれるなら。

 人を見守り導く、それが神様の役目だからな」

『ありがとうございます……っ。

 神様の言葉を信じて頑張ります。

 父ちゃんのこと、よろしくお願いします』

「おう、任せろ」

 

==

 

「ふぅ……これで皆、立ち直るといいんだが」

『あの調子なら大丈夫だろ』

『人間ってのは逞しいもんだからな』

『お疲れさまです。

 ターンスキップを行い確認しますか?』

「少し気晴らしをさせてくれ。

 ちょっときつい展開が続きすぎてしんどい。

 カタログ見に行ってくるわ」

 

 カチカチとマウスを操作してカタログを立ち上げる。

 

「……ゴッドポイントが結構回復してる。

 カップラーメンにも飽きてきたし、そろそろ別の食い物買ってみるか。

 つっても最低限の食料とシャワーとトイレがあるだけで、まだ布団もねえんだよなぁ。

 最近は床で寝てるから、体のあちこちが痛いし」

『とりあえず座布団ぐらいは買っといた方がいいぞ。

 あれなら枕にもなるし、お尻にもしける。

 価格も枕より安い』

「それ採用、他にもお前らのお勧めがあればじゃんじゃん教えてくれ」

『遡り機能付きゴミ箱はどうだ?』

「遡り機能つき?」

『カタログで売られてる普通のゴミ箱は中にものを入れたら完全に抹消されるが、こっちは消えたゴミでも、備え付けられた機械を操作すれば復活させられる。

 間違って貴重品を捨てた時に重宝するぞ、値段は高めだが、その価値はある』

「それはいいな、俺って間違えて大切なものも捨てちまうことあるから。

 そろそろカップラーメンの残骸の処理に困ってたところだから丁度いい」

 

 視聴者と相談しながらカートにものを入れていく。

 あまり金がないので全ては買えないが、オススメされた商品はチェックリストに入れておこう。

 

「ん? 配信機材……?

 カタログにこんな項目があったのか。

 どれも高くて今の俺には手が届きそうにない……おおっ!?

 VTuberセットだと!?

 しかも神絵師がキャラデザをしてくれる……神絵師って神様の絵師ってこと? どっち? まあいいか。

……3Dアバターセットは数百万かかるが、2Dアバターなら数十万か」

『普通に顔出ししようぜ。

 お前って顔芸とか絶対得意なタイプだし』

「顔芸とか俺のキャラじゃねえよ。

 チルでセクシーなイケボVTuber路線こそ俺の向かうべき真の道だ」

『チルでwセクシーなwイケボw』

『草』

「となるとASMR機材も欲しくなってくる……次の目標が決まったな」

 

 ゴッドポイントを貯めてイケメン2DVTuberアバターを手に入れる。

 そうすれば視聴者や投げ銭も雪だるま式に増えていくだろう。

 まさに完璧な投資計画だ。

 

『そろそろ村の状況が気になってきたんだが』

「今日はもう休むつもりだったんだけど。

……最後にアルドたちが立ち直れたのかだけ確認しておくか」

 

 一瞬クリフハンガーにしようかと迷ったが、この一件をそういう使い方はしたくはなかった。

 時間を進めて状況を観察する。

 

『ケール村とロアン村が合併しました。

 これにより人口は2倍化。

 生産力、防衛力、技術力も大幅に向上しました』

『おめでとう』

『やったね』

『戦争が始まった時はどうなるかと思ったが』

「……エルンたちの頑張りは報われたか。

 あれからアルドたちはどうなった?」

『現在アルドは前村長エルンの後継者と見なされ、村の大人たちから指導を受け、鍛錬に励んでいるようです。

 他の村人たちも冥府の存在を知り、前向きに生活を送れるようになりました』

「……ひとまず一件落着か」

 

 天井を仰ぎ見る。

 相変わらずシミ一つない、真っ白な天井だ。

 彼らには健やかな一生を送ってほしいものだ。

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